リポート

医工連携で製品化 夜間巡視ライトA.O.Light(ア. オ. ライト)

弘前大学大学院 保健学研究科 教授 冨澤 登志子
弘前大学大学院 保健学研究科 高間木 静香
弘前大学大学院 保健学研究科 橋本 美亜

写真:弘前大学大学院 保健学研究科 教授 冨澤 登志子 写真:弘前大学大学院 保健学研究科 高間木 静香 写真:弘前大学大学院 保健学研究科 橋本 美亜

2022年7月15日

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看護師の夜間巡視の際に使用するライトがまぶしいという苦情や白く反射して適切に観察できないという現場の声から、看護師、研究者、企業が共同して現場のニーズに合った機能を有する巡視ライトを開発した。

■製品化までの行程

筆者らは普段、看護教員をしているため看護学生の基礎教育で講義をしたり、研究指導を行うのが主な職務であるが、時折、病院から研究指導など依頼もあり2018年の12月ごろ、月に2度ほど病院の看護師を対象とした研究コンサルティングを行っていた。看護師の研究指導の合間に医療現場の困りごとなどの話題も数多く出てくるため、興味深くお話を伺うことが多い。指を切断された方の手術後、その患部を定期的に観察する必要があり、夜間患者が眠っていても、その色や腫れの程度などを確認するが、病院で支給されているLEDライトでは白く反射してしまい、よく観察できないといった内容の悩みを話した看護師がいた。研究室に戻り、インターネットや雑誌を閲覧してみたが、ニーズに合ったライトが少ないことが分かった。別の共同研究を行っていた青森県平川市の電源の総合メーカー株式会社光城精工にその内容を相談したところ、医療機器を開発している企業であったため具体的に話をうかがうことができ、開発にも興味を持っていただいた。研究チームには同僚の教員のほか、ライトを使う立場の看護師も入り、研究がスタートした。2019年1月初旬であった。

写真1 ライトの見え方の比較

研究メンバーが集まり、ライトに必要な機能、工夫についてブレーンストーミングでアイデアを出していき、そのアイデアを企業が持ち帰り、試作品1号の作成となった。手持ちしないときはポケットなどに挟めるもの、軽量のもの、磁石でくっつくもの、昼間のように観察できるもの、ベッド上に忘れていっても見つけられる分かりやすい色であること、照度の調節ができることなど、数多くのアイデアが上がった。1号機は有り合わせの部品を集めた手製の試作品で、実際の医療現場で見え方を比較した。実際の見え方が写真1である。一般的に用いられているLEDの懐中電灯では左の写真のように照らした部分が白く反射してしまう。試作品1号機で照らしてみると低照度でもはっきり細部まで観察することができる。現場の看護師に実際に使ってもらい、軽量で見やすいといった反応をもらったが、半面使いづらい部分、新たにこんな機能が欲しいなどの意見も多数集まった。2019年10月まで性能について既存のLEDライトと比較検証した。その過程で共同研究のメンバーと話し合い、製品化まで複数回の試作が必要と判断され、2020年1月23日、クラウドファンディングに応募した。予定よりもかなり多くのご支援をいただくことができ、その費用で2号機、3号機の製作を行った。その都度、弘前大学医学部附属病院の84人の看護師に協力いただき、継続して検証作業を行った。最終形になったのが2021年1月中旬で、その後、メンバーで色を決めたり、またクラウドファンディングの支援者、そして弘前大学の教職員および学生にネーミングも公募して製品名「A.O.Light(アオライト)」が3月8日に決定した。アオライトのAOは青森のアオの音だけでなく、ハワイ語で「光、夜明け」の意味もある。看護現場の手助けになるような「光」で、患者が安心して「夜明け」を迎えられるようにといった意味が込められている。応募総数33件から選ばれた。その後、2021年3月29日、A.O.Lightが発表となり、4月20日に発売に至った。完成したA.O.Lightは写真2である。

