特集シン・防災減災考

産学官連携で拓くこれからの防災・災害対応

国立研究開発法人 防災科学技術研究所 臼田 裕一郎

写真:国立研究開発法人 防災科学技術研究所 臼田 裕一郎

2021年9月15日

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防災・災害対応は常に産学官の様々な組織が連携して取り組むべき課題である。これらの連携を実現するための鍵となるのが「情報」の共有である。毎年のごとく発生する自然災害に対し、開発された技術の適用や支援活動を行うことで、その重要性や効果が評価されてきた。今後発生が想定される国難災害への対応のためにも、産学官連携による新たなイノベーションの共創が期待されている。

■組織横断での災害時情報共有の必要性

「災害大国・日本」。そう呼ばれるほど、わが国は地震、噴火、豪雨、大雪など、様々な自然の脅威にさらされている。ひとたび災害が発生すれば、多くの組織が、救助、避難所運営、物資供給、道路啓開、生活再建など、同時並行で様々な応急対応・復旧復興活動を行うこととなる。従って、これらの組織間でいかに状況認識を統一し、全体としての最適な災害対応を行うことが重要である。その鍵を握るのが「情報」である。ある組織が知っている情報を別の組織が知らない。この状態で活動が同時並行で行われることがいかに非効率であるかは言うまでもない。「情報共有」という言葉は災害対応においてよく聞かれるが、これを読んで字のごとく、「情報を共に有する」状態を組織横断的に作ることが必要である。

■災害時情報共有を支えるパイプライン「SIP4D」

2014年、府省・分野横断で取り組むべき課題として、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が推進する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一つに「レジリエントな防災・減災機能の強化」が設定され、産学連携のプロジェクトとして、国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研)と株式会社日立製作所によるSIP4D(エス・アイ・ピー・フォー・ディー:Shared Information Platform for Disaster Management、和名:基盤的防災情報流通ネットワーク、旧名:府省庁連携防災情報共有システム)の研究開発が開始された。図1に示すように、SIP4Dは、災害対応を行う組織が有する情報システム同士を結び付ける「パイプライン(土管)」を目指している。そのためには、異なる情報システム間でのデータ変換処理、同種のデータの統合処理が必要であり、そのための汎用技術を開発・実装している。SIP4Dで共有される情報は多岐にわたる。例えば、震度分布、降水量分布、停電状況、通信途絶状況、道路通行可否状況、避難所状況、給水・入浴支援箇所、衛星画像、航空機による空中写真、ドローン画像等、所管の枠を超え、組織に横串を通す形で、情報を一元的に利用できるようにする点が特徴である。

図1
図1 SIP4D が目指す組織間情報共有の概念図

■災害情報の共通ビューア「bosaiXview」

SIP4Dは情報システム同士を接続するため、共有される情報はそれぞれの情報システムで閲覧・利用することができる。しかし、逆に言えば、普段から使用している情報システムがなければ、閲覧・利用することができない。そこで、情報を共通して閲覧できるビューアとしてbosaiXview(防災クロスビュー、旧名:防災科研クライシスレスポンスサイト)を構築し、災害時には防災科研のウェブサイトから公開している。図2は2021年7月3日に発生した静岡県熱海市での土砂災害に関するbosaiXviewである。左側のメニューに共有される情報が並び、順々に見進めていくことで災害全体を把握できるようにすることを目指している。右側には様々な災害情報が地図に重なる形で表示される。図2では土砂災害が発生した範囲と家屋形状のデータを重ね、流失などの被害を受けた家屋を可視化している。

図2
図2 2021 年熱海市土砂災害のbosaiXview(防災クロスビュー)

■災害対応を情報で支援するチーム「ISUT」

SIP4Dを活用し、共有すべき情報を現場で集約したり、現場のニーズに合わせた情報を作成するチームがISUT (アイサット:Information Support Team、災害時情報集約支援チーム)である。2015年の関東・東北豪雨、2016年の熊本地震、2017年の九州北部豪雨時に防災科研として活動を行い、2018年からは内閣府・防災科研のチームとして試行を重ね、大阪府北部の地震、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)、北海道胆振東部地震での実災害適用を経て、2019年より本格運用が開始となった。ISUTは、内閣府の情報先遣チームとともにいち早く現地入りする。政府の現地拠点にブースを設け、持ち込んだパソコン、プロジェクター、タブレットなどを駆使し、bosaiXviewにより詳細な情報を加えた災害対応機関限定の共通ビューアとしてISUT-SITEをその場で表示し、現場での情報共有に努めている。写真1は、2020年の令和2年7月豪雨の現地拠点となった熊本県庁の様子である。複数の制服を着た現場担当者が一堂に集まり、ISUT-SITEで情報を閲覧しながら、状況認識の統一を図っている。ISUT-SITEは現場だけでなく、災害対応機関であれば遠隔地でも閲覧できる。現場が今どのような状況になっているのか、これからどのような支援がどの程度必要なのか、各組織の意思決定を支援している。

写真1
写真1 2020 年熊本県庁でのISUT-SITE による情報共有の様子

■「情報」を介して実現する産学官連携

SIP4Dによる情報流通、bosaiXview/ISUT-SITEによる情報可視化、ISUTによる情報集約・提供の活動は、現在は内閣府と防災科研による協働だが、「情報」を取り扱うことで、図1で示したように、組織と組織、現地と遠隔地、そして産学官を連携させる災害対応の形を目指している。ここでは、実災害時の活動において、情報が異なる組織の活動をつないだ事例を幾つか紹介する。

