特集コンソーシアム

こども食堂と連携 「アートワークショップ」で体験の格差改善を目指して

金沢学院大学 芸術学部 准教授 広根 礼子

2022年6月15日

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■プロジェクトの概要

ひとり親家庭が抱える「子どもの自然体験の不足と、保護者の自分らしい生き方の創出」というニーズに対して、金沢学院大学芸術学部広根ゼミは、こども食堂と連携して、自然体験や文化体験を包括した「アートワークショップ」を開催した。子どもには、普段の学校生活や家庭生活では体験したことのない、新しい発見ができるようなプログラムを実施。ひとり親には、コロナ禍における精神的な負担の増加に対して、自分らしく生きることや人生の楽しみを感じてもらえるような、つながりと癒しの機会を提供した。

本稿では、石川県内の国公私立大学の連合体である大学コンソーシアム石川が主催する、地域課題研究ゼミナール支援事業(地域共創支援枠)採択事業として行った、これらの取り組みについて紹介する。

■背景と目的

全国のこども食堂の数が、2012年に発足して以来、最多の6,000カ所に上ったことが支援団体の調査で判明した。一方で、石川県内のこども食堂の数は、昨年度より4割近くも減少しており、全国で最も減少率が高い。このような中、金沢市大桑町の「おおくわこども食堂」を利用する母子家庭の保護者から、「子どもが休日に自然体験や文化的体験をすることができない」、「母子だけではやってみようと思えない」、「すでにある体験教室は料金が高くて参加できない」という声が上がっていた。また、子どもだけではなく、母子家庭・父子家庭の親自身にも、無縁社会を払拭(ふっしょく)し、つながりが実感できる機会が求められていた。

金沢学院大学芸術学部は、1年次に芸術全般の基礎を学んだ上で、2年次以降、絵画・造形・デザイン・映像・メディアの五つの分野の学びを柔軟に深化させるカリキュラムをとっている。実践的な専門教育で培った「芸術マインド」を備えた学生を、実社会の様々な分野に輩出している。ここでの「アートワークショップ」は、デザインや映像を学ぶ学生が在籍するゼミの特性を生かし、以下を念頭に企画した。

  • 季節の行事と連動して年3回、夏・秋・冬に開催
  • 子ども(夏)・親子(秋)・親(冬)と対象範囲を変えて実施
  • 近年癒しの素材として注目を集めている羊毛フェルトを導入

■地域課題研究ゼミナール支援事業

地域課題研究ゼミナール支援事業は、大学の専門性と学生の創造力を地域課題の解決および活性化に結び付けるとともに、学生と地域の協働の推進を目的としている。地域団体が提示した課題に対して、大学ゼミが提案内容を記載した申請書を提出。その後、審査によりマッチングが決定する仕組みである。これまで、まちづくり・観光・産業・文化・福祉など幅広い分野への支援実績があり、以下の2枠がある。地域とともに、課題の分析を通して地域活性化策の提案に取り組む活動を対象事業とする地域課題発掘枠と、地域とともに、課題の解決に向けて実践的に取り組む活動を対象事業とする地域共創支援枠である。

2021年度は、合わせて17件の事業が採択され、地域共創支援枠の1事業として、おおくわこども食堂と金沢学院大学芸術学部広根ゼミのマッチングが成立し、3年計画で活動を開始した。

■活動のながれと連携

「アートワークショップ」の企画・運営の全ては、学生が主体となって行う。企画内容が整った時点で、おおくわこども食堂と打ち合わせを行い、募集に関する広報物(図1)を作成。おおくわこども食堂は、SNS(Facebook・Instagram・ジモティーなど)による告知と、活動時の食事提供を担当した。

図1 募集に関する広報物

■活動内容

①夏の「アートワークショップ:ペイントTシャツづくり」
対象:子ども

2021年8月の開催に向けて、準備、募集ともに順調に進んでいたが、石川県発令の新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置の適用を踏まえて、やむなく開催中止とした。

②秋の「アートワークショップ:ひつじのアート体験」
対象:親子
参加人数:37人(ひとり親家庭8世帯23人、山立会2人、こども食堂3人、学生8人、教員1人)

2021年8月、会場となる石川県白山麓、吉野谷ふれあい交流センターおよび山立会の運営する放牧場の視察兼打ち合わせを行った。9月、おおくわこども食堂とオンラインミーティングにて企画の検討を重ねた。

