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まるで本物 バーチャル遺伝子から生まれるデジタルヒューマン
京都大学学生スタートアップ 株式会社データグリッド

愛媛大学 社会連携推進機構 産学連携推進センター 大学発ベンチャー支援部門・特定准教授 荒川 弘

写真:愛媛大学 社会連携推進機構 産学連携推進センター 大学発ベンチャー支援部門・特定准教授 荒川 弘

2022年1月15日

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2017年夏、京都大学の学生がスタートアップを起業した。株式会社データグリッドである。今でこそ、華々しいデビューを飾ったと思われる学生スタートアップの草分け的存在であるが、起業に至るまで、あるいは創業期は実際どうだったのか? 創業に至る経緯や学生スタートアップを創業するメリットやデメリット、その他の苦労話など様々な観点から、株式会社データグリッドの代表取締役CEOである岡田侑貴氏(写真1)に話を伺った。

■技術との出会い

荒川 今日はお忙しいところお時間割いていただきありがとうございます。どうですか、最近? 好調なようですが?

岡田 いえいえ、まだまだです(笑)。これから、走り出そうという感じでしょうか。

写真1
写真1 岡田侑貴 氏

荒川 早速ですが、データグリッドといえば、「アイドルの顔を生成する(アイドル生成*1)」(写真2)で、僕はそのとき初めて御社の存在を知り、すごく面白い会社が出てきたという第一印象を持ちました。そもそも、起業の基礎になる技術との出会いはどこにあったのですか?

岡田 それは、僕が大学4回生のころに研究室に配属されて、そのときに出会った技術がGAN技術(生成AI技術)*2で、これはすごい技術だと思ったところですね。

荒川 どういったところがすごい技術だと思われたのですか?

岡田 皆さんがよく思われているところで、PC(パソコン)は計算や最適化が得意で創造的な作業は苦手、創造性などが必要な作業は人間がやらないといけないというのが普通の考えとしてあるじゃないですか。僕が研究室に配属されて、そこで出会ったGAN技術は、PCがある意味での創造性を持つことができるんじゃないかと思えました。そういう意味ですごい技術だと思いました。

荒川 そのすごい技術に出会って、すぐに起業になったのですか?

岡田 いえ、それがそうではないんですよ。実は当時、僕はインターンをしていまして、すぐに起業したわけではないのです。

荒川 インターンされていたというのは初めて知りました。では起業は、どんなタイミングでしょうか。1年間のインターンを経験されて、その後すぐに起業されのですか?

岡田 当時、GAN技術と出会って、すごい技術だとは思っていたのですが、正直なところ社会実装まではまだまだだなぁ〜という印象でした。それが1年間のインターンから研究室に戻ると、ものすごく技術が進歩しているのを感じました。それでこの領域、この技術を世の中で価値のある製品に落とし込むことができれば、非常に面白いことができるんじゃないかと思ったんです。

荒川 それで起業したのですね。

岡田 いいえ、実は起業しなくても良かったんですけど、ふと周りを見渡したときに、日本国内ではこの領域でこのGAN技術を使って起業している例が見当たらなかったのです。それに、自分たちで探し出せる範囲で海外を見渡してもあまり実用化されている例が見当たらなくて、あるとしても研究所での研究レベルでの紹介にとどまっていたんです。

荒川 よく調べてみると、GAN技術を使った実用化例が日本国内でも海外でもなかったから起業に至ったのですね。

岡田 そうですね。ただ、創業当時からあまり自己分析をしていなくて…。

荒川 と言うと?

岡田 事業計画とか資本政策とか当時は全く考えてなくて、本当に好奇心ドリブンのみで起業したんです。

荒川 起業すると決められた当初、周囲の学生や親の反応や考え方の違いなどはありましたか?

岡田 父が二代目経営者で、私の兄も起業していたので、周囲はとても前向きに応援してくれていたと思います。

荒川 起業家がすでに身近なところにいて、そもそもそういう血筋と言うか運命だったかもしれませんね。しかし、好奇心ドリブンのみで起業したとはいえ、最初からうまく走り出していた印象です。

岡田 いえ。全く違うんです。

写真2
写真2 アイドル生成により作成されたバーチャルアイドルの例

■最初の仕事は500円

荒川 創業当時はほかの大学発スタートアップと同じように、苦しい時期があったのですか?

岡田 実は、創業当時の最初の仕事は、単価500円でした。

荒川 最初に手掛けた仕事がアイドル生成でいきなりもうかっていた印象ですが、そうじゃないんですね?

岡田 アイドル生成はもっと後の話です。

荒川 印象と全く違います。創業当初のことから教えていただけますか?

