リポート

燕三条医工連携コンソーシアムによる
デザインコンペティション

新潟大学 地域創生推進機構 特任教授/ビジネスプロデュース室 統括ビジネスプロデューサー 深谷 清之

写真:新潟大学 地域創生推進機構 特任教授/ビジネスプロデュース室 統括ビジネスプロデューサー 深谷 清之

2021年8月15日

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新潟大学は、燕三条地域の企業などとの連携を強化するため、2019年5月1日に、同地域の7団体との協働による「燕三条医工連携コンソーシアム」を設立した。同コンソーシアムの事業として、県内大学学生らを対象にした「燕三条デザインコンペティション(審査委員長:新潟大学医学部 寺井崇二教授)」を開催し、8月23日、燕三条地場産業振興センターを会場に最終選考会を行った。昨年と今年は、新型コロナウイルス感染症の対応もあり、デザインコンペティションの実施を繰り延べているが、地域の企業を学生に知ってもらう機会も兼ね、今後もこの活動を継続する予定である。

■本学の医工連携事業について

新潟大学は、燕三条地域の企業と同地域の業界団体と連携し、医工連携に関する事業を推進することとなり、協同組合三条工業会、燕商工会議所、三条商工会議所と本学の間で、本事業に関する共同研究開発契約を締結(2019年2月1日付)した。

本事業は、本学医学部や附属病院などの医療現場のニーズを基にした、検体回収用の簡易トイレなど医療関連製品をはじめ、医療器具の開発も視野に入れた製品開発を行うもので、同地域の金属加工技術に、本学の工学部や経済科学部などの関連分野の知見も加え、新たな視点で世界へ訴求できる製品づくりを目指す。この取り組みには、三条市、燕市の自治体、三条信用金庫などの金融機関などからも参画した。

活動の経緯は、地域の企業との産学連携を活性化したい本学の意図と、従来の金属加工技術による製造では今後の企業の将来に不安を感じていた燕三条地域の企業の意図が合致したものである。例えば、三条地域の企業は自動車エンジンの部品を製造する企業が多く、電気自動車などへの転換で他の分野への進出を検討していた。また、燕地域の企業は、洋食器を中心に製造しているが、コスト面から他の分野への進出を検討していた。そのため、医療分野の活動を経験している企業がほとんどなく、図1に示すように、医療分野、特にPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の審査を受けた経験がないことから、審査対象とならない、言い換えればPMDAのクラス外に分類される製品開発から、ステップアップする事業計画案を策定し、関係者の合意を得た。

図1
図1 本医工連携事業の概要

なお、2021年3月9日に、この取り組みの第1号製品である、新型簡易トイレの完成と販売開始に関する記者会見を実施した。さらに、11件の開発が進行している。併せて、2019年度末で42社の企業などが参加していたが、2021年4月末で参加企業は71社となった。

先述のとおり、この医工連携事業は、商工会議所などと本学の契約をベースにしており、個別企業と大学との共同研究契約の形態を採用していない。個別企業との契約は、両者の目的意識を明確にし、取り組みも進めやすいが、企業側の負担が重くなる傾向があり、企業の参加意欲を削ぐ可能性が高いと考え、現在の形式とした。企業は開発した製品を販売した際、その売価の一定割合を大学へ支払うこととしている。

■燕三条医工連携事業コンソーシアムについて

この医工連携事業が開始される際、燕三条地域の自治体(市役所)、金融機関も参加を申し出てくれた。そこで、これらの機関・団体を医工連携事業の応援団と考え、関係者で事業を盛り上げるための集まりとして「燕三条医工連携事業コンソーシアム」を八つの機関・団体で組織した。それらの関係を図2に示す。

図2
図2 燕三条医工連携コンソーシアム

コンソーシアムは、地域支援と産学連携、まちづくりの支援を目的に活動を行うこととし、一つの活動として主に県内の大学生向けの「デザインコンペティション」を開催することとした。その理由は、主に自治体からの意見に、新潟県の大学には隣接する県を中心に他県から若者が進学し、住んでくれるのに、新潟の企業をあまり知らないまま、地元に戻ったり、首都圏の企業へ就職したりということが多いので、県としては、新潟の企業、世界トップレベルの技術とブランドを誇る燕三条地域の企業を知る機会を作りたいためである。

2019年の時点では、長岡造形大学、長岡技術科学大学、本学を主な対象として、デザインコンペティションをコンソーシアムの活動として開催することを決めた。

他の活動では、第1号製品の新型簡易トイレを例にとると、その製品の販売先の市場を検討し、医工連携事業をさらに推進するための施策の提案を考え、市役所との意見交換や要望をまとめたりしている。

