特集公設試のお仕事

「家具のまち」大川への製品開発支援 インテリア研究所の新たな取り組み

福岡県工業技術センター インテリア研究所 専門研究員 友延 憲幸
福岡県工業技術センター インテリア研究所 研究員 石川 弘之

写真:福岡県工業技術センター インテリア研究所 専門研究員 友延 憲幸 写真:福岡県工業技術センター インテリア研究所 研究員 石川 弘之

2021年11月15日

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■「家具のまち」大川

福岡県工業技術センターは、県内の各産業集積地に研究所を配置した4カ所体制で支援業務を行っており、筆者らが所属するインテリア研究所は、国内有数の家具産地として知られる大川市に所在している。大川市は家具・建具の製造企業をはじめとして、木材、化粧合板、家具金物、塗料などの資材関連やファブリック関連の企業が多数集積し、インテリア産業を基幹産業として発展してきた。

婚礼家具の生産を中心に行ってきた大川市のインテリア産業は、高度成長期から右肩上がりに成長し、バブル期にはピークを迎え、年間出荷額は約1,900億円にまで達したが、以降は減少の一途をたどり、現在は3分の1程度の出荷額にまで落ち込んでいる。この一因としてバブル期以降に、住居様式、生活スタイル、購買パターンの変化からの多様なニーズが顕在化したところで、大川のインテリア産業はそれらのニーズに対応した製品開発に立ち遅れたことが挙げられる。その一方で国内の家具産業界において台頭してきたのは、豊富な資金力や人材を基に開発力や提案力が高い中堅企業や大企業、外資系の企業である。大川市のインテリア産業は約80%の企業が小規模事業者である。

中小企業白書**1によると、多くの小規模事業者は経営課題として「新商品・新サービスの開発」を挙げている。大川市のインテリア産業も同様の課題を持ち**2、現状においても特に小規模事業者は多様なニーズに対応するための企画やデザインなどの専門的な人材が不足し、他社との差別化を図った新製品開発を行うことが困難な状況が続いている。

■インテリア研究所の業務

インテリア研究所は、2021(令和3)年10月1日現在、事務職を除き所長、課長、研究員8人の計10人で構成された小規模な研究所である。それぞれ異なる専門分野を有する研究員はデザイン・システムと木材化学・室内環境の二つのチームに分かれ、各分野の研究開発を主要業務として大川市を中心とする福岡県内の家具メーカーの製品開発を支援している。

デザイン・システムチームは主に、安全性や快適性・使い勝手などの「ヒト」に優しい製品を開発するための人間工学技術と、CAD/CAMにより加工データを作成しNC工作機械を用いた木材の高度加工の設計・生産技術に基づいた成果を利用した製品開発の支援を行っている。また木材化学・室内環境チームは木質系材料の高機能化(寸法安定化・不燃化など)や塑性加工技術に関する研究を通して製品開発を支援している。近年では、子どもの学習姿勢を良くする機能や形状を持つ椅子や机などの開発や塗装・接着方法から材料の高機能化を図った製品を開発している(写真1)。

写真1
写真1 これまでの製品開発支援事例

研究開発以外の業務では、家具のデザインや木材の加工技術に関する相談への対応や、家具本体の強度試験や素材そのものの改質・分析の試験の実施、設備機器の貸し出しなどがあり、企業からの依頼に応じた支援である。特に家具本体の強度試験は毎年1,000件を超え、研究開発に並ぶ主要な業務となっている。

以上の業務を中心に、インテリア研究所は大川市のインテリア産業を中心に福岡県内の家具メーカーの技術課題に対して貢献してきたが、こうした支援を特定の企業に継続して行うことは、所の体制や公平性の観点により難しく、一つ一つの対応が単発的な支援となっている現状がある。支援を受けた企業も小規模事業者であると、自ら開発を発展させていくことが困難であると考える。こうした状況を踏まえ、支援後にも企業が自立して製品開発を行えるような企業の育成を図る支援方法の必要性を感じていた。そこで今回、製品開発の支援を行いながら、専門的な人材の育成も行い企業力を強化することを目的とした新たな支援事業を開始したところで、この取り組みについて紹介する。

■インテリア研究所の新たな取り組み「製品企画力高度化支援(NIKAWA)事業」

新たな支援事業とは、2018(平成30)年度より開始した福岡県の重点事業「家具ブランド力向上支援事業」において実施中の製品企画力高度化支援事業(NIKAWA事業)*1である。本事業の主旨は、その企業の基幹ブランドとなる新製品の開発を通して戦略的な製品開発ができる人材を育て、製品を企画する力を強化し、活力ある企業の育成を図ることである。やる気を持った福岡県内の家具メーカー(主に小規模事業者を選定)1社1社に対して、製品コンセプトの構築から製品化までを一貫して支援する内容となっている。

