特集コンソーシアム

地域防犯推進プロジェクト ―地域安全マップづくり

北陸大学 経済経営学部 教授 山本 啓一

写真:北陸大学 経済経営学部 教授 山本 啓一

2022年6月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

■活動の背景・目的

北陸大学経済経営学部山本ゼミ(3年・4年)では、環境犯罪学・犯罪機会論を学び、小学生を対象とした「地域安全マップづくり」や地域防犯に関するプロジェクトを実施してきた。2019年度からは、金沢市菊川町公民館の依頼により、金沢市菊川町・新竪町エリアにおいて、地域住民との協働体制のもとで地域安全マップづくりや地域防犯活動を行ってきた。

本ゼミは、警察官や自治体職員を志望する学生が多く参加している。授業外活動も多いが、学生たちの参加意欲が高いのは学生自身のキャリア意識とも関わるからだと推測される。

菊川町・新竪町エリアは、小学校の統合により子供たちの通学路の変化および広域化が起きており、安全に関する不安が保護者や地域住民に生じていた。また、防犯ボランティアの高齢化や後継者不足、同地域の高い空き家率などが要因となり、住民の体感治安の低下も懸念されてきた。そこで、地域安全マップづくりを通して小学生の防犯知識を高めるとともに、地域全体の安全安心まちづくりや持続可能なまちづくり活動につなげていくことをゴールとして設定した。

■活動内容

①地域安全マップづくり

これまで3年間にわたって、地域安全マップづくりを菊川町公民館と合同実施してきた(図1)。地域安全マップとは、立正大学小宮信夫教授が2002年に考案したフィールドワーク型防犯プログラムである。子供たちは危険な場所(犯罪者が犯行場所として選ぶ可能性のある場所)や安全な場所(犯罪者が犯行の実行を避ける場所)に関するキーワードを学んだ上で、グループになってフィールドワークを行い、危険な場所や安全な場所を発見し、その場所の特徴を記録する。その後、収集した情報を地域安全マップとして模造紙にまとめ、発表する。一連のプロセスを通じて、子供たちは危険な場所と安全な場所を発見できる能力を身に付け、犯罪に対する抵抗力を身に付ける。

図1 菊川町・新竪エリアで実施した地域安全マップづくり

2019年度は20人の大学生と30人程度の小学生、それに20人程度の地域関係者が参加し、菊川町公民館で地域安全マップを作成した。

2020年度と2021年度はコロナ禍のさなかであり、地域住民との対面での協働は困難であったが、オンラインツールであるMiroやウェブ会議ツールであるZoomを活用するなど、デジタルトランスフォーメーション(DX)化が大きく進展した。2021年度は、オンデマンド型動画教材を学生たちが作成し、それをもとに地域の住民や小学生がフィールドワークを行い、その成果をZoomで発表する形式をとった。動画コンテンツには、留学生が中心になって作成した英語版もあり、在留外国人小学生に対しても防犯知識を提供できるようになった。

オンデマンド型動画は一部を手直しするだけで様々な相手に提供できるメリットがある。2021年度には、金沢市立城南中学校からの依頼により、全校集会で生徒全員が視聴できるオンデマンド動画を提供した(図2)。中学校ではその後フィールドワークを行い、生徒の作成した内容をもとに中学校版地域安全マップを作成し、全校生徒に配布することになった。また、富樫公民館からの依頼により、富樫小学校4年生全員を対象とした地域安全マップづくりも実施した。その際にもオンデマンド動画を活用することで、従来の方式に比べて効率的に実施できた。

図2 事前学習用オンデマンド動画
②地域防犯に関するプロジェクト

2019年度と2020年度は、地域安全マップに登場した危険箇所をゼミの学生が再度点検し、地域住民を対象とした公民館の「土曜講座」において調査箇所に関する改善策を発表してきた。2021年度は、ゼミの学生グループによる地域防犯に関する研究活動を行った。高齢化が進み従来型の防犯ボランティア主体による見守り活動が持続困難になる課題に対して、4グループは地域防犯活動をアップデートする新たな方法を提案した。具体的には次の4点である。