2016年の熊本地震では、まだ被害状況に関する数値が現地から上がってこない中、防災科研が提供したリアルタイム建物被害推定情報に基づいて被害の概算が見積もられ、全国知事会による早期の支援活動につながった。また、国土地理院の空中写真が早期に公開されたことで、これを民間企業が画像解析してブルーシートを抽出し、別の民間企業が家屋形状と重ねて被害建物数をより詳細に抽出した。

2017年の九州北部豪雨では、悪天候が続き国土地理院の航空機観測ができず、被災地の全容把握に時間を要した。これに対し、民間企業のヘリコプターによる写真撮影データが大量提供され、これを緊急消防援助隊が判読し、被災エリアを紙地図上に同定した。さらに、これを防災科研現地チームがデジタル化し、各組織に共有することで、消防だけでなく、自衛隊、警察などの実動機関間での救助・捜索活動に活用された。

2018年の西日本豪雨では、複数の都道府県が被災し、広域での災害対応が必要となった。試行段階だったISUTは広島県に、加えて防災科研として岡山県、愛媛県に支援部隊を派遣し、県ごとで情報集約を行ったが、それぞれの県で作成されている情報に違いがあり、そのまま共有するのでは広域で状況把握するには適さない状況にあった。そこで、SIP4Dを活用し、地域ごとに異なる情報の同種部分を論理的に統合し、統一化した上で、各県の現地拠点にいる様々な組織のニーズに応える地図を作成し、提供した。図3は、有床病院の位置と停電状況を重畳することで支援が必要な有床病院を特定し、給水拠点と道路規制箇所を示して、被災現場への移動、物資の輸送、患者の搬送などを支援したISUT作成の病院支援用地図である。

図3
図3 2018 年西日本豪雨でISUTが作成した病院支援用地図

2019年の房総半島台風では、千葉県庁でのISUT活動中に要請を受け、産学官連携で構成されるAI防災協議会が、県が作成した被災者向けのFAQ(頻繁に尋ねられる質問への回答集)をAIに読み込ませ、SNS上でチャットボットとして提供した。これにより、被災者からの問い合わせに自動回答できるようになり、被災者と問合せを受ける行政の双方の負荷を軽減した。さらに、これを運用する中で、官のFAQだけでは被災者の実直な問い合わせに答えられないことが分かり、保険会社が有するFAQも読み込ませることで、被災者のニーズに応える対応を実現した。

同じ2019年の東日本台風時では前年の西日本豪雨時と同様、複数都道府県で被害が発生し、ISUTは宮城県、茨城県、栃木県、埼玉県、千葉県、長野県に派遣された。千曲川が決壊した長野市において、各家庭から搬出される被災家財などが道路にはみ出し、渋滞が発生して復旧活動が遅れるという事態に陥ったが、市民・ボランティア、市、県、支援自治体、国土交通省、環境省、自衛隊が、災害廃棄物の状況把握、小型車両を活用した一時置場への移動、大型車両を活用した被災地外仮置き場への移動を一体となって行うチーム「OneNagano」として連携した活動が行われた。この中で、ISUTは災害廃棄物の位置、一時置場・仮置き場の位置、道路規制の状況を地図に示し、これを紙地図やデジタル媒体で共有し、活動を支援した。

■これからの産学官連携に期待すること

このような活動と効果が評価され、2019年にはISUTが、2021年にはSIP4Dが国の防災基本計画に記載された。研究開発成果が実用化され、試行活動が本格運用に位置付けられた形である。また、SIP4Dは、2021年4月からの第6期科学技術・イノベーション基本計画においても、頻発化、激甚化する自然災害への対応として、その展開を図ることが明記されている。加えて、2021年5月には、内閣府より「防災・減災、国土強靱化新時代の実現のための提言」が出された。ここでは、事前防災、複合災害対応、防災教育、防災ボランティアとともに、デジタル防災技術の一つとして官民災害対応システム「防災デジタルプラットフォーム」の必要性が示されている。今後、防災IoTや様々な個別アプリケーションの開発・実装が注目されるが、その根幹としてのプラットフォームが統一化・標準化・グレードアップされることで、これらが一つの木のごとくつながり、花開くことが期待されている。2021年9月にはデジタル庁が創設されるが、それに向けて、政府では「包括的データ戦略」を策定しており、その中で、防災分野は連携基盤となるプラットフォームの整備を重点的に取り組むべき分野の一つとして示されている。防災はもともと分野横断、組織横断で取り組むべき課題である。あらゆる分野においてDX(デジタルトランスフォーメーション)への加速化が叫ばれる中、他の分野に先駆けて産学官連携を果たし、産学官連携社会を牽引(けんいん)することが期待されている。

南海トラフ地震や首都直下地震をはじめとした国難災害への対応のためにも、オールジャパンでの連携が必要不可欠である。防災科研では、産学官連携による「知の共創」を目指し、2020年7月にイノベーション共創本部を設置した。学術研究という枠組みにとどまらず、「先ず隗(かい)より始めよ」の精神で、産学官連携社会としての新しい防災へのイノベーション創出に自ら先陣を切り、社会のレジリエンス向上を着実に実現していきたいと考えている。ご賛同いただける産業、学術、官公からの積極的な参画を期待したい。