国立の研究機関による技術支援

農研機構における産業界および農業界との連携について

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 総括執行役 兼事業開発部長 田中 健一

写真:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 総括執行役 兼事業開発部長 田中 健一

2021年9月15日

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国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)では、研究開発成果を産業界および農業界へ普及浸透するため、2018年10月に事業開発室(2021年4月より事業開発部)を創設し、それぞれとの連携体制を強化している。産業界との連携では、事業開発部にビジネスコーディネーターを配置して、資金提供型共同研究により、農研機構の研究開発成果を活用した企業の商品開発などに貢献している。農業界との連携では、地域の農業研究センターに農業技術コミュニケーターを配置し、標準作業手順書(SOP : Standard Operating Procedures)により、研究開発担当者とともに、公設試験研究機関(公設試)、県普及組織を通じて研究開発成果を農業界に展開している。このほか、地方公共団体との取り組み、九州沖縄経済圏スマートフードチェーンプロジェクトなどにおいて、地域の農業・食品産業の競争力強化と輸出拡大を通じて、地方創生に貢献する活動も実施している。

■産業界との連携強化

ビジネスコーディネーターによる資金提供型共同研究の拡大

農研機構は産業界との連携を強化するため、事業開発部に統括ビジネスコーディネーター1人、ビジネスコーディネーター11人を配置し、企業が求める新商品開発や新たなサービス提供につながる技術開発ニーズと農研機構の研究開発成果をマッチングさせ、企業との資金提供型共同研究の拡大を図っている。

研究分野は、食品、育種、バイオテクノロジー、農業デジタルトランスフォーメーション、環境、畜産と幅広く、基礎から応用、実用化までのフェーズで共同研究を実施している(図1)。

図1
図1 産業界との連携事例

産業界との連携事例では、NTT東日本および株式会社NTTアグリテクノロジーから農研機構が受託したもので、農研機構のデジタル栽培マニュアルと圃場(ほじょう)から収集したデジタルデータを自動的に連動させ、生産者に栽培支援情報を提供する実証試験があり、農研機構が育成したブドウ品種「シャインマスカット」から開始している。

また、総合分析機器メーカーである株式会社島津製作所との共同研究では、農研機構が開発した農産物や食品中の機能性成分の分析法に島津製作所の最新技術を生かして、島津製作所内に「食品機能性解析共同研究ラボ」を設置し、農研機構が有する約20品目200以上の品種に含まれる機能性成分の定量やその分析法の開発を進めている。

資金提供型共同研究から社会実装につながった最近の一例を挙げると、株式会社リコーおよび株式会社ファスマックと連携した「新型コロナウイルス用DNA標準プレート」の商品開発がある。遺伝子検査において汎用されているPCR法を基に、遺伝子組み換え食品の検知法の開発・公定化のために進められてきた研究開発成果が応用されたものであり、製品の販売は2020年4月から開始された。

■農業界との連携強化

標準作業手順書(SOP)を活用した研究成果の普及拡大

農研機構は、農業界との連携を強化するため、事業開発部に地域ハブコーディネータ―1人、五つの地域農業研究センター(北海道、東北、中日本、西日本、九州沖縄)に農業技術コミュニケーター9人を配置し、研究成果を公設試、都道府県の普及組織を通じて農業界へ普及している。

研究成果の普及に当たっては、研究成果の紹介パンフレットとは別に、技術の再現性を担保するために必要となる作業手順を明記した標準作業手順書(SOP)を作成し、農業技術コミュニケーターおよび研究開発担当者が、公設試・都道府県の普及組織を通じて、農業協同組合(JA)、農業法人へ指導する手法を2019年12月から導入している(図2)。

図2
図2 農業技術コミュニケーターと研究担当者が一体となって普及活動を推進する仕組みを構築

標準作業手順書は

(1)栽培技術・新品種導入

①大区画圃場における乾田直播(かんでんちょくは)栽培体系、②ダイズ難裂莢(なんれっきょう)品種群、③多収・良食味米品種の普及拡大

(2)輸出拡大

①輸送中のかんしょ腐敗防止方策、②海外需要が拡大する抹茶・粉末茶に適した茶品種「せいめい」

(3)病害虫防除

①天敵を主体とした果樹のハダニ類防除体系、②新規土壌還元消毒を主体としたトマト地下部病害虫青枯病防除体系

(4)デジタルトランスフォーメーション

①1kmメッシュ農業気象データシステムの利用と応用、②デジタル土壌図

など、50件が作成済みとなっており、農研機構のホームページから閲覧できる(ホーム画面の「注目トピックス」から標準作業手順書(SOP)のリンクをクリック)。2021年5月現在、①もち性大麦、②かんしょ腐敗防止方策、③茶新品種「せいめい」のSOPが閲覧件数のベスト3である。

水稲の乾田直播栽培技術については、これまで農研機構東北農業研究センターが中心となって宮城県、岩手県を中心に普及拡大に取り組み、普及面積は3,900ha(全国直播栽培面積の27%)に達している。今後は、北海道、九州北部向けに技術をカスタマイズしながら、同地域での普及拡大を目指しているところである。

■地方創生への取り組み

農研機構は、県、地方大学と連携協定を締結し、農業の競争力強化や人材育成を通じて地方創生に取り組んでいる。北は帯広畜産大学から、茨城県、香川県、高知県・高知大学・高知工科大学・高知県立大学、南の宮崎県・宮崎大学まで4県5大学と地方創生を目的とした連携協定を締結している。このほか、連携協定は締結していないが、岩手県とは研究成果の普及面で協力関係を構築している。

具体的な活動として、高知県および高知大学・高知工科大学・高知県立大学との連携においては、高知県プロジェクト「“IoP(Internet of Plants)”が導く『Next次世代施設園芸農業』への進化」(内閣府、地方大学地域産業創生交付金事業)にアドバイザーとして参画し、IoPプロジェクトの加速化につながる共同研究の実施に加え、農研機構の農業情報研究センターへの県研究職員の受け入れや、農業情報研究センター職員を講師として高知県へ派遣するなど、高知県・大学研究者の人材育成に貢献している。

このほか、九州沖縄経済圏(九州各県、沖縄県、山口県)の高い農業産出額(年間約2兆円)と立地条件を生かして、付加価値の高い農畜産物・加工品のアジアへの輸出を拡大するため、農研機構、産業界、農業界、公設試、大学等が連携して、育種から生産、加工、流通、販売、輸出に至るフードチェーンを構築する「九州沖縄経済圏スマートフードチェーン(SFC)プロジェクト」を2019年7月に開始した。九州経済連合会、九州農政局、九州経済産業局と連携し、①冬季輸送中のかんしょ腐敗対策、②イチゴ「恋みのり」の産地拡大と輸出促進、③茶新品種「せいめい」の普及拡大など、地域商社の技術的課題の解決や産地基盤の強化につながる研究課題に取り組んでいる(図3)。プロジェクトの取り組み状況については、農研機構のホームページ「九州沖縄経済圏SFCプロジェクト」に示している。最新の研究成果については、本年9月28日に開催予定の第3回事業化戦略会議(オンライン開催)で報告するので、ご関心のある方は是非ご参加をお願いしたい。

図3
図3 九州沖縄経済圏スマートフードチェーンプロジェクトの関係団体との相関図