リポート

脱炭素社会実現にむけた同志社大学の取り組み
同志社−ダイキン「次の環境」研究センター

同志社大学 研究開発推進機構 リサーチ・アドミニストレーター 石田 貴美子

2021年6月15日

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■カーボン・ニュートラルに向かう世界

地球温暖化対策に関する新たな国際的枠組みである「パリ協定」が国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において2015年に採択されてから、すでに5年以上が経過している。このパリ協定は、世界共通の長期目標として、平均気温の上昇を2℃より低く抑え、可能ならば1.5℃に抑える努力を追求することを目的としている。また、すべての加盟国は5年ごとに温室効果ガス排出量の削減目標を更新、削減の取り組みを国連に報告し、検証を受けることとなっている。この間、2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを長期目標に掲げる国が相次いでいる。CO2排出量が世界最大となる中国は2060年実質ゼロの目標を表明し、米国バイデン大統領は就任後直ちにトランプ前大統領が離脱した協定に復帰して環境への政策転換を鮮明にした。日本では、菅義偉首相が就任後初の所信表明演説で「2050年までに脱炭素(カーボン・ニュートラル)社会の実現を目指す」と表明したことが記憶に新しい。

大学等教育研究機関はこの脱炭素の目標に向けて、新たな知の創出や地域との連携による実現に向けた取り組みの中心的役割を担うことが求められる。2021年3月末に実施されたカーボン・ニュートラル達成に向けた大学等の貢献に係る学長等サミットでは全国120の大学長らが参加し、「カーボン・ニュートラル達成に貢献する大学等コアリション」立ち上げを表明するステートメントが採択された。東北大学のGreen Technology、東京工業大学のゼロカーボンエネルギー社会構築などをはじめとし、多くの大学が独自の特色ある取り組みを推し進めている。

また、国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)においても「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」ことが目標の一つとなっており、政府、産業界、アカデミア等によるさまざまな取り組みが始まっている。

■10年間で11億円の組織的連携

この全世界共通の環境課題に挑み、画期的な研究成果を社会に還元することを目的に、同志社大学は2020年4月に“同志社―ダイキン「次の環境」研究センター”を京都府京田辺キャンパス内に立ち上げた。これは「同志社のカーボン・リサイクル」に取り組む研究拠点であり、2018年に事業活動および製品・サービスに起因する温室効果ガス排出の実質ゼロを目指すことを宣言した空調大手メーカーであるダイキン工業株式会社との連携事業である。

本研究センターを率いるのは理工学部環境システム学科 後藤琢也教授である。

二酸化炭素回収・利用・貯蔵(CCUS: Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)技術による取り組みは大気中へのCO2の排出量を減らすものであるが、正味のCO2ゼロエミッションを目指すならば、CO2を回収し利用するだけでなく、CO2そのものを分解し、それを資源化することにより、カーボン・リサイクルを実現させる取り組みが必要である。同志社―ダイキン「次の環境」研究センターでは、CO2を資源として再利用し、その徹底的な削減を目指す「CO2回収・分解・再利用技術の開発」と、空調機の各要素技術の最適設計による最大限の効率化を試みる「エネルギー効率改善の極限を追求する環境技術の開発」の二つのテーマを中心に共同研究を進めている。

後藤教授のグループはCO2から化学的な操作により酸素と炭素を取り出す独自の技術を持つ。一方、
ダイキン工業はフッ素化学について優れた技術を有する。「CO2回収・分解・再利用技術の開発」ではこれらの技術を組み合わせ、CO2の削減に貢献すると共に、CO2を資源として利用することを目指している。
「エネルギー効率改善の極限を追求する環境技術の開発」では、空調主要部品であるインバータ、圧縮機、熱交換器の3分野において、エネルギー損失を最小化し、さらなる省エネや材料の強度・耐食性の向上を追求する。これら二つの共同研究を柱として、今後も新たな研究テーマの拡充を予定している。

同志社大学は、2016年より戦略的産学連携に関する中期行動指針として、「我が国の科学振興施策に基づく外部資金を活用した組織的な産学連携事業」に取り組んできた。同志社―ダイキン「次の環境」研究センターの設置に先立って実現したのが、ダイキン工業株式会社との包括的連携協力に関する協定の締結である。

協定の実施にあたってはこれまで行われてきた大学の研究者個人単位の研究による企業との共同研究から脱却して、環境課題をテーマにした実践的研究開発を目指す「組織」対「組織」の連携を模索した。具体的な連携のための運営体制、研究環境、実質的な共同研究に加え、共同で人材育成を行うスキームを構築するものである。

協定の期間は10年間で、ダイキン工業が拠出する資金は総額で11億円規模となる。同志社大学にとってはこれまでにない大規模な産学連携のスキームである。研究者個人の研究支援を中心とする従来の産学連携体制だけでは効果的な運営は難しい。機関をまたぐ大規模なプロジェクトの成功には、その実施体制と運営力が重要となる。

