特集シン・防災減災考

災害備蓄品を廃棄前に必要な人へ届ける 廃棄しない循環型社会を

2021年9月15日

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災害備蓄品を準備する意識は高まっている。しかし、消費期限の管理が必要な食糧は期限が過ぎた場合はどうしているだろうか。従業員に配布したりフードバンクなどへ寄付することもあるだろう。大きな組織ではそれでも余り、残った分は廃棄される。ストックベースは、備蓄食糧を廃棄せず、必要な人へ届ける循環型社会を実現するために生まれた会社だ。

■備蓄品管理の負担を軽減し必要な人へ食糧を

地震、猛暑、台風、噴火、豪雨…自然災害はいつ、どこで起こるか分からない。

2011年に発生した東日本大震災。当時、新宿区の曙橋駅近くのビルにいた筆者は、経験したことのない激しい揺れが断続的に続いたことから、このビルが倒壊して死ぬかもしれない。そんな恐怖を覚えた。あまりの激しさに震源は近いのだろうとさえ思っていた。そして、これほどの揺れでは電車は止まるだろうと早くから電車で帰ることを諦め、自宅までおよそ20キロある道を徒歩で帰ることにした。途中で復旧すれば乗れるだろうと高を括って。外はアリの行列のごとく歩道に人が歩く列が連なり、道路はもちろん歩道も大渋滞だ。歩いているうちに電車は走り出したが大幅に遅れているアナウンスが聞こえてくる。家に着いたのは、午後11時過ぎ。徒歩20キロは初めての経験で、最短距離ではなく、駅近くを歩いてきたため結局8時間以上かかった。

毎年のように全国各地で自然災害が頻発し、甚大な被害が発生したとき必要となるのが、水や食糧などの備蓄品だ。特にこの東日本大震災を契機に災害に備える意識が高まり備蓄品を準備する企業も増え始めた。

市区町村などの自治体では、災害発生時に避難所となる公立小中学校や自治体所有の施設などに備蓄倉庫を設け、水や食糧、生活必需品、医薬・医療品、防災資機材を保管している。

例えば、乾パン、缶入り粥(かゆ)、米飯を炊いた後に乾燥させたアルファ化米、パンの缶詰、調整粉乳、ミネラルウォーターなど「食糧」。最近は、この軽くてコンパクトなアルファ化米とレトルト食品を備蓄する傾向にある。

このほか、投光機、発電機、炊き出し用バーナー、メガホン、テント、簡易便所、ポータブルトイレ、担架、組み立て式リヤカー、大工道具セット、救出用資器材セット、間仕切りパネルなどの「救助用資機材」。

毛布、カーペット、バケツ、タオル、石鹸、ポリタンク、調理器具、食器、ゴミ収集袋、オムツ(子供用、大人用)、哺乳びんとスペアの乳首、多機能ラジオ、乾電池、生理用品、肌着、ブルーシートなど「生活必需品」。

災害医療資機材7点セット、消毒液、包帯、ガーゼなどの救急用医療セットといった「医療防疫用資機材」。

ガソリン、オイル、灯油などの「燃料等」だ。もちろん、自治体以外に企業なども状況に応じ備蓄品を保管管理している。

図*

■備蓄品廃棄の流れ

備蓄品も使用機会がなければいずれ消費期限が訪れる。特に食糧は、期限が近くなれば廃棄せざるを得ない。職員や社員が全てを自前で廃棄できるくらいの備蓄量ならいいが、大量に備蓄する自治体や大企業などはそうもいかず、一部の備蓄品は、職員らに配布してもまだ余ってしまうのが現状だ。

フードバンクや子ども食堂、生活困窮者に対し食糧や食事の提供を行うNPOなどの支援機関が配布可能な備蓄品だけを限定量引き取って、必要な人へ無償配布することもあるが、大量に引き取るだけのキャパシティーはなく、それでも大量に残ってしまえば、廃棄コストなどを負担して、廃棄業者に依頼することになる。

一般的に、災害に備える意識は高くなってきたものの備蓄品を管理し、期限の切れた備蓄品をどうするかまではそれほど重要視されていない。備蓄品を用意したらそれでおしまいで満足しているのではないだろうか。

