特集カーボンニュートラル エネルギー編

エネルギー政策の課題と展望 太陽光発電の主力電源化に向けて

東京大学 教養学部 附属教養教育高度化機構 環境エネルギー科学特別部門 客員准教授 松本 真由美

写真:東京大学 教養学部 附属教養教育高度化機構 環境エネルギー科学特別部門 客員准教授 松本 真由美

2022年7月15日

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■脱炭素の潮流

地球温暖化の影響による気温上昇や多発する自然災害への危機感から、世界でカーボンニュートラルに向けた機運が高まっている。IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)が2018年10月に発表した「1.5℃特別報告書」では、「現在の進行速度では、早ければ2030年から2052年の間に世界の平均気温が産業革命以前より1.5℃上昇する可能性が高い。1.5℃に抑制するためには、世界で排出される二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに2010年比で45%、2050年頃には森林などの吸収分や技術により回収し、実質ゼロに削減する必要がある」と指摘した。

2015年に採択された「パリ協定」は、産業革命以降の気温上昇を2℃未満、できれば1.5℃に抑えることを目標として掲げ、各国に削減目標の提出・更新を義務付けている。その後、2021年11月英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、「産業革命からの気温上昇を1.5℃目標とすると位置付け、この10年間で行動を加速させる必要がある」と成果文書にまとめた。1.5℃目標を達成するためには、温室効果ガス削減の上積みが必要となる。

日本の温室効果ガスの85%を占めるのはエネルギー起源CO2の排出量である。2020年度の温室効果ガス総排出量は11億5000万トン(CO2換算)で、2013年度比18.4%減。7年連続減少傾向にあるが、2030年度に46% (2013年度比)削減を実現するためには、社会システム全体のエネルギー利用の転換を進めなくてはならない。

岸田文雄首相は、2021年12月の所信表明演説で、「2050年カーボンニュートラル、および2030年度の46%排出削減の実現に向け、再エネ最大限導入のための規制の見直し、および、クリーンエネルギー分野への大胆な投資を進める」と述べた。

■太陽光発電のさらなる導入拡大へ

日本における再生可能エネルギー(再エネ)の導入は、2012年7月に施行された固定価格買取制度(FIT)により大幅に増加した。特に設置しやすい太陽光発電は、2020年度の設置容量は61.6GW、発電電力量は791億kWhで、電源構成比は2011年度0.4%から2020年度7.9%に増加した。

2021年10月に閣議決定した「第六次エネルギー基本計画」では、2030年に向けた政策のポイントとして、再エネの主力電源化を徹底し、再エネに最優先の原則で取り組み、国民負担の抑制と地域共生を図りながら最大限の導入を促すとした。2030年度の総発電量に占める再エネの比率は、「第五次エネルギー基本計画」(2018年7月策定)の22~24%から36~38%に高めた。2030年目標では、再エネ(36~38%)と原子力(20~22%)、水素・アンモニア(1%)の脱炭素電源約6割の実現を目指す。

太陽光発電は、2030年の電源割合の14~16%程度の目標を掲げ、設置容量104~118GW、発電電力量1,290~1,460億kWhの導入を目指す(図1)。2030年の発電コストについては、事業用太陽光発電で1kWh当たり8円台前半~11円台後半と、原子力(11円台後半以上)より安くなる試算が出されている。

図1  新たなエネルギーミックス実現への道のり**1

■太陽光発電が直面する課題への対応策

太陽光発電の2030年導入目標の達成には、残り約40~54GWの導入が必要となる。しかし、再エネ設備と地域での住民との間のトラブル増加が喫緊の課題である。経済産業省に寄せられた相談は2016年10月から2022年2月末までに850件に上り、主に太陽光発電に関する相談が多い。例えば、土地開発が突然開始されたことによって事業の存在を知った、森林伐採により災害が発生する懸念などの声が寄せられている。

こうした事態を受けて、地方自治体は条例などにより、再エネ設備の建設を抑制する区域を設定する動きが広がっている。2016年度に26件だったものが2021年度には184件と6年で約7倍に増加し、全国の自治体の約1割が再エネ条例を制定している。

