リポート

バイオマス燃料製造による焼酎粕処理プロセスの開発と焼酎バイオエナジー宮崎日南工場の開設
―あなぶきグループと宮崎大学との連携―

宮崎大学工学教育研究部 応用物質化学プログラム担当 塩盛 弘一郎

写真:宮崎大学工学教育研究部 応用物質化学プログラム担当 塩盛 弘一郎

2021年9月15日

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南九州では古くから焼酎、特に芋焼酎が愛飲され、重要な産業となっている。焼酎製造の過程で蒸留残渣である焼酎粕が焼酎生産量の2倍程度発生する。焼酎粕をエタノール燃料と固形ペレット燃料のバイオマス燃料に変換・利用して処理するプロセスを、焼酎業界と全く異業種といえるあなぶきグループと2014年から共同研究を続け開発した。

当初、焼酎粕を再発酵して生成したエタノールを蒸留してエタノール燃料を製造するプロセスのみの共同研究であったが、その後、エタノール蒸留後の固形分も分離してペレット燃料に成形し利用する総合的な焼酎粕処理プロセスとして研究を進め、2017年11月に宮崎大学産学・地域連携研究センターの敷地内に1日100Lのエタノール発酵を行うパイロットプラントを設置した。パイロットプラントでの実験結果に基づき、1日15tの処理が可能な実証工場「焼酎バイオエナジー宮崎日南工場」を2021年4月に宮崎県日南市に株式会社あなぶきハウジングサービスが開設し、実証運転を開始した。開発した焼酎粕処理プラントの焼酎工場への導入・設置を目指す。

エタノール燃料は、処理プラントの運転のための燃料に利用し、固形ペレット燃料も処理プラントおよびバイオマス発電などの燃料に利用する。これまで廃棄物として「処理」していた焼酎粕を焼酎バイオマスとして捉え、焼酎バイオマス燃料に転換し化石燃料に替わる燃料として「利用」することで、カーボンフリーな社会の構築に貢献できると期待される。

■はじめに

焼酎は、九州における代表的な蒸留酒であり、主原料としてさつまいも、麦、ソバ、米などを用いた焼酎が生産されている**1。焼酎は、お湯割りやロックなど多様な飲み方が可能で、酔い覚めの良いことから消費者に広く受け入れられ、出荷量および売上額を増やしてきた。宮崎県全体の焼酎売上額および出荷額も年々増加し、売上額は2015年度に全国1位となり、その後5年間連続で1位を維持している**2

焼酎の蒸留後に蒸留釜内に残された残渣が焼酎粕であり、産業廃棄物としては廃酸に分類される。飲料業に分類される産業から排出される廃酸は、ほぼ全量が焼酎粕と考えられる。

2006年から2018年までの宮崎県の飲料業から排出される廃酸(焼酎粕)の発生量、自己処理量、委託処理量**3および乙類焼酎の生産量**4図1に示す。乙類焼酎生産量のほぼ2倍量の焼酎粕が発生しており、生産量の増加に伴い増加している。

図1
図1 宮崎県の焼酎粕(廃酸)の発生量と処理量、乙類焼酎生産量の年次変化

以前は、焼酎蒸留粕の全量が海洋投棄などで処理されていたが、2007年から廃棄物の海洋投棄が原則禁止となり、焼酎粕の全量が陸上処理されるようになった。焼酎粕の発生量の増加とともに焼酎粕の自己処理量が増加しているが、2012年度には自己処理量が大きく増加した。これは、大手焼酎メーカーのメタン発酵による焼酎粕処理プラントの稼働によると考えられる**5**6。一方、委託処理量は、2011年度までは自己処理量の増加に対応して減少したが、2012年度以降の委託処理量はほぼ一定となった。2018年度の焼酎生産業は約15万キロリットル**4、焼酎粕発生量は約30万トン、委託処理量は約7万トン**3であった。委託処理の費用は、1トンあたり1万円程度と言われており、焼酎メーカーの収益圧迫の一つと言われている。このような状況の中で建設業・不動産業を主な事業とするあなぶきグループとの共同研究を2014年より行い、焼酎粕をエタノール燃料と固形ペレット燃料に変換して処理する「焼酎バイオエナジー宮崎日南工場」を2021年4月に開設し、実証運転を開始した。この経緯について紹介する。

■あなぶきグループとの共同研究のきっかけと経緯

2013年に宮崎県よろず支援拠点を通して株式会社加賀城建設(現 株式会社あなぶき建設工業、本社香川県高松市)の池田勇人氏(現 株式会社穴吹ハウジングサービス、同)を紹介された。加賀城建設の社長(当時)から、「会社として環境事業に取り組みたい」という提案を受け、焼酎粕の処理を新規事業として取り組むとのことであった。池田氏は、焼酎粕から蒸留でエタノールを取り出すとエタノールの量が増えるので、効率良く取り出して事業化したいとのことであった。通常、蒸留粕に残っているエタノールの濃度は1%以下と少なく、蒸留後にエタノールが増えることはないと考えられた。また、前述のように焼酎粕の処理は陸上処理が行われており、異業種からの参入は非常に難しいと考えられ共同研究は断った。しかしながら、宮崎県よろず支援拠点の担当者より、エタノールが増えるという結果だけでも検証してほしいとのことであった。そこで、池田氏に焼酎粕を蒸留してエタノールを回収する実験を行ってもらった。その実験結果の一例を図2に示す。焼酎粕に含まれていたエタノールの総量は、蒸留後に2倍以上増えた。種々の条件でも蒸留過程でエタノールが増えることが確認できた。この時用いていた蒸留粕は、減圧蒸留焼酎の焼酎粕であった。減圧蒸留は、蒸留釜内の圧力を低くして50℃〜60℃で沸騰させて蒸留する方法である。減圧蒸留による焼酎粕は蒸留中の温度が低く、発酵に用いられる麹(こうじ)の酵素群とエタノールを作る酵母が活性を持って残っており発酵が進んだと推定され、その後活性が残っていることが確認された**7。2014年より焼酎粕の再発酵によるエタノールの生産、蒸留によるエタノールの回収、処理プロセス全体の構築と実用化のための共同研究を開始した。

