リポート

2022 年の注目テクノロジーと特許からみた大学発技術

スマートワークス株式会社 酒井 美里

写真:スマートワークス株式会社 酒井 美里

2022年3月15日

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新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まり、もう2年になろうとしている。仮に2~3カ月程度のことであれば「しばらく延期」で済まされた事柄もあったかもしれない。しかし実際にはパンデミックが長期化する中で、世界中の日常生活にも変革が起こっている。歴史を遡(さかのぼ)れば「ペストの流行で中世社会が終わり、ルネッサンスが始まった」とも言われており、私たちは時代の変化点に立ち会っているのかもしれない。

■社会の変革に向けて

新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)により、多くの仕事も日常生活も一時停止や方向転換を余儀なくされている。その反面、最初は少し抵抗を感じたテレワークやWeb会議にも、気が付けば違和感が無くなった、という人も多いことと思う。そしてZoomやTeamsなどのツールも一気に普及した。

オンラインの通話に抵抗のない層が増えたことによって「次はメタバースが普及するのでは」といった声もある(メタバースとは、メタ「meta=超越した」、ユニバース「universe=宇宙」を組み合わせた造語。仮想空間の中でさまざまな活動ができるようになる技術である。米国Facebook社がMeta「メタ」に社名変更し、次世代プラットフォームとしてのメタバースに注力すると表明したことでも注目を集めている)。

歴史上でも、ヨーロッパでペストが流行したことにより中世社会が終わりを迎え、ルネッサンス文化が花開いたと言われている。私たちは今、パンデミックに伴う時代の変曲点を目の当たりにしているのかもしれない。

そこで本稿では「2022年に知っておきたい注目テクノロジーと関連特許」を取り上げたい。注目テクノロジーと言われるものは非常に多数あるため、今回は「2021年後半にWeb版Forbesで取り上げられたテクノロジートレンド**1」や「2021年欧州発明家大賞**2」を参考にテーマを選定した。

欧州発明家大賞とは、欧州特許庁が主催するすぐれた発明を表彰するAwardである。一般的な知名度はさほど高くはないが、欧州では「欧州発明家大賞を受賞すると、ノーベル賞候補にも名前が挙がる」とも囁(ささや)かれているようである。実際に旭化成の吉野フェローは、2019年6月「リチウムイオン電池」の発明で欧州発明家大賞を受賞し、その後2019年12月にノーベル化学賞を受賞している。

■IoT どこでもインターネット、どこでも人工知能 

2022年現在、次世代技術といえば、まず人工知能が思い浮かぶ。人工知能関連の近年の特許出願件数は図1のように推移している。2015年ごろから出願件数の増加が始まり、近年は年間数千件の特許が出願されている。

図1
図1 人工知能関連の近年の特許出願件数

数千件の特許から一言で概要を論じるのは極めて難しいが、ここでは国際特許分類(IPC)を利用し、出願傾向を俯瞰(ふかん)する。現在IPCには「機械学習」や「ニューラルネットワーク」といった「人工知能そのもの」の分類項目が複数用意されている。今回はそのような「人工知能」の分類を除去することによって、どのような応用分野で技術開発と特許出願が行われているか? の俯瞰を試みた。

現在「人工知能」「機械学習」を謳(うた)った特許出願では画像処理技術を対象としたものが多い(表1)。画像処理技術の応用分野は多岐にわたるが、特許出願件数から見ると「工場管理・生産管理」と「医療用の診断装置」が二大応用分野と言えそうである。

表1 AI技術の出願傾向
表1

■機械学習と医療データ

前述のように、人工知能や機械学習の二大応用分野の一つが「医療用の診断装置」である。この分野は大手企業による特許出願が多く、日本特許の出願件数上位は次のとおりである。

  • 1)キヤノン(キヤノン、キヤノンメディカル)384件 (2000年以降出願分。以降も同様)
  • 2)富士フイルム
  • 3)フィリップス(オランダ)