10月10日午前、ひつじのふれあい体験(写真1)、午後、羊毛フェルトのワークショップを開催した。募集要項には子どもの対象を「小学3〜6年生」としていたが、未就学児から中学生まで幅広い年齢の応募があった。家庭によっては、兄弟を預けてのイベント参加は現実的ではないと判断し、全て受け入れた。おおくわこども食堂は、お昼にラム肉のカレーライスを提供、フードバンクの食材配布も行った。

写真1 ひつじのふれあい体験

③冬の「アートワークショップ:オーナメントづくり」
対象:親(小学生の子ども同伴可)
参加人数:32人(ひとり親家庭7世帯15人、こども食堂2人、学生14人、教員1人)

2021年9月、会場となる金沢学生のまち市民交流館の視察を行った。町家建築の学生の家と、大スペースの交流ホール、この2カ所の会場をどのように使用するのが良いか、話し合いを重ねた。

10月、秋の「アートワークショップ」において集中力に差のある幅広い年齢の子どもに対応した経験から、メイン作品の他に、短時間で完成するサンタクロースやトナカイの折り紙も追加した。親の負担軽減のため、午前と午後の2部構成の導入を決めた。

11月、おおくわこども食堂とオンラインミーティングを複数回開催。親担当チームと子ども担当チームに分かれて担当作品の試作、クリスマスらしい作品持ち帰り用袋を準備するなど最終調整を行った。

12月12日、学生代表の挨拶と参加者による自己紹介の後、親と子どもは分かれて活動を開始。親は羊毛フェルトで鏡もち(写真2)、子どもはペーパークラフトのクリスマスリースを制作し、最後に家族単位で作品発表を行った。おおくわこども食堂は、親の癒しの一助を担うお茶とお菓子の提供および午前の参加者にはお弁当、午後の参加者にはフードバンクの食材を配布した。

写真2 親は羊毛フェルトで鏡もち

■成果

「アートワークショップ」の実践内容は、展示パネルと動画にまとめて、2021年11月、石川県デザイン展に出品し評価を得た。秋・冬共に「アートワークショップ」は、意義ある試みとして新聞報道された。

2022年2月26日、地域課題研究ゼミナール支援事業の活動成果発表会「地域連携アクティブフォーラム」がオンライン開催された。1組15分の持ち時間で、8分の学生プレゼンテーションの後、審査員からの質疑応答で進行した。地域共創支援部門の12事業中、本取り組みが優秀賞に選ばれた。

おおくわこども食堂代表、土井氏からは、「ゼミの専門性を生かした魅力的な企画により、ひとり親家庭に充実した体験を提供することができた上、新たな家庭とつながる機会も得た。また保護者のアンケートから、体験プログラムの満足度が高く、学生への評価も高かった」というコメントが届いた。

■今後の展望

金沢市子どもの貧困対策基本計画には、金銭的な理由で、博物館・科学館・美術館などに行く機会を持てなかった相対的貧困層の子ども(小学5年生)が、20%いると記載されている。文化的な体験は、ひとり親家庭にとって金銭的・時間的制約から機会が限定されている。この「体験の格差」を課題と捉え、美術館での展示鑑賞を計画している。コロナ禍における閉塞感の中、保護者に対する「リフレッシュとつながり」の機会提供も充実させたい。

連携先に関して、今年度は金沢市全域のこども食堂に関わる方々との協働を、次年度以降は、石川県全域のこども食堂にネットワークを拡大することが協議されており、新たなひとり親家庭に向けて機会の提供を図っていきたい。また、コロナ禍のこども食堂が抱える環境問題(弁当ケースの脱プラスチックなど)についても改善策を提案していきたい。

活動に参加した代表学生は、「課題解決のために、大学で学んでいる専門知識を生かし、地域の方々と協働した活動は、今後、自分の財産となる貴重な経験だと思う」と話してくれた。本活動は、SDGsの課題である「4,質の高い教育をみんなに」や「10,人や国の不平等をなくそう」にも貢献しており、活動を通して、学生たちの自律性と対人関係における感受性が培われた。引き続き「アートワークショップ」の場で生まれる、参加者と学生間のコミュニケーションがもたらす意識の変化について考察し、次の活動へとつないでいきたい。