編集長インタビュー

STI for SDGsによる社会、経済、科学の変革
前国連10人委員会 中村道治氏の視点

2021年11月15日

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「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」の達成には、科学技術・イノベーション(Science, Technology & Innovation:STI)の活用が不可欠であることが、国際社会の共通認識となっている。日本でも、国を挙げてプラットフォームの構築を推進している。そんな中、前国連10人委員会のメンバーで、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の中村道治顧問(前理事長)のリポートが注目を集めている。

中村顧問 国連で

■国連の10人委員会、科学技術イノベーションの観点から助言

国連の「10人委員会」は、世界各国の市民社会や民間セクター、科学界から国連事務総長により任命された10人の有識者により構成され、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて、科学技術イノベーションの観点から助言などを行う。

2015年9月に国連で採択された持続可能な開発のための2030アジェンダによって、SDGsの実現に向けた科学技術イノベーション(STI for SDGs)の推進のために、①国連機関間タスクチーム(IATT)の設置、②マルチステークホルダーが参加するフォーラム(STIフォーラム)の開催、③オンライン・プラットフォームの構築、を三本柱とする技術促進メカニズム(Technology Facilitation Mechanism:TFM)が打ち出され、具体的な作業項目(Workstreams)を推進する作業チームがIATT内に立ち上げられた。

10人委員会の重要な任務の一つは、STIフォーラムの準備や運営を支援することで、STI for SDGsに関わる世界中の人びとの経験や課題の共有とネットワークづくりに貢献してきた。

中村顧問に10人委員の白羽の矢が立ったのは2018年4月のことで、IATTにおける優先作業項目の一つである「STI for SDGsロードマップの策定」を中心に、民間セクターでの経験も生かして活発に貢献してきたからだ。10人委員の任期は2021年5月に終了し、次期委員として日本から分子科学研究所の川合眞紀所長が選任された。

10人委員の活動は、STIフォーラムとその準備のための会合への参加がミニマムだが、これに加えてロードマップ策定の議論に関する年2~3回の専門家会合(Expert Group Meeting:EGM)やSDGs関連の国際会議への参加も含め、中村顧問自身は1年に10回も海外へ行く年もあったというからかなりの激務だろう。

中村顧問は任期を終えたこともあって、国連の技術促進メカニズムを支援してきた貴重な経験を聴きたいと多方面から講演依頼が絶えない。本誌では、中村顧問の講演とレポートに加え直接取材から、SDGsの実現に向けたSTIの在り方についてまとめた。

■このペースでは目標達成は困難

世界のSDGs活動は、児童の就学率の向上や電力へのアクセス、モバイル通信の普及など、一部で進捗が認められるものの、このペースでは2030年の目標達成は極めて困難と見なされている。とりわけ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックは、多くの犠牲者を出してきたばかりか、強者と弱者間で格差の拡大を引き起こし、SDGsの進展が停滞するか逆方向に推移しているとの報告があるという。国連事務総長の最新の報告によると、極貧状態の人びとの割合が2019年の8.4%から2020年には9.5%に増加した。このままでは2030年に6億人が極貧状態に取り残されると予測されている。パンデミックから脱却し、2030年の目標をいかに達成するかが喫緊の課題だ。

最近の国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)の報告によると、世界の平均気温の上昇を1.5℃以下に抑えるためには、2050年ごろのカーボンニュートラルの達成が必須であり、多様な新技術の開発や社会実装とともに社会の変容が急務と言わざるを得ない。地域の活性化も世界共通の課題であり、それぞれの強みや文化、伝統に根差した地域SDGsの加速が求められている。持続可能な開発のための2030アジェンダとSDGsは、持続可能で誰一人取り残さない社会の実現に向けた羅針盤の役割を果たすと中村顧問は話す。

■人びとの努力にかかるSDGsアクションプラン

日本では、2030アジェンダが国連で決議された後の早い時期に、2016年5月に全閣僚を構成員とする「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置し、民間セクターなどを含む幅広いステークホルダーが集う「SDGs推進円卓会議」での議論を経て、2016年12月に「SDGs実施指針」を決定した。ここで国連の掲げる価値でもあるPlanet(地球環境)、People(人びとの基本的人権)、Prosperity(経済的繁栄)、Peace(平和)、Partnership(連帯)に準拠して八つの優先課題を示し、2018年から毎年、SDGs達成に向けた日本の活動を定めた「SDGsアクションプラン」を決定しフォローしてきた。

