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三菱地所がイノベーション創出に向け産学連携、街を実験フィールドに

2022年8月15日

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大手デベロッパーの三菱地所株式会社(東京都千代田区)は、大学や研究機関をはじめ、大企業やスタートアップ、官と連携し、社会課題解決とイノベーション創出を目指している。まちそのものを実験フィールドとして提供するほか、各大学と連携し、スタートアップ支援や新技術・サービスの社会実装を目指す。地域活性化や地域創生を目的とした産学連携、寄付講義、ワークショップ、意見交換、共同研究など、会社・事業・個人レベルでの連携が多数あるというが、今回は、イノベーション創出に向けた産学連携事例の一部を紹介する。

■東京医科歯科大学とヘルスケア・サイエンス拠点を

三菱地所は、2021年7月に東京医科歯科大学と締結した共同研究契約に基づき、同年8月、オープンイノベーションとヘルスケア・サイエンス拠点の形成を目指す医療現場・研究現場発イノベーションコミュニティ「TMDU Innovation Park(TIP)」を東京医科歯科大学と共同で企画・運営している。

東京都千代田区丸の内・大手町などでイノベーション施設の運営ノウハウを持つ同社が至近のお茶の水に立地するTIPの企画・運営を通じ、アカデミアや多様な業種業界の企業・スタートアップ、行政によるコラボレーションを誘発し、医療・ヘルスケアイノベーションの実現を目指すという。

東京医科歯科大学のキャンパスは、「御茶ノ水」という「大手町」駅から地下鉄で2駅3分といった近接性を生かし、アカデミアの集積地であるお茶ノ水と、企業の集積地である丸の内・大手町を結び付け、有機的な連携によるイノベーション創出を図る方針だ。三菱地所にとっては、FintechやDeeptechに続き、Life Science領域のエコシステム形成へ進出することになり、バイオベンチャ―企業等から多くの問い合わせを受けている。

施設開設後50社以上のスタートアップ企業と面談を進め、2022年6月時点で会員数は90人以上、東京医科歯科大学との共同研究数5件を実現した。2週間に1回「TIP BBセミナー」という医師や研究者、企業による事例の紹介と個別マッチングを行うオンラインイベントも実施し、毎回100人前後の会員や一般閲覧者が参加している。

■東京大学とスタートアップ支援

東京大学とも共同でスタートアップ支援に取り組んでいる。東京大学の卒業生・研究者・学生の起業を支援するスタートアップ支援プログラム「東京大学 FoundX」向け施設を、東京大学と共同で本郷エリアに開設し運営するほか、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)が運用するベンチャー育成ファンドにLP(有限責任組合員)出資している。

現在、「FoundX」向け施設は、他の大企業の寄付も受けながらα、β、γの3施設を運営。開設から3年以上が経過し、施設を卒業した計9社のうち4社が三菱地所の運営する別の施設に移転した。将来性ある東大発スタートアップへの早期アプローチが奏功した形だ。三菱地所は、丸の内エリアの「オープンイノベーションフィールド化」を掲げ、丸の内エリアをスタートアップ企業などに実証実験のフィールドとして提供しているが、実際に東京大学の研究室が三菱地所の有するオフィスビルや商業ビル内の電力使用量や店舗売上などのデータを分析し、新事業・サービス創出を目指す実証実験を実施している。

■横浜みなとみらいや関内でもスタートアップ支援、国際的産学連携機能も

産学が連携したイノベーションやビジネス開発支援の取り組みは丸の内だけではない。横浜市・関内やみなとみらいでも、ビジネスエコシステム形成やオープンイノベーション推進によるまちの魅力向上に取り組んでいる。

横浜市は、2019年1月に、研究者・技術者、起業家、学生などの人材が、組織を越えてネットワークを広げ、新たなイノベーションを横浜から創出していく「イノベーション都市・横浜」を宣言しているが、三菱地所を代表企業とするコンソーシアムが、スタートアップ成長支援拠点「YOXO BOX(よくぞボックス)」(横浜市・関内)の運営を横浜市より受託した。三菱地所は、併設のビジネス支援付サービスオフィス「YOXO BOX OFFICE」も運営中だ。

YOXO BOXには大学教授がメンターとして関わるほか、教員や学生にも活用してもらうことで、各大学とネットワークを強化し、産学が連携してスタートアップの成長支援や協業の機会創出を図っている。例えば慶應義塾大学は、YOXO BOXの一室をオンラインワークショップの発信の場として活用するほか、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の教員2人がYOXO BOXメンターとしてスタートアップ支援事業に協力。横浜・関内エリアにおけるオープンイノベーション推進に向けた共同研究を継続中だ。横浜国立大学も同エリアでのオープンイノベーション推進に向けた共同研究を三菱地所と開始している。教授3人がYOXO BOXメンターとしてスタートアップ支援事業に協力し、アクセラレータープログラム採択企業のメンタリングを実施するほか、同大ビジネスプランコンテスト優勝チームの上位チーム3組(2社と1チーム)がYOXO BOXを拠点として利用する。中には、「他の場所では通信環境などに課題がある」と、毎日24時間レベルで本拠点を利用する横浜国立大学発スタートアップもあるようだ。

また、三菱地所はみなとみらい21地区の横浜ランドマークタワー内に産学連携イノベーション拠点「NANA Lv.(ナナレベル)」を設置している。横浜市立大学は同拠点内に「横浜市立大学みなとみらいサテライトキャンパス」を開設しているほか、横浜市立大学大学院内の研究室が当施設を拠点に企業との共同研究を行っている。横浜市立大学と横浜のスタートアップであるスカイファーム株式会社も当施設を拠点に共同研究を実施しており、デリバリー・テイクアウトの利用動向を分析し、三菱地所の商業施設「ランドマークプラザ」や「MARK IS (マークイズ)みなとみらい」のテナント向け支援サービスとして活用したい考えだ。三菱地所は「関内駅前港町地区第一種市街地再開発事業」の事業協力者に選定されており、2029年度竣工の同事業でも国際的な産学連携機能の導入が検討されている。

■ロボットを活用したDXは立命館大学と

立命館大学とは次世代型の施設運営管理モデル構築に向け、2019年4月に「戦略的DXパートナーシップ協定」を締結した。同社が検証・蓄積してきたロボットを活用した施設の運営管理のノウハウを生かし、学校保有施設の運営管理を効率化・高度化するだけでなく、ロボット以外も含めた最先端テクノロジーを活用したデジタルトランスフォーメーションの推進により、新たな分野における価値の提供・未来型キャンパスの創造を目指している。

協定締結後、三菱地所が活用してきた警備ロボットや清掃ロボットをキャンパスに実導入し、キャンパス管理費のコスト削減に大きく貢献したほか、広大なキャンパスを活用して、日本初上陸でもある米国の先端配送ロボットなどの走行実証実験を実施した。2020年11月には、「立命館地球環境シンポジウム」において、経済産業省とともに同社が講演、最先端の技術を活用した新たな環境負荷低減策やそれによる持続可能な社会づくりや未来のキャンパスの在り方について、立命館大学の学生や高校生も交えてパネルディスカッションを実施するなど、産官学連携の未来像を共有した。

連携により、技術的課題や利用者側の課題の共有に加え、ロボットの性能向上やロボティクス教育・研究の発展を見込んでおり、情報発信等も実施しながら社会還元へつなげたいとしている。

(本誌編集長 山口泰博)