巻頭言

奈良女子大学工学部の目指すもの

奈良国立大学機構 奈良女子大学 学長 今岡 春樹

写真:奈良国立大学機構 奈良女子大学 学長 今岡 春樹

2022年5月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

日本の女子大学で初めての「工学部」は、「工学科」1学科の構成である。教員は2016年度にお茶の水女子大学と共同で立ち上げた「大学院生活工学共同専攻」のメンバーと一部は重複する。しかし、名称から想像できるように、「生活」へのこだわりからも離れて、工学そのものを強く意識している。「工学科」であり、機械工学科や電気工学科を名乗らない。これでは何の専門家を養成するのか分からないので設置審査において説明を求められた。私たちの考え方では、理学ではない工学の発想を完全にマスターするのだが、専門を遅く決める(レイト・スペシャライゼーション)教育を試みようとしている。現在工学部の卒業生というものはほとんど修士課程に進学するので、専門の学びは修士課程以降で良いだろうという考え方を説明した。この考え方を実行し成功しているのは大学院を発明した米国においてである。

このように先行モデルがあるのだが、卒業判定(いわゆるディプロマ・ポリシー)をどのように設定するのかは単純ではない。私たちはPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)を関所とした仕組みを作っている。現在五つのPBLを設けている。エンジニアリング演習と価値創造体験演習の2科目が必修で、工学特有の考え方である、ものを実際に作れることと何の役に立つかを常に意識することを学習する。コンセプチュアルデザイン演習、ユーザー指向開発演習、社会改善起業演習の3科目中2科目が選択必修である。全員が最低四つのPBLを学ぶことになる。この科目の履修は一種の関所になっていて、学生一人ひとりが自分のポートフォリオをメンター教員に示して、将来の専門領域を決定していく。今までの工学教育は皆が同じルートで山を登ったのだが、私たちの山登りでは基本的に学生一人ひとりの決心で個別のルートが決まる。将来機械工学の専門家になる場合でも、電気工学を勉強したりする。この道草が有効だと考えている。今や車を作るのに、機械屋も電気屋も電池屋もみんな必要な時代なので、「あー 電気屋さんの発想はこんな癖がある」というタイプの理解を機械屋さんが持つことが大切である。

ここで新たな問題が発生することになる。これだけ広い分野を学ぶリソースはどうするのかということである。そこで周りの助けを借りることにした。土台になる基礎工学は奈良工業高等専門学校に助けていただく。学んだことがどのような意味を持つのかであったり、どのような夢に結び付くのかであったりの指導は奈良先端科学技術大学院大学に助けていただく。これ以外にも地元企業であるDMG森精機株式会社に最先端の工作機械実習をお願いしている。

学生全員が女子であることが奈良女子大学工学部の最大の特徴である。女子だけの環境であれば工学を学んでみようという受験生が想定外に多くいることが分かった。このような工学教育が全国展開していくことを願っている。