シリーズURAの質保証制度

第8回 産学官連携、地域連携、知的財産

RA 協議会/電気通信大学 研究戦略推進室 森倉 晋
群馬大学 研究産学連携推進機構 伊藤 正実
株式会社東京大学TLO 山本 貴史

2021年10月15日

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本シリーズの第8回目は、第7回に引き続き、研修科目の概要について紹介する。

今回は、科目群F「セクター間連携」の「F9:産学官連携」と「F10:セクター間連携」、そして科目群G「知的財産」の「G11:知的財産」の3科目について紹介する。

執筆担当者は教材作成者あるいはシラバス作成者である。なお、ここで紹介する内容は令和2年度事業終了時に基づくものであり、本格実施において変更になる可能性がある。

■F9:産学官連携(担当:森倉晋)

現在、国内の大学等でURAの業務に携わっている者は、169機関の1,459人であり、そのうち、産学連携・地域連携を担当しているのは388人(26.5%)で、URAの担当業務区分として最も多い状況になっている**1。本節では、大学等の研究機関と企業間の橋渡しを行い、成果の活用と応用により、新たな産業や価値の創造を先導する産学連携の業務で不可欠となる知識と能力に関して、URAの質保証の観点からFundamentalレベルとCoreレベルに分けて説明する。

■当該科目の考え方

Fundamentalレベルでは、産学連携の意義や目的を理解し、企業との連携の手法、共同研究や技術相談における外部資金の受け入れ、論文発表や知的財産などの研究成果の取り扱い、および利益相反などの企業との連携における留意点について基本的な知識を習得する。

Coreレベルでは、産学連携の最新動向や役割を深く理解し、企業をはじめとする外部機関などとの間でWin-Winとなる適切な産学連携を企画、提案、調整、推進するために必要な実務に関する知識と能力を習得する。

■当該科目の概要

Fundamentalレベルでは、まず、産学連携の世界的な潮流や各ステークホルダーの役割と相違点、技術相談窓口の開設・運用やイベントなどへの出展による研究シーズの紹介と企業等とのマッチングの場の設定、共同研究、受託研究、寄附金、技術指導などにおける条件整理と契約交渉、さらに包括的連携協定の締結による組織対組織の活動などについて学ぶ。次に、特許を中心とする知的財産関連の契約手続やプレスリリースなどによる研究成果の活用、および大学発ベンチャーなどの研究成果の社会実装の方策を理解する。

Coreレベルでは、産学連携を形成する形態として、企業ニーズの受け入れ、大学等の研究シーズの提案、複数機関が参画する連携プロジェクト、コンソーシアムの形成などを理解し、それぞれの形態における大学等と企業間のマッチング方法や契約交渉および知財活用などを学ぶとともに、交渉や契約締結の過程における注意すべき事項などを習得する。最後に、グループワークとして、企業との共同研究等を題材とするケーススタディに取り組む。

■当該科目で身につけてほしい知識や能力

新たな事業の創出や雇用拡大等を担う企業と、先端的な学術研究、学生の教育および社会貢献を担当する大学等の立場の違いを理解し、継続的な討議のプロセスを経て、双方が納得する産学連携の方向性と着地点を見いだす知識と交渉能力などを身につけていただきたい。

■F10:地域連携(担当:伊藤正実)

■当該科目の考え方

地域連携と産学連携は概念的には密接不可分であり、双方を切り分けて論じることはできない。しかしながら、以下に述べる二点において、産学連携に対比する概念として、地域連携を捉えられる。

  • ①産学連携は、経済活動を目的とする産のセクターと新たな知識の創出とその成果の公開を目的とする学のセクターの相互作用であるが、地域連携の場合は、関与するセクターは多岐にわたる。過去の大学が関与した地域連携事例を見ると、産学以外には、地方自治体、金融機関、商工会議所などの経済団体、中学校や高校等の各種教育機関、あるいは市民団体等、そのバリエーションは多様である。
  • ②地域連携ではその字義のとおり、ある特定地域における近接性から期待されるシナジー効果が意識される。ただし、その地域の広さについては明確な定義は存在しない。

