特集コンソーシアム

次世代モビリティパワーソース研究センター

千葉大学大学院 工学研究院 教授 森吉 泰生

写真:千葉大学大学院 工学研究院 教授 森吉 泰生

2022年6月15日

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■センターの設立

次世代のモビリティ用パワーソースの研究開発拠点として、千葉大学大学院工学研究科(当時)に「次世代モビリティパワーソース研究センター」が2013年4月に設置された。センター長は筆者で、専任准教授1人を採用した(現在は工学研究院の兼担)。他に特任教授2人、特任准教授1人、特任助教3人、特任研究員2人、他大学の専任教員7人に客員教授(兼担)をお願いしている。また、経済産業省拠点予算(イノベーション拠点立地推進事業先端技術実証・評価設備整備等事業)に千葉大学の提案が採択され、新たな建物と先端設備が2014年5月に完成した(写真1)。

写真1 センターの建物外観(一部二階建て総床面積674㎡)

本センターでは、オールジャパン体制での産学官連携によるエンジンなど動力源の共同研究と人材育成を行うため、関連大学、研究機関、企業が共同研究を行うために連携している。本拠点が企業のサテライトオフィスやサテライトラボの役割を果たし、講義期間中であっても大学院生の中長期のインターンシップを可能としている。大学院博士前期/後期課程学生を対象にOJT(職業教育)を含む「エンジンベンチマーク」を開講している。

研究面では、千葉大学発ベンチャー企業の株式会社サステナブル・エンジン・リサーチセンター(千葉市)の主催する研究開発コンソーシアム(これまで9回実施)に参加・協力するとともに、外部の大学や機関と連携している。コンソーシアムで得られた成果は、参加会社で製品の実用化の際に反映されている。

大型先端設備を充実させるため、文部科学省の2013年度大学教育研究基盤強化促進費事業に申請・採択された。この事業は、わが国の基幹産業である自動車産業の国際競争力強化のため、オールジャパンの産学官連携体制の下、ミッションの再定義で評価された千葉大学の強みである「自動車用パワーソースの教育研究拠点」の整備を進め、グローバル化に対応した産業力強化人材育成のための実践的教育基盤システムを整備するもので、日本の大学で初めて本格的なシャシーダイナモシステム(写真2)が本センターに2014年度末に整備された。これを使って、実車両の燃費や排ガスを台上で世界的に調整された自動車の試験方法であるWLTCのように決められた走行パターンで測定するとともに、実車に排ガス計測装置(PEMS)を搭載して実走行での排ガス計測(RDE)も行った。この設備は現在も稼働率が高く、多くの企業や大学との共同研究に使用されている。当初は排ガス規制対応やハイブリッドエンジン開発に関する需要が多かったが、最近は電動化や自動運転に伴うデータ取得やモデル化のための検証実験が増えている。

■具体的な研究内容

当初はエンジンの熱効率を改善できる高過給ガソリン燃焼方式や圧縮着火燃焼(HCCI)方式の可視化などによる現象解析、課題抽出と数値解析による現象の定量的解析を行った。その後、車両実走行時における車速などの環境情報を記録しておけば、走行時の排ガスや燃費の定量的な予測が可能となるモデルの開発、応用を行ってきた。

内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムSIP「革新的燃焼技術」へ参画し、ガソリン機関のノック現象の解明やモデリングの研究、ディーゼル機関の噴射率制御が燃焼特性に与える影響の調査、超希薄燃焼時に燃焼のサイクル変動が生じる原因の調査と対策法の提案、過給機のモデル化のための基礎的な計測、モデルベース開発(MBD)を行うための1Dモデルの開発などを行った。各省庁の競争的予算(国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のASTEP、環境省の二酸化炭素低減、国土交通省の実走行時の排ガス試験法提案など)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の省エネ予算などを獲得し、共同研究の推進と研究設備の拡充を進めてきた。

最近では、世界最高レベルの高効率高負荷運転を本研究センターに設置した大型ガスエンジンで実現したことが、2020年1月27日付けNEDO、サステナブル・エンジン・リサーチセンターのプレスリリース「エンジン出力の大幅増加によるガスコージェネの発電効率向上に期待」で報道された。自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)や自動車用動力伝達技術研究組合(TRAMI)、石油連盟、一般社団法人日本自動車工業会(自工会)などとの共同研究も他大学と一緒に行っている。研究手法として、まず問題となっている現象を可視化などで明らかにし、その原因をシミュレーションで定量的に予測している。これにより、MBDを可能としている。

これらの研究・開発の一部は、サステナブル・エンジン・リサーチセンターと共同で行っている。大学と会社が共同研究講座の契約を行い、大学の先端設備や教員・学生も参加して共同研究やコンソーシアム活動を主催し、成果を挙げつつ研究者の育成も行っている。

写真2 シャシーダイナモシステム

■カーボンニュートラル社会を目指して

2050年にカーボンニュートラルを実現する政府の方針が示され、動力源としてのエンジンの必要性の議論が盛んになってきた。乗用車はバッテリー式電気自動車(BEV)にすれば走行時のCO2排出はなくなるが、発電時、バッテリーの製造・リサイクル時に発生するCO2を考慮すると、現状ではハイブリッド車を普及させた方がライフサイクルでの排出量は少ない。さらにリチウム、コバルトなどの電池に不可欠な鉱物資源が不足すると考えられており、課題は山積みである。そこで、風力発電などからのグリーン電気から水素や液体燃料を合成する燃料(e-fuelと呼ぶ)を使うエンジンの研究や、二酸化炭素回収・貯留(CCUS)を組み込んだライフサイクルでのCO2削減が可能な動力源の研究を行っている。欧州では2035年までにエンジン車は製造中止とする方針も示されている。これはこれまで燃費や排気の継続的な規制をしてきたにもかかわらず、実走行時の燃費や大気汚染が大きく改善されず、自動車会社への懲罰的な意味も込められていると聞く。これに対し、日本では燃費や排気の規制に比例して、実走行時の燃費や道路沿いの大気汚染は着実に改善されてきた。自工会の豊田会長からは、今すぐにBEV化するのは問題が多いことに証拠を挙げて説明しており、理解が進みつつあると思う。

エンジンの魅力は低コストで、高価な鉱物資源を多く必要としないことである(もう少しコストをかけて良ければ、燃費はさらに向上する)。ライフサイクルでCO2排出量を規制した上で、BEVとエンジン車が競い合い、消費者が最終判断をすべきであろう。そのためには、まだまだエンジンの研究を絶やしてはいけないと考えている。将来、水素インフラが整えば、水素エンジンは走行時のCO2排出もゼロにすることが可能となる。短距離走行にはBEV、長距離トラックは燃料電池自動車(FCV)、その中間はハイブリットとすみ分けが進むと考えられる。

同時に、ライフサイクルでの車両からの一酸化窒素(NO)や粒子状物質(PM)などの有害物質やCO2排出量を削減するには、図1に示すように、IoTとつながるV2X(車とさまざまなものをつなぐ通信技術)を踏まえた交通流の中での車両のゼロエミッション化の研究を行う必要がある。交通流の最適化モデルや制御手法に関する論文は多く見られるが、実証がなされていない。新たなテーマとして、実証方法も含めて国際的なイノベーション課題として計画を始めたところである。

図1 車両のゼロエミッション化の研究