大手企業の特許出願は、大型の医療機器(断層撮影装置、核磁気共鳴装置、放射線診断機器)等に搭載する画像診断の方法が目立つ傾向にある。

一方、大学発の特許出願も健闘している。医療関連AI技術の特許出願は次のように出願されている。

  • 1)大阪大学   20件
  • 2)東京大学   19件
  • 3)慶應義塾大学 18件

各大学の近年の出願を紹介する。大阪大学では「疼痛の推定方法」(特開2020-203121号)、東京大学では少ない装具で高精度の判定ができる「睡眠覚醒判定装置」(WO2021/205828)、また慶應義塾大学では患者の動きを判定することでリハビリを促す「運動解析装置」(WO2021/241676)などを特許出願している。

このように大学発の発明では、患者の動き・病院内で取得可能な検査情報などをデータ化し、機械学習などの対象にすることによって、診断や治療に関する研究開発を促進しようとする発想が多く見受けられる。

■病気を診断するための磁性ナノ粒子

上記「人工知能×医療」の話題のように、最近はAIに注目が集まりがちではあるが、一方で気候変動などによって「従来とは感染症の発生地域が変化してきている」「医療機器や試薬が必ずしも十分でない国・地域でも、的確な診断が行えるようにしたい」との社会的なニーズもある。

この項では「欧州発明家大賞2021」から、資源の乏しい地域・地方でもデング熱の迅速診断を実現した「磁性ナノ粒子」の発明を取り上げる。

デング熱は蚊媒介性のウイルス性疾患であり、年間4億人近くが感染している。治療が遅れた場合、死亡率が20%近いとされるが早期発見をし、適切な治療を受ければ死亡率を1%未満に減らせると言われている。しかしながら従来の検査には早くて数時間かかり、専門の検査技師と設備も必要であった。

イタリアの物理学者マルコ・ドノラートらが発明した検査方法は、欧州特許EP3014245号として出願されている。

患者の指先から1滴の血液を採取するのみで、約10分でウイルス量を検出し定量化できる。この検査方法(検査キット)は、初期にはベトナム、タイ、マレーシアで、デング熱の検査で実用化された。その後ジカ熱検査キットが開発され、現在はCOVID19に対する患者の抗体反応をわずか5分で測定する新製品開発も行われている。

■二酸化炭素からより環境にやさしいプラスチックを

近年注目されるキーワードに「SDGs」(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))がある。SDGsには17の目標があり「13.気候変動対策」「7.クリーンなエネルギー」などとの関連で「グリーンテクノロジー」、「カーボンニュートラル」などが次世代技術として注目されている。

この項でも「欧州発明家大賞2021」から、二酸化炭素を使用してより環境に優しいプラスチックを作る技術を紹介する。欧州特許の公報番号はEP3041883、EP3008100である。

プラスチックの製造は、世界の石油生産の6〜8%を消費しており、「原油を前提としたプラスチック製造は環境的に持続可能」とは言い難い。過去にも科学者はCO2(二酸化炭素)からプラスチックを作る方法を模索してきた。原油ではなく、CO2から樹脂を製造できたとしたら「夢の技術」ではあるが、実際にはエネルギーを大量に消費し、コストも高くつくものであった。実験室レベルでは可能であっても、工業用途には使用できないと誰もが思っていた。

ドイツの化学者、GürtlerとLeitnerのチームは、アーヘン大学とバイエルマテリアルサイエンスの産学連携の中で、CO2を使用したプラスチック製造技術を開発した。特定の触媒を使用し、CO2と原油誘導体を促進させて「CO2由来の炭素」を含む樹脂材料を作る技術である。

現在は、バイエルから独立しCovestro社を設立。ドイツにあるパイロットプラントで、近くのアンモニア生産施設から供給されるCO2を使用して樹脂材料を生産している。

参考文献

**1:
The 5 Biggest Technology Trends In 2022( Forbes)
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**2:
European Inventor Award The finalists 2021
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