一方、地域連携は、大学のリソースを地域に提供する社会貢献活動と誤解される場合があるが、大学にも何かしらのインセンティブが発生しないと継続性は担保されない。必然として、大学外セクターの目的や行動原理を理解して、これと大学側にインセンティブが得られる条件と折り合いをつけることが求められる。Fundamentalレベルでは、地域連携における目的や、地域連携に関連ある大学の制度などについて主眼を置き、Coreレベルでは、先に述べたインセンティブ構造の相違を理解するとともに、URAとしてのこれに対する対処の在り方を学ぶ。

■当該科目の概要

Fundamentalレベルでは、最初に地域連携に関連した各省庁の法令や施策について示し、さらに地域連携に関わる様々なセクターの性格や行動原理について解説している。また、地域連携における大学の制度や枠組みについて、網羅的に紹介している。Coreレベルでは、地域連携の仕組みやプロジェクトにおいて、イニシヤチブを取るセクターによって、どのように地域連携の性格が変わるか述べ、その際に大学特有の行動原理に起因するインセンティブ条件から由来する、地域連携における制約条件について学ぶとともに、実際にURAが地域連携のシステムやプロジェクトに関わる上で、何を留意すべきか解説している。

最後に、大都市圏と地方都市における地域連携事例を紹介し、それまでの講座の内容を踏まえて地域特性に起因する相違点について理解を深めることを目的としたグループ討議を行う。

■当該科目で身につけてほしい知識や能力

セクター間連携において成果を得るには、セクター間のインセンティブ条件の相違を認識して、これに基づいて、セクター間の関係調整をする必要がある。そのためにはそれぞれのセクターの行動様式の理解をする日常的な努力が必要である。こうした研鑽(けんさん)を積むことにより、自らがプロジェクトやシステムを企画して様々なセクターを巻き込んで能動的に活動を行うことができるようになる。

■G11:知的財産(担当:山本貴史)

大学によって知的財産権は産学連携本部や技術移転機関(TLO)が扱うため、URAは深く関与しないと思われていることも多い。しかしながら、研究成果の一つである知的財産権についてURAが深く理解していることは、国プロの獲得や、大型共同研究の獲得といったことにつながることであり、また、研究者とのコミュニケーションでは必要不可欠なことである。この科目では、URA業務遂行に必要最低限の知的財産権に関する知識の習得とそれを見いだせるスキル・ノウハウの獲得を目指している。

■当該科目の考え方

Fundamentalレベルでは、知的財産権の種類といった必要最低限の基礎知識の習得を目指す。主に、特許権の要件とライセンスを想定した判断基準を学ぶ場となる。

Coreレベルでは、実践の場において、URAが発明者とコミュニケーションを行う中で、どのように知的財産権を発掘し、研究の方向性や共同研究獲得に向けた戦略立案が策定できるかについて学ぶ場となる。

■当該科目の概要

Fundamentalレベルでは、知的財産権の中で、主に特許権を中心に商標権・意匠権・著作権などについて基礎的な解説を行う。具体的な事例からどのような発明の成果が特許権になるかといった要件などを学び、ライセンスを意識した知的財産の取り扱いの判断基準も学ぶ。また、昨今注目されているデータの取り扱いについても解説し、知的財産権の基礎知識の習得を目指す。

Coreレベルでは、ケースメソッド方式で、仮想ケースを設定し、ロールプレイ形式とグループディスカッションで疑似体験型学習を行う。URAが実際に発明者との会話の中で、いかに知的財産権を見つけ出し、その取り扱いについてどのように考え、競合研究との比較から方向性を見いだし、発明者や知的財産部門に対していかに説明を行えるかを考えるケースである。

■当該科目で身につけてほしい知識や能力

大学によっても個々のURAによっても異なるが、URA業務において、知的財産権は必要不可欠な知識である。技術を文章で記述し権利を与えたものが知的財産権であり、これを理解することは、研究・技術戦略を研究者のパートナーとして考える第一歩となる。知的財産そのものの専門的な理解よりも、技術戦略を考えるツールとしての知的財産の理解と活用を考えてほしいと願っている。また、国プロや大型共同研究などの獲得においても、研究の成果としてどのような知的財産が生まれるかが重要視される傾向が強くなっている。そのためにも、知的財産に関する知識の習得は、より深い研究戦略立案の一助になると考える。

参考文献

**1:
令和元年度科学技術人材育成等委託事業 「リサーチ・アドミニストレーターに係る質保証制度の構築に向けた調査研究」成果報告書
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