特集短期大学

産学連携:いざっ! カレー部頂上決戦

愛国学園短期大学 学長 平尾 和子

写真:愛国学園短期大学 学長 平尾 和子

2022年4月15日

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■3短大参加プロジェクト始動

短期大学は、大学と同様に一般教養科目を履修して教養を身に付けることができるとともに、職業や実際の生活に役立つ能力を育成するための学問を体系的に学ぶことができる教育機関である。2年ないしは3年間という短い在学期間のため、四年制大学に比べて応用の分野を身に付けることが困難な場合もあり、近年の進学率は減少傾向にあることも事実である。そのような中で、短期大学ならではの魅力を発信し、卒業後に企画力、実践力、応用力、積極性、協働性などの能力を自然と身に付けさせる方法はと問われれば、学生を産学官連携による企画に参加させることであることを推奨したい。もちろん、産学官と三つが揃わず、産学、官学との連携でも同様である。そのような考えで本学も積極的に取り組みたいと考えていたところ、新型コロナウイルス感染が報道される以前の2019年に、株式会社マイナビが運営する進学情報サイト「マイナビ進学」(以下、マイナビ) によって企画されたプロジェクトに参加する運びとなった。本来であれば、新渡戸文化短期大学(東京都中野区)と戸板女子短期大学(同港区)の2短大だけで参加してもよい企画だったにもかかわらず、大きな心で本学をお誘いくださった。昨今の短期大学進学率が減少している中で、短期大学の魅力を発信して応援する旗振りをマイナビがしてくださったこともありがたいことと感じ、参加させていただくことにした。2020年の1月に3短期大学での会議が開催され、コーディネートしてくださるマイナビからは、企業との産学連携企画として進めたいとの方針が示されたことに加え、3短期大学でもその必要性を感じていたことから、企画の方向性が決定した。しかし、この時点では具体的な企画内容は固まっておらず、その後企画内容に応じた企業に協力をお願いすることとした。

■企業との連携

当初は、音楽フェス会場において各短期大学が開発したカレーを販売する企画に決まり、ハウス食品株式会社が協力企業として参加してくださることが発表された。しかし、新型コロナウイルス感染が広がる状況の中、学生を安全に参加させることへの懸念が生じたためこの企画の実施は3校で見送ることとした。その後、マイナビから新たな企画案を提示いただき、その中から各短大が熟考を重ね、ウェブ上での展開も加えた「三短大カレー部頂上決戦」企画に決定した。協力企業であるハウス食品は、カレールウの提供と最終のレシピチェック、学生が提案したレシピやプレゼンテーションの審査への立ち会いなど、要所要所でわれわれ3短期大学を支えるサポート体制を作ってくださった。これにはマイナビの協力があったからこそと思っている。当初、短期大学は在学年数が短いために時間割が密であることに加え、資格取得のための校外実習や事前事後学習も控えており企画自体を遂行できるかどうかの懸念もあったが、両企業のサポートはわれわれとしても大変実施しやすかった。産学官連携は当事者同士で連携を組むことが多いが、今回のようにコーディネートする企業が中に入ってくれることで、企画が非常に実施しやすくなることが分かった。また、企業は多くのノウハウを持っており、商品開発の仕事に近い将来就きたいと希望している学生たちには憧れの的である。そのような企業の方たちの意見を伺うことが、本学の食物栄養専攻の学生にとっては、さらなる成長につながるまたとない機会であった。半面、特に私は調理科学を専門としているため、レシピ提案をできる学生として成長させることができているのか、日頃からの教育の長所短所を見直す機会にもなった。また各学生が楽しく有意義な企画参加になるように、学長として関係する教職員にも要請して勉強や試作ができる環境作りにも努めた。

■本学の教育方針

東京都江戸川区に本部を置く本学は今年創立60周年を迎える家政科単科の短期大学であり、生活デザインと食物栄養の二つの専攻を持つ。本学の建学の精神は、「社会人としては豊かな知識と技術とをもって経済的に独立し、家庭人としては美しい情操と強い奉仕心とをもって一家幸福の源泉となる、健全な精神と身体とをそなえた女性の育成を目的とする」である。定員も少なく小規模な短期大学であるため、学生と教職員との距離も近く、学生とのコミュニケーションを随時取ることができる特長を持つ。

今回の企画に参加したのは主に食物栄養専攻の学生であり、栄養士を目指している。食物栄養専攻の教育目的は、「人々の健康の維持増進に寄与する食の専門知識と実践力を備えた有能な社会人、かつ、健全な家庭人の育成」であり、教育目標は、①食材を理解し、調理技術に長けた栄養士の育成、②ニーズに合った献立を提案できる栄養士の育成、③他者に対する配慮と豊かなコミュニケーションを身に付けた栄養士の育成である。

これらの能力を付与するための科目は、本学のカリキュラムに全て入っているが、カリキュラムだけで企画力や応用力までを2年間で教授することには無理があるため、今回の産学連携「三短大カレー部頂上決戦」企画によって、学生に応用力、実践力がどれくらい身に付くのか、興味深い挑戦となった。

■「カレー部頂上決戦」出陣準備

2020年8月以降になると、マイナビのコーディネートや3短期大学の協力体制ならびにハウス食品のご協力により、今回の「食品ロス問題を考える」プロジェクトがスタートした。本学は他学と競うよりも、この企画を学生の教育のために積極的に使わせていただく思いで、全学的に参加する企画と位置付けて準備を開始した。また、本学では食品ロスに加えて、地産地消や1/2日分の野菜摂取などの副題も入れることにした。生活デザイン専攻の学生は応援ポスターの作成を、食物栄養専攻の学生がカレーレシピの開発を担当することとした。

