リポート

大学における産学連携プロジェクトN’sキッチン

藤女子大学 人間生活学部 食物栄養学科 教授 菊地 和美
藤女子大学 人間生活学部 食物栄養学科 教授 中河原 俊治

2022年6月15日

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■産学連携プロジェクト N’sキッチンの立ち上げ

藤女子大学は札幌藤高等女学校(1925年開校)を淵源として1961年に創立された北海道の女子高等教育のパイオニアである。大学が掲げている『未来共創ビジョン』の一つとして「地域とつながる藤」(図1)が示され、教職員・学生・卒業生が一つになって大学の社会貢献を推進している。このビジョンは大学の教育研究資源を地域社会に対して広く開放し、愛と寛容と奉仕の精神をもって、より良い生活、豊かな社会・文化の構築に貢献することを目指すものである。

今回紹介する本学の産学連携プロジェクトは2017年7月に開催された「FOOD EXPO北海道」(共催:北洋銀行、北海道銀行、北海道商工会議所連合会、会場:札幌パークホテル)において、筆者らが本学人間生活学部食物栄養学科の食に関する研究を出展・紹介した際に、サッポロウエシマコーヒー株式会社の安東正伸氏(当時副社長)との出会いがあったことによってスタートした。

このプロジェクトは藤女子大学食物栄養学科が研究・製品化提案、三井物産株式会社北海道支社が「さらさらゴールド®玉ねぎ」などの原料供給・メディア対応、そしてサッポロウエシマコーヒーが製造調整・セールス活動などの役割を分担することにした。ここに本学科学生2人が卒業研究の一環として取り組み、開発商品の提案、パッケージデザイン、商品の試食・改良、農場視察、商品の店頭販売、展示会での試食提供、メディアに向けた商品の説明、工場視察という商品開発から販促活動までを各企業の担当者とともに積極的、主体的に活動してきたものである。

図1 藤女子大学未来共創ビジョン

■N’sキッチンの成果

このプロジェクトの目的は「北海道の食に貢献する」とし、その実現のため、北海道で生産される原材料にいっそうの付加価値を付けることで、「北海道経済の活性化を目指す」、「健康に関連したキーワードを取り入れる」、「学生の社会参加を促す」ことを目標とした。これらのことからプロジェクト商品には、North・Nutrition・Naturalの頭文字をとり、『N’sキッチン』と名付けられ、ロゴマークも作成した(図2)。このプロジェクトで開発する製品は「おいしい」、「健康」、「栄養」を基本コンセプトとして、2018年から継続的に企画されてきた。

図2 『N’s キッチン』のロゴマーク
  • 2018年 第一弾「北海道の玉ねぎまるごとスープカレー」(写真1
  • 2019年 第二弾「北海道の玉ねぎまるごと白いカレー」
         第三弾「かける玉ねぎだれ(醤油だれ、塩だれ)」
  • 2020年 第四弾「北海道下川町のフルーツトマトとしいたけの子を煮込んだ森のシチュー」

マーケティングでは「出来上がった製品のおいしさ、健康、栄養を広く知ってもらう」「社会貢献の視点からSDGsに挑戦」を目指した。

写真1 北海道の玉ねぎまるごとスープカレー
カレーには「さらさらゴールド® 玉ねぎ」を丸ごと使い、インパクトを高めることにつながった。
新玉ねぎを使用することで箸がすっと通るほどの軟らかい食感に仕上げている**5
①北海道の玉ねぎまるごとスープカレー**1

大学内で実施した官能評価では、味は「おいしい」が77.1%、辛さは、「辛い」という回答が多かった。学生の感想では、「玉ねぎがトロトロでおいしかった」など挙げられた。カレーは、玉ねぎの食感を残すために丸ごと新玉ねぎに変更したため、新玉ねぎの出荷に合わせて当初予定していた時期よりも発売日を延期することになったが、このことからも学生は満足度の高い商品を売り出すには、現場での判断の厳しさと難しさを実体験として学ぶことができた(写真2)。

また、この製品は日本経済新聞電子版「キャンパス発この一品」**2で紹介され、この閲覧数が8位(45品目中)にランキングされたことで学生の自信にもつながった。

②北海道の玉ねぎまるごと白いカレー

「北海道の玉ねぎまるごとスープカレー」の姉妹品として製品化した。また、これらは本学の学生ボランティアの活動先である「中高生のためのオープンスペース」や「NPO法人認知症カフェ」などで活用した。

③かける玉ねぎだれ(醤油だれ、塩だれ)**3

「さらさらゴールド®玉ねぎ」の特徴は、ケルセチンという生体調節成分が多いので、含まれるケルセチン量について調理方法の違いによる影響を学科の分析機器を用いて測定した。ケルセチン量は加熱など加工することで生に比べて減少し、切り方ではみじん切りにすると減少したことから、この結果を生かして玉ねぎをみじん切りにした際の汁ごと利用する商品へと工夫が広がった。

④北海道下川町のフルーツトマトとしいたけの子を煮込んだ森のシチュー**4

下川町は「SDGs未来都市」に選定されていることから、2020年度の企画としたシチューの材料として特産のトマトや間引きしたしいたけを「しいたけの子」と名付けて用い、環境にも配慮した製品とした。この年の活動はコロナ禍の影響を受けて、ほぼオンラインミーティングとなり、産地の下川町にも人数制限下で訪問することになった。しかしながら、不自由な活動条件にあっても学生はプロジェクトメンバーおよび消費者からも自分たちの活動や成果について意見や感想を伺うことができ、最大限の学びが得られたと考えられた。

写真2 サッポロウエシマコーヒー展示商談会における販促活動(2018年 札幌)

■今後の展望

今後の課題は、ポスト・コロナにおける北海道産食材の魅力を生かした商品開発ならびに発信の継続である。

参加した学生はこのプロジェクトを通して得られた成果を卒業研究にまとめてきた。しかしながら学生の活動とプロジェクトの進捗とではペースが異なり、難しい面も見られたが、これまで継続的に商品を開発・発信できたことは大学での学びを地元北海道へ還元することにつながった。そして本学『未来共創ビジョン』の「地域とつながる藤」「個性の花咲く藤」「未来を切り拓く藤」の実践ができたと考えている。

参考文献

**1:
鬼河紗弥香、今瑞姫:2018年度 卒業報文「北海道産玉ねぎを使用した商品開発に関する研究」藤女子大学人間生活学部食物栄養学科
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**2:
「キャンパス発この一品」電子版閲覧数ランキング、日本経済新聞、2019年5月15日
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**3:
小川葉祐子、塚尾沙良:2019年度 報告書「北海道産玉ねぎを使用した商品開発に関する研究」藤女子大学人間生活学部食物栄養学科
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**4:
沢口由夏、丸山紗希:2020年度 卒業報文「下川町地場産物を使用した商品開発について」藤女子大学人間生活学部食物栄養学科
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**5:
「キャンパス発この一品」北海道の玉ねぎまるごとスープカレー藤女子大、日本経済新聞、2019年1月23日
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