リポート

新たに開学した専門職大学と地域連携

静岡県立農林環境専門職大学 学長 鈴木 滋彦

写真:静岡県立農林環境専門職大学 学長 鈴木 滋彦

2022年2月15日

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■はじめに

2020年4月、農林環境専門職大学が静岡県に第三の県立大学として開学した。コロナ禍の下での開学となり、広報活動も自粛気味でままならない状況が続いている。本稿では、新しく始まった専門職大学の制度と本学の特徴を合わせて、「連携」をテーマに紹介させていただきたい。また専門職大学の中でも農林業系の面白さをお伝えできればと願っている。

■専門職大学とは

専門職大学とは「高度な実践力」と「豊かな創造力」を養うことを目的として2017年に制度化された新しいタイプの大学である。2019年に3校が開学し、2020年に11校となり、そして本年度(2021年度)6校が加わって合計17大学と増えつつある。ファッション、IT、国際、医療、看護、観光など幅広い分野を対象とする中にあって、本学は農林業系であること、また公立であることが特徴である。

専門職大学の謳(うた)い文句として文部科学省は「高度な実践力」という言葉を使っている。筆者はこれを「大学における職業教育」と読み替え、すなわち高等教育で実践教育・職業教育をどのように行うべきかが問われているものと解釈している。欧州の高等教育に目を向けてみると、フランスでは大学とグランゼコール(Grandes Écoles)があり、ドイツでは大学と専門大学(Fachhochschule)が高等教育を担っていて、ともに複線型の教育システムが動いている**1。大学は学問や人格形成の場で、技術や経済を支える人材育成は後者が担うとの論がある。欧州では総じて、職業教育に対する社会的な評価が高いように感じられる。

わが国で新しく始まったこの教育制度では、学校教育法第一条に規定される大学として専門職大学が位置付けられ、大学が持つべき学術性に実践力の育成を上乗せした教育内容を有している。英名をProfessional Universityといい、人格形成と職業教育の両方をかなえる場であるとの思いを持っている。

■静岡に開学のわけ

静岡県に農林業系の専門職大学が開学した理由を問われることが多い。答えは明快であり、静岡県は豊かな農業県であることがその背景にある。確かに、海外に行くとShizuokaを知る人は少なく、YAMAHAやSUZUKIの知名度が高いことが示すように、静岡は工業の「ものづくり県」としての印象が強いようだ。全国第4位の製造品出荷額もそうした実績を裏付けている。農林業の実力が「ものづくり県」の陰に隠れているのかもしれない。

さて、静岡の農林業を一言でいうならば、「多彩な農産物が生産されている」となろう。お茶、メロン、ミカン、イチゴ、ワサビなどは全国的に有名であり、ガーベラをはじめとした花卉(かき)も強い。千を超える多様な農林水産物が生産されていることも特徴である。富士山の麓や県西部では畜産業も盛んで、地元では静岡の牛や豚が美味しいことはよく知られている。また、天竜スギは江戸城の御用材を支えるなど古くから知られ、富士のヒノキも合わせて木造の文化を担っている。静岡は実は「豊かな農業県」であり、この産業を支える人材育成が大学設置の背景であり動機となっている**2

■目標とするところは

新大学の設置に際して、人材育成の目標を二つ掲げた。第一は、農林業に必要な栽培や生産技術に加えて、加工、流通、販売、そして経営のできる人材を輩出すること。農林業を業として支えるためには、栽培技術に加えて経営マインドが必要だろうと主張している。第二は、農山村地域の伝統文化や環境を守りながら、地域を支えるリーダーとなる人材を育てることである。野菜の栽培も林業も地域コミュニティーとの関係を抜きに語ることはできない。食文化や住まい方の文化をよく知ること、環境を意識することを合わせて学ぶこととしている。農林業に関わって経営ができ、ゆくゆくは地域のリーダーとなる人を育てるという大きな目標を持って開学した。それを支える教育体制やカリキュラムも、これまでの大学にない特徴がある。

■教育での連携

専門職大学の場合、卒業単位の3分の1以上が「実習等」であることが求められている。中でも臨地実務実習という名の長期のインターンシップは専門職大学に特徴的である。四年制大学の場合、全体で概ね4カ月間を要し、本学の場合2カ月を栽培や生産技術に充て、1カ月をマネジメント、残り1カ月を経営戦略をテーマとした実習に振り分けている。従って、実習生を受け入れる産業界の教育負担も通常のインターンシップより大きくなる。いわゆる「預けっ放し」と違って、双方向の情報のやり取りや評価のディスカッションが必要になる。大学と受け入れ側がまさに「連携して」人材育成に当たる制度である。実は、いま動き始めたばかりの仕組みであり、運用に当たってはこれから工夫が必要となるだろう。産業界の協力をお願いしたい。

