国立の研究機関による技術支援

連携と技術支援による社会課題解決を目指して
国立研究開発法人産業技術総合研究所

国立研究開発法人産業技術総合研究所 イノベーション推進本部 地域連携部 地域・中小企業室 乾 直樹

2021年8月15日

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国の研究機関としては最大の規模を有する国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は、鉱工業の科学技術に関する研究開発にとどまらず、研究成果の普及と様々な社会課題の解決を図るために、技術の社会実装を目指した企業連携を積極的に推進している。ここでは産総研が行っている企業への技術支援内容と、近年広がってきた機関をまたがる横連携の関係の構築状況について紹介する。

■産総研の役割

産総研は、鉱工業の科学技術に関する研究および開発などの業務を総合的に行うことにより、産業技術の向上およびその成果の普及を図り、もって経済および産業の発展並びに鉱物資源およびエネルギーの安定的かつ効率的な供給の確保に資することを目的として、2001年に創立された国内最大級の公的研究機関である。日本の産業や社会に役立つ技術の創出とその実用化や、革新的な技術シーズを事業化につなげるための「橋渡し」機能に注力しており、体制として産総研のコア技術を束ねその総合力を発揮する「5領域2総合センター」があり、全国11カ所の研究拠点で約2,300人の研究者が、イノベーションを巡る環境の変化やそれらを踏まえて策定された国家戦略などに基づき、ナショナルイノベーションシステムの中核的、先駆的な立場で研究開発を行っている。また、世界各国の主要研究機関と包括研究協力覚書(MOU)を締結するなど、積極的にグローバルネットワークも構築している。

わが国は現在、エネルギー・環境制約、少子高齢化、災害、パンデミックなどの様々な社会課題に直面していることから、その解決が強く求められている。その解決のために研究成果の社会実装を拡充することが産総研の重要な役割であり、経済活動の活発化にもつながるものと考えている。さらに、持続可能な社会の構築への取り組みとして、各研究領域からなる多様性を総合的に生かし、世界に先駆けた社会課題の解決に向けて、産業界や社会、国との連携を深め、社会的・経済的価値につながるイノベーションの創出を目指している。多数の研究ユニットが集まっているつくばセンターを中心として、全国に8カ所の地域研究拠点(地域センター)があり、地域の中小・中堅企業のニーズを積極的に把握し、経済産業局や公設試験研究機関(公設試) *1、および大学との密な連携を行うことにより、地域における経済活動の活発化に向けたイノベーションの推進に取り組んでいる。

また、地域センターにおいては、地域イノベーションの核としての役割を持つ研究所として「世界最高水準の研究成果の創出」の役割と、地域のニーズをオール産総研につなぐ連携拠点の役割とのバランスを保ちながら、各地域が持つ「看板研究テーマ」の地域ニーズに応じて、地域の企業・大学・公設試などの技術人材や設備などのリソースを活用したプロジェクトの拡大により、地域イノベーションへの貢献を図っている。

■支援内容の紹介

産総研は多大な研究人材のリソースを最大限に活用し、産業界からの技術相談に応える窓口をウェブサイト上に設けている。これは無償で研究者から高度な技術アドバイスをもらえるサービスで、日々、何らかの相談が寄せられている。また、産総研の技術相談はウェブ経由以外の方法でも寄せられており、合わせると総数で年間2,000件を超えている。技術相談は無償で受けられ、公知の情報に基づく簡単な情報提供であることから、提供できる情報の範囲は限定的であるが、さらに詳しく高度な内容の相談が必要になれば、技術コンサルティングを50万円からの有償で受けることもできる。こちらは秘密保持契約も締結して内容の秘匿性を担保することから、より具体的に踏み込んだ企業の課題解決に寄与する礎となっている。近年、この技術コンサルティングは増加傾向にあり、年間約700件に及んでいる。また、技術コンサルティングを受けた企業の9割以上は、その結果に満足されていることが満足度調査からうかがえており、さらに、その企業の半数以上が産総研との共同研究など、さらなる連携と技術開発のステップに発展している。

