特集この共同研究がすごい!

高速道路の自営回線と無線センサを活用したモニタリングシステムの開発
―NEXCO 西日本と大阪大学の産学連携―

大阪大学大学院 工学研究科 NEXCO西日本高速道路学共同研究講座 特任准教授 小濱 健吾

写真:大阪大学大学院 工学研究科 NEXCO西日本高速道路学共同研究講座 特任准教授 小濱 健吾

2022年1月15日

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■高速道路学共同研究講座

西日本高速道路株式会社(NEXCO西日本)は、3,500kmを超える高速道路の維持管理と約70kmの新規高速道路の建設、約180kmの6車線化および4車線化の事業を展開している。NEXCO西日本には、前身の日本道路公団時代の名神高速道路の建設以降に培われた高速道路の計画、建設、管理に関する多くの技術が蓄積されている。一方、近年、異常降雨や大規模地震が頻発しており、それらの防災対策で必要となる新しい現場ニーズへの対応が求められている。このような状況を踏まえ、NEXCO西日本は、図1に示す技術開発および研究開発体制を構築している。その中で、既存の知見を独立普遍的な学問・研究の対象として体系化して進化・発展させ、新たな現場ニーズへ対応することを目的に、2011年7月、大阪大学に「NEXCO西日本高速道路学共同研究講座」を開設し、これまで10年以上にわたり様々な研究を実施してきている。

図1
図1 NEXCO 西日本の技術開発および研究開発体制

名神高速道路の建設以来、高速道路資産の建設・運用について蓄積されてきたノウハウの高度化ならびに統合化には、その資産評価やリスク評価に基づく価値損失の最小化を実現可能とする高速道路評価学と、代表的社会基盤である高速道路の最適な運用を行える社会基盤経営学を構築することが不可欠である。さらに、IoT・ビックデータ・AIなど、情報分野での技術革新が進行している現在、高速道路情報学の構築も急務である。当講座では、これら三つの分野において具体的な課題を設けて研究を行うことにより、3分野を融合した「高速道路学」をさらに発展させることを目的としている。

当講座で現在取り組んでいる重点テーマは「道路整備と保全」ならびに「災害対応力の強化」である。これらは、NEXCO西日本グループが日々取り組んでいる実務であり、実務をいかにして効率的に、適正性をもって行うことができるかを探求している。その際、大学の高度な基礎技術(AIを用いた技術支援、ビックデータ解析、新しい検査技術、マネジメント手法など)を幅広く調査し、土木分野の技術に限らず、他分野の技術であっても、適用可能性がわずかでもあれば実務で活用することを試みている。

本稿では、当講座の重点テーマである災害対応力の強化として開発したnewron®(NEXCO West Real-time Observation Network)~高速道路の自営回線と無線センサを活用した斜面などのモニタリングシステム~について、開発背景や技術概要などを紹介する。

■災害対応力の強化

高速道路は常時において、物流・観光をはじめとしたわが国の生活・経済活動を支える重要な社会基盤である。一方、災害発生などの緊急時には、復旧作業や物資輸送のためのライフラインとして機能する必要がある。一例を示すと、「令和2年7月豪雨」の際、熊本県の球磨川では八代市から人吉市にかけて大氾濫に襲われ、球磨川沿いを走る国道219号は至る所で寸断され、10本の橋が流出した。このような状況の中、並行する九州自動車道の八代IC~人吉IC間の代替路(無料)措置が実施され、災害救助やボランティア活動が円滑に進んだ。さらに、八代市坂本町では被災地域へのアクセスが寸断されたため、坂本PAの緊急開口部を開放し、孤立状態となっていた集落への乗り入れや道路などの応急復旧が可能となり、地域住民の生活が守られた。

地球温暖化に伴う豪雨災害や台風被害は、激甚化・頻発化の一途をたどっている。「平成30年7月豪雨」では、NEXCO西日本が管理する高速道路の65%に相当する2,299kmが降雨により通行止めとなり、16道路49カ所で復旧に時間を要する災害が発生した。このような状況において、高速道路が緊急時のライフラインとして重要な役割を果たすためには、日常的に構造物の健全度を把握し、緊急時には災害を常に監視できる体制をとり、一刻も早く通行規制を解除する必要がある。高速道路で発生する代表的な災害には、斜面の崩壊、地すべり、土石流、地震時の盛土の崩壊などがあり、近年の異常気象を考慮すると、これらに対する監視体制の強化がより一層重要になってきている**1

