リポート

大腿切断者の義足歩行を担保する低価格・高機能膝継手の開発
株式会社今仙技術研究所との共同開発による義足用膝継手

広島国際大学 総合リハビリテーション学部 リハビリテーション学科 義肢装具学専攻 月城 慶一

写真:広島国際大学 総合リハビリテーション学部 リハビリテーション学科 義肢装具学専攻 月城 慶一

2022年8月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

■背景、研究課題と概要

大腿部で脚を切断(大腿切断)した方の義足歩行は、その歩行能力が義足の膝継手機能に大きく依存する。なぜなら膝関節を失うからであり、本来膝関節を直接的に動かしていた筋も切断され、その筋の本来の機能を発揮できない(残存している膝制御筋は義足の膝継手制御に使えない)からである。このことは大腿義足を装着している側の脚でスクワットを行うことが全く不可能になる、もしくは膝継手の種類によっては可能となることを意味し、健側(義足を装着していない方の脚)への負担が増えることを意味する。

しゃがみ方向のスクワットを可能にする膝継手は、油圧もしくは磁性流体を備えた膝継手でイールディング膝と呼ばれており、本開発はこのジャンルに属する新しい仕掛けである。一方、起き上がり方向のスクワットを可能にするためには、膝継手に動力を備えていなければならず、そのような機種は極めて少数で、まだ一般に普及していない。

大腿義足装着者は、上記のように残存している膝制御筋を義足の膝継手制御に使えないので、路面の変化や方向転換の際に義足の操作を誤ると、膝継手が急に曲がる危険な現象(膝折れ)を体験する。そのような危険を安全に回避するための膝継手として開発されたのがイールディング膝であるが、安全性の高い機種は大変高価である。例えば、オットーボック社製C-Leg(ドイツ)は、コンピューター制御によって膝折れを制御する。しかし価格が180万円と非常に高額であり、たとえ公的支給の対象であっても市町村から交付許可が得られないこともあり得る。市町村の財源には制限があるからである。ほかにも幾つかの高価格膝継手があるが、それらはC-Leg同様、メカトロニクス、すなわち床反力や傾き、加速度をセンサーで検知して電子的に処理し(エレクトロニクス)、機械的仕掛け(メカニクス)を制御する**1234567。それに対し、今回、福祉機器メーカーの株式会社今仙技術研究所(岐阜県各務原市)と共同で、機械式の2重振り子という簡単な構造で制御を可能にする膝継手の開発を試みた。

今回開発した膝継手(MCK= Motion Control Knee)には以下の特徴がある。

① 特許取得した2重振り子を使った仕掛けによるシンプルな機械制御

② 既存の高機能膝継手に比べ低価格、軽量、コンパクト

③ 操作がしやすく特別な練習なしで義足歩行を習得

■期待される成果

下肢切断に加えて骨折や高次機能障害を合併していることもある交通外傷者が歩行機能を再獲得する際に訓練時間の短縮、日常生活における安全、生活の質(QOL)の向上が期待できる。加えて、従来の重く高価な高機能膝継手よりも、高齢者や歩行技術の低い大腿切断者に適応することも期待できる。

■要改良点(2020年6月まで)

当初のもくろみに反して開発開始時点から機能的不足が明らかになった。そして2021年10月の時点まで機能の改良に時間を費やした。

開発した膝継手に求められる機能は、踵が接地しているときは曲がりにくくなること(イールディングON)によって「膝折れ」を防ぐことができ、つま先が接地しているときは曲がりやすくなって(イールディングOFF)、膝の振り出し(屈伸)を妨げないことである。イールディングONとイールディングOFFは同じ油圧シリンダーが発揮する大小の油圧抵抗で、油圧抵抗の正確な切り替え、すなわち絞り弁の正確な自動開閉が求められる。

この点に関して、高額メカトロニクス膝継手では、センサーとマイクロプロセッサーとサーボモーターを用いて正確なイールディングON/OFF制御を行っている、

一方MCKの場合は、2重振り子がその役割を果たす。その際、ON/OFF切り替えがトレードオフする、すなわちONを優先するとOFFに支障、OFFを優先するとONに支障をきたす不完全さがまだ残っていた。

■改善(2020年6月-21年10月)

上記の問題を解決するために、それまでの7回の設計更新からさらに4回の設計更新を必要とした(図1;左から8、9、10、11号機)。2重振り子の形状と大きさを微調節することで、ON/OFF切り替え時のトレードオフを解消した。

図1 改良を重ねた2 重振り子

2020年12月に歩行時の膝の傾きと速度を再現できるシミュレーターを準備し検証した。

結果、11号機は、想定しうる様々な速度と傾きにおいて、イールディングON/OFF制御がうまく機能した(写真1左)。一方、MCKの実験比較対象としているCapital Knee(写真1右、Colleg Park社、米)は歩行時の膝の傾きには反応しない、したがってイールディングONからOFFに切り替わらない(写真1右)ことを確認した。これはMCKの方が義足歩行を容易に習得していることを示唆している。

写真1 シミュレーター

■今仙技術研究所によって製品化・販売

改良と並行して、今仙技術研究所が製品化のためのデザイン(構成部品の簡略化、コンパクト化、軽量化)を行い、耐久テストとフィールドを合格させ、2022年4月に製品名MCKとして日本国内で上市した。

参考文献

**1:
A Comparison of Different Prosthetic Knee Joints During Step Over Step Stair Descent Dr. T. Schmalz Otto Bock Research and Development Biomechanics Laboratory Orthopädie-Technik Quarterly, English edition II/2004
本文に戻る
**2:
Indication for the C-Leg Knee Joint System in Prosthetic Fittings for Amputees with Short Transfemoral Residual Limbs Authors: S. Blumentritt1,2, J. Braun1, M. Bellmann1, T. Schmalz1 Published in: Medizinisch Orthopädische Technik 129 (2009(5)) 61-74
本文に戻る
**3:
Differences in function and safety between Medicare Functional Classification Level 2 and 3 transfemoral amputees and influence of prosthetic knee joint control Authors: B.J. Hafner1, D.G. Smith1 Published in: Journal of Rehabilitation Research and Development 46 (2009) 417-434
本文に戻る
**4:
Functional Principles of Current Microprocessor-Controlled Prosthetic Knee Joints1 Authors: M. Bellmann2, T. Schmalz2, S. Blumentritt2,3 Published in: Orthopädie-Technik, 60 (2009), 297-303
本文に戻る
**5:
Comparison of non-microprocessor knee mechanism versus C-Leg on Prosthesis Evaluation Questionnaire, stumbles, falls, walking tests, stair descent, and knee preference J.T. Kahle1, M.J. Highsmith1,2, S.L. Hubard3,4 Published in: Journal of Rehabilitation Research and Development 45 (2008), 1-14
本文に戻る
**6:
Biomechanical analysis of stair ambulation in lower limb amputees T. Schmalz1, S. Blumentritt1, B. Marx2 Published in: Gait and Posture 25 (2007), 267-278
本文に戻る
**7:
Evaluation of function, performance and preference as transfemoral amputees transition from mechanical to microprocessor control of the prosthetic knee1 Authors: B.J. Hafner2, L.L. Willingham2, N.C. Buell2, K.J. Allyn2, D.G. Smith2, Published in: Archives of Physical Medicine and Rehabilitation 88 (2007), 207-217
本文に戻る