特集さよなら障害

産学官連携事業による介護用繊維製品の開発

聖カタリナ大学 人間健康福祉学部 社会福祉学科 教授 恒吉 和徳

聖カタリナ大学 人間健康福祉学部 社会福祉学科 教授 秋山 昌江

聖カタリナ大学 人間健康福祉学部 社会福祉学科 教授 村岡 則子

聖カタリナ大学 人間健康福祉学部 社会福祉学科 講師 小木曽 真司

2021年7月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

本学は1998年に愛媛県内唯一の福祉系大学として開学した。目まぐるしく移り変わる現代社会の大きな変革に柔軟に対応し、これまで多くの学生を育て、人と人、人と地域をつないできた。兼ねてより本学の産学官連携事業は「骨まで食べられる干物」**1や「高齢者施設向け機能性壁材」**2の開発など、地域貢献や地域活性化の一環として、加えて学生の教育ツールとして積極的に展開してきた。

そこで本稿では、2019~2020年度にかけて産学官が連携し、学生参画のもと、高齢者などの生活の質(QOL)向上を目的に、介護用繊維製品の開発に取り組んだ活動について紹介する。

■介護用繊維製品開発プロジェクト発足の経緯

介護用繊維製品の開発は、今治タオル製造の株式会社トップファクトリー今治(愛媛県今治市)の従業員が日ごろから抱える「親の介護不安」が起点となっている。高齢社会の進展に伴い人生90年―100年の時代が到来した。介護という言葉は、今日の日本社会を象徴する一つの概念として、われわれの日々の暮らしに密着したものとなって久しい。

人間は社会の中で周囲との調和を図りつつ、食べたいものを食べ、着たいものを身にまとい、自分が気に入った道具を使うなど自分らしい生活を送っている。介護が必要になった場合もしかり、要介護者の思いを尊重し自立に向けた支援が求められる。さらに「生活の豊かさ」という視点から捉えた場合、一人ひとりの価値観や考え方の違いはあるが、豊かさに必要なものは安全かつ安心して暮らすためのサービスの整備や拡充はもちろんのこと、個々の欲求を満たす「衣・食・住」に関する事柄を適切に整えることであるといえるだろう。今回の開発に取り組んだ背景には、そうした介護を必要とする高齢者の個々の欲求を満たす「快適な暮らし」の継続にある。

■具体的な取り組み

このプロジェクトは、聖カタリナ大学人間健康福祉学部社会福祉学科とトップファクトリー今治、愛媛県産業技術研究所繊維産業技術センターが連携し愛媛県内の21カ所の高齢者福祉施設の協力のもと開発に取り組んだ(図1)。その特徴は、高齢者福祉施設の職員や入居者を対象にアンケート調査などで情報収集と分析、試作品の改善と検証を繰り返しPDCAサイクル(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)に沿って展開したことにある。さらに、学生らが福祉や介護の専門的知識とスキルなどを活用し学生参加型の連携プロジェクトとして実施したことだ。

図1
図1 プロジェクト体制と役割分担

数回に及んだモニター調査では、各専門機関の特性を生かした役割を担い製品の改良を繰り返し行った。例えば「産」では製品の試作と改良、販路開拓など、「学」ではモニター調査の実施と分析、商品開発の提案など、「官」では製品に関する技術面の助言や関係機関への連絡・調整などを担った。こうして約1年半にわたる製品開発の期間では、産学官を軸に学生および高齢者福祉施設の職員らとの活発な意見を交わし使用する素材、形状、色、パッケージデザイン、商品名を検討した(表1)。

表1 開発スケジュール
表1

前述の取り組みの結果、①食事用エプロン「巻いてミール」、②介護用ボディータオル「きめこまか」、③自立支援浴用手袋「洗ってみとん」を開発するに至った(写真1)。

写真1
写真1 介護用繊維製品(完成品)
①食事用エプロン「巻いてミール」

本製品は、ストール型エプロンであり、食事を楽しい時間に感じられることを目的とした。さらに、巻き方を変えることによって、食事以外の場面でも使用できるファッション性のあるデザインである。特徴は、生地を前面で二重にクロスし、座位姿勢時に膝(ひざ)までを覆う長さとしたことで、飲みこぼしや食べこぼしによる耐水性を高めた。また、要介護者および介護者にとって着用しやすいように、視認性が高い青色のスナップボタンを2段階で調整できるように配置したことで、体格や使用用途に合わせることができる。綿100%のタオル生地であるため、首回りの嫌悪感が軽減され、通気性や保温性も高く、季節を問わず快適に着用できる。

