シリーズURAの質保証制度

第7回 研修科目の概要

京都大学 学術研究支援室 天野 絵里子
RA 協議会/金沢大学 先端科学・社会共創推進機構 稲垣 美幸
東京都立大学 総合研究推進機構 柴田 徹

2021年8月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

本シリーズの第7回は第6回に引き続き、研修科目の概要について紹介する。

今回は、10科目群15科目のうち、科目群C「研究開発評価」の「C5:研究開発評価」、科目群D「外部資金」の「D6:外部資金概論」と「D7:申請書・報告書作成支援」、そして科目群E「研究プロジェクト」の「E8:研究プロジェクトのマネジメント手法」の4科目について紹介する。執筆担当者は教材作成者あるいはシラバス作成者である。

■C5:研究開発評価(担当:天野絵里子)

■当該科目の考え方

本科目では、「研究開発評価」を「研究開発に関連する営みに対する体系的な調査や価値判断」と緩やかに定義する。その上で、評価を受ける側である研究機関や教員を支援したり、研究機関内で自ら行う事業を設計・運営したりといった役割を果たすURAのために、研究開発評価の理論と実践の糸口を提供している。

研究開発評価の枠組みは、URAや研究推進を担う職員の業務に密接に関係しているにもかかわらず、必要性が十分に理解されておらず、その考え方があまり浸透していないようである。研究開発評価を体系的に学ぶ機会として文部科学省が「研究開発評価人材育成研修」を提供しているが、毎年の受講人数は限られている。このURA質保証事業の科目構成の検討の中でも、「研究開発評価」を科目として設置することに消極的な意見さえあった。そのような中でこの科目が設置されたのは非常に意義深い。

研究開発評価について短期間に深い知識を身につけて実践できるところまで到達するのはなかなか難しいが、この質保証事業における本科目の教材作成と講師には、前述の文科省研修の講師も務める林隆之教授(政策研究大学院大学)を迎え、Fundamental、Coreレベルの各60分の講義で、コンパクトに最低限の基礎知識やツールに触れられる構成を実現した。また、最後に自ら学ぶために参考文献も示した。講義で得た視点をもとに日頃の業務を振り返り、実践の中でさらに学びを深めていただければと考える。

■当該科目の概要

Fundamentalレベルではまず基礎知識として、研究開発評価が必要とされる政策的な背景と、「評価」の概念整理を行っている。政策的背景としては、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」を参照しながら、研究開発評価の概要および、わが国の研究開発評価の仕組みを解説している。「評価」という概念は、非常に誤解されやすい概念である。例えば、点数を付けて優劣を付けるのが目的であるといった、評価される側からすればネガティブなイメージが想起されやすい。しかしながらここでは「評価」の目的として、資源配分の意思決定、評価対象の改善に向けた支援材料、資金提供者への説明責任であることを述べ、それらの目的を果たすことが評価の意義であると整理する。研究開発評価における「評価」が決して優劣を付けることではなく、より良い研究開発を創出するために行われる価値判断であるということがまず理解できる。

Fundamentalレベルの後半からCoreレベルにかけては、理論だけでなく事例を通じて実践を学んでいく。事例は、URAや研究推進を担当する職員が研究開発評価に接する代表的なパターンごとに紹介した。

  • 研究開発プログラムのもとで研究者が実施する研究開発課題(研究プロジェクト)の評価への支援
  • 研究機関の評価(国立大学法人評価等)への対応
  • 研究機関内の研究開発プログラムの設計・運営
  • 研究機関内の自己点検・評価への対応

例えば、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の社会技術研究開発センター(RISTEX)を事例に、RISTEX全体の目的やアウトカム、インパクトがプロジェクトの評価基準に反映されることが述べられる。そのような評価基準を意識することによって、研究者がRISTEXに申請する場合、あるいは中間評価や事後評価を受ける際に研究プロジェクトが高評価を得られるポイントを捉えることができる(パターン1)。

Coreレベルでは、研究機関内の研究開発プログラムを自ら設計して評価するために必要なプログラムマネジメントの考え方や、評価ツールとしてのロジックモデルも解説される(パターン3)。研究機関内の研究開発プログラムとは、近年URAが取り組むことが多くなっている「学内ファンド」や、PDCAサイクルを経ながら改善していく一連の事業・プログラムとして考えられるものはどれも当てはまる。

最後に、研究機関としての組織評価、自己点検について、様々な大学・研究機関における取り組み例を見ながら、それらの課題について検討していく(パターン4)。各研究機関が、意思決定や外部評価への対応のために、KPI (Key Performance Indicator)といった指標の設定による評価や、ポートフォリオ分析、学内組織やセンターごとの評価などさまざまな取り組みを試行錯誤している。研究機関の研究戦略へ創造的な提案が期待されているURAや職員にとっては、学ぶところが大きいだろう。

