海外

大学教員は見た(最終回) 国際的に活躍する人々の共通点

Indiana University School of Medicine インディアナ大学 医学部 リサーチアシスタントプロフェッサー 社団法人海外日本人研究者ネットワーク(UJA)理事 株式会社Quantaglion Co. Ltd. 米国アドバイザー Indy Tomorrow 代表幹事職 河野 龍義

写真:Indiana University School of Medicine インディアナ大学 医学部 リサーチアシスタントプロフェッサー 社団法人海外日本人研究者ネットワーク(UJA)理事 株式会社Quantaglion Co. Ltd. 米国アドバイザー Indy Tomorrow 代表幹事職 河野 龍義

2022年1月15日

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■はじめに

東日本大震災は研究者が一人では何もできないことを教えてくれた。人と人とのつなりを大切にしながら、米国の大学教員として10年間で学んだことの中から大切なことだけを伝えたいと取り組んだこの連載も今回が最後である。振り返ると、日本からの投資全米1位を記録したインディアナ州の裏側と題して、インディアナの投資環境と日本とのつながり、多様性を重視した取り組みや地方と中央の利点を理解したアプローチ、コロナ禍の日本企業の海外進出などを私の体験した目線から紹介してきた。

前回の記事では米国全体の動向に加え、シカゴの起業文化を根付かせた努力や工夫についても述べた。米国を語る上で中西部の実情を知ることが大事であることを分かっていただけたのではないだろうか。

今回は中西部から知的財産(知財)や産学官連携に関わる話題を「人」に注目して届けたい。

■専門家インタビュー

弁護士と言えば白人男性ばかりであった時代に米国中西部の大手弁護士事務所でアジア人女性初の弁護士となり、女性が多く活躍するシカゴでもひと際輝く日本人女性がいる。多くの日系企業の法務部門を担当し、またシカゴ日本商工会議所専務理事として教育や文化支援にも積極的に取り組まれている山本真理弁護士(写真1)にお話を聞いた。

写真1
写真1 山本真理弁護士(Mari Yamamoto Regnier, Partner,Barnes & Thornburg LLP)は日系企業サービスグループ代表。自動車などの製造業、銀行、商社、サービス業など、多岐にわたる業界にクライアントを持ち幅広い分野で法務サービスを提供

――弁護士を目指したきっかけを教えてください。

意外かもしれませんが大学では英文科を専攻し、英語の先生か英語を使って仕事することを考えていました。奨学金を取ったら海外に行かせてくれると親に言われ、ロータリー財団の奨学金を獲得してアメリカで修士号を取得しました。その後、通訳や工場進出のリサーチコンサルティングなどの仕事を通して、弁護士資格を取りたい思ったのがきっかけです。

――もともと弁護士になろうとは思っていなかったのですか。

全然思ってはいなかったんですよ(笑)。縁があり国際結婚をした際に、結婚相手のアメリカ人家族にとても大事にされました。家族に社会的に活躍する女性が多くて、何か自分も他の人ではできないスキルと強みを持ちたいと思うようになりました。多くの日本企業がアメリカの法律サービスや専門家を必要としていることを知り、当時の職場に弁護士になりたい気持ちを伝え、昼の仕事を続けながらインディアナ大学法学部の夜間のプログラムに通う生活が始まりました。

――色々な縁に導かれたのですね。お仕事の魅力について教えていただけますか。

一番の魅力は、法律家としての自分のアドバイスが会社の重要な判断に関わるところです。例えば特許訴訟、権利侵害などでもどう戦うかという判断には経営陣の方針に感情が入ってしまうことがあります。どんな時も客観的かつ冷静に広い視野での損益を見越したアドバイスを進言するのが期待されている役割です。責任もかなり大きいのですが、やりがいを感じるところです。

――インディアナとシカゴでの業務や最近の傾向について教えてください。

インディアナ州での仕事は製造業が非常に盛んですので、弁護士の仕事もモノ作りに関わる問題や環境などに関わる案件が多く、シカゴでの仕事は企業買収(M&A)と訴訟に関わる案件が多くなります。日本企業が成長していくために、アメリカで企業買収を行うケースが増えていて、これは生き残り戦略としてもとても大事な傾向です。また訴訟に関しては、以前は訴えられることが多かった日本企業が、きちんと訴えるべき時に訴えるケースが増えました。積極的に訴えましょうとは言いませんが、ディフェンスのためのオフェンスを行うことで、無駄な訴訟に巻き込まれるケースが減るという好ましい結果につながっています。