最新のSDGsアクションプラン2021では、重点事項として、①感染症対策と次なる危機への備え、②より良い復興に向けたビジネスとイノベーションを通じた成長戦略、③SDGsを原動力とした地方創生、経済と環境の好循環の創出、④一人ひとりの可能性の発揮と絆の強化を通じた行動の加速を掲げる。このアクションプランを実践することは重要な課題で、人びとの努力にかかっている。

SDGs実現にはグローバル、リージョナル(広い地域)、国、地方、セクター、個人レベルで相互の関連性を明確にして重層的に取り組む必要がある。この中で、地方でのSDGs活動は、地域の文化や伝統技術を生かしつつ、地域向けにカスタマイズして取り込んできたことで成果を上げており、そのことは世界的にも注目されているという。社会へのSDGsの浸透を図った結果、国民のSDGs認知度は、2021年4月現在で2020年の調査の29.1%から54.2%に向上したとの電通の報告例があり今後が期待される。

SDGs ロードマップを議論する国連専門家会合参加者
2019 年ナイロビ国連事務所で

日本政府は2018年から経済、社会、環境を統合した優れた取り組みを提案する自治体を「SDGs未来都市」に選定し、先導的なモデル事例を国内で普及・展開してきた。また「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」の設立や「地方創生SDGs金融」の取り組みによってSDGs推進に向けた機運を高めてきた。そのような努力の甲斐あって、一人ひとりがSDGsを自分事として取り組むようになり、少子高齢化や人口減少などの地域課題解決をSDGsの理念を通じて推進する動きが浸透しており、大都市集中型社会から未来型分散社会への転換の原動力になろうとしている。

■STI for SDGsによる社会、経済的変革をSociety 5.0で実現

科学技術イノベーションは、科学技術的な発見や発明、社会、経済的な活動の新たな結合による非連続な経済的、社会的価値の創造だ。日本は、1995年に科学技術基本法を制定し、1996年から5年ごとに、科学技術基本計画を策定してきた。2021年には、前者が科学技術・イノベーション基本法と名前を変え、自然科学と人文科学、社会科学の境界を取り外し、イノベーションを生み出すために総合的に取り組むことが強調された。また、Society5.0の実装と科学技術・イノベーション力の向上を柱とする第6期科学技術・イノベーション基本計画(2021−2025)が発足した。

Society5.0はサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムによって、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会の実現を目指す。日本が掲げる未来社会に向けたビジョンであると同時に、STI for SDGsのアクションプランであり、これまでの経済成長中心を修正して、国民の安全と安心のための強靱(きょうじん)な社会の構築と人びとの幸せ(Well-being)に重きを置く点で、日本が新しい社会を目指すことが宣言されている。

Society 5.0は、第5期科学技術基本計画(2015−2020)においてコンセプトが示されたが、第6期科学技術・イノベーション基本計画ではその実装に向けて、カーボンニュートラリティー、デジタル変革(DX)、感染症対策、人材育成を中心に、具体的なロードマップの下にSTI政策を加速している。また、既存技術、先端技術を活用した地域SDGsの推進が強調され、地域の大学や高等専門学校(高専)が重要な役割を果たすと期待を寄せている。

■SDGsがSTIに求めるもの

1999年の「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言(ブダペスト宣言)」は、19世紀初めに始まり20世紀半ばに完成した近代科学の推進制度や体制、評価の方法、科学者の規範などに大きな見直しを迫ってきたと見ることができると中村顧問。例えば、歴史的に価値中立、研究自由が原則であった科学研究活動に、社会との関係において、価値の判断と価値の創造という新しい視座の必要性を求めている。SDGsは、世界の科学技術イノベーションのコミュニティに対して、この歴史的転換を実行レベルで加速することを要求している。

具体的な変革は以下①~⑥の六つとなる。

①ミッション志向型STI政策

その具体的な動きの一つは、ミッション志向型STI政策の実践だ。持続可能な社会の実現に向けて、科学技術コミュニティの力を最大限活用することが狙いで、経済協力開発機構(OECD)、国際学術会議(ISC)、グローバルリサーチカウンシル(GRC)などの国際機関や国際団体でも精力的に議論されてきた。今年から始まった欧州連合の研究・イノベーション枠組み計画であるホライゾンヨーロッパ(Horizon Europe)でも、ミッション志向アプローチが重要な部分を占め、五つのミッション領域で国家プロジェクト(grand challenges)が設定された。

