特集知財戦略最前線

商標法改正後の大学ブランド活用

北海道大学 産学・地域協働推進機構 寺内 伊久郎

写真:北海道大学 産学・地域協働推進機構 寺内 伊久郎

2021年8月15日

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大学が自学のブランド力を高めることは、社会からの信頼度向上や優秀な学生獲得などに向けた重要な取り組みとなっている。大学のブランド力は、建学の理念、長い歴史、研究者と研究成果、在校生や卒業生、キャンパスの魅力など、多くの要素から生じるものであると言えるが、大学ブランドは、大学名称、大学略称、シンボルマーク、ロゴマーク、スクールカラー、コミュニケーションマーク、キャラクターなどが象徴的な役割を果たしている。従来、大学は名称やマークなどの一部を防衛的に商標出願する程度であったが、現在は、大学の知名度向上、積極的な広報、研究成果の製品化、大学発ベンチャー支援などを目的とした戦略的なブランド活用が重要となっている。今回、商標法改正により、大学が第三者に対して著名な大学商標をライセンスすることもできるようになり、大学のブランド活用はより活発化していくことが予想される。

■商標法改正の意義

商標法では、大学が有する著名な名称やマークなどの標章については商標登録を受けることができないと規定されており(第4条第1項6号)、例外として、大学自らが出願する場合にのみ商標登録(これを公益著名商標という)を受けることができるとされている(第4条2項)。これは、大学と無関係な第三者が大学の著名な標章を独占することは、権威の尊重などの公益保護の観点から認められないという趣旨である。この趣旨に基づきさらに、商標法第30条第1項および第31条第1項ただし書においては、第4条2項の適用を受けた大学自身が取得した公益著名商標権であっても、出所の混同防止などの観点から、大学は専用使用権の設定および通常使用権の許諾(以下、ライセンス)ができないこととされていた。

上記の商標法の規定は、制度趣旨は明確であり問題となることもなかったため、長年にわたり改正の必要性の議論がされることはなかった。現実的にも、大学の著名な標章を、大学以外の第三者が取得する必要性はなく、また大学が取得した公益著名商標を第三者に利用させる明確な理由もほとんどなかったと言える。一方、実務上は、大学が有する著名な標章(著名な大学の正式名称や略称など)は公益著名商標として商標権のライセンスができない制約を受けるが、公益著名商標でも商標の仕様態様ではなく説明文中などでは使用を認めてよいとする大学の独自運用や、著名とまで言えないようなシンボルマークやキャラクターなどは、第4条1項6号や第4条2項の制約を受けることなく、大学が商標権を取得することができライセンスを行っているという実情もあった。このように商標法の規定は、著名の程度などが問題になるため制度自体が分かりにくく、大学のブランド活用において商標法を認識している大学とまったく認識していない大学があるという興味深い調査結果が2013(平成25)年に出されている**1

しかしながら、少子化やグローバル競争など大学を取り巻く状況は大きく変わり、大学が取得した公益著名商標であっても、大学知名度の向上、自治体や企業との連携促進、産学連携成果の活用、大学発ベンチャー支援などのため第三者へのライセンスなど幅広く活用することがブランド力向上に非常に重要になってきた。また、大学以外の多くの公益団体でも知名度やブランド力の向上は、組織の存在意義を示すためにも重要となり、商標法の規定が時代に合わないという議論がされるようになった**2

その結果、令和元年法律改正により、商標法第31条第1項ただし書が削除され、大学が保有する公益著名商標は自身で使うだけでなく通常使用権の許諾を第三者に対して正式に行えるようになったものである。

■大学における商標活用の広がり

長年にわたり大学は教育と研究を主に行う場所であり、大学名称、大学略称、シンボルマーク、ロゴタイプなどの商標や標章は大学や教職員自らが、論文、発表資料、ホームページ、名刺、レターヘッドなど、日々の活動において使うことがほとんどであった。学内の大学売店で販売する文房具、被服などでも使われることはあったが、ほぼ教職員や学生向けに限られたものであった。

しかし、現在、大学商標の対外的な戦略的活用は、大学のブランド力向上に対する重要な取り組みとなっている。優秀な学生や研究者を集めるためには、学外の組織と連携しながら大学の知名度を上げ自らのブランド価値を高めることは重要であり、また、産学連携が強化される中、市場価値の向上のため共同研究成果としての製品に大学商標の付与を希望する企業も増えている。さらに、近年は、大学発ベンチャー創出も再び活発化しており、大学発ベンチャー企業に大学商標をライセンスすることで、ベンチャー企業の信用度が増し資金調達を容易にするという支援的な役割にも一役買っている。

上記のように、大学が学外組織に大学商標をライセンスする機会は増加しており、商標法改正によって、大学が自ら取得した著名な商標権を正式に第三者にライセンスすることができるようになったのは、大学のブランド活用戦略にとって大きな変化点であると言える。