岡田 まずGAN技術を使って起業しようと決めたのですが、3人で起業して、皆でお金を出し合って、資本金150万円でスタートしました。会社を設立するといろいろとお金が要るじゃないですか。すると、お金がみるみる少なくなり、数カ月で銀行残高が40万円くらいになりました。これには焦りました。

荒川 会社を維持するだけでも何かとお金が要りますね。それにしても、結構な勢いで資金が減りましたね。

岡田 好奇心ドリブンで起業したこともあって、やはり学生が起業しても実績は何もありませんし、学生が作った会社に仕事を依頼してくれる企業や人もいなくて仕事がなかったのです。もちろん当時は収入も0円でした。僕たちは、「どでかい」ことを成し遂げてやろうと思い立って3人集まって起業しましたが、そういうことも言ってられない状況になって。そこで、皆で話し合った結果、最初は何でもやろうということになって、なりふり構わずといった状況でしょうか。

荒川 最初の仕事はどんな仕事だったのですか?

岡田 クラウドソーシングです。人脈も知名度も実力もない会社なので、大金をいただくのもはばかられました。まずは自分たちの実績を作ろうとしました。だから最初の仕事の対価は500円でした。

荒川 500円は安過ぎませんか?

岡田 いや、でも僕たち本当に人脈も知名度も実力もない学生が好奇心ドリブンだけで作った会社なので。

荒川 そこからどうやって上がっていったのでしょう。

岡田 クラウドソーシングをやりながら、データ解析の仕事も入り出して、依頼された仕事をこなしていくうちに、半年から1年くらい経って利益が出始めました。

荒川 利益はどのくらいでしたか?

岡田 1,000万円、2,000万円と売上が立ったころ、ようやく400万円ほどの利益が出ました。それからですアイドル生成をやり出したのは。

荒川 僕が御社を知ったころは、苦しい時期を乗り越えたときだったんですね。

岡田 そうですね。

荒川 あの時は、初年度から利益が出て黒字のすごい学生ベンチャーがあるぞ。そんな感じで噂(うわさ)を聞いたのを覚えています。まさか、500円で仕事していたなんて。その後は順調なのでしょうか。

岡田 順調と言えるかどうかはまだ分かりません。僕たちが本来目指しているところはもっと高いところにあって、そこには当然ながらたどり着けていません。まだまだがんばらないといけないという思いは変わっていません。

荒川 アイドル生成を手掛けてからは、いろんな企業からも声が掛かるようになったのでしょうか。

岡田 はい。アイドル生成は自分たちが思っている以上に反響を呼んで、いろんな企業からお声を掛けてもらえるようになりましたし、ちょうどこのころ、JASDAQ(ジャスダック)上場のゲーム会社からの出資を受けることもできました。

荒川 アイドル生成やその後、バーチャルモデル(写真3)の生成も行っていますが、アイドルを生成するに至ったきっかけや、狙っている効果はどうでしょうか。

写真3
写真3 バーチャルモデルの例

岡田 経緯は、データグリッドの技術を活用した誰にでも分かるアウトプットをまず一つ作りたかったのがきっかけでした。その中で、どのようなデータを生み出せば分かりやすく、かつインパクトがあるかという観点でアイドル生成に取り組みました。効果は幾つかありますが、バーチャルのキャラクターのようなものなので、リアルの人間より知的財産(IP)としてのマネジメントが行えることだと思います。

荒川 会社としての目玉がアイドル生成やバーチャルモデルだったんですね。

■学生ベンチャーの立ち位置と創業のメリット・デメリット、資金調達

荒川 上場企業からの出資を得て、これからというときだったと思うのですが、当時の御社の社員数は何人だったのでしょう。

岡田 アイドル生成をやっているころは、フルタイムの社員が3人に、そのほかはアルバイトで4~5人だった思います。

荒川 割と少ないイメージですね。当時は少数精鋭だったのですね。

岡田 よく言えば少数精鋭なのかもしれませんが、利益が出たと言ってもそんなに大した額ではないので、正社員を多く抱えるとなると、背中に乗ってくるものもそれだけ多くなりますし。

荒川 新型コロナ感染症への対応のこともあるでしょうし、今出勤されている方はそれほど多くないかもしれませんが、現時点で正社員はどのくらいですか?

岡田 18人です。

荒川 社長の肩に結構な大きさのものが乗っていますね。

岡田 そうですね。

◇◇ 学生が BtoB ビジネスをやる利点はない ◇◇

荒川 僕は愛媛大学で大学発ベンチャーの創業支援を主な業務としてやらせていただいていますが、その中には、学生が起業するベンチャーも含まれています。愛媛大学からも御社のようなすばらしい学生ベンチャーが育たないか期待しています。岡田社長から見て、学生がスタートアップを起業するメリットやデメリットがあれば教えていただけますか?