■当該科目で身につけてほしい知識や能力

研究開発評価の考え方を生かせば、日頃の業務が俯瞰的に、中長期的観点で見られるようになり、業務の質向上が期待できる。研究推進・研究支援業務は、研究開発評価と無縁ではあり得ないが、日頃の業務に追われているとその視点が抜けがちで、また、学ぶ機会も少ない。この科目を受講することによって、例えばプレアワードにおける研究者による研究プロジェクトの申請支援のように単発では短期の業務であっても、研究開発評価の考え方を身につけることによって業務により深く取り組むことができる。まず、一つの研究開発プログラムとしてそのファンドが何を目指すのか分析し、研究者に有益な情報を提供することができる。そして、そのファンド事業で期待されるアウトカムを踏まえて高評価の得られるプロジェクトを研究者とともにまとめ上げることができる。こうした一連の申請支援業務も自ら実施する研究開発プログラムとみなすこともできるが、研究開発評価の考え方やツールを使って、それらの業務を改善していくことができる。

「研究開発評価」の受講をきっかけに、URAや研究推進に関わる職員が目の前の自らの業務の質を高めていただきたい。さらに言えば、研究開発に関係する国の政策や研究機関レベルの評価の取り組みに対し、創造的な姿勢で関われるようになることを期待したい。

■D6:外部資金概論(担当:稲垣美幸)

■当該科目の考え方

本科目では、外部資金に関わる基本的な知識の習得を目的に、外部資金とは何か、ということから様々な外部資金に対してURAとしてどのように関わることができるのか、ということまでを体系的に学べるような内容とした。

外部資金に関する業務はURAの主要な業務と認識されていることも多いことから、具体的な内容をどうするかは悩ましい問題であった。具体的なノウハウを求められることが多いと想定しながらも、結果としてFundamentalレベルでは外部資金に関する最低限の知識を、CoreレベルではURAとして外部資金の獲得に貢献できる知識と能力を習得するために有益な情報を提供するという考え方で設計されている。Coreレベルでは、この科目の受講で終わりではなく、この科目の受講をきっかけに、自らが主に従事する業務と関連づけながら新たな知識の獲得や能力の向上を期待している。

■当該科目の概要

上記の考え方を踏まえ、Fundamentalレベルでは外部資金とは一体何か、ということを大学の財務状況の視点から捉えるとともに、外部資金の種類と外部資金として括られつつも性質の異なる経費、さらには研究者に配分されるレベルでの直接経費と間接経費を項目立てて説明している。

Coreレベルでは、Fundamentalレベルの知識があることを前提に、実際に研究者に対してどのような情報を提供するか、そして研究者個人を対象とした外部資金だけではなく、研究機関を対象とした資金についても言及し、その過程で把握すべき学内ルールや研究費固有のルールについても解説している。そして、研究費の適正使用、不正使用防止についてもURAの立場としてどういう認識でいるべきか、外部資金に関する業務に携わる立場としてどのような点に注意すべきかということについて概説している。

■当該科目で身につけてほしい知識や能力

外部資金の獲得は、大学を中心に重要なURAのミッションとして位置付けられていることが多い。また、外部資金の獲得から新たな研究サイクルが始まり、様々なURA関連業務が派生する。このような状況から、外部資金に関する知識はすべてのURAが学ぶべきものであると同時に、そこから各人の業務に紐づけた形で知識や能力を高めていくことが望まれる。新たな研究活動のはじまりになくてはならない外部資金に関わることができるURAには、ある意味、研究の方向性や着地点を見据えた助言やフォローが期待される。そのための基本的な知識と能力を習得し、さらに自身で高めていくことを期待する。

■D7:申請書・報告書作成支援(担当:稲垣美幸)

■当該科目の考え方

この科目は、URAの主たる業務として広く認知されている申請書・報告書の作成支援について扱っている。この科目の内容については、具体的な申請書・報告書の作成ノウハウではなく、競争的資金に付随する審査・評価プロセスを効率的に進めるためにURAとしてどのようなことをするべきか、という考え方に基づき設定されている。つまり、事業の趣旨を踏まえた多くの提案の中から、より優れた提案による競争のために、また得られた成果を適切に報告書にまとめ、次の資金の設計や研究活動の展開に結び付けるためにURAとしてどう研究者の支援をするか、ということに主眼が置かれている。FundamentalレベルとCoreレベルはそれぞれ予算規模で区分しており、大型資金についてはチームビルディングに関することも触れている。

■当該科目の概要

このような考え方に基づき、Fundamentalレベルでは、競争的資金における申請書・報告書の役割を理解し、FA(Funding Agency)と研究者のマッチングツールとしての申請書・報告書の作成についてURAとしてどのように支援するべきかを学ぶ。Coreレベルでは趣旨に合致した申請の中から最適な提案を選考する効率的な審査を行うための申請書、また得られた成果を、研究者自身のみならずFA機関も次につなげられる報告書とするため、URAとして研究者等に事業の背景や狙いを適切に伝えるとともに、申請書・報告書作成おいて適切な助言ができるスキルを学ぶ。