図2
図2 減圧焼酎粕の蒸溜前の缶液と蒸留後の留出液に含まれるエタノール総量

加賀城建設は事業継承のためのM&Aによりあなぶきグループとなり株式会社あなぶき加賀城建設となった。あなぶきグループとなっても加賀城会長の思いは継承され焼酎粕の処理に関する共同研究は継続された。

池田氏は各種補助制度や研究支援制度への申請を積極的に行い、2014年度は一般社団法人宮崎県商工会議所連合会の経営革新計画応援事業補助金、2016年度は宮崎県環境リサイクル技術開発・事業化支援事業およびふくおかフィナンシャルグループ企業育成財団(KYUTEC:キューテック)の支援を受けた。

焼酎粕の処理は、焼酎粕にデンプン原料を加え再発酵によりエタノールを生産し、多段蒸留装置による濃度70%のエタノール燃料の製造、蒸留残液の固液分離とペレット化による固形燃料の製造で行うこととした。焼酎粕処理プラントは、1日30トンの焼酎粕の処理、施設建設費用を3億円程度と設定し、焼酎処理コストは委託処理費用の半分とすることを目標とした。これは、中規模焼酎メーカーの焼酎粕発生量と委託処理経費をもとに設定した。

あなぶきグループでの事業担当の再編により、焼酎粕処理の事業は株式会社穴吹ハウジングサービスが担当することとなり、焼酎バイオマス事業推進部が設置され、焼酎粕の処理の研究はあなぶきグループの事業として引き継がれることとなり、共同研究は継続された。

実験と並行して焼酎メーカー各社に焼酎粕処理プロセスの説明と導入の可能性を調査した。その過程で、実験室レベルの実験結果だけでなく、テストプラントおよび実用化プラントでの実証・実績が必要と考えられた。そこで、2017年に1日100Lの発酵が可能なテストプラントを大学の産学・地域連携研究センター内に設置した(写真1)。設置の費用は穴吹ハウジングサービスが負担し、大学へ寄付された。このテストプラントでの焼酎粕処理の実験で焼酎粕15トンに対しくず芋などのデンプン原料を12トンと水を3トン加えてエタノール発酵によりエタノールを製造し、70wt%エタノール燃料を1トンと固形ペレット燃料を16トンを製造できることを確認した**7。テストプラントでの結果を基に、実際の処理を行う規模での実証工場を建設することとなり2018年末より工場の計画・設計を開始した。

写真1
写真1 宮崎大学産学・地域連携研究センターに設置したテストプラント

■焼酎バイオエナジー宮崎日南工場の概要

テストプラントの結果を基に実証プラントを計画・設計し、2021年4月に穴吹ハウジングサービスが宮崎県日南市に建設した。独立した焼酎粕の処理工場としては全国初であり、「焼酎バイオエナジー宮崎日南工場」と命名された。焼酎粕処理のフロー図を図3に、処理概要を図4に、工場の外観を写真2に示す。製造したエタノール燃料は工場内のボイラーの燃料として全量使用し、製造した固形ペレット燃料は、工場内のボイラーの燃料およびバイオマス発電所などの燃料に利用できる。その他にペレット状の固形燃料を用いる農業用ボイラーや工業用ボイラーでも利用できる。工場は、2021年6月から本格稼働し実証運転が行われている。

図3
図3 焼酎バイオエナジー宮崎日南工場の焼酎粕の処理フロー図
図4
図4 焼酎バイオエナジー宮崎日南工場の概略図
写真2
写真2 焼酎バイオエナジー宮崎日南工場

■今後の展望

あなぶきグループおよび穴吹ハウジングサービスの息の長い支援により研究を継続することができたとともに、思い切った投資と池田氏の熱意により焼酎バイオエナジー宮崎日南工場の開設となった。この実証プラントで実証試験を重ね、プロセスを改良し焼酎メーカーへ導入を目指す。焼酎粕に限らず幅広い分野で廃棄物の「処理」から燃料・資源としての「活用」を目指すことで、処理コストの面だけでなくSDGsの達成や再生可能エネルギーの利用の面からの利点も期待される。

参考文献

**1:
小川喜八郎, 中島勝美; 本格焼酎の来た道, 金羊社 (2007).
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**2:
帝国データバンク福岡支店; 特別企画: 焼酎メーカー売上ランキング(2019 年).
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**3:
宮崎県; みやざきの環境HP, 産業廃棄物関連統計, 平成18年度〜平成30年度実績.
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**4:
国税庁, 統計情報, 酒税, 平成18年度〜平成30年度.
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**5:
藤原誉司; 甘藷製焼酎粕のメタン発酵処理によるリサイクルシステム, 化学工学, 83(2), 92-95 (2019).
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**6:
環境成長エンジン研究会; 霧島酒造株式会社・さつまいも発電,平成 28 年度環境ビジネスの振興方策検討等委託業務-環境への取組をエンジンとした経済成長に向けて-報告書, p.100-108 (2017).
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**7:
塩盛弘一郎, 濱田百合香, 池田勇人; バイオマス燃料製造による焼酎廃液処理プロセスの開発, バイオマス利用研究(バイオマス利用研究会), 20, 91–100(2019)
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