特集シン・防災減災考

デジタル時代の豪雨災害時の交通マネジメント

広島大学防災・減災研究センター 藤原 章正

写真:広島大学防災・減災研究センター 藤原 章正

2021年9月15日

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広島大学防災・減災研究センターは、平成30年7月の豪雨災害直後に設立されて以降、「相乗型豪雨災害」を全体テーマとして学際的研究を実施している。本稿ではその一例として交通マネジメントの分野を取り上げる。豪雨災害の経験を踏まえて、早期に交通機能を回復させるためのリスクマップの作成、道路復旧時の交通混雑の観測、総合的な交通情報の提供、優先して復旧する道路区間の決定、グリーンスローモビリティを活用した急斜面住宅街の避難行動支援、感染症パンデミック下での複合豪雨災害時の避難などデジタル時代の防災・減災研究の新展開を紹介する。

■早期に交通機能を回復させるためのリスクマップの作成**1

平成30年7月の豪雨災害時には、広島市・呉市・東広島市の広域にわたって大規模な交通ネットワークの寸断が起こり、人命救助や救急支援物資の輸送のみならず、住民の日常生活や経済活動に甚大な被害を及ぼした。こうした大規模豪雨災害時に道路ネットワークの機能を維持するためには、トポロジー脆弱性、暴露、ハザード、途絶確率などを重ね合わせた空間リスクマップを用意し、総合的な道路ネットワークのリスク評価が必要である。そこで道路ネットワークのリスク評価のためのフレームワークを構築し(図1)、呉市を対象に空間リスクマップを作成した(図2)。

図1
図1  道路ネットワークの空間リスクマップ
図2
図2  呉市リスクマップの例

■道路復旧時の交通混雑の観測**2

災害後には道路復旧に応じて道路容量と交通需要が時々刻々と変化する。こうした動的な交通実態を把握するためには、路側に設置した交通観測装置や通信履歴・自動車走行軌跡を継続的に記録したパッシブデータの活用が重要となる。ここでは県警のトラフィックカウンターデータ、国土交通省のETS2.0データ、Docomo携帯電話から取得されたモバイル空間統計、富士通の商用車プローブデータの複数データを同期させて、リンク旅行時間の経時変動(図3)および交通量−時間占有率図(図4)をリアルタイムに求めることに成功した。

図3
図3 リンク旅行時間の経時変動
図4
図4 交通量−時間占有率図

■総合的な交通情報の提供**3

平成30年7月の豪雨災害時には想定を超える道路混雑が発生し、広島〜呉間では所要時間が平常時の3倍を超える道路区間があった。この道路混雑を解消するためには自動車から公共交通機関への転換が必要となり、高速道路の一部区間を活用した特別措置により災害時BRT(Bus Rapid Transit)を運行した(写真1)。また利用者に周知するために有志が集まり、地域公共交通情報ポータルサイトを立ち上げ、災害時の公共交通のリアルタイム情報を提供した(図5)。

写真1
写真1 災害時BRT
図5
図5 災害時の公共交通情報ポータルサイト

■優先して復旧する道路区間の決定

平成30年7月の豪雨災害時には都市圏全体の道路ネットワークが被災し、多くの道路区間で寸断や容量低下が同時に生じた。限られた資源の中で被災した道路区間を復旧させ道路ネットワークの機能を最も効率良く回復させるためには、応急仮設橋「モバイルブリッジ」(写真2)の設置や復旧工事など道路区間の復旧順序の決定が重要となる。復旧優先順序を決定するためのシミュレーションを行った(図6)。

写真2
写真2 モバイルブリッジ
図6
図6 道路復旧順位決定シミュレーション

■グリーンスローモビリティを活用した急斜面住宅街の避難行動支援

傾斜地が広がる呉市では、豪雨災害時において高齢者などが避難を行うのに障壁が多かった。特に、道路幅員が狭小な急斜面住宅市街地では避難指示などの情報を得ても徒歩でも自動車でも避難が困難であった。そこで、数百メートル以上離れたバス停までの徒歩アクセスを支援するために「グリーンスローモビリティ」(写真3)導入の実証研究を行った。2020年11月の2週間、呉駅および中心部の商店街と急斜面住宅街を接続するルートを定時ダイヤで運行し、利用者および非利用者にとって避難移動手段としてのニーズが強いことが確認された(図7)。

写真3
写真3 グリーンスローモビリティ
図7
図7 運行ルートと乗降場所

■感染症パンデミック下での複合豪雨災害時の避難

COVID-19災禍で豪雨災害が発生すると、感染症リスク回避の基準(ソフィア基準)を定め、その範囲内で自然災害リスクを最小化するという避難施設の最適配置が求められる。東広島市八本松西地区では最寄りの避難施設までのアクセス距離とアクセス時間は現状で約1,300m、23分である(図8)。密を避けた避難施設の受容基準を適用すると65歳以上の高齢者のいる世帯(その多くが自動車を保有せず車中泊などの分散避難ができない世帯)が基準を満たしておらず、感染症リスクを回避した上で避難住民の収容するための計画の見直しが必要であることを確認した(図9)。

図8
図8 最寄り避難施設までのアクセス水準
図9
図9 受容基準から見た避難者の収容可能性

参考文献

**1:
Santos, J.R., Varghese, V., Chikaraishi, M., Uchida, T. (2021) An Integrated Framework for Risk and Impact Assessment of Sediment Hazard on a Road Network, Transportation Research Record.
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**2:
力石真, 浦田淳司, 吉野大介, 藤原章正 (2019) 交通ネットワーク被災時の発生・集中・内々交通量及び旅行時間の変動特性, 土木学会論文集B1特集(平成30年西日本豪雨災害特別企画), 75(1), 214-230.
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**3:
神田佑亮, 藤原章正, 塚井誠人, 力石真, 三村陽一(2019) 平成30年7月豪雨時の広島〜呉間の公共交通サービスの確保・向上策とその効果検証, 土木学会論文集B1特集(平成30年西日本豪雨災害特別企画), 75(1), 340-349.
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