知財戦略でも同じで、守りの戦略だけでは乗り切っていけない時代になったと思います。戦うべき時に戦うこと、攻めるべき時に攻めることが本当の意味で守ることになりますね。

――知財という言葉が出ました。知財戦略で大事なことを教えてください。

単に特許を取る行為は、必ずしも知財を守ることにならないということを知ってほしいです。「一定期間まねさせない」代わりに公開されてしまいます。一方で特許を取らずに機密を守ることで特許期間よりももっと長い期間技術を守ることができる方法もあります。この使い分けは発明の内容にもよるのですが、Crowded fieldという言葉で表現されるように、その分野の特許が混雑しているかどうかが一つの基準になります。混雑している場所では特許を取って権利を守り、訴訟もしていくような少し攻撃的な戦略が必要になります。

さらに皆さんご存じのようにIoT分野などのスタートアップ事業ではかなり速いサイクルで大々的に宣伝してExitして売ってしまうというケースが増えていますね。Exitを意識した知財戦略というのもあります。

アメリカのすごいところは、上場のサイクルを早くする仕組みとして、事業はしていないが資本を集めて上場しているSPAC*1という空の会社が数百社できていて、再生エネルギーや医薬品などの有望かつ最先端の技術を持つ事業会社との吸収合併を待っています。事業の立ち上げと株式上場をスピーディーに吸収合併でつなげてしまう独創的なこの仕組みが盛んに活用されています。

――若手研究者に期待されていること、起業を夢見る若者にメッセージがあればお願いします。

ぜひ自分を強く売り込んでください。皆さんキラリと光る素晴らしい技術を開発されたり、研究をされていますので、あとは様々な分野で仲間となるべき人々に届く発信力を持ってほしいです。技術力が世界に勝っていても、発信力で負けると届かないですよね。場合によっては発信や売り込みが得意な協力者とつながって自分の成果や技術を発信することで社会に届くようになると思います。

――自分の強みを持つこと、チームとしての発信力、ご縁を大切に

話の中で印象的だったメッセージが三つあった。①自分の強みを持つこと、②強い発信力を持つこと、③弁護士になったきっかけがそうであったように、縁が大切であるということ。

私は2014年にインディアナで日本人研究者組織の活動をスタートさせたのだが、インディアナ州の日系企業が集まるインディアナ日本人会には、発足当初よりスポンサー支援を続けていただいている。最初に声を上げてくださったのが顧問を務めている山本弁護士である。スポンサー支援も心から感謝しているのだが、日系企業の役員の方々との交流は私にとって経営哲学や海外での企業努力を知る大変貴重な機会であり、大切な縁であった。

また知財戦略では分野を知ること、攻撃的な戦略もしっかりと学んでおくことが重要であるようだ*2

■積極的な若手研究者支援

シカゴ総領事館では若手研究者の会などが開催されるのだが、インディアナの活動にも総領事や領事の皆さまから温かな支援や激励をいつもいただいている。イベントの成功のたびに伊藤直樹総領事(当時)から背中を叩いて激励されるのは本当にうれしいものであった。バーチャルリアリティ学会(VR学会)の世界初の開催の試みでは、岡田健一総領事(当時)にVRヘッドセットを使って挨拶していただき、論文賞の活動でも受賞者へのお祝いのメッセージを何度もいただいている。若手研究者の取り組みに目を向けてくださり、シカゴの研究者組織の代表であるノースウェスタン大学の高田望氏の表彰(2021 Consul-General’s Commendation)を含めて本当に素晴らしい支援をいただいている(写真2)。

写真2
写真2 2021 年8 月16 日「在外公館長表彰」生命科学研究者として
シカゴ日本人研究コミュニティの発展と日米関係の進展に貢献した
ノースウェスタン大学の高田望氏(左)と岡田健一総領事(当時)
(写真提供:在シカゴ日本国総領事館)

また、最初の記事で紹介したように研究者と企業の海外での連携には独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)の曽根一朗氏から貴重なサポートがあった。現在もJETROシカゴの職員である西澤氏、橋本氏が海外でスタートアップを含めた日系企業を支える活動をされており、海外進出に関わる情報、シカゴを含む中西部12州の現状についての問い合わせなどはぜひJETROシカゴへのご連絡をとのことであった。