また、産総研には連携をサポートする専門スタッフとして、技術シーズと企業ニーズを把握しマーケティング、マッチング活動を行うイノベーションコーディネータ(IC)、科学、技術、知的財産(知財)に関する法務や契約に精通した技術移転マネージャー、中小・中堅企業に対して外部研究資金の獲得提案支援などを行っている中小企業連携コーディネータ(SCET)、成果の知財化、知財調査、戦略策定などを行う知財オフィサー(IPO)、成果の標準化とその戦略の策定などを行う標準化オフィサー(SO)など、様々な「コンシェルジュ」が産業界からの要望に応えている。さらには、公設試や産業支援機関などの職員を中心に「産総研イノベーションコーディネータ(産総研IC)」という肩書を委嘱しており、彼らには地元の企業支援にあたり、必要に応じて産総研の技術紹介などのつなぎ役を担ってもらっている。これらの連携担当者を合わせると総数は200人に及んでおり、企業連携を推進するにあたって欠かせないキーパーソンとなっている。

技術的課題を抱える企業の皆さまには是非とも、研究リソースはもとより連携実績も豊富な産総研の技術相談窓口までご連絡をいただきたい。

■機関連携の新たな協力関係構築と今後の展望

昨年(2020年)は、7月にスタートアップ支援機関の協定(Plus)に加わり*2、また同年9月からは4省4国研*3による連絡会議にも参加している。それぞれ、スタートアップ企業や、中堅・中小企業に対する情報提供や支援について、機関相互の情報共有や意見交換を行いながら、各機関のホームページでの案内や企業向けメールマガジンでの周知、企業向けイベント開催時のチラシ配布を行い、支援内容の紹介に取り組んでいるところで、技術相談を始めとする産総研の企業支援についてもPRを行っている。また、これらの協定や連絡会議による協力関係を通じて、関係機関を経由して企業の技術的課題が寄せられることもあり、機関の横連携による企業支援の体制が一層に強化されてきた。

特にこれからは、中小・中堅企業が持つ技術ポテンシャルについて、産総研が持つ研究リソースを活用してもらうことでその企業が社会実装し、地域の課題解決により経済の活性化となるよう、技術開発のための公的資金獲得支援や、公設試や他機関を交えた技術支援・連携支援、さらには標準化支援、伴走型の企業支援を行うことも重要と考えている。新たな協力関係の構築により、これまで一層の伴走型支援が実現できるプラットフォームとして機能させ、企業に頼ってもらうために、産総研の価値の向上・魅力の向上に励んでいきたい。

*1:
地方自治体、地方公共団体が設置した試験所、研究所、指導所その他の機関。主に鉱工業振興、農林水産業振興等の向上などといった、地方の行政目的に沿う試験・研究・高度な機器の供用・指導・教育・相談等の業務を行っている。
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*2:
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、独立行政法人国際協力機構(JICA)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)および独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)の9機関で、2020年7月に、スタートアップ支援機関連携協定(通称「Plus “Platform for unified support for startups”」)を締結した。Plusでの活動を通じ、技術シーズを生かして事業化などに取り組むスタートアップおよび創業を目指す研究者・アントレプレナーなどの人材を継続的に連携して支援し、新産業の創出を促進することなどにより、日本のスタートアップ・エコシステム形成および海外を含む経済・社会課題の解決に寄与することを目指す。
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*3:
産業に近い研究開発や産学連携の推進を行っている国の研究機関(国研)および各国研の所轄省からなる連絡会議。参加機関は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)、国立研究開発法人土木研究所(土木研)の4国研、および、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省の4省。研究開発法人による中堅企業等の研究開発支援に関し、企業からの相談の裾野を広げて適切な支援が提供できるよう、国研が行う支援業務に係る情報交換・共有を図り、情報発信・相談受付等の具体的取り組みについて検討することを目的とする。
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