特集さよなら障害

生活動作支援ロボットcurara® の開発

AssistMotion株式会社 代表取締役 橋本 稔

写真:AssistMotion株式会社 代表取締役 橋本 稔

2021年7月15日

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高齢化の進行の中で、高齢者、障害者の動作をアシストし、また健康寿命の延伸を図る人に優しい歩行アシストロボットcurara(クララ)の開発と事業化を進めている。これにより、高齢者や障害者であっても、誰もが自分の足で歩ける社会を目指している。ロボットの概要、開発の経緯、事業化の現状や課題について解説する。

■リハビリや登山スポーツにも

超高齢社会に突入した日本では、高齢者の割合が増え続けることに伴う社会保障費の急増、医療や介護に関わる人材の不足など深刻な課題を抱えている。この問題を解決するために、健康寿命を延伸するとともに、支援技術を用いて高齢者が自立して生活できる社会を築くことが求められている。AssistMotion(アシストモーション株式会社)は、高齢者などの生活動作が不自由な人、またはそれを予防したい人に対して、ロボット技術を用いて支援することにより、一人一人が自立した、対等(Equal)な社会を築くことを目指している。縦軸に革新(Innovation)と保守(Conservative)の軸をとり、横軸に人間(Human)と機械(Mechanical)をとると、弊社の目指す行動指針は第2象限の「人に優しいウェアラブルロボット」(Human Friendly Wearable Robot)を高度に発展させ、真に人々に受け入れられるロボットを世に出すことである(図1)。

図1
図1 弊社が目指す行動指針

超高齢社会の進行の中で、ウェアラブルロボット技術を利用して人々の動作をアシストする技術は今後より一層の重要性を増すものと考えている。幅広い領域で利用されるためには、単に動作をアシストするだけではなく、人との親和性を高め、人の感性に訴えることで喜んで使用したくなるようなロボットの実現が重要である。そのために、人に優しいウェアラブルロボット(ロボティックウェアcurara)と次世代ソフトアクチュエータ(塩化ビニル(PVC)ゲル人工筋肉)の研究開発を二つの柱とし、ウェアラブルロボットを実用化する活動を行っている。

現状では、図2に示したロボティックウェアcuraraWR-Pをモニター貸し出ししている。このロボットは歩行をアシストし、病院のリハビリ訓練や介護施設などでの機能訓練を支援するために用いられる。これまでに、多くの病院、介護施設、個人の方などに試用していただいており、これらのユーザからの意見をフィードバックして、製品モデルを開発している。また、歩行支援機能は、幅広い応用が可能で、リハビリ訓練、自立支援、健康寿命延伸、ユニバーサルツーリズム、登山スポーツなど今後応用分野を拡大することを検討している。

図2
図2 ウェアラブルロボットcurara

■信州大学発のベンチャーとして2017年設立

弊社は、信州大学において得られた研究成果を社会貢献につなげるために設立した信州大学発のベンチャーである。信州大学では、2008年から高齢者などの自立歩行が困難な方のリハビリ訓練や自立支援を目的に、人に優しく寄り添うことができる生活動作支援ロボット「curara®」の研究開発を進めてきた。ロボティックウェアcurara®は、人とロボットのインタラクションを制御する技術を基礎技術として、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のA-STEPシーズ育成タイプの支援を受け2011年より研究を開始した。その後、信州大学先鋭領域融合研究群の歩行アシストサイボーグプロジェクト、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の医療機器開発推進研究事業、東京都立産業技術研究センターのロボット産業活性化事業、AMEDのロボット介護機器開発・標準化事業、公益財団法人市村清新技術財団の新技術開発助成などの支援を得て開発を進めてきた。また、長野県を中心とする多くの企業や病院、介護施設の協力を得て開発を進めてきた。curaraは零号機から第6世代となる最新機のWR-Pに至るまで開発が繰り返されてきたが、その過程で実用化を目指して、2017年にAssistMotion株式会社を設立した。

■リチウムイオンバッテリーで連続動作1時間

curaraは股関節と膝関節に計4個のアクチュエータが付いており、歩行のみならず、起立着座や階段昇降をアシストすることができる。腰部にコントローラー、バッテリーが入るボックスがあり、アクチュエータを含む総質量は4.5㎏である。タブレットにより無線でロボットを操作することができる。リチウムイオンバッテリーを用いて、約1時間連続で動作させることができる。

非外骨格構造**1を有するロボットであり、リンク機構を用いないために、ロボットを軽量化することが可能で、4関節をアシストするロボットとしては軽量であり、装着時の拘束感も少なくなっている。そのため、ロボットにより自然な歩行をアシストすることが特徴となる。

制御法としてはわれわれが独自に開発した同調制御法を用いている。脊髄(せきずい)にある中枢パター生成器の数学モデルである神経振動子(松岡モデル)を用いて制御することで、装着者のリズムに合わせたロボットの制御を行うことができる。また、動きを合わせる強さを同調性と呼び、その同調性を調整することで、アシストの強さを変えられる。そのため、関節軌道を制御して適切な歩容を装着者に提示することができる。

これまでに、脳卒中患者に対してcuraraを用いることで、制御を行わない場合に比べて歩行速度、歩幅、ケイデンス(歩数/分)が20~30%程度改善することが分かっている**2。また、脊髄小脳変性症の患者に対して上記と同様の実験を行い、歩行の安定性や滑らかさを示す指標であるHarmonic Ratioが、curaraで制御することにより高くなり、安定化することが分かっている**3

■課題は価格 望まれる介護保険適用

これまで、ロボット技術の開発とその効果の検証を進めてきたが、こうしたロボットを事業化するためには、今後解決しなければならない課題が存在する。curaraは他の歩行アシストロボットに比べ安価であるが、それでも数百万円の価格となる。こうした高価な機器を介護施設で導入するにはハードルが高く、ましてや高齢者個人で購入することは難しい。一定の導入補助金制度を設けている自治体もあるが、限定的でありなかなか介護施設では導入できない。この問題を解決するためには、国による導入補助金制度の拡充や、こうしたロボットの介護保険適用が望まれる。

■PVCゲル人工筋肉で価格を抑制、さらなる軽量化へ

弊社の有する技術の第2の柱である、PVCゲル人工筋肉を用いて、ロボティックウェアを軽量化し、安価にする方針である。ロボティックウェアが各個人に使われるためには、大幅な軽量化と、安価な製品にする必要がある。PVCは床材や水道管に使われる材料で安価であり、もし実現できればウェアラブルロボットの核心的な技術となることは間違いない。図3に示すような衣服感覚で使用できるロボティックウェアの実現と事業化を目指している。

図3
図3 人工筋肉を用いたモーションウェア

参考文献

**1:
水上,橋本:人と統合するロボット;機械の研究, Vol. 69, No.2, pp.93--101 (2017)
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**2:
Mizukami N, Takeuchi S, Tetsuya M, Tsukahara A, Hashimoto M, Yoshida K, Matsushima A, Maruyama Y, Tako K. Effect of the synchronization-based control of a wearable robot having a non-exoskeletal structure on the hemiplegic gait of stroke patients. IEEE Trans Neural Syst Rehabil Eng 26 (5): 1011-1016, 2018. (doi: 10.1109/TNSRE.2018.2817647)
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**3:
Tsukahara A, Yoshida K, Matsushima A, Ajima K, Kuroda C, Mizukami N, Hashimoto M. Effects of gait support in patients with spinocerebellar degeneration by a wearable robot based on synchronization control. J NeuroEng Rehabili 15: 84, 2018. (doi: org/10.1186/s12984-018-0425-4)
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