リポート

深紫外線LED 照射による新型コロナウイルス不活化効果

宮崎大学 産業動物防疫リサーチセンター 宮崎大学 農学部 獣医学科 獣医微生物学研究室 岡林 環樹

写真:宮崎大学 産業動物防疫リサーチセンター 宮崎大学 農学部 獣医学科 獣医微生物学研究室 岡林 環樹

2021年9月15日

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動物を起源として人への感染拡大を起こしたと考えられる新型コロナウイルスは、変異型の出現もあり、その猛威の収束はめどが立っていない。ワクチンの効果が期待される中においても、やはり身の回りからの感染対策は不可欠である。そこでわれわれは、これまでにも医療環境での殺菌に用いられてきた深紫外線に着目し、新しい光源として普及してきたLED(Light-Emitting Diode)を組み合わせることにより、変異型を含む新型コロナウイルスを効果的に不活化することを明らかにした。本稿では、宮崎大学における「医学-獣医学」「大学-企業」連携という、垣根を超えた「ワンヘルス」の取り組みにより生み出された、新型コロナウイルスに対する研究成果を紹介する。

■背景

近年のグローバル化が感染症の流行に大きな影響を与えていることは、新型コロナウイルスのパンデミックにより明確になった。その感染症対策として身の回りの消毒・殺菌、人や動物の移動制限が重要であることが改めて認識されている。宮崎では、2000年、2010年に牛や豚に壊滅的な被害を及ぼすウイルス感染症である口蹄疫(こうていえき)の被害があった。その際に、見えないウイルスに対しての徹底した消毒対策、人や物の移動制限を実施することが、感染症拡大の早期封じ込めに重要であることを経験している。

宮崎大学では、これらの経験から感染症防疫体制整備を最重要課題と位置付け、2011年10月に学内共同教育研究施設として産業動物防疫リサーチセンター(Center for Animal Disease Control: CADIC)を開設した。感染症研究拠点として機能強化を図り、その一つとして、病原体高度封じ込め施設BSL3(バイオセーフティ・レベル3)も設置した。宮崎大学は、日本で唯一医学-獣医学の連携・融合体制による医学獣医学総合研究科大学院を有することから、CADICは産業動物における感染症のみならず、人獣共通感染症を対象とした教育・研究にも取り組み、人、動物への致死性ウイルス感染症の原因である重症熱性血小板減少症ウイルスなどの新たな感染環を明らかにしてきた**1。また、「組織」対「組織」の共同研究推進体制の構築を目指した日機装株式会社(本社東京都渋谷区)と宮崎大学の共同研究包括連携協定(2016年11月締結)に基づき、医学部においては、2019年11月に医療分野におけるイノベーションに取り組む「医療環境イノベーション講座」が開設された。医療環境の課題解決を目指して、産学連携体制による総合的な共同研究、およびその成果の迅速な実現化に取り組んでいる。

2019年12月に中国で報告された新型コロナウイルスのパンデミックにより、われわれの生活様式が一変する事態に見舞われた。その突然の感染対策のために、マスク、グローブ、防御衣、消毒薬などの物資が枯渇する事態が起こった。この異常事態に対応するために、CADICとしては獣医学科との協力体制の下、2020年3月には新型コロナウイルスの入手、診断システムを導入し、研究体制を配備した。また、医療環境イノベーション講座においては、感染対策に高い有効性を示す紫外線、その中でも短時間で紫外線の積算光量を上げることにより強い殺菌効果を示す深紫外線に着目し、医療現場への応用に取り組んでいた。なお、日機装株式会社では波長が短くなれば光出力が低くなるという紫外線の課題が、2014年ノーベル物理学賞を受賞した青色LED技術を導入することで克服されていた。

宮崎大学は、この深紫外線LEDによる新型コロナウイルスの不活化効果を早急に確認し、医療機関のみならず、一般生活における新型コロナウイルス対策法として還元することが最重要課題であると考えた。そこで宮崎大学における医学-獣医学の分野横断的な連携体制「ワンヘルス・アプローチ」を活用した共同研究に取り組んだ。

■深紫外線LED照射における新型コロナウイルス不活化効果

深紫外線LED照射における新型コロナウイルス不活化効果試験は、日本で分離された従来型といわれる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2/Hu/DP/Kng/19-027、LC528233、神奈川衛生研究所より分与)、および変異型ウイルス(英国型:hCoV-19/Japan/QHN001/2020 [B.1.1.7]、南アフリカ型:hCoV-19/Japan/TY8-612/2021 [B.1.351]、ブラジル型:hCoV-19/Japan/TY7-501/2020 [P.1]、国立感染症研究所より分与)を対象として実施した。各種ウイルス液を2.0 x 104プラーク形成単位(PFU)/mlに調整し、プラスチックシャーレ上に15μl滴下した。滴下したウイルス液に、深紫外線LEDを、出力3.75 mW/cm2、距離2cmの条件下で、1、10、20、30、60秒間照射した(ただし変異型ウイルスに対しては1、10秒間照射)。それぞれの照射ウイルス液を細胞に感染させ、感染72時間後のPFU/mlを測定した。それぞれの照射ウイルス液におけるPFU/mlを非照射群と比較することにより、ウイルス感染価への影響を計算した。ウイルス培養およびプラーク形成試験には、VeroE6/TMPRSS2細胞を用いた。これらの試験はCADICのBSL3実験室内にて実施した。

