リポート

高知県の産学官連携で生まれた歯科用接着材料「KZR-CAD マリモセメントLC」

YAMAKIN 株式会社 広報マーケティング戦略室 上席マーケット研究員(学術広報・IT マーケティング担当) 博士(学術) 佐藤 雄司

写真:YAMAKIN 株式会社 広報マーケティング戦略室 上席マーケット研究員(学術広報・IT マーケティング担当) 博士(学術) 佐藤 雄司

2022年5月15日

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YAMAKIN株式会社(以下、ヤマキン)が2020 年6月に発売した歯科接着用レジンセメント「KZR-CAD マリモセメントLC」(図1)は、その技術と高知県内での産学官連携のプロセスおよび将来性を高く評価いただき、2021 年下半期以降、四国地区で相次いで三つの賞を受賞した。今回、この製品の開発に至った背景や経過を紹介する。産学官連携の一例として参考にしていただければ幸いである。

図1
図1  KZR-CAD マリモセメントLC

■歯科におけるデジタル技術の応用と課題

歯科医療において、虫歯などによる欠損部の修復には歴史的に金属材料が多く用いられてきたが、近年ではセラミックスや無機質フィラーと有機質マトリックスレジンの複合材料である硬質レジン、さらに強度を増したハイブリッド型硬質レジンと呼ばれるものも用いられるようになった。これらの材料は、歯科技工士が手作業で患者一人ひとりに適した形状に鋳造あるいは築盛して製作するが、2000年代後半にはハイブリッド型硬質レジンをあらかじめブロック状に硬化させた材料を用い、デジタル技術を応用したCAD/CAM機器で機械加工し、口腔内に装着する技術が出現した。

これはCAD/CAM冠という技術で、厚生労働省により2009年に先進医療として認められ、その実績をもとに2014年に小臼歯での使用に限り保険で治療できるようになった。現在では、かみ合わせの力が大きな第一大臼歯や美観を重視する前歯部にも保険治療の範囲が広がっている。

しかし、CAD/CAM冠による修復が全国で広く実施されるようになると、治療後の患者の日常生活の中で、装着した修復物が脱離するトラブルが多数発生していることが知られるようになった。当時の末瀬らの報告によれば、CAD/CAM用ハイブリッドレジンブロックに関するアンケート調査**1において、治療後6カ月間の短期間で、9.0%が脱離し、2.0%が破折していた。換言すると10例中1例以上がトラブルを抱え、そのトラブルのうちの多くが脱離だったことが分かった。また疋田らの報告**2では、初期に発生したトラブルは全て脱離であった。

CAD/CAM冠による修復で脱離のトラブルが多い原因をヤマキンで考察したところ、保険導入によりCAD/CAM冠が急速に普及したにもかかわらず、独特の支台歯形態や接着方法に関する周知不足が多分に影響していると推察した。医療現場では、治療時間が限られており、装着のための処理の不良が起こりやすい状況であったと考えられ、これまでの歯科修復物と全く同じように取り扱ったことがトラブルの一因と分析した。

このような背景から、CAD/CAM冠による修復を歯科医師が安心して行い、新しい技術を広く普及させるためには、使用手順がシンプルでかつ接着強さに優れた接着用材料(歯科接着用レジンセメント)が必要と考えた。

また、従来の歯科接着用レジンセメントの多くは2種類のペーストを混ぜて使用するものが多く、当時の営業担当者らの情報により、手間が気になる、治療時間を少しでも短くしたいという歯科医師のニーズを把握していた。

こうした課題を解決するため、ヤマキンでは2016年に、CAD/CAM冠に特化した歯科接着用レジンセメントの開発プロジェクトをスタートさせた。

■開発プロジェクト

基礎研究を進める中で、表面活性が高いジルコニア粒子を無機フィラーとしてレジンセメントに配合すれば接着強さを強化できるのではないかということが明らかになってきた。

そのジルコニア粒子の配合を検討するまさにその頃、球状多孔質ジルコニア粒子の大量合成を高知工科大学(高知県香美市)が研究していると知り、共同研究を開始、レジンセメントへの応用を試みた。このジルコニア粒子は直径が5~30nmの無機粒子が凝集し、平均粒子径約2μmの多孔質粒子構造を有しているものである(図2)。