ダイキン工業の社員と同志社大学の研究者からなる実質的な運営組織を構築し、研究の計画、進捗管理や開発、人材育成について定例の運営会議での議論を通して検討するほか、新たな研究テーマや予算計画についても検討する。

一方、個別の共同研究に関する契約、予算の執行、知財の取り扱い、研究環境整備、会議の運営等を担当するのが研究開発推進機構に所属する大学職員の精鋭であり、研究に参画する研究者と企業の担当者間の調整を綿密に行っている。産業界とアカデミアの会計処理や契約に関する方針の違いなど、交渉に時間を要する内容や衝突も存在することから、良好な関係構築とコミュニケーションが成功への鍵となる。研究企画、リエゾンオフィス、知財センターのそれぞれの立場から、学内の関連部門と連携し、URAやコーディネーターの機能も活用しながら研究環境を支えている。

活動拠点となるラボスペースの確保や研究開始スケジュールに合わせた機器の搬入や工事の調整も重要である。研究センターはキャンパス内の研究棟である訪知館内に合計200平米の研究室と専属の事務室、セミナー室を整備している。研究室にはCO2分解のための実験機器が配備され、プロジェクト開発室長、プログラムオフィサー(准教授)1名、特定任用研究員2名が所属している。

■協創イノベーション人材を育成する

同志社―ダイキンの産学連携の特徴的な取り組みは人材育成のプログラムでもある。本協定では、共同研究の実施と並行して、次代の環境と世界の在り方を統合的な観点からデザインして国際社会に提案し、実現できる人材の育成を目指している。産業界と大学が一体となった教育を目指す高等研究教育院・アドバンスド・リベラルアーツ科目群「次の環境」協創コースを2021年春に開設した。

環境問題を解決するのに必要な科学技術は未来社会において存在していくであろう。しかしながら、それを正しく利用、普及し、また新たなイノベーションを創出するために必要な学問領域や研究領域は、多岐にわたる。「次の環境」協創コースでは、同志社大学の教育が得意とする文理の力である、14学部16研究科の多様な学問領域を融合したカリキュラムを構成している。

中でも特徴的なのは学生と社会人が共修する点である。自身を未来の自分に置き換えて、「将来世代」から求める新技術やアイデアを協創する「フューチャー・デザイン演習」、新技術アイデアの実現に向けた構想を具現化して共同研究を提案する「ミッション研究」がカリキュラムに組み込まれている。大学院生と社会人が共に参加する演習からこそ生み出される新たな可能性が期待される。

同志社大学とダイキン工業株式会社は2017年に連携大学院協定を締結し、研究を通して大学院生の教育に共に取り組んできた実績がある。次世代の協創イノベーション人材を育成することもまた、両者の共通の目的である。

産学連携とは、企業が目指す技術課題と大学の基礎研究の連携による成果創出のみにとどまるものではない。共同研究を通じ、優れた人材を育成することは大学の大きな使命である。世界中が直面する複雑で困難な環境課題に取り組みながら、「協創イノベーション人材」を育成することもまた産学連携の成果と考えている。教育カリキュラムを担当する高等教育組織と研究支援組織が協力し、大学全体の連携内容を構築できていることも同志社の産学連携の強みといえる。

同志社―ダイキン「次の環境」研究センター センター長
理工学部 環境システム学科 教授 後藤琢也

■さらなる発展への体制構築を目指す

上述の取り組みに加え、センター長の後藤教授は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電技術推進事業/カーボンリサイクル技術の共通基盤技術開発」事業においても、国立研究開発法人産業技術総合研究所と共に「高温溶融塩電解を利用したCO2還元技術の研究開発」に取り組んでいる。本事業では、石炭火力発電や製鉄所などの大規模なCO2排出量削減に向けたキーテクノロジーとして、高温溶融塩電解を利用してCO2を固体カーボンと酸素ガスに分離する技術の開発を行っている。

これらの公的研究費によるプロジェクトや連携機関の拡大によるカーボン・ニュートラルを目指す研究を推進させるためのさらなる体制構築を計画中である。産学連携の拡大に加えて、大型公的資金獲得による研究環境や、自治体等、他のセクターとの連携や事業化、社会実装、研究者の育成、環境科学教育等の事業の総括的な実施と運営を可能とするプラットフォームの構築である。

実際の研究を担う研究者や博士課程学生の確保、研究の動向調査、支援人材の育成、世界への発信力など課題が多くあることも認識している。国立大学にくらべて研究者一人当たりの学生数や担当する授業時間数が圧倒的に多い私立大学に特有の、研究者の研究時間確保についても課題が大きい。

2021年、多くの国公私立の大学がカーボン・ニュートラルの取り組みに名乗りを上げている。

同志社―ダイキン「次の環境」研究センターが目指す脱炭素社会の実現に向けた研究がこれらを先導する存在になることが目標である。先進的な取り組みを行う他大学の事例とも共有しながら発展していきたいと考えている。