リポート

福岡未来創造プラットフォーム

福岡大学 社会連携センター 助教 山田 雄三

写真:福岡大学 社会連携センター 助教 山田 雄三

2022年6月15日

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■はじめに

近年、地域の複数の大学・自治体・産業界等が組織の垣根を越えて恒常的に連携協力を行う「地域連携プラットフォーム」を設立する動きが活発になっている。福岡市を中心とするエリアにおいても、2019年5月に「福岡未来創造プラットフォーム」が正式に発足した。本プラットフォームには、福岡都市圏に立地する国公私立の15大学、福岡市、福岡商工会議所、福岡中小企業経営者協会の18機関が参画し、福岡の大学とまちの未来創造に共同で取り組んでいる**1。本稿では、本プラットフォームの設立の経緯や現状などについて紹介する。

■設立の背景

本プラットフォームは、2018年2月に福岡大学から福岡市に提案を行い、両者の共同の下、設立に向けての準備が進められた。福岡大学がプラットフォーム設置構想を提案するに至った背景として、次のような考えがあった。いずれも少子化・人口減少などの大学を取り巻く状況の変化に直面する中、大学がいかに存続できるか、知の創造と人材育成の拠点としての社会的な責務を果たし続けることができるかという問題意識が根底にあった。

①大学と地域の相互発展

大学と地域は相互発展の関係性にある。2000年代以降に大学の社会貢献が教育・研究と並ぶ「第三の使命」に位置付けられ、様々な専門家や学生が集積する大学は地域の再生や活性化を担う「知の拠点」としての役割が期待されるようになった。大学側にとっても、18歳人口の減少に直面し大学経営が厳しくなる中、自前の資源だけでなく、地域の多様な主体とパートナーシップを結び、地域の資源や活力を取り込みながら教育・研究・経営の高度化を図っていくことはますます重要になっている。大学が立地する地域に多様な人材が集積し、経済・社会・教育・文化活動が活発に行われているかどうかは、将来の大学の発展や存続に大きく関係する一方、個別の大学ごとの地域連携では地域全体の発展につながる規模の取り組みができない。そのため、福岡市を中心とするエリアの複数大学・自治体・産業界が同じテーブルに着き、これからの大学と地域の在り方について共に考え、未来創造に取り組むプラットフォームを構築する必要があると考えた。

②知のネットワークの構築

今日の大学は歴史的に大きな転換期を迎えている。大学はもはや内的な資源だけで発展していくことはできず、大学の外の世界、とりわけ大学が立地する地域との関係性の中で新しい大学の在り方を再構築する必要に迫られている。伝統的な大学像を超えて、未知の、まだ形が定まっていない未来の大学の在り方を地域や社会との関係性の中で模索していかなくてはならない。このような前例のない挑戦は、一組織の限られた人材だけでは遂行することはできない。また今後の大学では教員や職員の人員数はますます少なくなり、余力もなくなってくることが予測される。そのため、今のうちに近隣の大学・自治体・産業界との間で様々なレベルでの知のネットワークを構築し、予測困難な状況下においても組織の垣根を越えた多様な視点から共通の課題や未来創造について共に考え、より良い答えを導き出すことができる関係性を整えておく必要があると考えた。

③資源の共有化

大学が地域や社会の中で期待される役割が広がる一方で、今後大学の財政規模は縮小し、経営はますます厳しくなっていくことが予測される。このような中、大学の機能を低下させることなく、従来以上に発展させるためには、自大学以外の機関との間で資源の共有化や業務の共同化(物品やサービスの共同調達、業務の共同化、施設・設備の共同利用、クロスアポイントメント制度などでの人材の共有、科目の共同開発や共同開講など)を進め、経営の強化や効率化に取り組んでいく他に活路はない。そのため、課題を共有する近隣の大学および自治体や産業界とともに資源の共有化や業務の共同化の実現に向けて準備を進め、できるところから実績を積み重ねていく必要があると考えた。