岡田 僕が思うに、BtoBビジネスをやる上での利点は全くないと思っています。BtoBビジネスをやる上で、学生は人脈も知名度も実力もないですし、本当にメリットはなくて、デメリットしかないと思います。何の信用もないですから、お金を借りることだって簡単じゃないですし。

荒川 確かに、愛媛大学の学生のケースでも、周りの大人は「学生が起業することで地域が活性化するから、学生ベンチャーを盛り上げていきましょう!」と平気な顔して言うんですけど、学生がいざベンチャーを起業すると、岡田社長も言われる通りお金がないので、会社の運転資金の融資を受けようと思っても、信用もないし担保にできるものもないし結局融資はできませんと言われることが多いですね。

岡田 そうですよね。僕は幸い、公庫から連帯保証なしで借りることができたので何とかなりました。非常にありがたかったですね。そう思うと、学生は何のリスクもないことが最大のメリットなのかもしれません。

荒川 そうかもしれませんね。失うものは何もないってことですね。

岡田 そうですね。逆に背負っているものがないぶん、「生み出しやすさ」という点では、学生の方がアドバンテージがあるのかもしれません。

荒川 そういう部分で「学生の柔軟な発想」をわれわれ支援する大人側は感じているのかもしれませんね。

岡田 そうですね。

荒川 御社は当初から積極的に資金調達されていたと思い込んでいました。

岡田 資金調達っていろいろとあると思うのですが、そもそもエクイティ調達する必要を感じていませんでした。

荒川 それは意外です。

岡田 起業当初から自分たちが目指しているものがあって、最初は500円で仕事をしたり自分たちの理想とはほど遠い仕事をやらざるを得なかったりもしましたが、わずかながらでも利益が出るようになって、資金的に協力いただける企業とも出会え、さらに資金調達することは考えていなかったのです。

荒川 考えてなかったのは、今は考えが変わってきているのですか?

岡田 そうですね。いろんな仕事をしながら少しずつ利益が出て、このまま会社を継続する選択肢もありますが仲間と話して、やっぱり最初に僕たちが目指していた「高み」や「理想」を目指すべきなんじゃないかとなりまして。

荒川 それで、まとまった資金が必要になった?

岡田 はい。今はまだ詳しいことは言えませんが、僕たちが目指す「高み」や「理想」の部分を成し遂げようと思うと、やはりそれなりにまとまった資金は必要になってくるよねという話になって、今はちょうど、資金調達活動をしているところです。

荒川 うまくいきそうですか?

岡田 うまくいくことを願っています。

荒川 また岡田社長の背中にさらに大きな責任がのし掛かりますね。

岡田 そこはもう覚悟しています。

荒川 会社の規模も大きくなってくると、どこかでそういうタイミングが出てきて責任が大きくなるのも仕方ないですね。

岡田 会社の理想は、今考えていることを実行することなのですが、究極的には、僕は今までお世話になった方々に恩返しをしたいと思っています。起業することに乗ってきてくれた創業メンバーや従業員もそうですし、共同研究や学術指導などをしていただいている京大の田中教授や産官学連携本部にも、こうして場所を貸していただいています。資金提供いただいた企業やこれまでお世話になった皆さんに本当に感謝していて、心の底から恩返ししたいと思っています。そのためには、自分たちが掲げた「高み」や「理想」の実現が最高の恩返しになるんじゃないかと思っていますし、これからもがんばっていこうと思っています。

荒川 今でもすごいスタートアップですが、さらにすごいスタートアップになってください。期待しています。

岡田 はい、ありがとうございます。

荒川 今日はお忙しい中、ありがとうございました。

学生の起業と聞くと、スタートアップビジネス(ベンチャービジネス)というよりもむしろスモールビジネスが多いような印象も受ける。数多くある学生スタートアップの中でも、スモールビジネスではなく、あくまでもスタートアップビジネスを突き進む。彼らが目指す「高み」や「理想」がどれほどのものであるか、この目で確認したいと思わせてくれる学生スタートアップだ。僭越(せんえつ)ながら、これからも応援させていただこうと思うとともに、データグリッド社の今後の活躍に期待したい。

*1:
アイドル生成:GAN の仕組みを応用し、実在しないバーチャルアイドルをAI が生み出すことが可能。
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*2:
GAN 技術(AI 技術):生成AI と識別AI という二つのAI を組み合わせた競争的な学習システムで構成され、これらのAI が矛盾の関係で競い合って学習することにより、互いの精度が向上していく仕組み。
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