2022年4月経済産業省、農林水産省、国土交通省、環境省が共同で事務局を務める「再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理のあり方に関する検討会」が設置され、筆者もメンバーとして関わっている。本検討会は、再エネの主力電源化を進めていくにあたり、地域の信頼を獲得しながら、地域と共生した再エネ導入拡大を進めていくため、適正な導入および管理に向けた施策の方向性を議論するとともに、関係者にヒアリングを行っている。

本検討会第2回会合(4月27日開催)では、山梨県環境・エネルギー部の責任者から「山梨県太陽光発電施設の適正な設置及び維持管理に関する条例」(2021年10月施行)について説明があった。山梨県は全国有数の日射量を有する地域特性から、多くの太陽光発電事業者が参入した。森林を伐採し斜面に設置された事例や観光地からの景観に影響を及ぼす事例などが、同県の条例制定の背景にある。条例では、稼働中を含む全ての太陽光発電施設を対象に、維持管理するための計画を作成・公表し、適正な点検を行うことを義務付けるとともに、設置規制区域には、野立て太陽光発電施設の新規設置を原則禁止するとした。

第3回会合(5月12日開催)では、太陽光パネルの廃棄やリサイクルを行う事業者や有識者からヒアリングを行った。横浜国立大学の板垣勝彦教授は、今後最も留意すべきは、太陽光バブルに乗じて太陽光パネル事業に参入した中小事業者が、FITの買取期間を終えた後、適切な撤去・廃棄を行わず無責任に放置する事態であると指摘した。太陽光パネルが発電を続け、FITによる買取が続く限りは、事業者を捕捉することは可能なため、自治体は今のうちに届出義務を課すなどして事業者を捕捉する必要があること。また、計画倒産などで事業者が行方不明になった場合に備えて、略式代執行*1の仕組みを法令で設けておく必要性について言及した。

太陽光パネルのリサイクル技術を国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業などで行ってきた三菱ケミカルグループの株式会社新菱(本社:福岡県北九州市)からは、太陽光パネルのリサイクル技術開発の現状と課題について説明があった。現状の廃棄太陽光パネル処理は、まだ足元では発生量が少なく、故障パネルや災害品が主でほとんど埋め立て処理されている。しかし、NEDOの推計によると、太陽光パネルの排出量は2035~2037年頃には年間約17~28万トン(1,000万~1,700万枚)になり、産業廃棄物の最終処分量の1.7~2.7%に相当する量が予想される(図2)。同社は、環境循環型社会に対応できる低コストリサイクル処理手法の構築の必要性について述べた。

図2
図2 太陽光パネルの排出量の予測**2

新菱は、環境省の補助金を活用し、太陽光パネルから銀や銅、グラスウールをほぼ100%の純度で取り出し、再利用できるようにする最先端のリサイクル工場を2022年秋完成予定である。同リサイクル工場の太陽光パネルの処理能力は、年間9万枚(1,440トン/年)を見込む。新菱の独自技術を活用し、シリコンやガラス、アルミニウムや電気配線で構成する太陽光パネルを熱処理分解して選別する仕組みで、64トンのパネルから38トンのグラスウール、10トンのアルミ、1トンの銀・銅を回収できるという。このような循環型社会システム構築により、太陽光発電の社会への定着を図ることが重要である。

■太陽光発電の主力電源化に向けて

野立ての太陽光発電施設は適地に限りがあることから、政府は今後の太陽光発電政策を転換させる動きを見せている。まず住宅や工場・倉庫などの建築物の屋根への設置を進める。「2030年に新築住宅の6割に太陽光発電」という目標を掲げ、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)といった大幅な省エネルギー化を実現した上で、太陽光パネルや蓄電池などを導入し、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロを目指す住宅や建築物について、補助金などで支援し、さらなる普及拡大を図る。また2030年に向けて、政府・自治体が保有する設置可能な建築物屋根等の約50%に太陽光発電の設置を目指す。

5月25日には東京都が、戸建住宅を含む新築建物への太陽光パネル設置の義務について、有識者検討会の中間まとめを受け、義務化の方針を固めたことを発表した。中間まとめでは、一戸建てを含む、延床面積2,000㎡未満の中小規模の建物を対象に、建物の購入者ではなく、大手住宅メーカーに太陽光パネルの設置を義務付けている。大手メーカーの販売数の85%程度を想定しており、都内で年間に販売される新築住宅の5割以上、およそ2万3,000戸が対象となる見通しである。

