特集公設試のお仕事

社会のニーズに合わせた性能評価の開発から応用展開

地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所 石黒 斉

2021年11月15日

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■プロジェクトの概要

地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)光触媒グループは、光触媒技術の基礎および応用研究を遂行してきた。その一環として、抗菌・抗ウイルス性能評価方法をはじめ、数多く光触媒に関する性能評価方法の確立に向けて取り組み、各種JIS/ISOの制定に尽力してきた。その後、文部科学省の地域イノベーション戦略支援プログラムの支援を受けながら、評価技術センターの構築を行い、光触媒反応による、抗菌・抗ウイルス性能評価を広く社会に提供してきた。その結果、プログラム終了時には評価技術センターの構想から構築、実装へと順調にステップアップさせ、国内外の中小企業や研究機関で行われている、抗菌・抗ウイルス加工製品の研究開発に寄与する体制を整えることができた。また、現在も社会ニーズに対応する新しい評価技術の開発と提供を行うために評価技術センターの確立を最重点課題として活動を行っている。

■背景や経緯

KISTECは神奈川県立産業技術センターと公益財団法人神奈川科学技術アカデミーの二つの組織が2017年4月に統合し設立された。この統合により、「研究開発」「技術支援」「事業化支援」「人材育成」「連携交流」の五つの柱を注力する事業として掲げながら、他の公設試験研究機関(公設試)には見られない多岐にわたる研究推進や技術支援が可能となった。

研究開発部に所属する光触媒グループはこれまで、光触媒に関する基礎研究から応用、実用化研究まで進めてきており、その技術の確立と製品化に取り組んできた。特に、2007年度より循環社会構築型光触媒産業創生プロジェクトとして、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業(プログラムリーダーは橋本和仁氏)がスタートし、本事業の中で、可視光応答形光触媒の開発とともに光触媒による抗菌・抗ウイルス性能評価方法の確立に向けた多くの検討を行った**1

その結果、本事業により、光触媒加工品の性能評価方法として、ISOやJISが制定された。これによって、各企業による光触媒材料や加工品の研究開発のさらなる推進が可能となった。

一方で、抗菌・抗ウイルスに関する性能評価を行うためには、微生物を取り扱うことができる設備が必要であるため、多くの中小企業で各種規格に基づいた抗菌・抗ウイルス性能評価を行うことは困難であった。そのため、正確な光触媒の抗菌・抗ウイルス性能評価方法を提供することが、企業の研究開発を推進するために必要とされた。そこで、2013年度より文部科学省地域イノベーション戦略支援プログラムの支援の下で、光触媒による抗菌・抗ウイルス性能評価方法の提供体制を整え、各企業の研究開発事業の技術支援を開始した。さらに、光触媒加工品以外の抗菌・抗ウイルス性能評価の提供の開始や、新たな評価方法の開発とその提供に向けた活動を産官学連携の下で取り組んでいる。

■具体的な取り組み

地域イノベーション戦略支援プログラムの支援の下で、光触媒加工品に関する抗菌・抗ウイルス性能評価の提供体制を整え、数多くの企業や研究機関に対して、抗菌・抗ウイルス性能評価を開始した。また、光触媒加工品ではない抗菌・抗ウイルス加工品の評価も重要であることから、光触媒加工品以外の抗菌・抗ウイルス加工品についても、その性能評価の提供を開始している。同時に新しい規格の制定に向けた研究を進め、光触媒工業会との共同研究などを通じて、実環境を想定した光触媒による抗菌性能評価方法やISO規格のJIS化を行っている。これらの具体例について、紹介したい。

先に述べたNEDO事業で制定した可視光応答形光触媒による抗菌性能評価方法で、高い抗菌・抗ウイルス性能が認められたサンプルを実際の生活環境下に設置し、その抗菌性能を長期にわたって評価したところ、抗菌性能は確認できたものの抗菌性能評価方法で得られるような高い抗菌性能が確認できなかった。これは、試験室内で行われる評価と比較して、環境負荷が高いことが一因と考えられた。そこで、環境負荷を考慮した新しい抗菌性能評価方法が必要と考えられ、産官学で連携しながら新しい性能評価方法の開発を行った。

この性能評価方法の大きな特徴は、菌液の接種方法と光照射時の環境条件である。接種方法は、従来の規格で行われていた細菌を液体中に懸濁した試験菌液ではなく、粘性を持つ試験菌液を不織布に接種した後、試験菌液を抗菌加工品に直接塗布する方法とした。この方法により、生活環境中で人が触れ、汚れが付着したような状態を模擬することが可能となった。また、光照射時の状態を生活環境と同等の温湿度として、光照射を行う方法とした。この新しい抗菌性能評価方法が2020年にISOとして制定されたことにより、使用状況を想定した抗菌評価での評価を行うことが可能となった。その他、光触媒による防藻性能評価方法のJIS化、光触媒の性能評価で用いる可視光および紫外光LEDの標準化(ISO化)などについて産官学連携の下で取り組んでいる。

新規評価方法の標準化と並び重要なことは社会への評価方法の提供である。この点について、KISTECでは文部科学省地域イノベーション戦略支援プログラムの支援の下で展開した評価技術センターによる取り組みを継続、発展させている。