図1
図1 深紫外線LED 照射による新型コロナウイルス感染性への影響(参考文献2 を改変)
ウイルスは、SARS-CoV-2/Hu/DP/Kng/19-027(LC528233、神奈川衛生研究所より分与)を使用。

深紫外線LED照射1秒群、60秒群、および非照射群におけるプラークの形成状態、そのプラーク数を図1に示した(図1は日本の分離株での実験像)。ウイルスの感染を示す白い穴(=プラークの数)が、深紫外線LEDの照射時間に伴って減少していることが観察できた。各種条件下におけるプラーク数の減少率を表1に示した。10秒の深紫外線LEDで99.9%以上、1秒の深紫外線LED照射でも87.4-96.3%のウイルス感染力を抑制した**2。これらの結果より深紫外線LED照射が、新型コロナウイルスの従来型に加えて、変異型(英国型、南アフリカ型、ブラジル型)を、短時間で不活化することが明らかになった**3

表1 深紫外線LED 照射による新型コロナウイルス従来型および変異型感染性への影響
表1

■今後の方針・課題

宮崎大学における「医学-獣医学」「大学-企業」という垣根を越えたワンヘルス理念の実践により、今、まさに、世界的な問題となっている新型コロナウイルスの不活化に対する深紫外線LED照射の有効性を実証することに成功した。従来から感染症対策に用いられていた紫外線の中でも、短時間で病原体不活化効果を発揮する深紫外線の特徴に着目し、小型・長寿命などのLEDの特徴と掛け合わせることによって深紫外線の実用化に成功した。また、深紫外線LEDが感染症対策に対して有効性を示したことから、医療分野だけでなく、様々な生活領域における「新しい生活様式」に沿った応用が期待できる。

新型コロナウイルスは、飛沫感染、接触感染だけでなく、空気感染する可能性も指摘されている。感染症学的な感染経路の定義はともかく、密閉された屋内や、換気状態の悪い状況では感染のリスクが上がるために、室内の空気循環を良くすることが重要であるとされている。このような深紫外線LED照射における瞬時のウイルス不活化効果は、このような空気循環システムへの応用が期待できる。また、紫外線照射は長時間ではプラスチック劣化などの問題が指摘されているが、短時間照射でのウイルス不活化効果が確認できた深紫外線LED照射では、接触感染リスクを下げるための応用も考えられる。

今回の試験では、エンベロープという脂質二重層からなる膜を有した新型コロナウイルスを対象として深紫外線LED照射のウイルス不活化効果を確認した。エンベロープはウイルスが細胞に感染する際に細胞との融合に重要な働きをするために、そのエンベロープはウイルス感染を阻止するための重要な標的となり、アルコール消毒薬や界面活性剤の有効性が確認されている。しかし、エンベロープのないウイルス(代表例としてはノロウイルス)などはこれらの消毒薬が無効である。また、細菌や真菌などはウイルスと異なる生物学的構造形態をとる。細菌や真菌感染に対しても消毒薬や抗菌薬の有効性が確認されている一方で、消毒薬スペクトルには限界があり、さらに薬剤耐性菌の出現は世界的な課題となっている。すでに新型コロナウイルスだけでなく、エンベロープを持たないウイルス、細菌、真菌などへの深紫外線LED照射による不活化効果の検証を展開し、さらなる有効的な感染症対策への応用を目指している。

■終わりに

今回の取り組みにより、世界的規模の課題となった新型コロナウイルスに対して、深紫外線LED照射が感染対策に有効であることを世界に先駆けて発信することができた。人-動物-環境という垣根を越えた感染症対策が求められる喫緊の課題に対して、CADICや医学獣医学連携という分野横断的な教育・研究を推進してきた宮崎大学の「ワンヘルス・アプローチ」と、日機装株式会社と宮崎大学による総合的な共同研究を推進する「産学連携体制」が有機的に機能した結果であるといえる。

(共同研究者:宮崎大学医学部医療環境イノベーション講座:藤元昭一特別教授、杉山博信特別助教、稲垣浩子助教、宮崎大学農学部獣医学科獣医微生物学講座:齊藤暁准教授、宮崎大学産業動物防疫リサーチセンター:兼子千穂助教)

参考文献

**1:
Yamanaka, A., Kirino, Y., Fujimoto, S., Ueda, N., Himeji, D., Miura, M., Sudaryatma, PE., Sato, Y., Tanaka, H., Mekata, H., Okabayashi T. 2020. Direct transmission of severe fever with thrombocytopenia syndrome virus from domestic cat to veterinary personnel. Emerg. Infect. Dis. 26(12): 2994-2998. doi: 10.3201/eid2612.191513.
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**2:
Inagaki, H., Saito, A., Sugiyama, H., Okabayashi, T., Fujimoto, S. 2020. Rapid inactivation of SARS-CoV-2 with deep-UV LED irradiation. Emerg. Microbes. Infect. 9(1): 1744-1747. doi: 10.1080/22221751.2020.1796529.
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**3:
Inagaki, H., Saito, A., Kaneko, C., Sugiyama, H., Okabayashi, T., Fujimoto, S. under review. Rapid inactivation of SARS-CoV-2 variants by continuous and intermittent irradiation with a deep-ultraviolet light-emitting diode (DUV-LED) device. doi: https://doi.org/10.1101/2021.05.10.443422.
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