リポート

スタートアップ支援に取り組む政府機関による
連携プラットフォーム“Plus”

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 伊吹 信一郎

写真:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 伊吹 信一郎

2021年7月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

新たな産業の担い手として期待されるスタートアップに対し、様々な政府機関が支援を行っているが、それぞれ独自に支援メニューを展開しているため一元的な情報収集を行うことが難しく、政府機関間での連携も不足していることが課題となっている。そのため、スタートアップ支援に取り組む政府機関による連携協定を締結し、支援事業の情報共有やワンストップ相談窓口の運営などに取り組んでいる。開始から約半年が経過したこの連携プラットフォームについて、これまでの取り組み状況と、さらなる課題の解決に向けた展望について、本稿でご紹介したい。

■Plusの背景・概要

多様で挑戦的な発想を持つスタートアップは、新たな産業の担い手として期待されているため、政府が、スタートアップに対し、自律的・連続的に成長するための支援や環境整備を行うことが重要となっている。特に、新型コロナウイルス感染症による経済の低迷に伴い、市場ではスタートアップへの新規のリスクマネーの供給が大きく落ち込み、日本でもようやく立ち上がってきたスタートアップ・エコシステム*1が機能不全に陥ることが懸念されている。活性化しつつあったスタートアップ創出の動きや、事業化に向けたスタートアップの活動を維持・促進するため、政府機関によるスタートアップ支援策を切れ目なく実施する必要がある。

他方で、これら政府機関が行うスタートアップ支援には、幾つかの課題があることが指摘されている。例えば、各政府機関がそれぞれ独自に支援メニューを展開しており、それらの情報を一元的に得ることが難しい。また、各政府機関同士での情報共有や政策連携が不十分であり、質の高いスタートアップに対して集中支援が行われていない。

このような背景の下、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、独立行政法人国際協力機構(JICA)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)および独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)の9機関は、2020年7月に、スタートアップ支援機関連携協定(通称「Plus “Platform for unified support for startups”」)を締結した(図1)。このPlusでの活動を通じ、技術シーズ*2を生かして事業化などに取り組むスタートアップおよび創業を目指す研究者・アントレプレナーなどの人材を継続的に連携して支援し、新産業の創出を促進することなどにより、日本のスタートアップ・エコシステム形成および海外を含む経済・社会課題の解決に寄与することを目指す。

図1
図1 Plus の概要

■Plusの取り組み

現在、Plusでは大きく分けて二つの取り組みを行っている。

1点目は、「スタートアップ支援情報の共有・整理・発信」である。例えば、NEDOを事務局として、Plus参加機関が集う定例会を開催し、それぞれが実施している支援事業の相互理解を深めているほか、各参加機関の支援メニューをまとめた資料をNEDOのホームページ(HP)に掲載している。また、2020年11月からは、NEDOのHPにおいてワンストップ相談窓口「Plus One」を設け、政府機関による支援に関するスタートアップからの相談を受け付けている(図2)。これにより、「支援を受けたいが、誰に相談したらいいか分からない」、「いろいろな事業があって、どれを選んだらいいか分からない」という悩みに対応し、希望に沿う事業やPlus参加機関をはじめとする政府機関などへの紹介を一元的に行うことで、スタートアップが自身に適する支援を受けやすくなることを目指す。

2点目は、「個別事業の相互連携の促進」である。例えば、JSTのSTART事業*3で支援した事業者が、NEDOのSTS事業*4に応募する際に、当該事業者が希望する場合にJSTからNEDOに対して紹介状を発出し、NEDOが審査において一定の優遇措置を講じることで、切れ目ない支援を実施する。同様の取り組みを、他機関の他の事業に拡大することを検討しており、これらによりスタートアップに切れ目ない支援を行うことを目指す。