日本では、1970s−1980sの通産省の中核プロジェクトに見られるように、ミッション志向型STIは企業の中央研究所と国立研究機関が主な担い手だった。企業の中央研究所が縮小された今、大学や国立研究機関が中心になり、産学官連携政策の下での推進が求められてきた。このため科学技術関係省庁は、それぞれにバックキャスト型の研究プログラムを拡大してきた。また、ミッション志向型政策では、いかにサイロ文化を脱して府省連携を図るかが重要課題と認識され、2013年以来、総合科学技術会議が社会課題解決のためのミッション志向型STI政策として戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)を産学官の連携の下に推進してきた。既にエネルギーキャリア、自動走行技術、レジリエントな防災・減災機能の強化を含む23のプロジェクトが実施され、先端的な技術開発とその実証試験を行うとともに、法規制の改革や社会的な受容性の面からも検討が行われ、一部は社会実装がなされている。また、2050年の社会を見据え、失敗を恐れず挑戦的な課題に取り組むムーンショット研究開発プログラム(Moonshot Research and Development Program)も開始した。これらによって日本は、ミッション志向型STI政策を積極的に推進してきたと評価されていると中村顧問は強調する。

ミッション志向型STI政策のテーマ設定と調整、実行のために、日本が共同議長として取りまとめたOECDのトランスディシプリナリ研究(TDR)の方法論は、有力な手段になる。OECDの報告書には、各国から28のプラクティスを紹介しているが、東日本大震災の教訓と災害や社会的レジリエンスに関連する様々な研究分野からの知見を統合し新しい減災研究のアプローチを構築するために設立された「東北大学災害科学国際研究所のプロジェクト」、JSTが支援し、超高齢社会である日本の高齢者が活発に活動し、コミュニティに参加できるようにするためのモビリティ技術の開発に向けトヨタと名古屋大学が中心に進めている「イノベーション拠点によるモビリティ・イノベーション・プロジェクト」、同じくJSTが支援し、京都大学が中核となり進めているSTIを通じたASEAN地域の社会的・環境的課題解決に向けた「日ASEAN科学技術イノベーション共同研究拠点」など日本の3件の事例が含まれている。

②STI for SDGsの確実な実践のためのロードマップ

人びとはこれまで、目標設定、技術開発と市場化、投資、評価と計画の見直しなどにおける不備や環境の変化から計画が不成功に終わる例を数多く経験してきた。STI for SDGsを確実に実践するためには、システマティックな方法論を確立する必要がある。特に、COVID-19によるパンデミックにより、SDGsに向けた取り組みの遅れが顕在化しており、残り10年の間により良い形で回復し、ゴールを達成するためには、このような方法論が不可欠だという。

STI for SDGsロードマップ策定の取り組みは2016年のSTIフォーラム以来、毎年開催のフォーラムや、四回実施の専門家会合で議論を重ねてきた。その結果、国連でSTI for SDGsロードマップ作成のためのガイドブックを作ることになり、2020年に最終版ガイドブックをまとめた。また2019年のG20大阪サミットで、STI for SDGsロードマップの基本指針を付属文書としてまとめるなど日本は世界のロードマップ策定のための活動に貢献してきた。

このロードマップは、単なる技術ロードマップではなく、国の開発プランとSDGsプランとSTIプランの統合プランだ。具体的には、国の優先事項に基づいて目的・スコープを定義し、現状分析、ビジョン・ゴール・ターゲットの設定、様々な道筋の評価を経て、具体的なロードマップを策定し、実施やモニター・評価を行い、当初予定していなかった要因や技術進展などを反映して次のサイクルに入る方法論が展開された。このために産学官連携をはじめ、マルチステークホルダーの参画が不可欠と言えよう。

STI for SDGsロードマップの策定は国だけでなく、グローバル、地域、セクターレベルでも取り組むべきである。またそれぞれのレベル間の連携は、SDGsにおけるガバナンスの重要な課題でもある。

このロードマップ策定の取り組みを世界に広めるために、パイロットプログラムが国連IATTで企画され、各国に募集をかけたところ、20カ国余りから参加の意志が表明された。そのうち、ガーナ、ケニア、エチオピア、インド、セルビアの5カ国が2019年にパイロット国に選ばれ、今年ウクライナが追加され6カ国になった。パイロット国は、饑餓(きが)、食料、教育、技術革新などの優先テーマに関してロードマップを策定ないし実装中である。また、ビジョン、ゴール、ターゲットの選定において、政府や産業界のトップレベルが参画する点で各国共努力している。

STI for SDGs ロードマップの策定と実践

最も重要な課題は、マルチステークホルダーの能動的な参画を実現することと国の開発計画とSTI計画の中に、SDGsを明確に位置付けること。また、ロードマップを策定し実践する上での十分な予算の確保と、最新の統計、データ、専門的知識の入手が開発途上国にとって大きな隘路(あいろ)になっており、それらの解決のために国際連携が望まれているという。

