研究者エッセイ

小型衛星用ハイブリッド推進技術の事業化

北海道大学大学院工学院 機械宇宙工学専攻 宇宙環境システム工学研究室 / Letara株式会社 平井 翔大

写真:北海道大学大学院工学院 機械宇宙工学専攻 宇宙環境システム工学研究室 / Letara株式会社 平井 翔大

2022年4月15日

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■はじめに(序論)■

宇宙の市場

Molgan Stanley(モルガン・スタンレー)によると、宇宙開発市場は2040年までに、100兆円に上ると試算されている**1。それほどまでに大きくなる市場に対して、世界では、コロナ禍にもかかわらず、2020年だけで8,600億円のリスクマネーが供給された**2。しかし、日本国内の宇宙開発スタートアップには、そのおよそ80分の1の105億円のリスクマネーしか供給されていない**3。その要因の一つとも言えるのは、2021年の段階で宇宙開発スタートアップが、国内に52社しかないという点と、宇宙輸送および衛星インフラ系のスタートアップが17社しか存在していないことが挙げられる**3。世界は空前の宇宙開発ブームなのに対して、日本は一歩も二歩も遅れているのは数字からも明らかである。

これからの宇宙輸送

米国のコンサルティング会社Bryce Tech(ブライス テック)によると、2012年から2019年の7年間で、全人工衛星の65%以上にあたる1,731機の小型衛星が打ち上げられ、その52%が民間利用であった。2012年には、年間52機(全体の50%)の小型衛星が打ち上げられていたが、2019年には389機(全体の80%以上)が打ち上げられるようになった**4。小型衛星市場は拡大しているが、欠点もある。それが、ラストマイル輸送である。小型衛星が宇宙空間でダイナミックな軌道遷移を行うには、高い安全性と高い推力を同時に満たす推進系が求められるが、現在の市場ではそのような推進系が存在しないことから、最後の1マイルの移動が困難である。

北海道大学では、低コスト、安全、そして手軽なハイブリッド推進系を開発している。ハイブリッド推進は、プラスチック等の爆発の危険がない安全な固体燃料を利用しており、ラストマイル輸送用の次世代推進技術の一つとして注目されている**5

ハイブリッド推進

■起業と大学発スタートアップ ■

2020年、小型衛星用のハイブリッド推進系を事業化することを目的として、Letara(レタラ)株式会社**6.7を設立した。同時に同年、自ら研究開発を進めるため、北海道大学大学院博士課程に入学した。

私が起業に至ったのは、仲間との出会いが重要である。慌ただしい日々を送る中で、世の中の流れに沿うように、修士修了後は就職していた。就職後のある時、当時同期(正確には半年後輩)で博士課程に進んだKamps Landon(現在、特任助教)から、戻って来いと打診を受けた。初めは、研究室に戻って来いという言葉だったが、それから3年ほどの熱烈なオファーを受け続け、気付いたら起業しようという言葉に変わっていたのは今でも懐かしい思い出である。Landonは、今では共同創業者でありながら、私の先生でもあり、非常に面白い関係である。私たちの設立した会社は、大学にあるシーズ技術を事業化する点で、独立型のスタートアップではなく、大学発スタートアップである。大学には、非常に重要な研究成果があるにもかかわらず、事業化せずに終わっているものも多い。小型衛星用ハイブリッド推進もその一つである。私たちは、ハイブリッド推進に関するシーズ技術を事業化するため、日々、研究開発および事業計画を進めている。

大学のシーズ技術の事業化を目指す

■第29回衛星設計コンテスト(北海道大学) ■

毎年、高校生~大学院生までの学生に対し、宇宙に関わる基礎・応用研究を積極化する機会を提供することを目的として、衛星設計コンテストが開催されている。2021年春、私は7人の学生とチームを組んで参加した。2021年11月13日、最終審査会まで進み、設計大賞および文部科学大臣賞のダブル受賞を果たした**8

