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日本からの投資全米1位を記録した
インディアナ州の裏側2 医療連携編

インディアナ大学 医学部 リサーチアシスタントプロフェッサー 社団法人海外日本人研究者ネットワーク(UJA)理事 株式会社Quantaglion Co. Ltd. 米国アドバイザー Indy Tomorrow 代表幹事職 河野 龍義

写真:インディアナ大学 医学部 リサーチアシスタントプロフェッサー 社団法人海外日本人研究者ネットワーク(UJA)理事 株式会社Quantaglion Co. Ltd. 米国アドバイザー Indy Tomorrow 代表幹事職 河野 龍義

2021年7月15日

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■米国中西部の起業家精神

発明王として知られる起業家のトーマス・エジソン、自動車の大量生産を可能にした起業家ヘンリー・フォード、有人動力飛行を成功させ特許を取得したウィルバー&オーヴィル・ライト兄弟、起業家でも発明家でもないが月面着陸に成功したアポロ11号の宇宙飛行士ニール・アームストロング船長。おそらく多くの方が伝記で読んだことがあるこの4人には共通点がある。米国中西部の出身である。新しいことに挑戦する勇気と情熱を持ち、人類の歴史に1ページを刻んだ成功者として讃(たた)えられている。

前回の記事に続き、歴史的に起業家・発明家精神が息づいている米国中西部の産学連携を支える特徴的な機能を紹介したい。

■インディアナ州の重層的な起業支援システム

州規模のビジネスイベントで必ず私に声を掛けてくださる方がいる。東京にある米国インディアナ州政府駐日代表事務所**1で駐日代表を務めるポール・ローランド氏である(写真1)。

写真1
写真1 米国インディアナ州政府駐日代表事務所のポール・ローランド氏

「河野先生、お元気ですか! いつも素晴らしい活躍ですね! どうしても紹介したい方がいますのでこちらまでお願いします」生体組織作成可能なバイオ3Dプリンター、人工血管、医療デバイスなど、米国に進出したい日本の企業の方をいつも丁寧(ていねい)な日本語で紹介してくださる。私のほうでも大学関係者やインディアナの日本人コミュニティーや、米国内の研究者グループとの連携でメリットのありそうな方を紹介させていただいている。

ローランド氏は弁護士資格を生かし、マイク・ペンス元副大統領の知事時代から州政府のインディアナ経済開発公社(IEDC)**2で活躍しており、人望に厚く舞台俳優のような振る舞いで、彼の周りには自然と人の輪ができる。前任者のトニーさんこと、鈴木利和氏にもとてもお世話になった。二人とも底抜けに明るく素晴らしい笑顔でビジネスを前進させている。本題であるが、インディアナのスタートアップ、ベンチャーを支える重層的な支援システムは次のように大きく分けて三つの機能で構築されている。

  • ①スタートアップおよびベンチャーキャピタルファンド(エレベートベンチャーズ Elevate Ventures、ネクストレベルファンド Next Level Fund、インディアナ大学ベンチャーズ IU Ventures**3、パデュー大学ベンチャーズPurdue Ventures など多数)。
  • ②大学と企業間のパートナーシップ(各大学に企業とのパートナーシップの様々なオプションが揃えられている)。
  • ③セクター別の産業パートナーシップ(インディアナイノベーションセンター Indiana Innovation Center、バイオ・クロスロード Bio Crossroads **4、バッテリーイノベーションセンター Battery Innovation Center (BIC)、インディアナ5Gゾーン Indiana 5G Zone、インディアナIoTラボ Indiana IoT Lab、Agrinovus **5など多数)。

例えば、私が専門の糖尿病研究を通して血糖値センサの改良技術を考案した場合、大学内の起業を対象としたベンチャーキャピタルのサポートを受けて開発や特許取得、場合によっては医療デバイスに強い企業とのパートナーシップ、さらにIoT関連企業が集積しているインディアナIoTラボのインキュベーター施設(次回以降で紹介したい)を安価で利用することができ、実用化に向けた開発や事業拡大ができるようになるというようなシステムである。スタートアップサポートグラントも様々な種類があり、その申請にはNIH(米国国立衛生研究所:National Institutes of Health)への研究費申請とは異なるコツが必要なようで私も勉強中である。