各国は、STI for SDGsの主担当機関をアサインし、国連機関やパートナー国と連携して進めてきた。このうち日本は、ケニアとインドのパートナー国として連携を図ってきた。各国は、まだ多くがロードマップの策定段階だが、ガーナとセルビアは実装段階に入っている。パイロット国はいずれも、SDG9(産業・技術革新)、すなわちSTI能力に関する指標が、同じ国の中でも一番評価が低く、日本は産業・技術革新で貢献できることを示している。

今後、パイロットプログラムのスケールアップを図り、STI能力の開発、技術移転、仲介活動などを行う上で、Partnership in Action on STI for SDGs Roadmapsと称する世界的な連携活動の展開が先のSTIフォーラムでも支持され、その実現に向けて国連が日本を含む主要各国と相談しているところだという。

さらに中村顧問は付け加える。2030年は社会的、経済的変革の一里塚で、その先を見た長期的ロードマップを描く中で、2030年のSTI for SDGsを位置付けることが必要であると。そして、日本工学アカデミーでは、2050年ごろに実現すべき社会像の観点から、スマート都市とエネルギー・食料・水のネクサスを取り上げ、そのために取るべき道筋(Pathways)を盛り込んだロードマップやガバナンスの在り方を検討してきた。未来社会のデザインとそれに向けたSTIの役割についての議論が広がることを期待したいと。

③緊急課題に向けた国際共同研究の強化

地球規模の緊急的な課題に対して、世界の科学技術イノベーションシステムをどう設計するか、科学コミュニティがどう対応するかが21世紀の特徴的な課題である。

COVID-19対策では、ワクチン開発とその提供に関する国際的連携体制と、国際公共財(Global Commons)への貢献が注目された。感染症のアウトブレイクに対する国際連携ネットワーク(GloPID-R)は、診断、ワクチン開発、治療法を含めた感染症拡大の防止に対するファンディング機関の取り組みである。また、官民連携パートナーシップである感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)は、世界連携のもとでCOVID-19ワクチンの開発を促進する活動を行ってきた。ワクチンを複数国で共同購入し、公平に分配するための国際的な枠組みであるCOVAX Facilityは、開発途上国向けの早期配布に取り組んできた。

環境問題では、気候変動に関連してカーボンニュートラルを21世紀中ごろまでに、どう達成するかが緊急課題として浮かび上がる。このために、CO2を多く排出する主要国でネガティブエミッションを実現することと、全ての国が必要なエネルギーへのアクセスを可能にすることの両面で検討する必要がある。これらは、地球規模の取り組みであり、その広がりと困難さから特に国際連携が必須である。

環境問題に関する多国間の国際連携スキームとして、Belmont Forum(地球の環境変動に関する研究への支援を行う世界各国のファンディングエージェンシーと国際的な科学組織のグループ)やFuture Earth(持続可能な地球社会の実現を目指す国際協働研究プラットフォーム)プログラムが運営されてきたが、感染症の経験を生かし、ダイナミックな国際共同研究の推進や国際公共財への貢献のための仕組みを実装することが望まれる。特に、デジタル技術の活用や、人文社会科学を含む異分野融合や市民社会の参加が不可欠である。また、国境を越えたオープンサイエンスがこの分野で拡大することが必須だ。

④世界―地域(アジア、アフリカなど)―国―地方のダイナミックな関係の強化

「世界―地域―国―地方レベル」での取り組みを、相互に緊密な関係の基に行うことがガバナンスの重要なテーマである。特に、空間の規模と地域や地方の特性を踏まえ、個々のコンテキストの下でカスタマイズされた成果を国、世界レベルに相互に移転できるように一般化し、スケールアップすることが重要だ。

2018年の国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)におけるSpecial Event「Local and Regional Government Forum」では、世界の地方政府の首長は、地方コミュニティがSDGsを積極的にドライブすると宣言した。日本からは、北海道下川町、富山県富山市、福岡県北九州市が、世界で初めての「自発的自治体レビュー~Voluntary Local Reviews(VLR)」を公表。また、2019年には、国連本部で行われたSDGsサミットで、浜松市がVLRレポートを公表。2020年のHLPFでも、地方でのSDGsへのコミットメントが増してきており、SDGsのゴールを自治体の戦略、予算、調達手段、その他の主要な取り組みと統合することが有益であると中村顧問は見る。