■惜しみない経験の共有 海外でつながる理由

中西部では日本人研究者をつなぐ素晴らしい活動が他にもある。インディアナの隣のオハイオ州シンシナティ大学准教授、慶應義塾大学特任教授で一般社団法人海外日本人研究者ネットワーク(UJA)を創設した佐々木敦朗氏(ここではいつも通り敦朗さんと呼ばせていただく)は、米国で研究者が成功するためのノウハウを公開し、「研究留学のすすめ」という著書など様々な形で海外に挑戦する若手研究者や学生を支援してきた(写真3)。敦朗さんの手法では「どう失敗したか」「どう乗り越えたか」を共有する。上下関係を無くし、非常に明るい雰囲気の中で体験をシェアするところが大変魅力的な活動である*3

写真3
写真3 海外で活躍するための情報を公開する活動を牽引するリーダー  
イリノイ大学シカゴ校助教授の山田かおり氏(左)と
シンシナティ大学准教授/慶應大学特任教授 佐々木敦朗氏

また昨年からスタートしたUJAの企画では、イリノイ大学シカゴ校で活躍されている山田かおり氏(同じくかおりさんと呼ばせていただく)が中心となり、研究者の多様なキャリアパスを透明化するためにNoteというウェブサイトを活用してアカデミアだけではない世界中の研究者の多様な生き方を公開している*4。日本や海外で大学教授になるためのキャリアパスの歩き方、企業での研究者や医師のキャリアパス、行政で活躍する道や起業家としての道など、あらゆる分野で国際的に活躍する研究者を紹介することで進路に悩む学生やポスドクを支援している。

敦朗さん、かおりさんの活動を通して研究者として独立など成功につながったケースも増えていて、様々な分野の研究者や産業界も含めた多様なネットワークが拡大している。日本から飛び出した研究者が多忙な本業の合間に集まって活動する理由を聞いてみると、その原動力の一つは科学で日本の未来を明るくしたいまっすぐな気持ちであるという声が聞こえてくる。

■国際的に活躍する人材の共通点

5回の連載の機会をいただき、様々な方を紹介させていただいた。いずれも国際的に活躍し、異分野を融合させている人物であり、産学官連携にも重要な役割を担っていた。

共通していたことは、自分の慣れ親しんだコンフォートゾーンから一歩出て、相手の懐に飛び込みネットワークを構築されていた点である。

私はこの10年間、本業では細胞のシグナルを追いかけてきた。細胞同士は想像していたよりもずっと多くの情報を共有していて、情報が集まるHub細胞とその周辺の細胞がオーケストラのような複雑なコミュニケーションをしながら体を調節している世界が少しずつ見えてきた。周囲に気を遣って協調しながら活動する細胞のシグナルはとても美しいのだが、一つ一つの細胞は正常であっても、そのコミュニケーションに問題があると大きな病気につながってしまうことも学んだ。シグナルは細胞の声であり、私はドリトル先生のようにその声に耳を傾けて対話しているわけである。産学官連携においても細胞の中と似たような世界が広がっているように感じる。

■慣れ親しんだコンフォートゾーンからちょっと出てみる

一歩踏み出し、話を聞ける人材こそ情報が集まる大事なつなぎ役のようである。やはり大事なのは人と人とのつながりであり、国際的な連携や産学官連携でもコミュニケーションの重要性は変わらない。日本の官庁の方や政治家の皆さんにも大学や企業の集まりに顔を出し、口も出して若手研究者や起業家とともに新しいイノベーションの波を現場で感じてほしいと思う。大学の方々にも新しい場所に飛び込んで自分を PRして連携を生むことを楽しんでほしい。

海外に出て挑戦したい研究者や学生の方にはぜひ私たちの組織である UJA に参加してみてほしい。UJAの新事業は研究成果の社会実装に力を入れている。世界各地で活躍している研究者、ビジネスリーダーなど多様性に富むメンバーとのつながりにより、科学で世界を変えていく大きなうねりに加わることができるはずである。皆さまにとって飛躍の新年になることを心から願う。

*1:
「Special Purpose Acquisition Company」の略語で、「特別買収目的会社」のこと。SPACは新規上場の際に用いられる手法の一つで、SPAC会社は上場後に投資家から資金調達を行い、未公開のスタートアップを買収することで上場させる。新技術を早く上場することで新しい分野での国際競争力を高めるなどの利点がある。
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*2:
ウェブサイト:バーンズ&ソーンバーグ社 バーンズ&ソーンバーグ社が開催する催しのご案内 日本語のリーガルアップデートの購読申込
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*3:
著書:研究留学のすゝめ! (羊土社)、動画:海外PIのすすめ(YoutubeやTwitter、またUJA公式Noteアカウントで公開)
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*4:
キャリア情報:日本人研究者のためのグローバルプラットフォーム United Japanese researchers Around the world (UJA)の公式Noteアカウントにて公開
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