大学とインキュベーション施設やファンドといった三つの機能をうまく使いこなすことにより、NIHへの研究費申請だけでは終わらない産学連携のダイナミズムが広がっている。ローランド氏は日本の企業を米国の研究者・ビジネスにつなぐことで両者に大きなメリットのある産業の活性化を成功させており、今後は医療・バイオ分野のスタートアップに大きなチャンスがあると捉えている。

■200周年を迎えたインディアナ大学と多様性に注目した投資

1820年に設立されたインディアナ大学は200周年を迎えた、その記念式典は2019年10月に私が勤める医学部のキャンパスから南に車で1時間程度のブルーミントンキャンパスで行われた。200周年記念事業に関わった関係で式典への招待状が届き、教員の列でパレードに参加したのだが、町中の方々から拍手を浴びた時はちょっとだけインディアナ大学の歴史の一部に加わることができたような誇らしい気持ちであった(写真2)。このキャンパスからは女性初のノーベル経済学賞受賞者を輩出しており、式典の挨拶でも活躍する女性の多さが目立ち、多様性を重視する文化が見て取れた。ブルーミントンの美しいキャンパスが有名である理由は、その風景もさることながら、知性によって育まれた歴史ある信念や哲学が関わっているように感じた。

写真2
写真2 インディアナ大学200 周年記念式典後の様子 ブルーミントンキャンパスにて
左からGieryn 教授、Hostetter 教授、筆者

このブルーミントンにインディアナ大学からの起業を支援するキャピタルファンドIU Ventures(IUV)が存在する。今年4月22日、IUVは歴史ある「Investor of the Year Mira Award」を受賞した。2018年以降、IUVが投資した企業の50%以上が、女性やマイノリティの創業者、CEO、役員を擁していることは高く評価を受けた。またパンデミックが起きた後もインディアナ州の中心の都市部だけでなく非常に広い地域に投資を行い続けたことも高い評価を受けている一因である。「多様なリーダーシップ、多様なチーム、そして公平で包括的な文化を持つ企業は、より良い製品を作り、最高の人材を採用し、より良い財務結果を生み出します」とIUVのCEOのトニー・アームストロング氏は受賞に際し強調している**6。2020年のベンチャーキャピタルによる資金調達は非常に好調であったにもかかわらず、米国全体で見ると黒人やラテン系の創業者が受けた支援はわずか2.6%、女性が創業した企業が調達した資金はわずか2.3%だった(Crunchbase社調査結果)ことからもIUVの取り組みがいかに革新的であるか伝わってくる。

■医療分野の連携についての直接インタビュー

IUVの役員を務めるジェイソン・ウィットニー氏が直接インタビューに応えてくれたので、その一部を紹介したい(写真3)。もともと「Launch Indiana」という起業プログラムを運営していたウィットニー氏の活動に母校が注目する形で現在のIUVのポジションに就くことになり、それからは膨大な資金を得てやりがいを感じながら教員や卒業生の起業活動の支援を行なっていると話してくれた。四つだけ、私の質問と彼の答えをそのまま掲載させていただく。

写真3
写真3 インディアナ大学ベンチャーズ役員のJason Whitney 氏
(Vice President of Venture Development and Executive Director for the Indiana University Angel Network)

Q1 : IUVにはどのくらいの資金が投入され、どのような支援が行われていますか?

A : 私たちのファンドは、これまでに800万ドル以上を18の起業家に提供してきました。 資金に加えて、私たちはこれらの企業に対して、経営人材の採用、他の産業別ベンチャーファンドへの紹介、顧問委員会のメンバーになることなどの支援を行ってきましたし、場合によっては、私たちのプログラムのメンバーを取締役として迎え入れることもあります。

Q2 : IUVにとって医学部とIBRI(医学部に隣接する産学連携のためのバイオ系研究施設)の重要性は?

