特集カーボンニュートラル 森林編

日本が森林を持続可能な資源として活用するには ―森と都市の連関と木造建築の活用―

日本福祉大学 健康科学部 福祉工学科 建築バリアフリー専修 坂口 大史

写真:日本福祉大学 健康科学部 福祉工学科 建築バリアフリー専修 坂口 大史

2022年7月15日

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■世界有数の森林大国日本でなぜ、今、森林活用が必要なのか

日本は国土面積の3分の2以上を森林が占めており、経済協力開発機構(OECD)加盟国で見ても、フィンランドに次ぐ世界で2番目の森林率である。世界的には森林面積が減少傾向にある中で、この豊富な森林の蓄積量によって日本は世界でも有数の森林大国とされている。そんな日本で森林活用が必要となる背景はどこにあるのか。まず、日本の森林と林業の状況について整理する。

日本の森林と林業の状況

森林に関する統計資料として、林野庁が毎年発行している「森林・林業白書」**1によると、国内の森林のうち約4割が人工林であり、その半数は木材利用に適した主伐期(主に50年生)を超えて利用期に差し掛かっているとされている。木は長い年月をかけて育つため、現在豊富に存在する森林は、先人達が戦後の大造林によって植えた苗木が育ったものである。また、木は大きければ大きい方が必ずしも良いわけではなく、木材として利用するには、用途に適したタイミングで伐採して活用するのが効果的である。この点が日本の森林は、今、切らないと将来的に使えなくなると言われるゆえんである。

林業の状況に目を向けると、1980年には約15万人いた林業従事者が、2015年では3分の1以下にまで減少し、深刻な人手不足となっている。日本には豊富な森林資源があり、その資源を活用しようという機運が高まっているにもかかわらず、林業に携わる人が慢性的に不足する状況に陥っている。林業における人手不足の要因として、山間地域の人口減、林業従事者の収入が他産業に比べて低い、労働環境が過酷である点などが挙げられる。しかし、根本的な原因は、長らく外国産の木材に依存してきたことに起因する国内のサプライチェーンの崩壊によって、山への経済循環が生まれていない点にある。これらの背景から、本稿のテーマである「国内の森林資源の持続的な活用」を考える上で、森と都市の連関構造を確立し、山にお金が返る仕組みを構築する必要性が浮き彫りとなる。

■木材活用の意義 ―カーボンニュートラルの実現とサプライチェーンの再構築―

①木材活用によるカーボンニュートラルと森林の多面的な機能

近年、欧州を中心に持続可能な資源として木材が注目を集めている。その際たる理由が、木材による炭素固定である(図1)。木材による二酸化炭素の吸収量は、木材年齢に比例するものの、成長過程における光合成によって二酸化炭素を吸収し続ける。木材内に固定された炭素は、燃やさない限り大気中に戻ることはなく、炭素を木材内に貯蔵し続けることができる。特に、建物を建てる際に木材を活用することで、コンクリートや鉄などの材料に比べて、製造や加工におけるエネルギー消費を少なくすることができるだけでなく、多くの炭素を建物内に固定することも可能となる。この機能を利用して、二酸化炭素を含む温室効果ガスの発生量と吸収量を均衡させるのが「木材活用によるカーボンニュートラル」の基本的な考え方である。

図1 炭素固定量の材料ごとの比較

注目される木材による炭素固定以外にも、森林は多面的な機能を有している。水資源を貯める役割から、様々な生物へ棲家を提供することによる生物多様性への実現、2021年に熱海市で起こった土石流災害などを例とした土砂災害や洪水の防止など、われわれの生活に関わる重要な役割を担っている。地球温暖化や気候変動、それらに伴う自然災害を防ぐ意味でも、持続可能な森林整備の重要性が増している。

