特集大学発ベンチャー表彰2021

日本ベンチャー学会会長賞
細胞外マトリックスに関する研究成果を活用してライフサイエンスと再生医療の発展に貢献する

株式会社マトリクソーム 代表取締役社長 山本 卓司

写真:株式会社マトリクソーム 代表取締役社長 山本 卓司

2021年10月15日

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大学の寄付研究部門で得られた研究成果を元に応用開発研究を行い実用化、その後製品開発と実製造を支援企業である株式会社ニッピが行い、完成した商品をマトリクソーム社に販売委託する、アカデミアと企業の研究ネットワークを活用する特色ある経営が評価された。

■細胞外環境を科学するマトリクソーム

株式会社マトリクソームは、「細胞に最適な細胞外環境を提供すること」を目指して設立されました。社名のマトリクソーム(MATRIXOME)は、細胞外マトリックス(ECM)を表す「MATRIX」と、全体を意味する接尾語の「OME」を組み合わせた、関口教授ら(大阪大学)が提唱する新しい言葉です。このマトリクソームは、全てのECMタンパク質の総称であると同時に、それらのタンパク質同士が作用する相互関係も含めた意味を表しています。

従来、生化学分野においては、これらのECMタンパク質は、生物の構造を支える構造物であると考えられてきました。しかしながら、近年の細胞生物学の研究から、細胞とECMタンパク質は、相互に協調しながら、細胞の生存や分化の方向を決定付けていることが明らかになってきています。このようなECMタンパク質の働きを解明するためには、どの種類のECMタンパク質が、発生のどの時期に、生体内のどの場所で発現しているかを詳細に調べる必要があります。関口教授らは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の支援を得て、これらの情報を詳細に検討する「MATRIXOME PROJECT(マトリクソームプロジェクト)」を実施し、その結果を「Mouse Basement Membrane Bodymap」として公開しました。

当社は、この研究成果を元に、細胞培養を行う際に、目的の細胞に最適な細胞外環境を提供することを目的として、研究開発と製品の販売を行っています。

マトリクソーム社のコア技術である
「ラミニンE8 断片タンパク質」の模式図

■ライフサイエンスと再生医療の発展に貢献するために

マトリクソームプロジェクトの大きな成果の一つは、マウス胚性幹細胞(ES細胞)の元となる細胞が、生体内で足場として接着しているタンパク質が、ラミニン511タンパク質であることを見いだしたことです。関口教授らは、この知見をもとに、従来はフィーダー細胞と呼ばれるマウス線維芽細胞を基質として培養されてきたES細胞を、人工的に作製したラミニン511上で培養することに、世界で初めて成功しました。さらに、全長のラミニン511タンパク質の中の、細胞培養に必要な部位だけを見つけ出し、断片化することで、細胞接着活性を高めるとともに、産業化に向けた製造の高効率化と低コスト化を実現しました。このラミニン511-E8タンパク質は、大阪大学蛋白質研究所とニッピの共同研究によって「iMatrix-511」として製品化され、ES/ iPS細胞の培養用基質として多くの研究者に使用していただける製品となりました。

マトリクソーム社を設立するにあたり、製品開発の目標にしたのは、臨床用に使用できるグレードのiMatrix-511を開発することでした。従来のES/ iPS細胞は、フィーダー細胞が培養基質として使用されていましたが、医療応用を行う際には、フィーダー細胞由来成分やフィーダー細胞そのものの混入リスクを検証する必要がありました。そこで、このようなリスクを考慮する必要がない培養用基質として、臨床用グレードの「iMatrix-511MG」の開発を進め、製造原料や製造工程をバイオ医薬品製造のグレードに準じて選定することで、臨床用に使用できる製品グレードを実現しました。現在、「iMatrix-511MG」は、京都大学ウイルス・再生医科学研究所で樹立され配布されている「臨床用ES細胞株」と、京都大学iPS細胞研究所で樹立され配布されている「再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト」の再生医療用iPS細胞の培養用基質として使用されています。

マトリクソーム社が販売するiMatrix シリーズ(開発中の製品を含む)

マトリクソームプロジェクトの研究成果は、ES細胞とiPS細胞以外の様々な種類の細胞に対しても、最適な培養用基質が何であるかという情報を提供します。これまでに、ラミニン111-E8が肝細胞の培養用基質として、ラミニン221-E8が骨格筋細胞や心筋細胞の培養用基質として、ラミニン411-E8が血管内皮細胞の培養用基質として、高い細胞接着活性と特異性を示すことが確認されています。ライフサイエンス研究における細胞培養実験では、培養する細胞が、実験室の培養環境下で、生体内と同じ生理活性を持つことが重要です。また、再生医療の実現においては、治療のために必要な機能を持つ細胞を、必要な量だけ製造する必要があります。当社は、細胞種ごとに最適な基質の情報と製品を提供することで、このような要求に応え、ライフサイエンス研究や再生医療の研究に貢献したいと考えています。

今後は、さらなるマトリクソームの解析を進めることによって、複数のECMタンパク質の機能を組み合わせた高機能ECMタンパク質の製品開発や、生体内での使用が可能な医療機器としてのECMタンパク質の開発を進め、再生医療の発展に貢献し、SDGsの目標の一つである「すべての人に健康と福祉を」という目標達成に向けて貢献したいと考えています。