このプロジェクトの発端は、2021年3月末、所属研究室の指導教授から「研究室で開発している推進系を搭載した月探査機を衛星設計コンテストで提案したい」との相談を受けたことから始まる。当初は、概念的な話しかなく、詳細設計について学生主体でお願いしたいとのことだった。かなりの無茶ぶりだと思ったが、自分でも驚くほどあっさり承諾した。理由は、自分が事業化したいと思っている推進系が、どのように使われるのかを、ユーザー側として理解する絶好のチャンスと捉えたためである。

プロジェクトの進行において、メンバー集め、衛星設計に必要な知識、進捗管理およびコロナ禍によるリモート活動など、問題は山積みだったが、みんなで力を合わせてなんとか作品提出に間に合った。実は、メンバーが初めて顔を合わせることができたのは、全てが終わり、トロフィーと賞状が送られてきた後に集合写真を撮った日、つまりプロジェクト開始から約9カ月後のことである。これもコロナ禍ならではの経験であると感じた。正直、心が折れそうな時期もあったが、最後に素晴らしい結果を残すことができ、参加して良かったと感じている。私個人としても、非常に貴重な経験となった。

衛星設計コンテストの参加学生メンバー

■S-Booster2021アジア・オセアニア賞(Letara) ■

会社の設立タイミングと北海道大学スタートアップ支援担当部署の設立タイミングが同じだったことで、事業計画の再考から並走してもらうことができた。2021年5月には、北海道大学産学連携のスタートアップ支援担当者から、内閣府主催の宇宙ビジネスアイデアコンテストS-Booster2021を勧められた。自分としてはコンテスト参加にはいまだ準備不足な感じがあったが、神様には後ろ髪はないことを思い出し、参加することを決意した。北海道大学産学連携スタートアップ支援担当者からのサポートを受けながら、1次選抜の書類審査、2次選抜のオンラインプレゼン審査を無事に通過し、国内134件、アジア・オセアニア地域の11カ国55件の応募の中から、12件のファイナリストとして残った(採択率は約6%)**9。最終選考会に向けて、S-Booster2021のメンターからのメンタリング支援および北海道大学産学連携が取り組んでいる北大OB・OGの専門家組織「北大プロフェッショナルズ」の支援を受け、事業計画ならびに発表資料のブラッシュアップを行うことができた。最終選考会では、これらの成果を発揮し、アジア・オセアニア賞という大きな賞を受賞することができた。この賞をきっかけに、事業化へ向けたサポートをしたいという連絡が多数あり、会社としても非常に貴重な経験となった。

会社としての初めての大舞台
自分たちの技術を世にアピール

■これから ■

会社設立そして博士課程として研究室に戻って1年半から2年が経とうとしている。まだまだやるべきことはたくさんあるが、一歩ずつ、確実な未来に向けて突き進んでいきたい。また、宇宙推進分野において、次世代の宇宙系大学発スタートアップが生まれるように、モデルケースとなれるよう精進していく。

参考文献

**1:
 M organStanleyウェブサイト ,“ Space: Investing in the Final Frontier”, 2022年2 月24 日閲覧
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**2:
B ryceTech,“ Start-up Space Updated on Investment in Commercial Space Ventures”, 2021.
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**3:
S PACETIDE,“ Spacetide-Compass-Vol4 JP Complete Edition”, 2021.
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**4:
B RYCE,“ Smallsats by the Numbers 2020”, 2020.
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**5:
Kamps L., Hirai S., and Nagata H.: Hybrid Rockets as Post-Boost Stages and Kick Motors, Aerospace 2021, 8 (2021), article number: 253, https://doi.org/10.3390/aerospace8090253
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**6:
Letara ウェブサイト, 2022 年2 月24 日閲覧
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**7:
L etaraウェブサイト,“ ハイブリッドキックモータによる小型宇宙機の可動性の向上”, 2022年2 月24 日閲覧
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**8:
衛 星設計コンテストウェブサイト,“ 第 29回衛星設計コンテスト 受賞作品”, 2022 年2 月24 日閲覧
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**9:
JAXA ウェブサイト ,“ 「S-Booster2021」 最終選考会開催のお知らせ”, 2022年 2月 24日閲覧
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