②介護用ボディータオル「きめこまか」

本製品は、高齢者の弱い肌を優しく洗うことを目的とした。特徴は、折り畳んだ際に握りやすく、また、水に濡らしても重くなり過ぎないよう、一般的な浴用タオルの半分程度の大きさとした。綿100%のガーゼ綿であり、生地の裏面に「模紗織(もしゃおり)」を施すことで、泡立ちを向上させ、きめ細かな泡によって毛穴の汚れを除去しやすく、手洗いのような肌あたりで皮膚のダメージを軽減できる。

③自立支援浴用手袋「洗ってみとん」

本製品は、入浴における自立支援を目的とした。特徴は、把持力の低下や手指の可動制限がある場合でも、自分の手で洗えるよう、ミトン型のデザインを採用し、左右兼用とした。また、袖口にゴムを付け、絞りを作ることで着脱を容易にし、かつ洗身時の脱落を軽減した。介護用ボディータオル「きめこまか」同様、綿100%のガーゼ綿であり、生地の裏面に「模紗織」を施し、きめ細かな泡により清潔を保持し、過度な摩擦による肌荒れを防止できる。

いずれの製品も人間の基本的欲求を補完する役割を担うだけでなく、日常生活上の活動範囲の拡大、活動量の増加および生活意欲の向上などの効果が見込まれ、要介護者の「介護されている」という心理的抵抗感の軽減や社会参加の促進が期待できる。

■今後の課題と展望

本学では建学の精神、教育理念、教育研究目的を踏まえ、教育研究活動の成果を広く社会に還元することを目的として、社会連携・社会貢献活動を推進している。産学官連携事業においてはこれまで主に「ユニバーサルデザイン(UD)」をテーマに商品開発等に取り組んできたが、今回の介護用繊維製品の開発プロジェクトにおいてはコロナ禍での厳しい状況の中、介護現場の声を可能な限り反映し商品化までこぎ着けたことに加え、学生も積極的に参画し貴重な学習の機会になりえたことから初期の目標を達成できたといえよう。

介護の現場においては要介護者を主体としたサービスの提供が基本であり、QOLの向上を目標とした彼らの生活環境の改善、普段使用する道具・機器の改良への取り組みは必要不可欠といえる。特に高齢者福祉施設の入居者にとっては、施設が「生活の場」であることから「衣・食・住」における快適さ、利便性、安全性の追及に専門的な関与が必要とされる。また一方ではケアする側にとっての使いやすさや安全性も重要な視点である。

今回開発した製品については、継続してユーザー(要介護者、介護者)の声を収集し、必要に応じて改良に取り組むと同時に、本連携事業を通じて構築できた施設側との関係を生かして、現場が抱える多様なニーズの発掘に努め、介護現場の環境改善に向けたUD商品開発に取り組み、併せてこれらの活動を通して、学生に対する多様な学習の機会につなげていければと考えている。

大学の知的資源の活用は、地域活性化を図る上で重要な取り組みである。また2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)(中教審第211号)**3では学修の幅を広げる教育、多様で柔軟な教育プログラムの充実が求められている。産学官連携事業への学生参加は、多様な企業や地域住民との交流を通し社会人基礎力が養われ、アクティブラーニングや問題解決型学習(Project Based Learning)を通して援助者としての実践力向上が期待できる。「地域に愛され、地域とともに発展する大学」を目指す本学は、今後も地域の様々な企業や団体、機関、行政等と連携し、大学を拠点とした「知」の創造と「技術」の革新に努め、人々の暮らしの質の向上に寄与したいと考える。

参考文献

**1:
聖カタリナ大学「地域連携推進室 産学官連連携①骨まで食べられる干物(魚)」ウェブサイト
本文に戻る
**2:
聖カタリナ大学「地域連携推進室 産学官連連携④高齢者施設向け機能性壁材の開発」ウェブサイト
本文に戻る
**3:
文部科学省「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)(中教審第211号)」ウェブサイト
本文に戻る