防災備蓄品のうち、保存水・食糧の賞味期限は5年。 その他の用品は期限の設定がないとはいえ、経年劣化を考えれば、10年をめどに交換の検討が必要だ。消費期限が数年と長い分、人事異動などで管理が手薄になることもあるだろう。意識しないでいると、気が付けば消費期限が過ぎていたなんてことも少なくない。そうなれば、必要な人へ届けるどころか廃棄せざるを得ず、循環型社会を目指す以前の本末転倒といえる。

備蓄品は、備えておしまいではなく、期限管理を見える化し、期限切れの3~5カ月の間には、必要な人たちへ寄付をするところまでが重要で、廃棄しない備蓄品管理が迫られそうだ。

■期限が切れる前に

そんな課題を解決したいと備蓄品を廃棄せず必要な人へ届ける事業を展開するのは、横浜市立大学国際総合科学部の関芳実氏(代表取締役社長)と菊原美里氏(取締役)が起業した神奈川県横浜市の株式会社Stock Base(ストックベース)だ。

両氏が数社へヒアリングしたところ、災害備蓄食はMicrosoft Excelなどの表計算ソフトで在庫管理し、新旧備蓄品の入れ替えの手配、新旧備蓄品入れ替え時の立会いなど、備蓄品管理は手作業が主体だという。賞味期限が近づくと寄付や廃棄対応のため、提供先を探し、提供先とのやりとり、配送手配、配送料の負担と担当者の負担は少なくない。ストックベースは、廃棄対応のため寄付や提供先探しから配送手配までを全て行う。廃棄量を削減し循環型社会を実現するのが経営ビジョンだ。

本来なら今年度4年生に進んでいるはずだが、就職活動(就活)も中止し、起業と会社運営のため休学。相応の大きな決断で臨んでいる。

起業のきっかけは、授業で練り上げた事業プランを具現化するためだ。

関社長は、医療系を目指して就活をしていたが、新卒で医療系だけに絞るのはもったいないと、分野を絞らず視野を広げようと考えた。しかし就活先を広げた分、何をすればいいか分からなくなった。

そんなときに、同大学の芦澤美智子准教授が担当する、起業プランニング論が面白そうだと思い、後期授業として選択した。起業プランニング論は、事業アイデアを作りビジネスコンテストに応募するまでが授業の内容で、関氏はアイデアを模索していた。一方、菊原氏は、街づくりに興味があり、住環境を良くし生活を豊かにしたいと都市開発や再開発、宅地開発、マンション開発など、大規模な物件の開発事業を行う不動産デベロッパーを中心に就活していた。その最中、デベロッパーの社員から、カレンダーなど販促用のノベルティグッズを必要な人へ届けていたのを目の当たりにし、廃棄していたものを有効活用することに着目しアイデアを組み立てていった。

2人を含め、国際総合科学部経営科学系の学生5人によるチームは、企業の廃棄問題と社会課題を同時に解決するサービス「ReLife」を提案したところ、2020年度横浜市立大学ビジネスプランコンテストで優勝。

2021年2月には「第1回よこはまアイディアチャレンジ」で、応募総数130件の中から最優秀賞に選ばれた。同時期に千葉銀行・横浜銀行共催の「ちばぎん・はまぎん学生ビジコン2020」でも、はまぎんアイデア賞(3位)に入賞し、ビジネスモデルへの評価が高かった。

通常、授業としてこれで終わり、学生らはそれぞれの進路に軸足を置き始めるのだが、5人でこのプロジェクトを実際に事業化するかしないか議論した。4年生の先輩の中には、就活中ですでに内定をもらっていた人もおり事業化に参加できなかったり、他のメンバーもそれぞれの事情がある。そこで関氏と菊原氏2人で事業化を決断することに。

菊原氏は、この時期ちょうど就活中で、「決めてしまえばどんどんやれる性格だが、3年生まで普通に大学生で就活もしていたので、起業するかどうかを判断するのが大変でこのとき最も悩んだ」と当時を振り返る。しかし決断したときの2月末には休学を決め、その時点で就活は止めた。大学3年次の学生には大きな決断だ。