図2
図2  「MARIMO」の電子顕微鏡写真

この粒子は2012年、高知工科大学環境理工学群の小廣和哉教授が王鵬宇助教とともに、多孔質の二酸化チタンナノ粒子を超高速で合成できる画期的な手法を開発したことによって生み出された。従来の合成方法では複雑な操作が必要で、長時間の反応を要していたが、本手法は、メタノールに原料のチタンイソプロポキシドと補助剤のカルボン酸を加え、約300~400℃に加熱するシンプルな手法で、合成時間はわずか10分と短時間である。さらにこの手法を用いて、中心が詰まった中実構造と中心が空の中空構造を作り分けることにも成功し、得られたナノ粒子が日本の特別天然記念物、阿寒湖のマリモによく似た形をしていることから「MARIMO(Mesoporously Architected Roundly Integrated Metal Oxide)」と名付けられた。

この「MARIMO」のジルコニア粒子1gあたりの表面積は、実に300m2(テニスコートの1.5倍)と大きく、「MARIMO」を配合した試作品は、比表面積が近い多孔質チタニアや多孔質シリカを配合した試作品に比べ、ハイブリッドレジンブロックに対し高い接着強さを示した。また、非多孔質ジルコニア(比表面積4~9m2/g)と比較すると、「MARIMO」の特殊な形状が接着強さの向上に寄与することも分かった。

「MARIMO」のジルコニア粒子は平均粒子径が約2μmであるものの、一次粒子が5~30nmと非常に小さいため、単一で同サイズのジルコニア粒子に比べ光の拡散を抑制できる。そのため、高屈折率を示すジルコニアでありながら、それを含むレジンセメント組成物は非多孔質のジルコニアに比べて優れた光透過性を示すことから、光重合のみで硬化させることが可能であった。

これらの研究結果から、光重合のみのシンプルな操作で高い接着強さを発揮し、しかも従来品のような2種類のペーストを混合する手間を解消する理想的な製品が実現した。医療機器としての認証を受けた後2020年6月、歯科接着用レジンセメント「KZR-CAD マリモセメントLC」として上市に至った。

なお、歯科接着用レジンセメントに「MARIMO」のような表面積の大きなジルコニアを使用する技術は新規性が認められ、2019年5月に特許化に至っている(特許第6533332号「歯科用接着性組成物」)。

■高知県における産学官連携の成果

「MARIMO」は上述のとおり、高知工科大学にて大量合成方法が生み出されたが、それをさまざまな用途に応用するには、量産技術を確立する必要がある。その技術開発を、大谷政孝助教(当時)が新たにメンバーに加わった高知工科大学と宇治電化学工業株式会社(高知県高知市)の共同研究プロジェクトで行っており、高知県が支援した(図3)。その成果として量産化された「MARIMO」を、ヤマキンが歯科用途の医療機器(材料)に応用し、初めて製品として実用化した。医療機器として必須である生物学的安全性の評価は、ヤマキンと高知大学医学部歯科口腔外科学講座(高知県南国市)が協力して実施した。

このように「KZR-CAD マリモセメントLC」はまさに高知県における産学官連携の成果であり、地方創生モデルの理想形であろう。

図3
図3  産学官連携の枠組み

■地域での評価と今後の展開

「KZR-CAD マリモセメントLC」は、使用手順の簡略化による治療時間の短縮や、治療後のトラブル減少により患者負担の軽減が大いに期待できる製品である。また高知県内での産学官連携により先端技術を製品実現したことから、地方創生モデルの一例として評価いただき、四国地方で相次いで三つの賞を受賞した。

  • 2021年10月
    公益社団法人発明協会主催
    「令和3年度四国地方発明表彰 四国経済産業局長賞」
  • 2021年12月
    公益財団法人高知県産業振興センター主催
    「令和3年度 第36回高知県地場産業大賞」
  • 2022年2月
    一般財団法人 四国産業・技術振興センター 四国地域イノベーション創出協議会主催
    「2021 四国産業技術大賞 最優秀革新技術賞」

本事例は高知県における産学官連携の成功事例であり、企業成長につながる地方の優位性として注目していただける実例であろう。

2022年7月にヤマキンは本社を大阪市天王寺区から、研究開発や製造の拠点である高知県香南市に移転登記する。今後も高知県から価値ある優れた製品を国内に、さらには世界に提供し続ける所存である。

参考文献

**1:
末瀬一彦:保険診療に導入された「CAD/CAM冠」の初期経過に関する調査研究.日本デジタル歯科学会誌,5,85-93,2015.
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**2:
疋田一洋,舞田健夫,川上智史,池田和博,斎藤正人,田村誠,小西ゆみ子,神成克映,内山洋一,平井俊博:CAD/CAM用ハイブリッドレジンブロックにより製作したクラウンの臨床評価.日本補綴学会誌,1,64-70,2009.
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