■北海道大学ブランドの活用

北海道大学においても、ブランド力の強化は重要な課題であり、さまざまな観点からの取り組みを行っている。HP(ホームページ)を活用した大学情報の発信、研究成果の発信などのためのプレスリリース、オープンキャンパスなどは、多くの大学でも行っていることであるが、商標法改正により大学が商標を第三者にライセンスできるようになったことで、北海道大学でも、企業との共同研究成果である製品などに対して大学名称などのライセンスを開始している。

さらに、北海道大学では、大学として資産を生かしながら大学独自のブランド力向上にもつながる幾つかの特徴的な取り組みを企業と組んでチャレンジしている。以下に幾つかを紹介する。

①北大牛乳

札幌キャンパス内の農場で育てられた乳牛から絞った牛乳のブランド化を目指したものである。札幌駅のすぐそばにある学内農場の乳牛は、夏は放牧で自由に牧草を食べ、冬はトウモロコシサイレージや乾草を食べることで、季節ごとに風味が変わる他にはない牛乳である(写真1)。生乳そのものとしての提供のほか、ソフトクリーム、アイスクリーム、モッツァレラチーズ、クッキー、バームクーヘン、マドレーヌ、カヌレ、ロールケーキなどに加工され、北大牛乳のブランド名を冠して、学内のレストランや近隣のショップやホテルの朝食などで提供している。バームクーヘンやクッキーは札幌市のふるさと納税の返礼品としても選定されている。

写真1
写真1 北大札幌キャンパス内農場
②北大ガゴメ

ガゴメは函館を中心とした道南の海岸のみで採れる貴重な昆布であるが、函館キャンパスにある水産学研究院での長年にわたる研究が実を結び、ガゴメ昆布の特徴である豊富なネバネバ成分などから近年注目されてきた(写真2)。水産学研究院が独自の海洋栽培技術を開発し、養殖期間を3分の1にしながらもフコイダン含有量が天然の2倍以上となるガゴメ昆布の養殖に成功しており、この栽培技術で栽培したガゴメ昆布を北大ガゴメと名付けてブランド化を進めている。すでに多くの企業とコラボし、石鹸、化粧品、飴、パン、細切りガゴメなどを販売している。

写真2
写真2 北大ガゴメ
③その他

上記以外にも、本学余市果樹園で栽培したリンゴを使った「シードル」、水産学部付属練習船おしょろ丸が遠洋で採水した深層水を使用し、老舗洋食店の株式会社五島軒(函館市)とコラボした「おしょろ丸カレー」、北海道大学病院栄養管理部とセイコーマートを運営する株式会社セコマ(札幌市)がコラボした高タンパクアイスである「うしからもらったアイス」など、多くの製品に北大ブランドを付して発売している*1

これらの製品に共通することは、製品に単に大学の商標を付せばよいということではなく、製品が生まれるまでのストーリー性やその裏にある研究の苦労などをきっちり訴えていくことが、大学のブランド活用の本筋だと考えていることである(写真3)。

写真3
写真3 北大ブランドの商品群

■将来の展望

大学が企業などに公益著名商標に係る商標権、他の商標権、標章などをライセンスする場合に注意しなければならないことは、許諾先による大学ブランドの毀損(きそん)リスクである。大学自らがライセンスしているからには、その責任は大学も負わなければならないが、「なぜこの製品に大学の商標を付す必要があるのか」「この許諾が大学のブランド力向上にどう貢献するのか」を常に意識しつつ、消費者の誤認混同にも必要以上に気を付ける必要がある。そのため、実際の製品における最終パッケージまで確認を行い、公益著名商標(あるいは他の商標や標章)の使用態様のチェックなど適切な管理を継続的に行っている。また、製品自体を大学は製造しないため、企業における品質保証責任や製造物責任には契約等において十分に配慮しておくことも必要となる。

北海道大学のブランドは、1876年の札幌農学校を起源とする145年にもわたる先人の歴史により蓄積された無形資産であり、教職員・学生・卒業生の誇りの源泉である。企業ブランドも同じだと思うが、ブランドを築くことは長い期間が必要であるが失うのは一瞬である。そのことを肝に銘じ、北海道大学ブランドは先人からの預かり物であるという意識をしっかり持ちながら、大学はブランドの活用を行うべきであると考えている。

*1:
国立大学法人北海道大学 産学・地域協働推進機構 商標・ブランド HP
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参考文献

**1:
平成24 年度 特許庁大学知財研究推進事業「大学ブランドを活用した産学連携成果の普及に関する研究報告書」
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**2:
平成28 年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書「大学をはじめとする公益に関する団体等を表示する商標のライセンスに関する調査研究報告書」
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