国立の研究機関による技術支援

インフラに関する革新的な産・学の研究開発を支援し公共事業等での活用を推進
国立研究開発法人土木研究所

国立研究開発法人土木研究所 企画部 研究企画課長 百武 壮

2021年11月15日

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土木研究所(土木研)は、国土交通省が所管する国立研究開発法人であり、道路・河川などの土木事業を支える調査研究、国や地方公共団体などへの技術支援を行っている。

効率的・効果的に研究開発を推進するため、民間企業や「大学等」の研究機関と連携し、共同研究などを行っているほか、土木研が保有する実験施設・装置については、業務に支障のない範囲での貸し出しを行っている。

民間企業の技術開発を促進し、社会実装と成果普及を支援するため、無利子融資で実施する委託研究開発の制度である革新的社会資本整備研究開発推進事業(革新事業)にも取り組んでいる。ここでは土木研が行っている革新事業の概要と今後の展望について紹介する。

■土木研の役割

土木研は、土木技術に係るわが国の中核的な研究拠点として、質の高い成果を挙げ、その普及を図ることによる社会への還元を通じて、良質な社会資本の効率的な整備などに貢献することを役割としてきている。具体的には、「第四期国土交通省技術基本計画(平成29年3月29日)」、「第5次社会資本整備重点計画(令和3年5月28日閣議決定)」、「防災・減災、国土強靱(きょうじん)化のための5か年加速化対策(令和2年12月11日閣議決定)」などの国の方向性を踏まえつつ、研究所の役割を果たすため、国土交通省、農林水産省との密接な連携の下で、現場が抱える技術的課題、すなわち現場ニーズを的確に捉えて研究課題を特定し、それらの課題解決を図るための研究・開発を企画・立案・実施し、その成果に基づき、現場への技術的指導を行ってきた。

また公正、中立の立場で関係者の技術的な調整を図ることで、産学官などの他機関との適切な連携により、新たな土木技術を全国の現場へ普及促進する役割を担ってきた。

■支援内容の紹介 革新的社会資本整備研究開発推進事業の背景・概要

国土強靭化や戦略的な維持管理、生産性向上に資するインフラに関する革新的な産・学の研究開発を支援し、公共事業での活用を推進するための委託研究制度。土木研の研究チームから現場ニーズ指導の並走支援を受けながら研究開発を実施でき、得られた研究開発成果(知的財産権等)は受託者に帰属する(日本版バイ・ドール規定に準ずる。後述)。無利子融資による研究資金の支援だけでなく、土木研の研究チームとの連携による情報収集や現地調査、現場での試験施工への参加の機会が得られる。次のステップとして、国の技術基準に資する土木研との共同研究への参画に展開することも考えられるため、研究開発の促進と成果の普及の両面において受託者のメリットがある(図1)。

図1
図1 革新的社会資本整備研究開発推進事業
(1)事業の趣旨・目的

「統合イノベーション戦略」(平成30年6月15日閣議決定)において、特に取り組みを強化すべき主要分野として、「安全・安心」が取り上げられており、「今後の方向性及び具体的に講ずる主要施策」では、「先進的な技術についての基礎研究や挑戦的・革新的な研究開発を推進する制度を充実させ、必要な科学技術を強力に育てていく」こととされている。また、「国立研究開発法人は、その公益性に照らし、各機関の実情に応じ、設置目的の範囲内で関係府省庁と積極的に連携し、防災・減災、宇宙、海洋といった様々な領域において安全・安心に資する科学技術を育てる」こととされている。

これを受け土木研では、土木分野の国土強靱化や戦略的な維持管理、生産性向上などに資する革新的技術を公共事業等において活用するため、産学連携、産産連携など企業や大学等の連携による実用化に向けた研究開発を支援することを目的として、本事業を実施することになった。

(2)事業実施の基本方針

社会インフラの整備、維持管理において、現場の業務効率を飛躍的に高める技術についてここ数年来開発が本格化しており、効果を発揮すべき時期となっている。このような背景を受けて本事業では、主に国土強靱化、戦略的な維持管理、生産性向上等に資する革新的な研究開発の推進に関する提案課題を土木研が公募し、選考の上、採択する。令和元年度の第一回公募では、効果の早期発現の観点から、開発が相当程度進み、早期の実用化と社会実装の可能性が高い研究を支援対象とした。