①生活デザイン専攻

衣食住、家族関係、家庭経営、福祉、介護、医療事務という、幅広く家政学を対象とした専攻であり、デザイン関係の科目も多くある。そこで、決戦に向かって取り組む本学学生を応援するポスターを、学生が各自作成する課題を設定し、専攻の教員が優秀作品を選択して賞を与えた。学生の能力は教育によって急激に成長する場合があり、普段は目立たない学生が斬新なポスターを作るなど、驚かされることも多かった。優秀賞、キャッチコピー賞が決定し、学内はよりカレー決戦に向けたムード作りが出来上がった(写真1)。

写真1
写真1 決戦に向けた学内応援ポスター
②食物栄養専攻

ハウス食品のカレールウの種類はウェブ上のくじ引きで決定され、3短期大学は別々のルウを用いてカレーのレシピ開発をすることとなった。1回目のレシピ提出は各短期大学から三つを提出することになっていた。全学生が参加する企画と位置付けていたため、まずは専攻の全学生から一つずつレシピを提出する課題を設定し、写真と作り方を書いたレポートを提出させた。その中から、専攻教員と食分野を担当する教員、助手が集まり、レシピの優秀作品を選び、賞を与えた(写真2)。次に、有志の学生を学年にかかわらず、五つのグループを作り、そのグループ内で話し合いながらレシピを磨き上げていった。続いて、各グループで作ったカレーを学生と教職員で試食し、五つのレシピから代表となる三つのレシピを決定した。この間の環境づくり要員である教職員は、予想以上に仕事が増えたが、「学生のために」を合言葉として、誰もが快く協力してくれた。

写真2
写真2 学内における優秀レシピ賞を受賞した食物栄養専攻の学生

■いざ!決戦—企業による審査—

企業による1回目の審査は、3短期大学で競うのではなく、各短期大学が提出した三つのレシピから一つのレシピに決定するための審査であった。この時点で新型コロナウイルスが蔓延(まんえん)し、対面によるプレゼンテーションはなくなったため、フォーマットに従ってコンセプトや材料、作り方などを書いた原稿として提出することになった。本学では、プレゼンテーションを想定して3グループともにプレゼンテーションの練習をさせていたので、動画も送付し、人前で話すことの大変さを理解してもらった。

この後、決戦の舞台となる新渡戸文化短期大学において、「三短大カレー部頂上決戦」のキービジュアル撮影と企画PR動画の収録がマイナビ主導で行われた(写真3)。

写真3
写真3 三短大カレー部頂上決戦のキービジュアル画像

2回目の審査は、3短期大学での決戦であったが、新渡戸文化短期大学の施設をお借りして開催された。当日、学生は私たちのもとを離れ、実際にカレーを作り、誘導の方の指示に従って会場に移動し、プレゼンテーションを行った。まさに、入試に向かうわが子を見送る母親のような気分であった。審査結果発表のときを迎え、優勝校として本学の名前がアナウンスされたときは、今でも忘れられないほど興奮した。ただ、いずれの短期大学共に僅差だったと考えられ、産学連携で3校の学生共に多くのことを学んだと推察する。

■産学連携による学生の成長

この産学連携プロジェクトを最後まで経験した学生は、①期限内により良いものを制作・提出するための努力、②自分たちの思いや内容を的確に伝えるためのコミュニケーション力、③プロジェクトに関わる多くの方へ感謝することなど、これらの必要性に気づき知らないうちに成長してくれたように思う。そのため、彼女たちは、いつ、どこで、誰とでも、大きな声で、挨拶し、自分の考え方を述べ、相手の話をきちんと聞き、大勢の人の前でも発表することができるようになった。この頂上決戦はおかげさまで、カレーレシピとプレゼンテーションの総合評価で第一位の成績をいただくことができた。実は本番では2年生がプレゼンテーションを行う予定であったが、就職活動のため、決戦当日は1年生が代役となった。しかし、全員がプレゼンテーションできるように準備をしていたため変更は容易であり、最終審査では、カレーレシピのコンセプトや味、ネーミング、福神漬けまでもほめていただいた(写真4)。また、緊張感たっぷりで臨んだプレゼンテーションについてもおほめいただき、感無量で企画を終えることができた。その様子を見せてもらったわれわれ教職員も、共に成長させてもらった感があり、どんなことでも自分の手でPDCA*1サイクルを回すことが必要であることを教えられた。学生たちも短期大学の一員として参加したことは、アルバイトのような個人の利益での仕事でない分、成長が大きかったようである。その時1年生で参加した学生がこの3月に卒業した。全員が大きな有形無形の財産をもって卒業することができたように感じられるのは、私だけであろうか。

写真4
写真4 優勝したカレー「ムダなしカレー~地産地消を考える~」

■短期大学における産学官連携の必要性

本学では、このプロジェクトに参加させていただき、大変良かったと感じている。レシピの書き方などはハウス食品のご担当者が丁寧にご指導くださったが、その対応の仕方やレシピ記載についての考え方もこれから栄養士として働く学生たちに多くの力を与えていただいた。今回の産学連携では、企業の方にとっても通常の業務以外の時間を費やすことになったに違いない。しかし、今後の学生の成長を考えて、できる限りのことをしてくださったと思う。学生たちはいずれ逆の立場になって、指導する側に立つかもしれない。その時に、困難に対して努力した人だけが得られる自信と経験が次の世代を後押しする力になるのだと思う。本学は応用力を持った人材を輩出するため、産学、官学と連携していろいろな取り組みを行っている。「短期大学も捨てたものではない。2年間でも素晴らしい取り組みができるのだ」と理解していただき、短期大学の学生を増やすべく、今後も産学官連携に参加していきたいと考えている。

*1:
Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)
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