また2022年度以降、「コーポレートPPA」や「脱炭素先行地域」の推進を本格化させる方針である。PPAとは、Power Purchase Agreement(電力販売計画)の略称で、電気を利用者に売る電力事業者(PPA事業者)と需要家(電力の使用者)との間で結ぶ電力販売契約のことである。コーポレートPPAは、「オンサイト型PPA」と「オフサイト型PPA」に分けられるが、オンサイト型PPAの「太陽光発電の無償設置」のビジネスモデルが広がりつつある。需要家が発電事業者に建物の屋根などのスペースを提供し、発電事業者が発電設備の設置工事と運用・保守・メンテナンスを実施し、現地で発電した電力を需要家に供給するモデルである。オフサイト型PPAは、自社に発電設備を設置できる屋根やスペースがない場合の検討手段になる。需要場所から離れた場所に発電設備を設置し、発電した電力を需要場所に小売電気事業者を介して供給する仕組みである。

「脱炭素先行地域」とは、2030年度までに民生部門(家庭部門および業務その他部門)の電力消費に伴うCO2排出実質ゼロを実現するとともに、運輸部門や熱利用を含め、その他の温室効果ガス削減についても、2030年度目標と整合する削減を地域特性に応じて実現する地域のこと。環境省が、2025年度までに少なくとも100カ所を創出するとして、2022年4月26日、19道府県の計26件を先行地域に選定し、今後も公募を行う。先行地域は、「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」(2022年度予算額200億円)による支援を受けられる。地域の企業や地方自治体が中心となり、地域人材の雇用や公共施設などを活用しつつ、地域資源である豊富な再エネポテンシャルを有効利用し、地域の産業活性化や住民の生活向上につなげていく構想となっている。

脱炭素先行地域に限らず、2050年カーボンニュートラルの「ゼロカーボンシティ」を目指すと表明した自治体は増加しており、2022年5月31日時点で、702自治体(42都道府県、415市、20特別区、189町、36村)に上る。一方で地域での懸念の高まりや規制条例の増加という状況を踏まえ、「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」が2021年3月閣議決定され、2022年4月1日施行した。この法律のポイントとして、「パリ協定の目標」や「カーボンニュートラル」が基本理念として法に明確に位置付けられたことや、市町村が再エネを促進させる「促進区域」を設定し、自治体が関与する形で適地を確保することを促している。地域住民との合意形成を図り、事業者に対して適地への誘導を促す仕組み「ポジティブゾーニング」の考え方を採用したのが特徴である。

環境省は、再エネを経済的に開発・導入できるポテンシャルデータ「再生可能エネルギー情報提供システム=REPOS(リーポス)」を制作し、デジタルで誰でも地域資源である再エネのポテンシャル情報を把握・利活用できるシステムを公開し、これを参考に目標設定することを勧めている(図3)。

図3
図3 再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS)**3

再エネ主力電源化の柱となる太陽光発電のさらなる導入拡大に向けて、住宅や工場、オフィスの屋根を活用した地産地消の推進やコーポレートPPAなど、新たなビジネスモデルが動き出している。今後は、地域社会の信頼を獲得しながら、土地や場所を提供する地域や住民にメリットを感じてもらえるような地域共生型の好事例を増やしていくことが大事である。また、自治体はゾーニングによって立地を適正化して、地域外の事業者を誘導するとともに、地域の主体が事業展開できるよう積極的な支援を行い、地域社会のサステナビリティ(持続可能性)につなげてほしいと願う。

*1:
略式代執行:物件が所有者を特定できない場合の費用の徴収について、いったん自治体が負担して、所有者が確定した段階で請求する。
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参考文献

**1:
再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理のあり方に関する検討会について(2022年4月26日 資源エネルギー庁)の10ページ目,経済産業省ウェブサイト
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**2:
再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理のあり方に関する検討会(第1回)説明資料(2022年4月 経済産業省)の36ページ目,経済産業省ウェブサイト
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**3:
脱炭素先行地域づくり スタディガイド(2022年1月 環境省)の6ページ目、環境省ウェブサイト
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