以上のような考えは、福岡大学が2009年ごろから地域連携事業を積極的に推進し、また文部科学省の「地域再生人材創出拠点の形成」事業(2006-2010年度)や「地(知)の拠点整備事業」(2013-2014年度)などへの申請に取り組む中で練り上げていったものである。また、2017年度から私立大学等改革総合支援事業に「タイプ5 プラットフォーム形成」が新設されたことは、プラットフォーム設置構想を実現に移す際の学内外での強い説得材料となった。

■プラットフォームのビジョン

本プラットフォームは、福岡都市圏の大学・自治体・産業界が相互に資源を共有しながら、大学とまちの振興に一体となって取り組むことを目的としている。そのビジョンとして、次の三つを掲げている。

  • 若者が集積し、成長し、活躍する活気と魅力あるまちづくりの推進
  • 多様な人びとが豊かな学びを通して活躍できるダイバーシティ社会の推進
  • 大学・自治体・産業界の垣根を越えた知的・人的交流の促進と高等教育機能の向上

福岡都市圏では、「西部地区五大学連携」、「東部地域大学連携」、「地下鉄七隈線沿線三大学連絡協議会」、「南区大学連絡会議」、「大学ネットワークふくおか」などのコンソーシアムは存在していたが、単位互換制度や共同企画の実施など部分的な連携にとどまっていた。本プラットフォームでは、大学がまち全体の未来について考えるようになったこと、自治体や産業界が大学の在り方について一緒に考えるようになったこと、その共通のビジョンの実現のために産官学が密な関係性の下で共に行動するようになったことが、従来の大学間連携や産官学連携から新しい段階に入ったと言える。

■プラットフォームの取り組み

本プラットフォームでは、ビジョンの実現に向けて、五つのワーキンググループ(以下、WG)を組織し、活動に取り組んでいる。WGごとに「幹事校」と呼ばれる担当校を定め、会議の開催、事業計画の策定、事業の企画・実施などの取りまとめを行っている。本プラットフォームの加盟機関は、希望するWGに適切な人員を送り、事業に参画している。各WGは大学・自治体・産業界から集まった10~15人ほどの構成員により運営されている。

上記のWGの各テーマと取り組みを設定するにあたって、プラットフォーム加盟機関の間で福岡都市圏の大学を取り巻く現状と課題や、地域における大学の役割や強みなどを掘り下げながら、検討を進めていった。結果、①多様な地域からの若者の流入を促進すること(学生募集WG)、②地域の未来を担う人材を育成すること(地域人材育成WG、生涯学習WG)、③福岡のまちで育った人材がその後定着すること(地元就職定着WG)は、大学とまちの未来の発展に関わる最重要のテーマであることが確認された。加えて、これらの各テーマは、大学の機能面としても、今後は個別の機関ごとではなく、大学・自治体・産業界などの地域のステークホルダーが共同で取り組むことで、コストの低減を図りつつ、従来以上に高い成果を生み出す可能性があると考えられる。

また、本プラットフォームでは、大学・自治体・産業界の連携と交流の促進自体を目的としたWGを設置していることは特徴の一つであると言える(大学・自治体・産業界交流WG)。大学・自治体・産業界の組織の垣根を越えた関係性を構築できるかどうかが、本プラットフォームの肝であり、成否の決定要因になると考えたため、このテーマに特化したWGを設置するに至った。このWGでは、産官学間の対話や学びの場づくりや、資源の共有化の推進など、「組織の垣根を越える」ことを目的に新しい関係性や仕組みづくりに取り組んでいる。

■生まれてきた変化

本プラットフォームでは設立から3年が経つ中で、個別の事業ごとの成果のほかに、幾つかの興味深い変化が生じてきている。

①大学・自治体・産業界の間で日常レベルでの組織の垣根を越えた関係性が生まれてきている

プラットフォームに関する事業以外でも、他の加盟機関から業務の方法や仕組みを学んだり、新しい連携事業を提案したり、人材を紹介してもらうなど、困ったときに日常的に相談できるネットワークとして機能し始めている。これは、これまで福岡都市圏の各機関で見られなかった新しい関係性であると言える。組織間での会話量も増え、様々な情報交換が起こるとともに、従来のように長い時間をかけて交渉しなくても、日常の関係性の中で必要な支援を受けたり、新しい連携事業を生み出すことができるようになってきている。