■newron®とは

広範囲かつ同時多発的に発生する近年の降雨災害に対し、災害の早期予測および迅速な検知を行うためには、高速道路のモニタリング体制を広域的に整備していくことが必要である。従来の斜面監視では、現場に設置した伸縮計や雨量計などの計測データはデータロガー(データ格納機器)に蓄積され、送信装置から現場付近に設置した受信施設のパソコンへ無線で送信される。現場計測データは、インターネットを介して道路管理者などが確認することができる。これらのシステム構築には、計測機器とデータロガーの配線作業、受信施設の設置および受信施設までのインターネット接続工事などが必要となり、計測機器の設置開始からデータ監視を行うまでに一定の期間を要する**2

上記課題を解決するため、NEXCO西日本は、高速道路の維持管理の高度化に向けてnewron®(ニューロン)を開発した**2図2はnewron®による斜面監視システムの概要図である。これは、斜面の変位や土中水分量などを各種センサ機器で計測し、取得したデータを、当講座で開発した無線センサネットワーク技術と高速道路上の自営回線(光ケーブル)を活用して通信することにより、道路構造物の「常時状態監視(常時健全性の見える化)」を可能とするシステムである。無線センサネットワークにより基地局に集約したデータは、自営の無線LANアクセスポイントから道路管制センターなどを結ぶ自営回線(光ケーブル)でサーバーに送られ、各センサ機器の計測データは一つの画面で一元的に管理される。このような計測システムを構築することにより、災害などの緊急時も通信回路が封鎖されることなく継続的な通信が可能となる。本システムは設置・撤去・メンテナンスが容易な無線センサであり、斜面の土中水分や地下水位等の常時監視が可能となる。

図2
図2 newron® の概要

■newron®の活用

管理用無線を整備した2018年開通の新名神高速道路(高槻JCT・IC~神戸JCT・IC間)において、切土・盛土で11カ所、橋梁(きょうりょう)で2カ所を選定し、土工構造物では地表面変位やグラウンドアンカーの緊張力、地下水位など、橋梁では桁のひずみや変位、振動などをnewron®で計測している。実例として、平成30年7月の豪雨の際、茨木千堤寺IC付近の盛土において、RTK-GNSS変位計で4.5mmの変位を観測(図3)したため、現場での緊急点検を実施し、表層崩壊を確認できたことが報告されている**3。このように、newron®の「常時監視」は、災害時に被害が広範囲に及ぶ可能性が懸念される状況下において、即時対応が必要な緊急点検箇所が抽出でき、重篤な災害発生を未然に防止し社会的影響を最小限にとどめることができるシステムであると考えている。

図3
図3 newron® による地表面変位(RTK-GNSS 変位計)の計測結果

現在、NEXCO西日本はnewron®の適用を管内全体へ広げている。一方当講座では、高速道路の維持管理の高度化の実現に向け、取得されたデータに対する誤差処理手法の研究**4や、土中水分を用いた減災技術の研究を引き続き進めている。

参考文献

**1:
小泉圭吾、藤田行茂、平田研二、小田和広、上出定幸:土砂災害監視のための無線センサネットワークの実用化に向けた実験的研究、土木学会論文集C(地圏工学)、Vol. 69、No. 1、pp. 46-57、2013
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**2:
櫻谷慶治、藤原優、竹本将、小泉圭吾、清田有二:高速道路斜面の多目的型リアルタイム遠隔監視システムの開発-安全・安心な高速道路を目指して―、基礎工、Vol. 43、No. 11、pp. 33-36、2015
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**3:
村上豊和、前原直樹:無線センサを活用した監視システムの新名神高速道路での試行運用、第33回日本道路会議、2019
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**4:
堤浩志、小濱健吾、中村葵、小泉圭吾:斜面管理におけるRTK-GNSSデータの変化点検知手法、土木学会論文集F4(建設マネジメント)、Vol.75、No.2、pp.Ⅰ_15-Ⅰ_26、2019
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