特集地域とともに公立大学

公立諏訪東京理科大学の産学連携・地域連携

公立諏訪東京理科大学 産学連携センター長 渡邊 康之

写真:公立諏訪東京理科大学 産学連携センター長 渡邊 康之

2022年5月15日

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■はじめに

公立諏訪東京理科大学は、公私協力方式で学校法人東京理科大学が開学した、前身の東京理科大学諏訪短期大学、諏訪東京理科大学を経て、2018年4月に公立大学として開学した。公立化にあたっては長野県諏訪地域6市町村(岡谷市、諏訪市、茅野市、下諏訪町、富士見町、原村)で構成する事務組合が公立大学法人を設立、法人の設置する公立大学として開学している。開学当初より、精密機械工業が盛んな諏訪地域で活躍できる人材の育成を期待されて設立された本学は、特に産学連携に対する意識が高い。

■大学を取り巻く環境

標高759mにある諏訪湖を中心に、蓼科高原、八ヶ岳、霧ヶ峰高原など様々な自然環境に囲まれた長野県諏訪地域。長野県屈指の工業地帯でもあり、明治期には日本の近代産業の礎をつくった製糸業、戦後はこれに代わって精密機械工業が発展、豊富な水と澄んだ空気は精密機械に適しており、「東洋のスイス」とも呼ばれた。現在も全域に電気機械、一般機械などの先端技術による産業が集積している。

そんな諏訪地域にある本学は工学部のみの単科大学で、地域産業に深く関わりのある情報応用工学科と機械電気工学科の2学科で構成されている。情報応用工学科には「知能・情報・通信コース」「社会情報システムコース」、機械電気工学科には「先進機械コース」「電気電子コース」が置かれている。学生数は大学院生も含めて約1,300人程度の比較的小規模な大学である。

■地域との連携のための組織

2018年4月の公立化にあたり、本学では新たに「地域連携総合センター」を設置した(図1)。センターの中には、産学連携センター、生涯学習センター、高大連携センターの地域連携に関連する三つのセンターを置くとともに、地域連携総合センターがワンストップ窓口となり、地域からの様々な相談を受け付け、それを適切な部署につなげている。例えば生涯学習センターでは小学生向けのサイエンス体験合宿、高齢者大学での出前授業、高大連携センターでは高校で学ぶ数学、物理が研究にどのように生かされるのか体験する授業の実施など、地域の小学生から高校生、企業人、高齢者までの相談に応じている。

その中で、産学連携活動の中心となるのが産学連携センターである。産学連携センターにはセンター長の下に3人の産学連携コーディネーターを置き、本学研究者の研究シーズ調査、学外からの技術相談に対応した連携コーディネート、「諏訪圏アドバイザー・コーディネーター連絡会議」を通じた関係機関との情報交換などにより、地元企業と大学の技術を通じたマッチングを進めている。特に、本学独自の行事として、教員による地域企業の見学会や技術的な課題を持つ企業との懇談会を開催し、企業と教員との交流を図る機会を設け、企業から相談しやすい雰囲気を作ることを心掛けている。このような活動により、公立化後は地元企業からの共同研究、技術指導、研究助成金も増加傾向である。

また、諏訪地域には地域のものづくり企業が会員となるNPO法人「諏訪圏ものづくり推進機構」があり、本学は同機構と連携して活動を行っている。同機構を通じての技術相談や、同機構と共同して社会人向けのIoT・AI人材育成講座の実施、企業課題を学生がDXを活用して解決するコンテストの実施、諏訪圏工業メッセへの出展を通じての企業との連携など様々な活動を行っている。

図1
図1  地域連携総合センター組織図

■地域連携研究開発機構とその活動

同じく2018年4月に「地域連携研究開発機構」を設置した。本機構は地元企業などからの要望に基づいて行う研究開発課題の解決、最先端の研究開発を通じてのシーズ発掘およびそれらに基づく人材育成を通じて、地域の発展に貢献するとともに、本学の研究教育水準の向上に寄与することを目的としている。機構では教員が学部・学科の枠を超えて部門を組織し、地域と協力しながら様々な分野の課題解決に取り組んでいる。この活動が、地域の持つ、ものづくりの技術や環境資源の魅力を発信することにつながっている。