(3)研究開発実施期間

原則、最長5年。

(4)委託費の額

原則、総額5億円以内(一般管理費含む)。

(5)達成目標

インフラ分野における実用化のための技術水準(実用上最低限の性能や精度などの水準)と普及のための技術目標(効果、経済性の目標)を定量的に設定すること。

<例>

  • 実証実験やスペックを検証するための試作物の製作を完了する。
  • 試験施工で所要の性能と安全性が確認される。
  • 既往の類似技術と比較して本事業で開発する技術がどの程度優れているかを示す成果に関する定量的な指標
(6)返済義務

①目標達成の時:土木研支払額の全額。

 (返済方法)

  • 無利子、研究開発実施期間にかかわらず目標達成確認後15年以内の返済(傾斜配分の設定が可能、また、繰り上げ返済も可能)または一括返済。

②目標未達の時:委託費の一定割合(中間審査における審査で開発を中止する場合は、30%。最終審査で目標未達の場合は、50%)。本事業の委託費で研究開発を行った成果(特許、ノウハウ、データなど)の以後の代表機関、分担機関による利用・実施は不可となる。※詳細は公募要領

 (返済方法)

  • 無利子、一括返済。

③中止の時:土木研支払額の全額。

 (返済方法)

  • 無利子、一括返済。
(7)担保・債務保証

代表機関の財務状況によっては、採択条件として、委託研究開発契約締結時に委託費総額に相当する担保または債務保証の設定を求める場合がある。分割返済の場合、原則として委託費総額に相当する担保または債務保証の設定が必要。

(8)研究開発成果

研究開発成果に係る特許権や著作権等の知的財産権については、産業技術力強化法(平成12年法律第44号)第17条に規定される要件を満たすことを前提に、受託者に帰属させる(日本版バイ・ドール規定)。

なお、研究開発の元となる原権利があり、原権利の所有者(代表機関を含む)から土木研に対して当該原権利の再実施権付独占的通常実施権等を設定した場合を除いて、出願の際に土木研に再実施権付独占的仮通常実施権を設定するものとする。

(9)成果利用料

研究開発の元となる原権利がある場合は、以下のとおりとする。

土木研は、研究開発を実施した機関へ委託契約締結時にあらかじめ設定した期間(優先実施期間)は独占とする原権利の通常実施権を含む研究開発成果の実施を許諾する。研究開発を実施した機関は、委託契約締結時にあらかじめ設定した対象製品または対象サービスの売上に応じた成果利用料を土木研へ支払う。

土木研は、研究開発を実施した機関から徴収した成果利用料のうち土木研分(売上の1%)を控除し、残りを原権利の所有者へ実施料として配分する。支払期間は、目標達成確認後15年、もしくは、研究開発の元となる原権利が存続する期間のどちらか長い方とする。

なお、採択時に以下に該当している場合は、成果利用料のうち土木研分は売上の0%(支払なし)とする。

  • 自社単独技術(特許)に基づく研究開発の場合。

※原権利の所有者に代表機関以外の機関が一つでも存在する場合には自社単独技術(特許)に基づく研究開発には該当しない。

■支援の成果 採択の実績

第一回公募では一件が採択され(「レーザーによる表面処理技術を活用した素地調整方法に関する研究開発」株式会社トヨコー)、令和2年4月から研究開発が開始された(図2)。鋼橋を維持管理するための塗装の塗り替えにおいて重要な鋼材の素地調整への適用を目標としている。古い塗装、錆、塩分を除去するだけではなく、塗り替え塗装を施工するための鋼材表面処理方法について研究を進めており、土木研の材料資源研究グループが相談を受けながら、鋼橋の素地調整の基準値をクリアする実用レベルの達成目標としている。

図2
図2 鋼橋の典型的な腐食事例とレーザー照射による塗膜除去工法と従来工法の比較

今年度中に次回公募を開始する準備を進めており、民間企業の革新的な技術を土木研が把握している現場ニーズとマッチングしていくことで、生活に必要不可欠なインフラの課題解決する「使われる技術」として送り出していくよう励んでいきたい。