②持続可能な森林整備と木材の活用に向けたサプライチェーンの構築

持続可能な森林整備と木材の活用には、木材に関わるサプライチェーンの構築が必要不可欠である。新型コロナウイルス蔓延(まんえん)を起因としたウッドショック、ロシアのウクライナ侵攻による第二次ウッドショックなどによって、外国産材を軸としたサプライチェーンに潜む大きなリスクが顕在化している。輸入取引先での木材需要の拡大やコンテナ不足による輸送問題など、今後も簡単には解決できない外的要因も存在している。これらの状況は、裏を返せば国内の森林を活用する上で大きな追い風になる可能性がある。その上で解決していかなければならない課題について、日経BP総合研究所の木材ビジネス最前線**2では、国内産の木材の需給バランスの最適化、生産性と歩留まり率の向上、原木価値の最大化などにより、中長期的な資金の調達と人材の育成・確保が必要であると指摘している。しかし、国内林業従事者の立場にたつと、ウッドショックなどの外圧による短期的な需要増の一方で、将来的な外国産材の価格下落と外国産材への回帰によって、再び国産材への需要が減少するリスクが常に存在する。短期的な需要増では、中長期的な視点での林道の整備や機械設備投資などへ積極的に踏み込むほどの後押しにはならないのが実情である。短期的な需要増よりも、持続可能な形で山元に利益が還元される仕組みがあって初めて、山側の整備や投資が進んでいく。

歴史的に見れば、ウッドショック以外にも木材の価格変動は繰り返されたが、長らく国産材の安定供給には至らなかった。それは国内の森林資源が成長段階にあったのと、外国産材が圧倒的に安かった、この点に尽きると考えられる。一方で現在は、伐採適齢期の木材が豊富に存在しており、外国産材も安定的には手に入りづらい状況が続く点で、過去とは比べ物にならないほど、国産材を活用する契機になっている。

次章では、ここまで概観したサプライチェーンの構築が必要となる要因に対して、特に森林資源の消費地となる都市部における木造建築の推進、森と都市の連関構造の確立について国内外の事例を参照しつつ考える。

■国内外における木造建築の活用に関する先進事例

国内の森林資源の活用の例として、従来の在来工法を洗練させた大型パネル事業を展開するウッドステーション株式会社(千葉市)、生産から加工、販売までを一社で担うMEC Industry株式会社(鹿児島県姶良郡湧水町)に加えて、海外の先進事例である森と都市の連関構造を生かした大規模木造建築プロジェクト「Wood City」を紹介する。

①ウッドステーション

既存の木造建築事業を極限まで合理化することに成功した例として、ウッドステーションの取り組みを紹介したい。ウッドステーションは、佐伯広域森林組合(大分県佐伯市)などとパートナーシップを結び、国内産の木材の付加価値を高める「大型パネル」を展開している。大型パネルの特徴は、木材の歩留まり率の向上、現場での作業量の低減、作業・製品の精度の向上や平準化が挙げられる。具体的には、従来の在来工法では、製材品を工場でプレカットして工事現場に搬入し組み立てていくのが一般的であった。森から木が切り出され、加工されて現場まで搬入されるうちに、無駄が多く出て山への経済循環が生まれにくいという問題が長らく指摘されてきた。つまり、森から丸太が出される際の価格と最終的に工事現場に製材品が入る際の価格が全く釣り合っておらず、山側がほとんど儲からない仕組みになってしまっている。そこで、ウッドステーションは、工場にて在来工法をベースとしたパネルを制作し、サッシや断熱材などを一体化することで「木造大型パネル」として無駄を省きながら、木材の付加価値を高めることに成功している。

昨今、建設現場での人手不足や世界的な情勢不安による建築資材の高騰などの背景からも、国内にある資源を効率的かつ安定的に活用する具体的な方策が求められている。国内の森から切り出す木をなるべく無駄にせず、生産性を高めるのと同時に木材の価値を高めて山へお金が戻る経済サイクルを創出する。さらに、製品や工法の合理化を進めることで、人手不足の解消や現場作業の安全化にも寄与する。現状では、大型パネルの利用はクレーンやトラックの入れる敷地に限定されるなどの制約は残るが、日本全国の地域ごとに展開するサプライチェーンの再整備に貢献できる可能性を持った事業である。

