リポート

骨組成(炭酸アパタイト)人工骨 第46回(令和3年度)井上春成賞表彰技術

九州大学 大学院歯学研究院 生体材料学分野 教授 石川 邦夫

写真:九州大学 大学院歯学研究院 生体材料学分野 教授 石川 邦夫

2022年1月15日

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■骨と炭酸アパタイトと水酸アパタイト

骨の組成は炭酸基を6〜9質量%含む炭酸アパタイトである。しかしながら人工骨としては炭酸基を含まない水酸アパタイト(ハイドロキシアパタイト)が臨床応用されている。水酸アパタイト人工骨は1970年代に発明され骨伝導性(材料を骨欠損部に埋植すると材料表面に骨が結合する性質)を示す画期的な材料であったことは間違いない。しかし、水酸アパタイト人工骨は、自家骨と比較すると骨伝導性に劣る。また、自家骨は骨リモデリング(古い骨を吸収する破骨細胞と新しい骨を造る骨芽細胞によって古い骨が新しい骨に置換される生体機能)によって新しい骨に置換されるが、水酸アパタイト人工骨が骨に置換されることはない。そのため、骨欠損再建術の第一選択は自家骨移植(健全部位から移植骨を採取し、骨欠損部に移植する)である。

セラミックス粉末は結晶性炎症を惹起(じゃっき)するため、人工骨として臨床応用するにはブロック化する必要がある。炭酸基を含む炭酸アパタイトは焼成温度で熱分解を受けるため、アパタイト構造から炭酸基を除いたところ、水酸アパタイトが焼結できることが分かった。また、水酸アパタイト焼結体が骨伝導性を示すことが見いだされ、人工骨として臨床応用されたというのが歴史的経緯である。

しかしながら、生体は焼結ではなく、水が存在する生体内で骨を形成している。無脊椎動物が骨格組成として選択したのは海水の成分から構築できる炭酸カルシウムである。生体は、進化の過程でエネルギー代謝に必要なリンを体内に貯蔵する必要に直面し、炭酸カルシウムにリンを付与した炭酸アパタイトを骨組成として選択した。筆者は進化に学び、炭酸カルシウムブロックをリン酸塩水溶液に浸漬(しんし)したところ、形態を保ったまま組成が炭酸アパタイトに変換されることを見いだし、溶解析出型の組成変換と命名した**1

■骨組成(炭酸アパタイト)人工骨

炭酸アパタイトブロックの表面で破骨細胞を培養すると骨と同様に破骨細胞性吸収窩(はこつさいぼうせいきゅうしゅうか)が観察された。水酸アパタイト表面では吸収窩は観察されない。破骨細胞はハウシップ窩を形成し、内部を弱酸性にして骨を吸収する。生理環境(pH7.4)では水酸アパタイトより炭酸アパタイトが安定相であるが、弱酸性領域では安定相が逆転し、炭酸アパタイトが水酸アパタイトより不安定であり、溶解されやすい。実験動物の骨欠損を人工骨で再建すると水酸アパタイトは全く置換されないのに対して、炭酸アパタイトは経時的に完全に新しい骨に置換される。また、炭酸アパタイト人工骨は他の人工骨に比較して圧倒的に高い骨伝導性を示す(図1)。使用模擬試験(実験動物を用いて医療機器の性能を確認する試験)を含めた非臨床試験を行った後に、歯科インプラントを前提とした上顎洞挙上術(じょうがくどうきょじょうじゅつ)による骨欠損再建に関して炭酸アパタイト人工骨の多施設治験を行った。上顎洞挙上術のうち二回法と区分される術式では、炭酸アパタイトによる骨造成を行った後に歯科インプラント埋植を行うため、バイオプシ(生体組織採取検査)が可能となる。骨の造成、インプラント体の固定などの全ての評価項目で100%の有効性が検証されただけでなく、ヒトにおいても炭酸アパタイト人工骨が新しい骨に置換されることが検証された**3。多施設治験の結果を受けて、炭酸アパタイト人工骨は2017年12月に世界初の骨組成(炭酸アパタイト)人工骨として薬事承認を受け、2018年2月に歯科材料の国内最大メーカーである株式会社ジーシー(東京都文京区)から「サイトランス グラニュール」として上市された。なお、上述したようにわが国においては、歯科インプラントを前提とする骨再建術に用いる人工骨、過重負荷部に用いる人工骨は薬事承認されていなかった。炭酸アパタイト人工骨は、わが国で初めて、歯科インプラントを前提とする骨再建術、過重負荷部の骨再建術を含む全ての歯科領域で用いることができる人工骨として薬事承認されている。