以下、具体的な支援の流れを説明する(図1)。まず、各年度、事業に参加する企業を公募で3社募る(図1―①)。参加企業は、九州産業大学芸術学部の青木幹太教授、インテリア研究所をはじめとする各専門分野の有識者で構成された製品開発グループの意見を取り入れ「製品コンセプトの構築」を行う(図1―②)。続いて、構築した製品コンセプトを具現化するため、プロポーザル方式の公募によって選定されたデザイン事業者が「デザイン」作業を担う(図1中―③、④)。そのデザインを基に参加企業は試作品の製作を行い、試作品の検証を重ねることによって機能や意匠を洗練させ製品化へと導く(図1ー⑤、⑥)。以上の内容を当該年度で進行する。

図1
図1 NIKAWA 事業における製品開発プロセス

事業開始以来、本事業に参加した企業は12社を数える。参加した企業の応募動機は本事業で行う製品開発を通して企業力を強化することで共通しているが、製品開発のアプローチはこれまで培ってきた加工技術や材料の調達能力を生かした従来の領域を利用した開発や、全く新たな技術への挑戦をしながら新たな領域を模索した開発など参加企業により様々な方向性を持っている。その中で、本文では後者の方向性で開発を行った株式会社志岐(福岡県柳川市)の事例を紹介する。

志岐は、主に箱物家具の製造を行う従業員16人(事業参加当時)の企業である。箱物家具の中でもテレビ台やチェストの製造を得意としていたが、それらの市場は飽和状態、また製品のコモディティ化を感じており、近年あらゆる家具の中でも比較的好調なベビー・キッズ家具の市場に参入したいと考えていた。ただし社内に専任で製品を企画する者やデザイナーがいないこともあり、二の足を踏んでいたところ、本事業を知り、専任者を立てて参加することとなった。

製品開発プロセスでは志岐が中心となり、適宜、その他の製品開発グループがフォローを行った。製品コンセプトの構築では、強み、弱み、機会、脅威の観点から自社の経営資源やマクロ環境を分析・整理するSWOT分析を用い、参入するベビー・キッズ市場の分析や自社の技術的な強みや弱みの洗い出しなどを行い、その市場の中でどの製品を開発するか検討を行った。それにより、ベビー・キッズ市場の中でもニッチな分野であり、また志岐にとっては新たな技術領域となるスツールやテーブルといった脚物家具を開発することに決定した。

デザイン事業者に依頼する内容の仕様書の作成では、「どのような書き振りをすることによって自分たちの意図する内容が伝わるか、理想のデザイン案が出てくるか」を踏まえながら、志岐が作成を行った。こうして仕様書は、「木材の質感、手触りの良さを生かし、キッズ(幼児)から大人までのサイズバリエーションを備えた『スツール』、および『キッズテーブル』の開発」というテーマで完成し、公募を行ったところ、9者から10の提案が届いた。そのうち一つの提案に絞り、デザイン事業者と協働で試作を行った。志岐とデザイン事業者がお互いの考えを理解し協調して試作を進めるために、製品開発グループは双方の考えの橋渡しを行い、そのやり取りを通じて志岐は、自社の現在の自社製品を製造する内部的・外部的環境、また将来の環境を見据えながら最終的に製品化を実現した(写真2)。

写真2
写真2 製品化したスツールとテーブル

志岐は事業終了後のアンケートにおいて、本事業の実施内容に満足していると回答している。また、事業終了後も本事業においてパートナーを組んだデザイン事業者と製品開発を進め、本事業で取り組んだ経験を生かして、今後も製品開発に取り組んでいきたいという感想であった。志岐を含め本事業に参加した約8割の企業からは本事業の内容に満足をしているとの回答を得ており、現時点では、本事業の進め方は適切な支援手法であったと考える。今後もより多くの企業を支援していくために、参加企業の成果をより多く公表し本事業の認知度を上げていくとともに、支援内容についても精査し、本事業をブラッシュアップさせていきたいと思う。

*1:
福岡県ホームページ内 家具ブランド力向上支援事業「製品企画力高度化支援事業-NIKAWA-」
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参考文献

**1:
中小企業庁、中小企業白書2014 年度版
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**2:
一般財団法人 大川インテリア振興センター、H28 年度経営者意識調査結果報告書
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