②三菱地所MEC Industry

国内企業の取り組みとして、MEC Industryも注目である。MEC Industryは、三菱地所グループをはじめ、各分野に精通した七つの会社によって設立された総合木材事業体である。MEC Industryのすごさを一言でいえば、「徹底的な中間コストの削減」である。MEC Industryが理念として、「生産から加工、販売まで、一気通貫で行うことによって、より安く、早く、お客様に喜ばれる商品を提供する」と掲げるように、建設分野における既存事業が抱えていた他業種分業化などの課題を解決し、商品のクオリティーを維持した上で低コスト化を図る事業展開を意図している。また、MEC Industryの製品生産ラインでは、主に鹿児島県・宮崎県・熊本県などの九州産材を使用することにより、地域の木材需要の拡大を通じた森林の循環・林業の活性化にも資することを目指している。現状では、住宅事業をベースとした木造ユニットの製造から住宅販売、中高層木造建築向けの配筋付型枠などの製造を行っているが、将来的には大型物件にも広く木造事業を展開していく計画である。

MEC Industryの最大の強みは、三菱地所の持つ豊富な案件を出口戦略として、毎年一定程度の木材使用量が見込める点にある。自社だけで木材使用量がある一定規模以上になれば、他社から材料を調達するよりも自分で丸太を仕入れて製材し、各製品の製造まで自社で行う方がスケールメリットを生かしたコストダウンが可能となる。さらに、製品の販売までを自社事業として一括で行うことにより、ユーザーの手元に届くまで可能な限り余分なコストがかからない仕組みが実現でき、森から最終的な製品までが一つの流れでつながっていくのである。今後、MEC Industryの事業がより本格化していくことで、安定的な製品供給に加えて林業も含めた地域におけるサプライチェーンの構築にも寄与することが期待される。

③Wood City

森と都市の連関構造を生かした大規模プロジェクトとしては、フィンランドヘルシンキ市の「Wood City」が有名である(写真1)。Wood Cityは、フィンランド国内の都市においてブロック単位で取り組んだ木造プロジェクトとしては最大規模のプロジェクトである。Wood Cityはヘルシンキ西側港湾エリアの再開発プロジェクトの一環であり、沿岸部エリアの整備を進めていく上で、ヘルシンキ市の都市計画的な観点からも重要なプロジェクトの一つと位置付けられている。

写真1 フィンランドヘルシンキ市に実現したWood City

開発されたブロック内には、オフィス、ホテル、集合住宅の三つの建物用途によって構成されており、共通して1階部分はRC(鉄筋コンクリート)造で商業スペースとなっている。2〜8階は、Stora Enso社のバルカウス工場で製造された国内産のスプルース材によるLVL(木材工業製品)エレメントを用いた構成である。Wood Cityの特筆すべき点として、プロジェクト全体での木材の使用量は4,900立方メートルとなっており、炭素量で換算すると約1,000トンの二酸化炭素の削減に貢献していると報告されている。また、Wood Cityは、国内の森林サプライチェーンを生かして、森林資源をLVLへ変換して都市部に供給することで、都市部の大規模木造建築として大量の森林資源を利用している。Wood Cityは、国内の森林資源を都市で消費するという、森と都市の連関構造により実現したプロジェクトのロールモデルなのである。

■森と都市の連関による持続可能な森林活用

ここまで、日本における森林と林業の現状、カーボンニュートラルの実現とサプライチェーンの構築の視点から木材活用の意義について整理してきた。また、国内外の木造建築の事例にも着目しながら、森と都市の連関構造を考える上で必要となる要素について議論してきた。持続可能な森林活用は、森林から生まれる木材製品の消費地を確保し、消費地で生まれた経済利益を山に返すこと、そしてその利益をもとに継続的な森林整備を計画的に行う、このサイクルの確立なしには実現できない。

①持続可能な森林活用に向けた具体的な方策

外国産材に潜む外的要因やリスクを可能な限り排除するため、さらなる国産材の活用が望まれる。持続可能な森林活用に向けた具体的な方策について、川上側(山元や林業関係)―川中側(主に加工や流通)―川下側(都市や消費者)の視点、経済的な視点も含めて考えたい(図2)。