■当該科目で身につけてほしい知識や能力

この科目の設定については、議論の過程で不要という意見があったものの、URAとして主たる業務と位置付けられていることも多いことから科目として組み込まれた。このような背景を踏まえ、この科目では、個別具体の申請書・報告書作成ノウハウの講義ではなく、科学技術予算で比率が高まっている競争的資金の審査とその研究成果の展開を、より高いレベルで行い、我が国の研究レベルの底上げを支えるために申請書や報告書がどうあるべきか、そのためにURAがどう支援・関与するべきか、ということを踏まえた内容としている。この科目の受講を契機に、申請書・報告書作成支援の技術的な向上のみならず、我が国全体の研究力強化のための申請書・報告書を意識した支援につながることを期待する。

■E8:研究プロジェクトのマネジメント手法(担当:柴田徹)

■当該科目の考え方

当該科目は、大学や公的研究機関における「研究プロジェクト」を対象として、「研究」と「プロジェクトのマネジメント」の組み合わせという考え方で教材を設計した。「研究」とは、真理を明らかにすること、新たな知見を得ることであり、必ずしもプロダクトやサービスに結び付かない、すなわち研究成果=商品ではないことを当該科目の冒頭で説明している。「プロジェクトのマネジメント」では、1969年米国で設立されたProject Management Institute(PMI)**1が体系化したProject Management Body of Knowledge(PMBOK)第6版の日本語版**2をベースに設計した。また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がこれまでの研究開発で得られたマネジメント上の知見をまとめている「研究開発マネジメントガイドライン」**3も参考にしている。

Fundamentalレベルでは、上記「研究」や「プロジェクトのマネジメント」で用いる用語の解説や、時間軸にそったスケジュール管理の方法など研究プロジェクトのマネジメントに必要な基礎知識の教授を第一の目的としている。加えて、具体的な研究プロジェクトの事例を挙げ、個々の場面におけるマネジメント手法を身近に感じられる工夫を取り入れている。Coreレベルでは、受講者の研究プロジェクトをマネジメントした経験をベースに、特にマネジメント上で発生したトラブルや課題を持ち寄り、その時に実際に行った対策を共有した上で他の受講者が自らの立場に置き換えどのようなプロジェクトのマネジメントを行うのかをディスカッションするなど、新たな実践知が修得できるような構成とした。

■当該科目の概要

当該科目の要旨は「研究プロジェクトの基礎的な概念と、研究プロジェクトをマネジメントするために必要な工程と方法を学ぶ。具体的には、大学などアカデミアを拠点とする研究プロジェクトの構想、立案、研究資源の確保、研究組織案の策定、研究プロジェクトの起動・運営・マネジメント、研究リーダー(PI=Principal Investigator)との連携と役割分担など、研究プロジェクトの創出から経常的な運営までの一連の作業工程とその方法について理解する」である。

Foundamental レベル テキストからの抜粋

Fundamentalレベルでは、1. 研究プロジェクトとは何か、2. 研究プロジェクトマネジメントの要素、3. 研究プロジェクトマネジメントの作業工程、4. 研究プロジェクトのマネジメント手法、5. まとめ、研究プロジェクトのゴールとアウトカム評価、のような構成とし、広く、浅く、研究プロジェクトのマネジメント手法を解説している。Coreレベルでは、1. 研究プロジェクトマネジメントとは何か(Fundamentalレベルの振り返り)、2. 研究プロジェクトの様々なトラブル事例、3. 研究プロジェクトの紹介とトラブル事例分析(グループワーク)、4. トラブル事例から学ぶ研究プロジェクトマネジメントのポイント(グループワーク)、5. まとめ、研究プロジェクトを成功に導くマネジメント、のような構成とし、研究プロジェクトの事例をグループワークを通して相互に学べる内容としている。

■当該科目で身につけてほしい知識や能力

当該科目の達成目標は「個々の研究プロジェクトの背景や目的を理解し、対処すべき課題と時期、優先順位を理解し、PIや研究企画リーダーとともに研究プロジェクトの成立・成功に向け行動できること。研究プロジェクトに関係する学内外の組織・機関の目的・論理と、PI、研究者の目的・期待を調整することの重要性、ステークホルダーのインセンティブの重要性を理解できること」である。

研究プロジェクトは多種多様であり、マネジメントしにくい人的・定性的なファクターも多い。しかし、当該科目で教授したようなプロジェクトのマネジメント手法を正しく理解し愚直に業務に取り入れていくことがプロジェクトを成功に導く秘訣であり、不確定要素をいかに見える化し、早い段階で問題の芽を見つけ適切な対処をすることが、その先の大きなトラブルを防ぐことにつながる。トラブルが起こった後のマネジメントも重要であるが、トラブルを起こさないための日々のマネジメントもまた重要である。当該科目で説明しているマネジメントすべき項目(タイム、コスト、品質、コミュニケーションなど)とマネジメントすべき工程(立ち上げ、計画、実行など)の交点に位置するマネジメントプロセス(定義、計画、コントロールなど)は、研究プロジェクトを見える化する手法となるので、ぜひ日々のマネジメントに活用していただきたい。

参考文献

**1:
Project Management Institute, Inc.ウエブサイト: Project Management Institute|PMI
本文に戻る
**2:
一般社団法人 PMI 日本支部 ウエブサイト
本文に戻る
**3:
研究開発マネジメントガイドライン ウエブサイト:研究開発マネジメントガイドライン|NEDO
本文に戻る