(1)公民館を含め、より広範囲な組織間・団体間の連携を推進することで、従来の防犯活動の持続可能性を高める。

(2)今後開発が進むと期待される歩行者用ドライブレコーダーなどを活用することで、子供に対する声掛けなどの前兆事案への抑止効果が期待できる。

(3)啓発動画を作成し、YouTubeなどで配信することで、より効果的に防犯啓発活動を行うことができる。

(4)「ゾーン30プラス」のような新しい交通事故防止対策には犯罪抑止にも効果的な内容が含まれており、そうした点に着目することで防犯と交通事故防止の両立を図った活動が可能となる。

これらの4点に関しても、「土曜講座」において学生が発表を行った。2021年度は、ゼミと公民館の連携活動が大学コンソーシアム石川(石川県内の国公私立大学の連合体)の地域課題研究ゼミナール支援事業に採択され、2022年2月に実施された「大学・地域連携アクティブフォーラム」でも、学生が成果発表を行った。

■成果

これまでの活動の成果としては3点指摘できる。

第1に、公民館との共同実施により地域住民との連携がスムーズに進展したことである。金沢市の公民館は、「金沢方式」とも呼ばれることもあり、独自の財源と地域住民との強いつながりを持っている(例えば成人式は公民館単位で実施される)。公民館が地域住民に呼び掛けることによって、様々な地域活動を行っているキーパーソンが地域安全マップづくりに参加することになり、参加層が大きく広がった。

第2に、3年間という期間を通して継続的に地域安全マップづくりを行ったことによって、地域住民が犯罪機会論の理解を深め、危険箇所の改善に主体的に関わろうとする意識が生まれたことである(図3)。例えば「危険」と指摘された場所が公園や行政が管理する施設であれば、公園の植栽の伐採や施設の出入り口の境界を封鎖するなどの措置を行政に依頼することが何度も行われた。その他の危険箇所に関しても、空き家が取り壊され、放置されていたプランターなどが片付けられるといった変化が起きたときに、地域住民がすぐさま発見し、その情報が公民館に寄せられるようになった。「地域を見る目」が高まっており、地域住民の防犯意識は着実に向上したといってよい。

第3に、地域住民と大学生との交流が深まることにより、学生の活動が地域に受け入れられたことである。地域住民からは「Miroの活用やYouTubeで視覚に訴えるなどのまとめ方に得難い体験ができた」、「学生たちが自分たち以上に地域を知る活動ができていて、地域住民への説得力があり納得できた」と評価されるようになった。

図3 地域の要望によって改善された危険箇所

■課題および今後の方針

今後の課題は3点ある。

第1に、防犯分野以外の分野への拡大である。近年では、防犯分野はまちづくりや地域コミュニティ活性化などと密接に関連すると捉えられるようになっている。本ゼミのこれまでの活動においても、交通事故防止策との共通点が見いだされている。そこで、2022年度は防災教育にも分野を広げ、地域と協働で菊川町版「防災すごろく」の開発を行うこととした。

第2に、公民館とゼミという2者の協働は進んだものの、地域の他の団体や組織との連携が未発達であった点である。そこで2022年度は、小学校の授業と連動する形で、地域安全マップづくりと防災教育をゼミで担当することとした。また、中学校においても連携を模索することとなった。

第3に、コロナ禍において、学生と地域住民の直接的な交流が十分に実現できなかったことである。2020年度は、地域住民と学生は屋外でのみ共同作業を行い、室内ではZoomを介したコミュニケーションを行うことしかできなかった。2021年度もほぼ同様であった。そこで2022年度には、公民館において実施される防災講座に学生も参加し、年間を通じて地域住民との協働を重視することとした。

さらに今後の方向性としては、空き家問題、環境問題、DX推進など、地域コミュニティの持続的発展との関連性を意識しながら課題発見・課題解決のプロセスにつなげる取り組みとしたい。将来的には、地域防犯の領域を広げ、新たなテーマの開拓へとつなげることとしたい。