写真2 A.O.Light

■A.O.Lightの特徴と機能

A.O.Lightの特徴は大きく八つある。まずは持ち運びに便利であり、わずか30グラムと超軽量である。ポケットに挟めば両手を塞がず作業ができる点も魅力的である。また、昼間の色味と同じように再現性があることも大事な特徴である。色の見え方に及ぼす光源の性質を演色性というが、100に近いほど太陽光に似た色の見え方をする。100に近ければ近いほど、その照明で照らされている対象物の色が基準光源で照らしたときの色に忠実になる。太陽光の下で測定すると100に近く、蛍光灯であると83とやや低くなる。試作1号機は94.3であったが、3号機になると98.9まで上がった。また光源が発する光の色を色温度といい、色温度の単位(K)が低いほど暖色系の色を発し、高いほど寒色系の色を発する。3号機は白色から昼白色を示した。四つ目の特徴は、1.5時間で満充電し、10時間は持続点灯可能である点である。夜間の巡視は2時間に1回程度であるが、看護記録を書きながらパソコンにつないで充電が可能である。五つ目はライトの角度を自由に調整できる点である。点滴を見るときは上方の点滴バックのみ照らす必要があり、また尿バックの測定時には足元のバックのみ照らす必要がある。ポケットに挟んだまま角度調整ができれば業務もスムーズとなる。また六つ目であるが、看護師は患者のもとに行く際に台車を使って物品を運ぶが、ライトの下の方に強力な磁石がついているためどこにでも付けることができ、安定して必要な場所を照らすことができる。七つ目は、凹凸がなく消毒しやすく衛生的であること、最後に最小限の照度であり患者もまぶしくなく睡眠を邪魔しないのが大きな特徴である。

■A.O.Lightの使用感

試作品ができるたびに看護師84人に実際に夜勤で使ってもらい、どのような使用感であったのかフィードバックしてもらった。表1は試作2号機と比べ試作3号機が統計学的により良いと判断された項目の一覧である。特に、持ち運びに便利、保管場所に困らない、両手が使える、重さがちょうど良いなどが高評価となった*1。両手が使えるため、点滴交換やドレーン管理、尿量を測定する際に便利であることなど5点満点中4に近い値であり、看護師のケアのサポートができるレベルになったと言える。50歳以上の看護職が50歳未満の若い看護職よりも、患者の顔色が分かりやすい、皮膚の色など分かりやすい、創部の状態が分かりやすいの項目で得点が有意に高かった*2。人の眼は年齢とともに老化し、水晶体の黄化により、寒色系の色を暗めに、暖色系の色を明るめに感じるようになるなど色の見え方が変化している**1。50代以上の看護師は加齢による老視によって暗い所では見えにくいと感じており、A.O.Lightのように低照度であっても演色性も高いため観察がしやすいと感じた可能性が考えられる。年齢にかかわらず、指示箋などの文字が見やすいといった項目も3号機では高い値になっており、A.O.Lightによって、患者の睡眠を妨げず正確な観察や確認を支援できそうである。

表1  試作品2 と試作品3 の評価

■今後の展開

このプロジェクトで新たな製品を生み出すことができたが、製品のエビデンスをしっかりと示していくことが大学人としての大切な役割である。現在、A.O.Lightを使用したときの色の識別が正確であるのか実験的に確認を進めている。質の高い医療を提供することが専門職としての責務であり、それらをサポートするデータをしっかり導き出していく予定である。また本製品の活用は、医療現場だけではなく、介護の現場、災害時の活用など広がることを期待する。

2年という月日がかかったがわれわれがイメージしていたライトを実際に製品化までつなげられたのも、熱意と思いに賛同していただいた企業、看護師、支援者のおかげである。開発を手掛けた光城精工は、小型軽量の部分で電池をはじめ、材料選びには大変苦労したようである。また、発光面の光漏れなど、予想外のエラーもあり、試行錯誤の連続であったと伺っている。また現場のニーズに応えて、新たな製品を作りさらに最適化を図ることが現実的にはとても難しいことも経験できた。新たな製品を生み出すまで多くの企業の苦労を重ねてMade in Japanとして質の高い製品を生み出していることを肌で感じる機会となり、ただ頭が下がる思いである。われわれもコロナ禍で思うように調査ができないこともあり、当初の計画よりも時間を要した部分がある。しかし医療現場の看護師の方々が製品化を心待ちにしてくださっていると声を掛けてくださり、何としても最後までやり遂げなければとの思いになり続けることができた。

またこのプロジェクトにはもう一つ大事な役割があった。リンゴのイメージがあってもモノづくりのイメージはあまりない青森県から全国の方々にわれわれの成果を発信することである。青森の人々は成果を前面に出さない謙虚な県民性であるが、しかし実直で丁寧(ていねい)な仕事は誇るべき資質である。多くの若者が高等学校を卒業すると同時に都会に行ってしまう。若い世代の人たちにも地域から新たな製品を生み出すことができる素晴らしい人や土地であることが伝わることを願う。彼らには魅力ある仕事や産業がないように映っているかもしれない。しかし今はインターネットが発達し、リモートでも仕事ができるようになり、世界中の情報がすぐに手に入り、誰でも起業し情報発信できるようになった。やりたいこと、取り組んでみたいことがあれば、どこにいても行える時代になったと言える。そこに道がなくともしっかりとした理念と企画、さらに熱意をもって取り組もうとするとき、必ず道が開けてくることも合わせて伝えたい。

参考文献

**1:
様々な年代の色の見え方を考慮した、色の組み合わせによる文章の読みやすさを分析する配色サポートツール,小川禎恵.日本印刷学会誌,53(3),2016.
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