図2 持続可能な森林資源の活用に向けた方策

国産材を効果的に活用するための川上側の取り組みとして、森林ごとにストックされている木の齢級と齢級ごとの量を正確に把握する必要がある。人力に頼った方法ではほぼ不可能に思えるが、ドローンやAIなどのデジタル技術を活用した上で、日本各地の森林にて一定面積のエリアごとに「森林の見える化・定量化」が行えるかが鍵となる。ある程度、齢級と量を把握した上で、スケールメリットを意識した計画的な皆伐を行えば、木材の価格と量のシミュレーションも可能となる。また、把握しているデータを基に、計画的な伐採計画と植林計画を立案して実行に移せば、持続可能な森林活用に近付くことができる。また、川下側では、需要と供給のバランスを安定化させるため、短期(1~3年)、中期(5~10年)を目安に、都市部の建物で使用する木材利用量を川上側に提示する努力が必要となる。大規模な建設会社やハウスメーカーなどは、単体で一定規模の木材量を確保することができる。中小規模であれば、持続的な木材活用を目的としたグループを形成しグループで木材量を確保するなどが考えられる。一定規模の利用を川上側に示すことで、価格と供給の安定を確保し、林業整備や設備投資を促す狙いである。さらに、忘れてはならないのは、川上側と川下側をつなぐ、川中側の取り組みである。川中側には、ブラックボックス化しているサプライチェーンのスリム化、生産性の向上、川上側にお金を戻す取り組みによって、川下側を含めて森と都市をスムーズにつなげる役割を期待したい。これら、川上側―川中側―川下側までのつながりが強化されることで、都市部において木造建築や木材利用の普及が進み、結果として森林資源の利用が促進されるというサイクルとなる。

②ESG投資や森林環境税の活用

経済的な視点では、持続可能な森林活用を進めていく上で、ESG(環境・社会・企業統治)投資をはじめとしたビジネスとの接続や2024年から開始される森林環境税の活用が有効になると考えられる。

ESG投資では、企業の社会的責任(CSR)に注目し、長期にわたる視点で総合的な投資判断を行う上でCSRは重要な指標の一つになっている。特に、欧州をはじめとして、森林の活用は、地球温暖化対策や気候変動対策などの社会的な観点から重要な資源とされており、森林ないしは木材・木造建築を活用している企業を対象としたESG投資が広がりを見せている。ESG投資の観点から考えると、企業としての木造建築の活用は効果的な資本投下となる可能性が示唆される。また、日本においても、不動産会社や投資家を中心に、二酸化炭素排出量の削減や環境性能の高い木造建築の利用等についての認識が広がっており、将来的にはさらなる広がりも期待できる。

森林環境税は、パリ協定の枠組みの下におけるわが国の温室効果ガス排出削減目標の達成や災害防止等を図るための森林整備等に必要な地方財源を安定的に確保することを目的に創設された制度である。森林環境税の使用用途としては、市町村において、間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進、普及啓発等の促進が想定されている。森林環境税の活用によってこれまで長年解決できなかった、補助金依存となっている林業の収支構造の転換に期待したい。日本の森は、小規模かつ分散的な森林所有となっており一体的な整備がしづらい点や、中長期的な視点での森林整備ができていない点など改善の余地が多分にある。これら投資や税金によって進められる政策が森と都市の連関を強化し、持続可能な森林活用に寄与する可能性は高い。

■おわりに

本稿では、森と都市の連関構造の構築および木造建築の活用という視点から、国内の森林を持続可能な資源として活用する方法を模索した。森林を持続可能な資源として活用するには、国内のサプライチェーンの再整備とそれを使う出口戦略が必要となる。

川上側の心理として、森林資源に対する需要が安定的に期待できるのであれば、林道の整備や設備投資を継続的に行いたいと考えている。川中側は、安定的に木材が供給され、中長期的な視点で機械設備投資を行いながら事業を継続したいと考えている。川下側は、現在見られるような木材関連製品の急激な値上がりなどがなく、良質な木材を一定の価格で継続的に手に入れたいと考えている。これらは持続可能な形で森林資源を活用していく上での理想像であるが、川上側―川中側―川下側の連携とサプライチェーンの構築なしに実現することは極めて難しいと言える。

しばらくは世界的な情勢不安で先が見通しづらい状況が続くと予想され、戦後から続く長い外国産木材への依存体制からの脱却も容易ではない。そんな中で将来的に持続可能な森林活用を実現するには、川上側からのトップダウンでも、川下側からのボトムアップでもなく、それらをつなげる川中側も含めて双方から歩み寄る「サンドウィッチ式」によって粘り強く取り組んでいく必要がある。

参考文献

**1:
林野庁:令和2年度森林・林業白書, 2021年6月
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**2:
日経BP総合研究所社会インフララボ:木材ビジネス最前線, 2021年11月
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