■デザインコンペティションについて

燕三条医工連携事業コンソーシアムの最初の事業が、デザインコンペティションである。このデザインコンペティションの最終選考は、2019年8月23日に行われた。このデザインコンペティションの課題は、医療現場のニーズに基づいた「①内視鏡を固定できる器具」、「②立っているのに座っているかのような楽な姿勢がとれる器具」の2課題とした。また、コンソーシアムの機関・団体の方に審査委員をお願いしたが、実際のニーズを提案された医学部寺井崇二教授に審査委員長をお願いした。図3にその内容を示す。

工場見学
コンペ表彰終了後の記念写真
図3 デザインコンペティションの実施

本学では、ビジネスデザインのコンペティションは実施経験があったが、デザインをテーマとするコンペティションの経験がないため、特に長岡造形大学には説明の内容や進め方について役立つ示唆をいただいた。ただ、その中でデザインするものが使われる現場を、デザイナーである学生が知る必要がある、との意見をいただいた。しかし、感染症予防の観点から実際の医療現場等に不特定多数の学生を入れることはできないため、医学部・病院の協力の下、医療現場などで実際にその器具を使う様子や、必要とする現場の様子を理解できる形のデモとして撮影した。この時に対象とした大学のうち、提供を要望した大学へ管理に注意することを伝えた上で提供した。そのような対応を実施したが、疑問点が全て解消されたわけではなかったので、個別の質問に回答するべく筆者が訪問し、あるいはメールでの対応も実施した。

書類審査への申請は三つの大学より11件提出され、審査の結果、6件を最終選考へ進めることとした。そして、8月23日の最終選考では、あらかじめ燕三条地域の企業の活動を理解してもらうため、工場見学を実施することを告知し、学生も最終プレゼンテーションの参考になる情報を得るため、会場近くの企業を訪問した。実際に製造する現場を初めて見る学生が多く、自分たちが考えている器具がどのような工程で製造されるのか、どのような点を考慮してモノづくりしているのか、などについて刺激を受け、関心を持った様子がうかがえた。

最終のプレゼンテーションでは、図面だけでなく、可能な限り見本になるようなモノを提示することを依頼し、6グループ全てが見本を示した。審査の結果、グランプリ1件、準グランプリ1件、佳作2件となった。現在、これらのアイデアのうちから一つのアイデアをベースに実際に製品開発が進んでおり、評価の段階に入っている。

学生のアイデアが製品化に直結するものではないが、製品化の端緒となり得ることを証明した。

そして、2020年春に、第2回目のデザインコンペティションを募集したが、新型コロナウイルス感染症対応のため結果的に延期し、2021年も年度初めは実施の方向で検討したが、図面だけの審査では学生のアイデアが十分に伝わりにくい。見本を見ながら質問するオンライン形式も検討したが、審査側が複数個所の場所から参加するため、複数の見本を作成する手間を学生へ求めることも考慮し、2022年へ繰り延べることとした。

一方で、学生の参加をお願いする大学を3大学から5大学に増やすことが決まったので、今後、現地に集合する形式での開催が実現できれば、さらに活発な活動となり、地域を盛り上げる目的達成にも寄与することが期待できる。

■医工連携事業の今後について

前述のように本事業へ参加する企業は、2021年4月末で71社と増えており、また新潟市にある新潟商工会議所とも同じ内容の契約を締結し、同商工会議所加入企業も製品開発に参加している。また、数は少ないが、新潟県外の企業・自治体・商工会議所などから参加の打診を得ている。ただ、対象を広げ過ぎると、本学の対応が間に合わなくなるため、遠方からの参加は現時点では未対応の状況である。

次に現在製品開発を進めている企業は、その製品の試作品製造は自社でほとんどの部分が賄える会社であるため、製造の一部に参加を希望する会社との連携は実現できていない。一部の製造を担うことを希望する企業にも製品開発の状況等の事業の推進状況について情報を提供しており、第1号製品の機能・要件が確定した段階で一部の製造を希望する企業向けの説明会を開催することができた。今後も、第2号製品の場合も同様の対応を予定している。

また、燕三条を中心とする新潟県の企業は、全般に金属加工の分野で名を知られている企業が多いが、電子回路や電気系統などが必要となる分野で活躍する企業が少ない。そこで、信州大学が進める医工連携事業との協働も視野に入れて検討している。工業分野だけでなく、新潟県が誇る農業分野との医農連携事業も本医工連携事業とは別の関係者との連携を検討しながら、企画を進めている。