シリーズURAの質保証制度

第9回 研究コンプライアンスとリスク管理、研究広報、国際化推進

RA 協議会/信州大学 学術研究・産学官連携推進機構 松山 紀里子
京都大学 学術研究支援室 白井 哲哉
京都大学 学術研究支援室 園部 太郎

2021年11月15日

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本シリーズの第9回は、第8回に引き続き、研修科目の概要について紹介する。

今回は、科目群H「研究コンプライアンスとリスク管理」の「H12:研究コンプライアンスとリスク管理①」と「H13:研究コンプライアンスとリスク管理②」、科目群I「研究広報」の「I14:広報」、そして科目群J「国際化推進」の「J15:国際化推進」の4科目について紹介する。執筆担当者は教材作成者あるいはシラバス作成者である。なお、ここで紹介する内容は令和2年度事業終了時に基づくものであり、本格実施において変更になる可能性がある。

■H:研究コンプライアンスとリスク管理(担当:松山紀里子)

■当該科目の考え方

本科目では、⼤学・研究機関等(以下「大学等」という)における研究コンプライアンスとリスク管理に関する知識の習得を目的に、研究者が知っておくべき基本的な知識から、研究活動を支援するURAとして持つべき視点、組織のリスクマネジメントという観点からURAが留意すべき事項について、具体的な事例を交えながら学ぶ内容とした。

大学等における研究活動に関する研究コンプライアンスとリスク管理①と、大学等外の組織等との産学連携活動における研究コンプライアンスとリスク管理②の2科目から構成している。

■当該科目の概要

上記を踏まえて、研究コンプライアンスとリスク管理①においては、Fundamentalレベルでは研究コンプライアンスや研究者に求められる社会的責任、研究者コミュニティや研究者個⼈の倫理観に委ねられてきた研究コンプライアンスを⼤学等の組織がマネジメントするようになった経緯と、大学等の研究者が知っておくべき研究不正⾏為、研究費の不正使⽤を中⼼に基本的な知識や用語を解説する。CoreレベルではURAが組織のリスクマネジメントにつながる助言・支援ができるように、最新情報をアップデートするとともに、研究不正⾏為および研究費の不正使⽤の具体的な事例を紹介し、原因や防止策を考える内容としている。

研究コンプライアンスとリスク管理②においては、Fundamentalレベルでは⼤学等の産学連携活動における近年の傾向を確認し、産学連携活動において⽣じるリスク項⽬(秘密情報管理、安全保障輸出管理、ABS指針への対応、契約違反防⽌、利益相反管理)について、管理等が必要な背景や対象となる活動について具体的なマネジメント方法とともに解説する。Coreレベルでは最新情報をアップデートするとともに、具体的な事象発⽣場⾯を⽰し、それに必要な対応等を考える。また、秘密情報管理や安全保障輸出管理について最新の諸外国の規制、アカデミア特有の課題として産学連携活動への学⽣が参画や留学⽣の受⼊れ等に伴うリスク、組織対組織の産学連携活動における組織としての利益相反管理などについて具体的な在り⽅も考える内容としている。

■当該科目で身につけてほしい知識や能力

本科目の履修により、個々のURAが直面するリスクマネジメントの対象となる事案を的確に判断できるようになることは期待していない。逆に、個々のURAが判断することでリスクを増大させてしまう可能性があると考えている。履修者には、研究活動の現場や研究者の一番近くで活動する支援人材として、問題となりそうな研究活動や顕在化していないリスク等をいち早く察知して、リスクマネジメント部門や担当者に相談し、協働して組織のリスクマネジメントや研究者への助言・支援ができるようになることを期待している。

■I:研究広報(担当:白井哲哉)

■当該科目の考え方

「広報」は研究を進めるための重要なツールである。研究を進めるためには、資金や資料(試料)の提供者など研究に協力してくれる人々とのコミュニケーションが欠かせない。また社会への説明責任や倫理的・法的・社会的課題(ELSI)への対応においても広報活動が必要である。一方、「広報」とは単なる情報発信の活動ではなく、その活動には目的・対象を定めた「広報戦略」が必要である。そして、このような「広報」にまつわる知識・技術を研究者が身につける機会は乏しい。

そこで本科目のFundamentalレベルでは、URAが担うべき広報活動を理解するため、広報・アウトリーチ活動が研究者に求められている背景と現状を紹介する。それを理解した上で、広報活動に必要な基本的知識を身につける内容とした。Coreレベルでは、広報活動を実行するために必要な「広報戦略」に係る基礎知識・スキルの修得を目指した。

