リポート

青森県におけるサーモン養殖へのデジタル技術活用について

青森県商工労働部 新産業創造課 小野 進

2022年5月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

■背景および経緯

青森県は、日本海、津軽海峡および太平洋と三面を海に囲まれ、中央には大型の内湾である陸奥(むつ)湾を抱えている。東京-青森間の距離よりも長い海岸線(795キロメートル)を有していることから、古くから水産業が盛んである。2020年の青森県の海面漁業・養殖業の総生産は17万2491トンで、全国での順位は第6位となっている**1。養殖事業については、陸奥湾内を中心としたホタテガイの養殖が最も盛んであるほか、むつ市大畑の北彩漁業生産組合による「海峡サーモン」や青森県産業技術センター内水面研究所が淡水養殖用に開発した「青い森紅(くれない)サーモン」などブランド化を目指すサーモン養殖の取り組みが増えてきたところである。

今回紹介する日本サーモンファーム株式会社(青森県西津軽郡深浦町)では、2005年にグループ会社である株式会社オカムラ食品工業が、デンマークにおいて生食用サーモンの生産を開始したところからサーモン養殖がスタートしている。2014年に開始した深浦町、弘前大学地域戦略研究所(旧食料科学研究所)、オカムラ食品工業の産学官連携によるサーモン養殖実証事業を経て、2017年には青森県深浦町および今別町で初のサーモン水揚げを実現している。それを受け、さらなる品質向上と世界への安定供給を目指し、同年に日本サーモンファームが設立されたところである。現在では、グループ全体で青森県内の中間養殖場と海面養殖場(それぞれ3カ所)で「青森サーモン」の養殖を行っている。

日本サーモンファームでは、サーモン養殖に必須である中間育成魚の生産拡大と低コスト化を実現するため、少量の水資源で高密度生産可能な日本初となる屋外循環式の大規模中間育成魚高密度生産システムに関し、弘前大学と連携してサポイン事業(戦略的基盤技術高度化支援事業)に取り組むなど、環境に負荷をかけることのない大規模サーモン養殖産業の実現を目指している。

■県の実証事業について

県では、IoTをはじめとするデジタル技術で地域課題を解決する実証事業などを通じて、地域産業のデジタル化に取り組んでいる。今回紹介するのは、海面をフィールドとする日本サーモンファームの養殖業へデジタル技術を導入し、生産性の向上を図る取り組みである。

海面魚類養殖業では、餌代が支出の6割以上を占めることが、大きな課題の一つとして挙げられる。日本サーモンファームにおいても、適切な給餌量を把握するため、海面養殖場におけるサーモンの魚体管理などについて、弘前大学と共同でIT化の研究を行っている。現状では、サンプリング調査のために定期的に網ですくい、体長・体高を測定し、測定した情報を弘前大学にて分析することで魚体重の推定を行っている。それに加え、水中カメラで生簀(いけす)内部の様子を確認することで、生簀全体の魚体の育成状況を推定している。しかし、サンプル取得と魚体測定作業は海上で実施していることから、危険を伴う上に非効率であるため、より安全かつ効率的な魚体の測定が求められている。

図
生簀モニタリングシステム構成図

今回の実証は、これらの作業にデジタル技術を導入することで作業量の軽減や効率化を図るためであり、

  • ① 超音波連続送信による魚体測定技術を活用することによる、生簀内広範囲での魚体測定の実現
  • ② クラウドにデータを蓄積して活用することによる、成育状況の把握と適切な給餌量コントロールの実現

について実証を行った。

具体的には、①は従来の魚群探知機で用いられる超音波による測定技術を改良し、「魚群を探知」することに加えて、超音波を連続して発信する装置を活用して魚群を構成する「魚の個体」の識別技術について検証を行った。②は、超音波で測定する「振動子」と送信機能を持つ計測機器本体(船内設置)を防水コードで接続し、週1回のタイミングでデータを収集して分析を行った。

実証では、2022年1月25日~2月28日にかけてデータを収集し、成育状況(体長、体高)を確認することができたほか、測定データをクラウドに蓄積し、外部から確認可能な環境を構築することができた。

図
魚体測定画面

■今後の展望

日本サーモンファームの海面養殖用の生簀には、常時使用可能な電源およびインターネット環境が整っていないため、週1回生簀のデータを回収する作業が発生していたが、対応する設備を導入することで、人の手を介することなく自動かつリアルタイムでデータの収集が可能となる。また、今回の実証では、成育状況(体長、体高)のデータは測定できたが、実測値と照合する測定精度の検証までは至らなかった。このため、現在、日本サーモンファームが弘前大学と取り組んでいる研究に今回取得したデータをフィードバックし、実測値との比較検証を行うことで、より正確な魚体測定が可能となる。

さらに、今回の実証で深度別の養殖魚の分布を把握できたことから、データの収集を進めることで、深度別の魚体の大きさや、天候・気温などの関係について分析することでさらなる効率化につなげられる可能性がある。

■おわりに

県では、本事業の成果の普及に取り組むことで、地域産業のデジタル化につなげていくこととしている。また、デジタル技術の活用による新たなビジネスを検討する研究会を設置し、産学官による連携体制のもとで、ビジネスモデルの検討や事業可能性調査などを実施し、県内事業者による新たな事業展開を促進することとしている。

参考文献

**1:
青森県の水産業(青森県農林水産部水産局水産振興課)
本文に戻る