A : 医学部とIBRIがサポートしている研究は、私たちの成功に欠かせない重要な要素です。多くの素晴らしい研究者が一つの空間に集まり強固なプラットフォームを構築することで革新的な研究を行うための新たな研究費がもたらされます。 さらに、私たちの広範なベンチャーネットワークと組み合わせることで、新たな治療法が患者さんに届くようにするための大きな価値と勢いを生み出すことができます。

Q3 : パデュー大学のベンチャーキャピタルはライバルですか?

A : (笑いながら)パデューVCは当社にとって非常に信頼できるパートナーであり、両大学間で研究が行われる案件には、頻繁に一緒に投資しています。 パデュー大学は一流のエンジニアであり、私たちはIU医学部の力に支えられているというように、それぞれの大学が得意な分野を持っていることが、この関係の良いところです。

Q4 : 海外との連携について教えてください。

A : 昨年は3回のグローバル・ピッチ・イベントを開催しました。このイベントでは、世界中の卒業生に向けてスタートアップ企業を紹介する機会を提供しました。 これらのイベントの幾つかは、ASEAN地域のオフィスと提携しており、同地域で運営されている企業に参加してもらいました。証券取引法の規制により、外国の企業に投資したり、外国の投資家が米国の企業に投資することはできませんが、お互いにメリットのあるパートナーシップや共同プロジェクトを一緒に行うことは可能です。

■まとめ 「You stay there, we bring you everything」

冒頭で起業家・発明家精神について述べたが、米国中西部からは大統領も8人が輩出されていて、文学としても冒険を主題とした著名な作品が多く描かれている。アントレプレナーシップが育まれる環境があるように思う。インディアナの投資環境については前回の記事を参照していただきたいと思う。実際に米国進出を視野に入れている方にはローランド氏に連絡されることを強くお勧めする。アメリカに出張する際にインディアナを視察したいという要望にも慣れていて、いつでも対応できるとのことである。

IUVの多様化を意識した活動には非常に感銘を受けた。特にウィットニー氏のセリフの中で一つ心に残ったことがある。「You stay there, we bring you everything」地域に根差した起業家がその土地にとどまることができるために様々なサポートを行うということだ。ベンチャーのサポートの中で、 その企業に足りない様々な専門性のアドバイザリーボードを組織することを非常に重視していることを熱心に話してくれた。この熱意が企業をインディアナにとどめる原動力であり、すでに成功している世代と次世代とをつないでいるようだ。安心して地域に根差した産業を生み出せる環境を持つことが、そこから世界に羽ばたく可能性を高めているように感じた。

起業を視野に入れて研究を行う学生の割合も高くなってきており、起業や産学連携を学んでいない教員はそういった学生からの信頼を得ることが難しくなっていく可能性がある。

「Research die on the bench=実験台の上で死ぬ研究」とならないように、実用化の動きを注意深く学び続けたいと思う。

参考文献

**1:
ウェブサイト:米国インディアナ州政府駐日代表事務所
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**2:
ウェブサイト:IEDC: Indiana Economic Development Corporation
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**3:
ウェブサイト:IU Investment Opportunities|About IU Ventures
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**4:
ウェブサイト:Biocrossroads バイオ・クロスロードは、ライフサイエンスのイニシアチブであり、企業、学会、慈善団体のパートナーたちと連携すること、新企業の立ち上げと構築への投資を促進することでライフサイエンス部門を強化している。
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**5:
ウェブサイト:AgriNovus Indiana アグリノバスは官民産業イニシアチブであり、食品および農業部門のイノベーションを促進する。Agbiosciencesセクターを中心として、産業界と政府間のコラボレーションとシナジーを促進する組織である。
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**6:
インディアナ大学ニュース IU Ventures recognized for investing in diversity with Investor of the Year Mira Award
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