②プラットフォームが人材育成の場になっている

各WGでは、大学・自治体・産業界の構成メンバーが協力して、福岡の大学とまちの未来創造につながる様々な事業の企画や運営に取り組んでいる。その多くはこれまで前例のない取り組みであることから、各WGの活動のプロセスそのものが社会人のPBL(課題解決型学習)として機能していると言える。一つの目標に向けて、産官学の構成メンバーが意見を出し合い、密に議論を重ね、事業を創出していくプロセスのなかで、組織の垣根を越えた広い視点から前例のない事業にチャレンジできる新しい人材が育ってきている。

③プラットフォームが試行や実験の場になっている

本プラットフォームでは、現場で生まれたアイデアや気づきをシームレスに実施できるように、各WGに事業の企画から実施までの意思決定の大部分が委ねられている。そのため、仮に自組織内で実施する場合は承認を得るまでに相当の時間と労力を要するような事業であっても、プラットフォームではWGの構成メンバーの同意と協力があればすぐに実行に移すことができる。この特徴から、各WGでは現状の大学から一歩先んじた実験的な取り組みが起こってきている(福岡都市圏12大学合同のオンライン進学説明会の開催、大学生と一緒に教育プログラムの開発に取り組む試み、まちのオープンスペースを活用した生涯学習プログラムの共同実施、対話と学びをテーマにした1カ月間にわたるイベントの開催など)。さらに、これらの試行から得られた知見やノウハウを自組織の事業に取り入れる動きも見られるようになった。

■課題

一方で、プラットフォームを運営する上で、様々な課題にも直面している。本稿では、紙面の都合上、重要と考える課題を一つだけ紹介したい。

プラットフォームの意義や目的をどのように共有し、継承していくか。これはプラットフォームの存続に関わる最重要の課題であると考えている。先述のとおり、プラットフォームの取り組みは、従来の伝統的な大学像を乗り越える新しい試みである。そのため、なぜプラットフォームが必要なのか(その前段階として、なぜ他機関との連携が必要なのか)は、個々人の大学に対する考え方、大学と社会を巡る現状の理解や危機意識の度合い、他機関との連携の経験の有無などによって捉え方は様々である。かつて全国で大学間のコンソーシアムが乱立し、その多くが形骸化していった経験と重ねて、最初は懐疑的な反応を示す人も多い。本プラットフォームでは、設立時のメンバーの間ではその意義や目的について議論を重ね、深く共有することができていたが、その後の人事異動や役職の交代などで半数以がプラットフォーム事業から離れている。また、各WGの活動に直接携わっている現場のメンバーとは意義や目的を共有できても、各加盟機関の内部まで充分に浸透しないなどの課題もある。2~3年ごとに人材が流動する状況において、プラットフォームという新しい試みの意義や目的を組織全体で共有し、浸透させていくための仕組みを早急に確立させる必要があると考えている。

■おわりに

プラットフォームの取り組みは、「個」から「全体」への新しい仕組みと関係性づくりへの挑戦であると言える。これまでの大学は、個を越えた複雑な社会との関係性の中で、自らの在り方を考えたり、新しい仕組みをつくったりすることを得意とはしていなかった。個の発想を基盤とする伝統的な大学像から、複雑な社会システムの中で他(多)と連携しながら新たな大学像を創りだす段階へ。筆者は、プラットフォームの取り組みに深く関わる人の中から、未来の大学を創る担い手が生まれてくることを期待している。

参考文献

**1:
2022年5月時点の加盟機関は、九州産業大学、九州大学、サイバー大学、純真学園大学、西南学院大学、第一薬科大学、筑紫女学園大学、日本赤十字九州国際看護大学、日本経済大学、福岡工業大学、福岡国際医療福祉大学、福岡歯科大学、福岡女子大学、 福岡大学、令和健康科学大学、福岡市、福岡商工会議所、一般社団法人福岡中小企業経営者協会の計18機関。
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