関 芳実 社長
関 芳実 社長

■賞金を事業資金に

事業資金は、コンテスト優勝賞金50万ともう一つの賞金10万合わせて60万円。今のオフィスも賞品で来年3月までの2年間は無償で借りることができる。

横浜市立大学は、グローバル化時代の未来を切り開く国際人育成にも力を入れていることから、留学しやすいよう休学しても学費などの費用はかからない。一般的には、休学中でも年間学費の半額は支払わなくてはならない大学が多い。休学して自分を磨くにはいい大学との評価も。そのため、会社立ち上げのため今年4月から休学し就職活動も止めても負担がないから休学しやすかったという。そうはいっても、同年代の同級生と1年遅れることの不安は少なからずあるだろう。

関氏は、「学生生活から何もかもが初めてのことで、全て自分で動かないと何も始まりません。手続きも分からない状態でした。企業向けのサービスなので、SNSで発信して広めるよりも、企業の担当者と対話して賛同を得ていかなくてはならないのは学生の私たちにとってそう簡単ではありません」と試行錯誤の繰り返しの胸中を語った。

「現在は、イベントなどで出会った企業の方に担当部署を紹介してもらうなど、備蓄品を寄付してくれる企業の開拓と生活困窮者やシングルマザー、子ども食堂のような必要とする人たちへ届ける団体の開拓を並行してやっています。受け取り先がたくさんあれば提供するほうも安心してもらえるので」と菊原氏。

菊原取締役
菊原取締役

さらに「企業に廃棄寸前の備蓄品はありませんか尋ねると、すっかり忘れていたようで、そこで気づいて確認すると、すでに期限が切れていて従業員に配ろうかなどと話している状態です」と話す。そもそも寄付する考えがなく、廃棄ぎりぎりになって焦って従業員に配ったりしてはいないだろうか。備えることに対する意識も、寄付に対する意識もばらばらなのがネックのようだ。

少なくとも2年間、2人は無給覚悟だが、来年4月には4年生として復学し、経営者との二足のわらじを履く。卒業予定の2023年4月以降からは、生活できるくらいの報酬を受け取るのが目標で、就活を中止しこの事業へ賭ける思いは真剣だ。

廃棄前の食糧を必要な人たちへ配布するフードバンクは、消費期限が少なくとも3カ月前でないと受け取らない。それを考慮すれば、期限3カ月~半年前の備蓄食糧品が寄付に適している。

食糧品の備蓄期限は5年に1度、タイミングが合わず廃棄間近の備蓄品確保ができないことも多い。備える意識は高まっているものの、備えた後の意識が希薄で、東日本大震災から10年、熊本地震から5年の今、廃棄期限を確認してほしいと関氏と菊原氏は訴える。

このほか意外にも、水は備蓄品で最も多い割には受け取ってくれない。災害時には水は必需品だが、災害時ではない通常時の生活では、水は水道水で間に合うことと場所を取るので敬遠されるからだ。

筆者の学生時代の就活は、非常にシンプルでアナログだった。書籍名は忘れてしまったが、日本経済新聞社などが発行する(確かダイヤモンド社か東洋経済のどちらかも発行していたような記憶がある)10㎝以上の分厚い新卒採用情報誌から、応募資料を入手し会社訪問のために郵送し返事があれば訪問が実現する。これを複数社繰り返し、面談の採用担当者から「他も当たったらどうでしょう」などと言われるとそれ以上の進展はない。2回目の会社訪問はありませんよという意味だ。

大学は就活をサポートすることもなく、学生課の掲示板に張り出された新卒採用の募集要項のみだった。当然当時はインターンシップ制度もなく、起業マインドを醸成する授業もない。卒業に必要な単位を取るため、ひたすら講義を聴くだけの授業である。従って、誰も教えてくれないことから自主性だけは形成されるが、情報を知らず、自主的に動くことができなければ新卒採用時期に乗り遅れ機会損失になるそんな学生時代だ。そんな経験もあってか、大学生から社会活動や社会事業に関心を持ち、休学し、就活を中止してまで自ら起業する姿勢に驚くばかりである。

欲しい人がいるのに一方で廃棄されている、支援団体での受け入れに制限がある、輸送コストも削減しなければならない。そんな課題を解決したいと学生社会起業家の挑戦は続く。

(山口泰博)