表1は抗菌・抗ウイルスに関するJIS規格、ISO規格と用いる微生物である。これらの規格に沿った性能評価を提供することで技術支援を行い、企業等による抗菌・抗ウイルス加工品の研究開発に寄与している。一方、研究開発段階ではこのような規格類に沿って評価を行うことが困難なケースが多々あり、適切な性能評価を行わなければ、本当にその材料や製品に抗菌・抗ウイルス効果が認められるものか判断が不可能である。そのような材料や加工品に関して、これまでに得られている多くの知見を活用しながら様々な工夫を行い、加工品に合わせた性能評価の提供を進めている。具体例としては、吸水性が高い加工品、試験片面が平面状や繊維状ではない特殊な形状、反応条件が規格と異なる性能評価や開発機器を持ち込んでの性能評価など多岐にわたっている。また、光触媒加工品による抗ウイルス性能評価の規格では、バクテリオファージを用いることになっているが、実際のウイルスを用いる評価の要望が高く寄せられていた。バクテリオファージを用いる理由としては、光触媒による抗ウイルス効果は光触媒反応による分解作用によるため、ウイルス種を選ばずに抗ウイルス効果が発揮されることに基づいており、バクテリオファージは安価で簡便なモデルウイルスとして利用されている。一方、光触媒加工品以外の抗ウイルス加工品の場合、使用する微生物は動物細胞に感染するウイルスであるインフルエンザウイルスやネコカリシウイルス(ノロウイルス自身を増やすことが困難なため、ノロウイルスの代替ウイルスとして用いられる)を対象としている。そこで、光触媒加工品についても実際のウイルスを用いた性能評価を提供できる体制の構築を進め、その提供を開始した。

表1 各種性能評価方法の一覧
表1

図1は文部科学省地域イノベーション戦略支援プログラム開始から、性能評価試験数の年度ごとにおける推移を示したグラフである。グラフに見られるように、抗菌・抗ウイルス性能評価の提供件数が伸びており、当初の評価技術センターとしての構築を順調に進めた結果であると考えている。さらに、2020年の新型コロナウイルス(Sars-CoV-2)の感染拡大により、診断キット、治療薬の研究開発のみならず、様々な抗ウイルス加工品の性能評価ニーズが高まり、製品開発が世界中で加速した。そのため、抗ウイルス性能評価を提供している各種機関への相談、依頼が集中してしまう事態となった。これにより、KISTECを含め、国内の多くの試験機関で抗ウイルス性能評価の受付を一時停止するなどの対応を取る必要が生じたが、現在は各試験機関それぞれの努力によって、抗ウイルス性能評価の受付を再開している。

図1
図1 抗菌・抗ウイルス性能評価の提供件数

■課題・打開策

このような状況と前後して、実際の標的であるSars-CoV-2を用いた抗ウイルス性能評価を求める声が非常に多く寄せられていた。しかし、Sars-CoV-2を使用した抗ウイルス性能評価を行うためには、バイオセーフティーレベル3(BSL3)施設を持ち、Sars-CoV-2を入手、使用可能な状態を維持している必要があり、KISTECではそれらの要望に応えることができない状況であった。このため、社会的に非常に高いニーズであるSars-CoV-2を用いた抗ウイルス性能評価を提供するために、BSL3施設の整備、Sars-CoV-2の入手と評価方法の立ち上げが大きな課題であった。その課題を解決するため、神奈川県の支援を受けながら、KISTEC内にバイオセーフティーレベル3に対応した施設を産官学連携の下、急ピッチで整備し、各所の多大な協力をいただくことで、2020年12月にBSL3施設を新設し、公設試として初めてSars-CoV-2を対象とした性能評価方法の提供を開始することができ、Sars-CoV-2そのものを用いた抗ウイルス活性を評価した結果を基にした製品化が進められている。

■今後の方針(展望)

以上、KISTECにおける社会ニーズに合わせた性能評価方法の開発からその応用までの実績を紹介した。このように光触媒に関する基礎および応用研究から実用化、標準化と各ステップを着実に超えていき、評価技術センターとしての構想から実装、さらに社会ニーズに応えた性能評価方法の開発から提供へと活動を広げてきた。また、光触媒グループではこれまでの光触媒研究の知見や技術を生かした、光触媒に関する性能評価について総合サポート支援として、抗菌・抗ウイルスだけでなく、空気浄化をはじめとした各種性能評価の提供など幅広く光触媒に関わる技術支援を行っている。今後は、これらの活動を通じて、引き続き各種性能評価試験の提供により、多くの企業や研究機関を支援できるように努めていく。

例えば、Sars-CoV-2を用いた抗ウイルス性能評価については、性能評価方法が確立している平板状または繊維状の抗ウイルス加工品の対応としており、標準化が進んでいないその他の抗ウイルス加工品へは対応していないがさらに多くの形状の抗ウイルス加工品に対応した性能評価を提供するべく整備を進める予定である。また、KISTECの評価技術センターは、抗菌・抗ウイルスに関わる性能評価だけではなく、機能性食品の持つ生体への影響評価など最先端技術の評価の提供を行っている。今後も引き続きこれらの活動を推進するとともに、様々な社会ニーズに対応した新しい評価方法を創出し、提供すべく活動を続けていく予定である。

参考文献

**1:
「循環社会構築型光触媒産業創生プロジェクト」事後評価報告書. 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合研究開発機構 研究評価委員会.平成25年3月.
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