ヒト

偉才は海外に出る

2021年12月15日

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東工大の偉才イノベーターが、コーネル大学の博士課程に進学するため、米国へ旅立った。頭脳の流出と捉えるか、情より理を優先させると捉えるか。

■若きイノベーター

2021年2月、第3回オープンイノベーション大賞内閣総理大臣賞を受賞したのは、イェール大学助教授の成田悠輔氏とともに東京工業大学(東工大)4年生の齋藤優太氏だった。受賞プロジェクトは「社会的意思決定アルゴリズムのオープンソース開発&実装基盤」だ。2020年にイェール大学の成田悠輔助教授が起業した半熟仮想株式会社と株式会社ZOZOとの産学連携プロジェクトも行う齋藤氏は、若きイノベーターの様相を呈している。

第3回オープンイノベーション大賞 内閣総理大臣賞受賞式会場で 2021年2月
第3回オープンイノベーション大賞
内閣総理大臣賞受賞式会場で 2021年2月

齋藤氏によれば、様々な業種でAIが導入されているいま、AIアルゴリズムを適切に評価することが求められていると言う。従来の技術による評価は、ある程度の規模でアルゴリズムを実際に運用する必要があったが、機械学習や因果推論などの技術を組み合わせることで、実地検証に頼らず自然に生成されたデータだけで意思決定アルゴリズムを評価できる技術を開発した。その仕組みを、株式会社ZOZO(ゾゾ)が運営するファッション通販サイト「ZOZOTOWN」(ゾゾタウン)でその有効性を検証。この技術により、ファッション推薦アルゴリズムの性能(クリック率)を、従来のアルゴリズムより40%以上改善し、アルゴリズムの継続改善を進めるための工数もおよそ30%削減した。本来なら、大事な技術は、抱え込みたいところだが、これに用いられているデータとソフトウェア開発基盤は公開し、世界中の実務家や研究者が利用できるようにした。

同賞の受賞理由にもあるように、若手によるグローバルな産学連携活動の成果で、卓越した技術の社会実装事例は、今後も様々な産業で活用が期待できるだろう。さらにソフトウェア基盤やデータを公開し、オープンイノベーションの推進に貢献しているなど、23歳の若さでその功績には舌を巻くほどだ。

そんなタイミングで、東工大のある方から逸材を紹介したいと連絡があった。「彼は、この9月に米国の大学院に進学します。東工大のフィールドが狭いのでしょう」その言葉が印象的で興味をそそられた。

半熟仮想株式会社(東京都杉並区)は、成田悠輔氏が立ち上げたスタートアップだ。齋藤氏は、同社の科学統括を兼ね、因果推論と機械学習の融合技術を用いたバンディットアルゴリズムのオンライン評価や推薦システムのバイアス除去を研究している。さらに、株式会社サイバーエージェント、ソニー株式会社、株式会社ZOZOテクノロジーズ、SMN株式会社(ソニーグループのインターネット広告会社)などと、因果推論×機械学習の社会実装や理論と実践の溝を埋める研究をしており、研究者として、そして企業との共同研究を幾つもこなしてきた。

齋藤優太氏は、2016年3月に北海道立根室高等学校を卒業後、東工大第4類に入学。2021年3月に東工大工学院経営工学系学士課程修了。同年9月には、コーネル大学コンピューターサイエンス専攻(博士課程)に入学した。

20歳前後のころは何をしていただろう。凡人の自分と重ね合わせると齋藤氏の生い立ちにがぜん興味が湧く。

アムステルダムでの国際学会発表 2021 年9 月
アムステルダムでの国際学会発表 2021年9月

■進学校でなかったので1人で勉強

筆者もそうだったが地方では、交通の便が悪く高校進学の選択肢も狭くなりがちだ。行きたい高校や行ける高校より通学の利便性を優先させ自宅から近くて通学しやすい高校を選ぶことは普通にある。齋藤氏もそんな一人のようだが、周囲に妥協し漫然と高校時代を過ごした筆者とは違い、周囲を気にすることなく自分を貫けたことだろう。

「地元に高校は2校しかなく、そのうちの根室高校に行きました。6~7割ほどが就職したり専門学校へ進学していた感覚です。大学進学は少数派で、ざっくりですが1学年200人ほどの中で10人くらいが国立の理系に進学し、さらにその中の1人くらいが旧帝大へ進む程度の高校でした。1年に1人北大に進学する人が出ればいいほうでした。進学校でなかったので1人で勉強していました」と振り返る。さらに「普通なら高校の雰囲気に流されやすいのでしょうが、めずらしいパターンですね」と自嘲気味に話してくれた。

周囲に流されることなく、自分のペースを維持しながら学ぶことのできるところは感嘆しかない。難易度や偏差値だけで進学先を選び判断する人たちに、その評価方法に対しノーを突き付けた格好だ。

■反実仮想機械学習で数少ない研究者に

大学進学時は主に機械工学を扱う学類を選択したが、あまり興味が湧かずぼんやりしていた。そこで実務に使えそうと2年生から機械学習や統計学など今につながる研究に興味を示した。特に反実仮想機械学習は、社会に必要な割には誰も研究している人がいなかったことから、この分野で数少ない研究者になろうと考えたからだ。

3年生を終えた後は大学を1年休学し、大学の授業や研究に気を取られることなく外の人と学び始めた。特にサイバーエージェントAI Lab内での研究が、自分のやりたい研究に近かったことから、同社の人たちとの研究に没頭した。休学し専攻とは違う自主研究ができたのも、個人事業主としてソニーなど外部と研究し稼いでいたからでもある。普通のアルバイトをするよりは収入はあった。

そういえば、研究と起業マインドの双方を兼ね備える研究者に共通するのは、学生時代から起業したり個人事業主として、自らの技術を糧に稼いでいた人が多いように思える。

研究が好きで論文を書くのも好きだが、研究費を含め稼ぐこともできるのも偉才イノベーターたるゆえんだろう。

8月には、『施策デザインのための機械学習入門(技術評論社、齋藤優太,安井翔太著)』を発売。23歳で機械学習の指南書まで刊行する力量も特筆すべき点だが、研究とビジネスの両輪志向は、米国でさらに磨きがかかることだろう。

(山口泰博)