2011年の東日本大震災の後、JSTのマッチングプラナーが国内大学の技術ストックと被災地中小企業のニーズとのマッチングを図り、新しい形での復興に貢献した。世界、国レベルで行われる先端技術開発の成果や様々な既存技術を活用して、地方にカスタマイズしたSTI促進のために、仲介(Brokering)の役割が重要である。

⑤科学と政策と社会の懸け橋

科学と政治、社会のインターフェースは、特にCOVID-19の中でハイライトされてきたテーマである。日本では、2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故は、緊急時において相互信頼に裏付けされたインターフェースの欠如を浮き彫りにした。特に後者は、原子力コミュニティの閉鎖的体質と原子力の安全神話の横行が背景にあった。

昨年来のCOVID-19パンデミックでは、政府や地方自治体に設置された専門家会議が、科学技術の限界や不確実性を前提にした上で、関係者間の相互信頼とコミュニケーションに務めてきた。しかしながら、科学コミュニティの声が、政策決定にも社会の変容においても、十分に反映されてきたとは言えず、科学と社会と市民社会のインターフェースの在り方が問われてきた。8月30日~9月2日に開催された「政府に対する科学的助言に関する国際ネットワーク(International Network for Government Science Advice :INGSA)第四回総会」でも、これらに関して幅広い議論が交わされた。

特に科学と政治のインターフェースでは、科学エビデンスの総合化(synthesizing)と仲介(Brokering)が重要である。このために、科学コミュニティが、科学技術的な知見だけでなく、社会的、経済的な観点を統合化した助言のための能力を育てる必要あり、自然科学と人文・社会科学の連携(学際性)と共に、科学コミュニティを超えて、市民、行政、民間セクターなどの多様なステークホルダーの知識の活用(共創性)を図るトランスディシプリナリ研究(TDR)が重要になる。

今日、科学と政治、社会の間のリニアモデルから、科学、政治、社会のエコシステムへの転換、自然科学、人文・社会科学を含む総合知の活用と観点で、「科学―政治―社会」のインターフェースは新しいフェーズに移行しようとしていることを認識すべきである。科学と政治だけでなく、社会も加えたエコシステムの構築が意志決定に重要である。個人や集団としての行動が変容しないとSDGsは達成できないし、個人や集団の声が政策決定に反映される必要がある。

⑥科学技術セクターの個人・集団レベルでの能力向上

国連SDGs決議は、「Transforming our world(我々の世界を変革する)」を標榜している。これは近代が築いてきた政府、経済、産業、教育、科学技術、生活システムなどの変革を促している。その中にあって、科学技術セクターの多層なレイヤーにおける個人と集団の意識改革と能力の向上、そのための教育・訓練システムの目的と方法の変革が必須ではないだろうか。

例えば、新たな研究の方向性として議論されてきた、未来社会のデザインや統合型、構成論的な研究の推進、エビデンスの提供のための自然、社会のセンシング技術の深耕、膨大な既存技術の棚卸し(stock-taking)と特に地方STI for SDGsや開発途上国への活用、TDRの推進や、デジタル変革を担う多様な人材の育成が必要だ。これらを実践する上で、社会が求める人材を研究人材、イノベーション人材、ガバナンス人材のカテゴリーに分類し、これらの人材群に応じ、個々人の適性などを踏まえつつ明確な目的を持って人材育成を行うよう、高等教育で教員と学生の双方の根本的な意識改革とカリキュラム改革が必要である。このために研究大学に加えて、実務技術者を育成するための大学、高専の充実が重要であるとの見立てだ。

また、今日のように、科学技術のフロンティアが過去にない速度で展開することから、これらを担う若い世代の研究者が、国際的な視点でSDGsへの貢献について考え、政治や市民社会との対話に参加し、さらに将来政策立案に参画することが望まれる。また、STIに無関心な若い世代が、同世代の活動から刺激を受けることを期待したいと話す。

中村顧問

■STI for SDGs中村教訓例

2030アジェンダは、社会、経済、科学が連動して変革することを求めている。中村顧問は、STI for SDGsを通じて、これを実践することがわれわれの責務であるとし、以下7項目がこれまでに得られた教訓例。次のように締め括った。

  • ①SDGsは全ての人びとにとって未来への羅針盤
  • ②不確かな時代において日本の価値観とリーダーシップが重要
  • ③STI for SDGsを通じた社会、経済、科学の変革
  • ④米中のイノベーション力、欧州のグリーン政策に学ぶ
  • ⑤多様なステークホルダーとの共創、協働、共益
  • ⑥地域、市民の活動が重要な役割を果たす
  • ⑦国際的な活動を通じて日本を考える

(聞き手/文も 山口泰博)