機構に設置する部門については、図2に示す。

機構には競争的資金を予算配分し、機構を通じて地域と研究を行うグループや研究者に対して、審査の上、研究資金を配分している。特に地域から求められているDX推進に関する研究に対しては重点的に研究資金を配分するなど、メリハリを付けた配分を行っている。

また、前年度の研究成果を地元企業等に広く公開するため、研究成果報告会を実施している。コロナ禍のため対面で実施できたのは初年度のみであったが、教員による研究発表、ポスターセッション、懇談会など、地域に研究成果を還元する良い機会となった。

図2
図2  地域連携研究開発機構 部門紹介
ものづくりの集積地だからこそ実現する、地域と連携した研究

■地域連携研究開発機構の活動例

地域連携研究開発機構では六つの部門を設けているが、今回は一例として「農業理工学研究部門」における地域と連携した研究について紹介する。

本部門が注目しているテーマの一つが、自然界において二酸化炭素の循環系で重要な役割を担っている光合成である。光合成とは、太陽光エネルギーを利用して無機炭素から高いエネルギー物質であるグルコースを合成する反応であり、その過程で水が分解され酸素が放出される。われわれ人類はその高エネルギー物資を化石資源や食糧として、衣食住全般にわたり恩恵を受けており、とりわけ、酸素は呼吸や燃料を燃やす際に欠かせない物質である。つまり、植物は二酸化炭素を吸収する存在として、自然界においては脱炭素社会に大いに貢献していることになる。しかしながら、光合成の営みは人間の目には見えないため、森林を伐採して太陽光パネルを設置するというような自然の摂理に合わない事態が発生している。

そこで、自然豊かな諏訪の地において開発に至ったものが、図3に示した、緑豊かな植物と太陽光発電が共存可能な「発電するビニールハウス」である。これは、太陽光から降り注ぐ光のうち、植物の光合成に必要な光は通し、それ以外の光で発電する新しいタイプの太陽電池である。「ソーラーマッチング」というコンセプトとして提唱し、地元農家の方々の声に耳を傾け、地元企業をはじめ産学連携体制の下で外部資金の援助を受けながら、太陽電池生産技術から農業試験に至るまで幅広く研究を進めているところである。

とりわけ、メガソーラーでは山や森を造成することで電力を得るのに対して、本研究開発は現状の農業用地を活用して発電することができる点で地球規模の生態系保護にも貢献する。それだけでなく、農作物の品種ごとに最適な生育波長帯域と有機薄膜太陽電池の選択波長性を適切にマッチングさせれば、農作物の収穫量増加と栄養価の向上も同時に実現でき、食糧問題に対する解決の一手段にもなり得る。

以上、本研究のコンセプトはSDGsの定める17項目のうちクリーンエネルギーなど五つの項目への効果が期待されている。これらは、社会・産業に大きな波及効果を生む可能性を秘めており、今後もさらに産学連携体制を強化し、実用化から事業化へと発展させていきたい。

図3
図3  農作物栽培に必要な光を通しながら太陽光発電可能な発電するビニールハウスとSDGsへの貢献

■今後の展望

上記で述べた「農業」と「工学」の融合は、農業が盛んな諏訪地域に立地する本学の地域性を生かした研究であると言える。これは一例であるが、地域にはこのような課題が多く埋もれていると想像している。地域連携研究開発機構の研究活動や地域連携研究センターに寄せられる相談が、これらの課題を掘り起こし、その課題解決につながることを目指していきたい。

また、本学で重点的に教育研究を行っている、AIやビッグデータをはじめとする情報技術の活用は国の進めるDX推進に向けて必要不可欠となっている。諏訪地域の企業においてもIoT・AIを活用した生産管理、品質管理、在庫管理の導入を希望する企業が増えており、本学にも相談が寄せられている。今後も本学の持つ知見を生かして、地域産業の発展に貢献していきたい。