■当該科目の概要

Fundamentalレベルでは、まず広報活動とは何かといった基本的知識を身につける内容とした。具体的には広報活動にまつわる言葉、特に大学や研究機関の研究現場で耳にする広報にまつわる言葉の意味を理解してもらう。次に、研究者に求められている広報活動について知ってもらう。研究者が広報活動をする目的や状況はどのようなものがあるかを知ってもらい、またそれら広報活動が求められる背景を紹介している。続いて、URAによる広報支援の方法とその在り方について知ってもらう。多くの大学/研究機関には既に「広報」を冠した組織が存在する場合が多く、それら広報組織とURAに求められる広報の違いを、URAの体制を踏まえて紹介する。

Coreレベルでは、まず「広報戦略」について正しい知識を身につけてもらう。具体的には、広報に関する支援依頼事例を挙げ、それに対応するケーススタディをもとに、広報戦略の考え方、組み立て方を身につけてもらう。次に、広報活動を行う時にかかせないメディアについて学習してもらう。広報に必要なメディアとは何か、どのような種類と特徴があるのかを理解してもらう。そして、それらメディアを活用する方法・留意点についての知識を身につけてもらう。最後に、広報活動の評価・効果測定について紹介する。プロジェクト・プログラムにおける「評価」の基本的な考え方を学び、それを広報活動で生かす術を身につけてもらう。

■当該科目で身につけてほしい知識や能力

「広報」にまつわる言葉は大学・研究機関でよく聞かれるものの、その言葉の意味やその活動を正しく理解している人は少ない。また、大学や研究機関には「広報」を冠した部署はあるものの、その機能の多くは情報発信にとどまっている。そのため、広報活動に漠然とした悩みを抱えている研究者は少なくない。そこでURAが研究を進めるための「広報戦略」を立て、そして実行するための専門知識を持つことで、研究を大きく飛躍させることができる。一方、広報活動に欠かせないメディアは社会とともに日々変容している。本科目で身につけた知識やノウハウを土台に実践経験を積んでもらい、そして「研究広報」に関するURA間の相互研鑽が広がることを期待したい。

■J:国際化推進(担当:園部太郎)

■当該科目の考え方

国際化推進の業務は、それを扱うURAの年齢や経歴、または所属する組織の環境や業務方針等に応じて業務の捉え方が多様である。第一に、国際化推進はURAと他者の関わりの中で調整的に推進されることが主となる業務であることから、単に知識を受講生へ提供するだけでは科目として国際化推進の業務の質を担保することは困難である。受講生においても、科目履修を通じて合理的に一定の知識を修得できたか否かということだけが学習効果を測る全てではないと思われる。したがって、本科目ではFundamentalレベルとCoreレベルを通じて、受講生の身の回りの国際化推進業務について、これまでに自分だけでは考えなかった疑問点が一つでも湧く事が重要と考え設計した。

■当該科目の概要

本科目のFundamentalレベルでは、受講生の国際化推進業務への関与の度合いに関わらず、これまでの経歴の中で「国際化推進とはどのようなものであったのか?」について振り返り、現時点の自分の立ち位置について見つめ直す端緒を提供する事を試みた。そのために、あらゆる年齢層の受講生が自分自身で経験した過去を振り返る事が可能となるように、大学の国際化に関する歴史的な背景や業務を俯瞰的に解説した。Coreレベルでは、受講生へより深い内省を促すと同時に、国際化推進業務において他者が置かれた状況を実際に想像する訓練を試行するため、教育LARP(Live Action Role Play)という手法を初めて導入した。

■当該科目で身につけてほしい知識や能力

本科目を担当した講師の一人として、本居宣長の学問論「うひ山ぶみ」にある和歌「いかならむ うひ山ぶみの あさごろも 浅きすそ野の しるべばかりも」の心境に僭越だが共感する。宣長が初学者のために書いた「学びようの法」の案内書であるが、偉大な学者ですら「いかならむ」と何が書けたか分からないという内情を残している。浅学の小職には到底及びもしない境地であるが、国際化推進業務に照らし合わせてみると、それは人と人の関わりの中で進められる業務であるから、必然と実践的な業務を経験するに従い、URA本人の志や考え方の在りようによって業務遂行へ個性的な特色を帯びてくることに気付く。個性を帯びた業務遂行の良し悪しを他者へ伝えようとしても、汎用性があるかどうかは疑わしい。本科目で受講者に気付いてほしい点は、「うひ山ぶみ」の要点にある「年月長く倦まずおこたらずして、励みつとむるぞ肝要にて、学びようは、いかようにてもよかるべく」ということである。受講生が学術分野や外国語等の専門性という抽象的な概念にとどまらず、これまで培った個性が組織の国際化推進業務へどのように生かせるのか? 生かすためには自分に何が足りないのか? さらに何に励む必要があるのか? について気付いていただきたい。