図1
図1
図1 ビーグル犬顎骨の歯科インプラント埋植部に隣接する骨欠損を人工骨で再建した4週後の病理組織像
(埋ビラヌエバゴルドナー染色、緑が成熟骨)

■自家骨を凌駕する骨組成(炭酸アパタイト)人工骨

自家骨から組成を学び、炭酸アパタイト人工骨が創製された。炭酸アパタイト人工骨は自家骨に匹敵する骨伝導性を示すが、自家骨を凌駕(りょうが)するには至っていない。自家骨に対する人工骨の優位性は、構造の自在制御である。そこで三次元連通孔または一次元連通孔を備える炭酸アパタイト人工骨を調製した。三次元連通孔構造はスプレードライで調製した酸化カルシウム球を消化して膨潤結合させ、炭酸化、リン酸化によって調製する。機械的強度に改善の余地が残るが、三次元構造のため、埋植4週間で新しい骨に置換される人工骨である。一次元連通孔(ハニカム構造)を備える人工骨は、押出成形によって調製される。炭酸カルシウムを含んだバインダーを、ハニカム金型を通して押し出し、脱脂、リン酸化によって調製される。ハニカム構造のため、毛細管現象を強く示し、骨欠損部で血液などを瞬時に吸い込む性質がある。この炭酸アパタイトハニカム人工骨を用いると自家骨でも再建が困難な垂直的骨造成(例えば、歯が抜けると顎骨高さが低くなる。この顎骨の高さを再建する術式などの骨がない部位に骨を垂直的に形成する術式を垂直的骨造成という)が極めて簡単に施術できるようになる(図2**5。3Dプリンターによる構造制御を含め、炭酸アパタイト人工骨の構造は自在制御できる。そして人工骨の構造は組成と共に骨再生を決定付ける重要因子である。炭酸アパタイト人工骨の構造制御を進め、自家骨を圧倒的に凌駕する炭酸アパタイト人工骨の薬事承認取得を目指したい。

図2
図2 炭酸アパタイトハニカム人工骨によるウサギ頭蓋骨への垂直的骨造成
左:炭酸アパタイトハニカム人工骨の写真と、施術4週後のマイクロCT 像
右:施術4週後の病理組織像(ヘマトキシーエオジン染色、赤が成熟骨、枠内は垂直断面の貫通孔の拡大像)

参考文献

**1:
Kunio Ishikawa: Bone substitute fabrication based on dissolution-precipitation reaction. Materials, 3, 1138-1155, 2010
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**2:
Kunio Ishikawa: Carbonate apatite artificial bone. Science and Technology of Advanced Materials, 22(1), 683-694, 2021.
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**3:
Kudoh K, Fukuda N, Kasugai S, Tachikawa N, Koyano K, Matsushita Y, Ogino Y, Ishikawa K, Miyamoto Y: Maxillary sinus floor augmentation using low-crystalline carbonate apatite granules with simultaneous implant installation: First-in-human clinical trial. J Oral Maxillo Sur, 77(5):985.e1-985.e11, 2019.
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**4:
Nakagawa T, Fukuda N, Kasugai S, Tachikawa N, Koyano K, Matsushita Y, Sasaki M, Ishikawa K, Miyamoto Y: Application of low crystalline carbonate apatite granules in two-stage sinus floor augmentation: a prospective clinical trial and histomorphometric evaluation. J Periodont & Imp Sci, 49(6), 382-396, 2019.
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**5:
Ishikawa K, Munar ML, Tsuru K, Miyamoto Y: Fabrication of carbonate apatite honeycomb and its tissue response. J Biomed Mater Res Part A, 107A:1014–1020, 2019.
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