図2
図2 ワンストップ相談窓口「Plus One」の概要

■これまでの成果

これまで、Plus参加機関が一堂に会する定例会を2回開催した他、個別の参加機関同士での意見交換を実施し、具体的な連携策について議論を行っている。個別事業の相互連携はまだ具体化できていないが、ある機関が支援した事業者の要望に基づき、別の機関を紹介する事例が幾つも生まれており、新たな支援につながることが期待されている。例えば、農研機構が支援している海外展開を視野に入れた研究開発について、JETROが紹介を受けて、海外展開に向けた支援を継続しているケースがある。また、JSTのSUCCESS事業*5において出資したスタートアップのうち、海外展開を計画する企業について、JETROに紹介しJETROのGAH事業*6により海外展開を支援している。

また、Plus Oneについては、2021年6月1日時点で24件の問い合わせをいただいており、事務局であるNEDOで応対している。まずはNEDOでヒアリングを行った上で、詳しい要望を伺い、その要望に応じて適切な事業や機関を紹介している。これまでのところ、資金調達に関する相談が多く、主にNEDOが実施している研究開発支援事業を紹介しているが、海外展開に関する支援ニーズなどもあり、相談内容に応じて、Plus参加機関のほか、Plusには参加していない他の公的機関につなぎ、事業紹介をしていただく機会を設けたケースもある。中には、ある公的機関が行う認定制度について、当該機関と意見交換を行う機会を設けたこともあり、直接の支援につながるものではないものの、公益に資する形でのビジネス展開を支え得るような機会を創出できたのではないかと考える。

■取り組みの中で見えてきた課題と今後の展望

他方で、これらの活動を通して、今後取り組むべき課題も明らかになってきた。例えば、当初から課題として挙げていた、支援情報を一元的に得ることが難しいという点に対しては、取り組みは道半ばであり、スタートアップ目線でのユーザーインターフェイス・ユーザーエクスペリエンス(UI・UX)を整備することが必要であると考える。また、Plus参加機関同士での情報共有や連携をより高度化させ、これまで以上に多様なニーズに応え得るプラットフォームとすることにも取り組むべきであると考える。

今後、Plusでの活動を通じて、これらの課題の解決に中長期的に取り組むことを予定している。例えば、スタートアップ目線でのUI・UXの改善については、支援内容の一元的な発信や、スタートアップの申請および支援機関の管理が容易となる仕組みを検討したい。また、現在の9機関以外にもPlusに参加していただくよう呼び掛けるほか、民間のスタートアップ支援人材にも協力していただくなど、連携の幅を広げることも併せて検討したい。Plusがわが国のスタートアップ・エコシステムの中で果たす役割をより拡大し、世界で活躍するスタートアップを支える重要な基盤となることを目指して、より一層取り組みを強化していきたい。

*1:
スタートアップや大企業、投資家、研究機関など、産学官のさまざまなプレイヤーが集積または連携することで共存・共栄し、先端産業の育成や経済成長の好循環を生み出すビジネス環境を、自然環境の生態系になぞらえたもの。
本文に戻る
*2:
研究開発や新規事業創出を推進していく上で必要となる技術の種。
本文に戻る
*3:
大学発新産業創出プログラム。事業化ノウハウを持った人材(事業プロモーター)ユニットを活用し、大学等発ベンチャーの起業前段階から、研究開発・事業育成のための公的資金と民間の事業化ノウハウなどを提供する事業。
本文に戻る
*4:
研究開発型スタートアップ支援事業/シード期の研究開発型スタートアップに対する事業化支援。具体的な技術シーズを活用した事業構想を持ち、NEDOが認定したベンチャーキャピタルから一定額以上の出資を受けるスタートアップに対し、NEDOが研究開発費を助成する事業。
本文に戻る
*5:
JSTの研究開発成果の実用化を目指すスタートアップに対し、出資や人的・技術的援助(ハンズオン)を行う事業。
本文に戻る
*6:
JETROが世界各国のスタートアップ・エコシステム先進地域に設置する「ジェトロ・グローバル・アクセラレーション・ハブ」を通じて、現地有力アクセラレータ等との連携により、日系スタートアップのグローバル展開を支援する事業。
本文に戻る