余談であるが、実習等が授業の3分の1以上というのは大学関係者には驚きの数字かもしれない。一般に、座学の講義に対して実習等は2~3倍の授業コマ数を要するからだ。さらに専門職大学では授業は40人以下で行われるなど、教育の質を重視している。

また、専任教員の4割以上が実務家教員と定められている。実務家教員とは、担当する専門分野で5年以上の実務経験があり、高度な実務の能力を有する者とされている。実務経験と大学人としてのアカデミズムの両方を兼ね備えた人を探すのは大変であるが、本学の場合5割が実務家教員である。産業界での経験のある教員が半数近くいる環境で学生は理論と実践を学ぶことになる。ティーチングスタッフそのものが産と学の連携集団であるということができる。

■教育課程連携協議会

専門職大学運営上の特徴の一つが、教育課程連携協議会だ。これは、教育課程の編成方針を検討する際に産業界との連携を担保するための組織として義務付けられている。教育課程を編成し、実施し、また見直しを行う際に産業界および地域社会の意見を取り入れる仕組みとして導入された。協議会は当該職業に関する実務の経験者、地方公共団体など地域の関係者、臨地実務実習など授業実施に協力する事業者などで構成され、カリキュラムの編成や教育の進捗状況などを報告した上で意見を頂く**3。国立大学でいう経営協議会、海外の大学のAdvisory Boardに近く重い存在であるとみることができる。経営協議会などが大学運営全般に関わっているのに対して、専門職大学の教育課程連携協議会は、教育の方針論議を中心とするところが特徴である。実践力を養うことを目的とする大学にとって、肝心なところは求められる人材像にあると思う。人材育成の方針を大学人だけで決めることなく、関係する社会・産業界の意見を取り入れる仕組みであると理解している。

■地域連携 農と工のバランスの取れた連携

開学間もない大学ではあるが、幾つかの連携が動き始めている。本学が立地する磐田市(静岡県)は、開学の年に「未来の農業連携懇話会」を発足させた。農・商工団体、企業と連携して課題の解決策を話し合う場となっている。この懇話会が仲介となって、水耕栽培ホウレンソウの糸状菌による病害研究や地域特産の海老芋のエグレ症状への対応などで成果が出ている。また、無人ヘリコプターを用いた森林計測や樹種判別の研究がヤマハ発動機株式会社との間で進みつつある。磐田市は、製造品出荷額、農業産出額ともに県内で4位あるいは5位の位置にあり、工業に加えて農業も強くバランスが良い。商工会議所が農林業との連携に関心を寄せてくれるのもありがたい。

最近ではスマート農業が話題となっており、本学でも自動走行の最新トラクターが走り(写真1)、また、30棟ほどある温室では、統合型の環境制御システムにより温湿度やCO2などの制御、給液の自動制御も遠隔で行い、データはクラウド管理されている。このほか、自動草刈り機、自動走行車による薬剤散布、収穫補助、運搬補助、果樹の自動選果にアシストスーツの開発など、農林業のスマート化は現実の課題となっている。まさに農と工のバランスの取れた連携がいま求められている。磐田市に限らず、静岡県の中にあって多くの産業からその研究力や経営力に学びたいというのが本学の姿勢である。

写真1
写真1 機械研修場を走る自動走行トラクター

先端技術との連携に加えて、本学では農山村の伝統・文化の継承をテーマにした授業「展開科目」群が構成されていることが特徴でもある。演習では学生が地域の皆さまと課題解決のための交流を行うことを積極的に支援している。「グリーンツーリズムと蒟蒻(こんにゃく)加工」、「ほんのり酸っぱい梨ビール」、「寺谷用水の世界灌漑(かんがい)施設遺産登録」など、テーマは農と食、伝統文化を基軸として広がりを見せている。

最後にもう一つ、「農福連携」が特徴的なテーマとして動き始めたことを紹介したい。農福連携は農業と福祉が協力することで課題解決、地域共生社会の実現につなげようというもので、本学では教員グループが中心となって行政、企業の参加を得た研究会が立ち上がった。日本農林規格に「ノウフクJAS」**4が制定されるなど、多様性を受け入れようとする価値観の変化がうかがえる。

参考文献

**1:
金子元久:高等教育システムと職業教育―7か国概観、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構編「高等教育における職業教育と学位」、第2号、No.2、pp.1-18、平成28年8月
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**2:
鈴木滋彦編:「農林業の魅力と専門職大学」、筑波書房、(2022年3月発行予定)

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**3:
文部科学省高等教育局専門教育課:専門職大学等の設置について(平成30年11月21日)
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**4:
農林水産省告示594号「障害者が生産行程に携わった食品の農林規格(平成31年3月29日)」
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