リポート

地域に眠る潜在的課題「マイクロニーズ」を
起点とした地域イノベーション

鹿児島大学 産学・地域共創センター 藤枝 繁

写真:鹿児島大学 産学・地域共創センター 藤枝 繁

2021年6月15日

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鹿児島大学産学・地域共創センターでは、2018 年より南九州および南西諸島域での産学連携研究成果の可視化のため、徳之島を実証フィールドと設定し、「サトウキビ農業IoT 化実証プロジェクト」を実施してきた。ここでは大学研究シーズによる従来型の地域課題解決と合わせてその過程で得られた地域に眠る潜在的課題「マイクロニーズ」を起点としたイノベーションの創出について紹介する。

■背景〜南九州・南西諸島域における鹿児島大学の産学・地域共創事業

鹿児島大学は、温帯・亜熱帯の島嶼(とうしょ)を有する地域特性と農・水産・獣医学部を持つ総合大学の強み・特色を生かし、南九州および南西諸島域の「地域活性化の中核的拠点」として2018年4月、「産学・地域共創センター」を創設した。ここでは地域課題や企業ニーズを一元的に収集し、産学連携研究へと結び付けてその解決に当たる一方で、大学研究成果を可視化し、地域社会への実装を試みる場として「実証フィールド」を南九州・南西諸島域に整備してきた。

■サトウキビ農業を例とした地域課題の収集

徳之島は、奄美群島中最大の耕地面積(6,890ha)を有する島で、一戸当たりの耕地面積も2.5haと全国平均値(1.8ha)と比べ大きく、農業従事者が人口の約26%を占め、温暖な気候にも恵まれて、サトウキビ、肉用牛、バレイショ、花き、果樹などを組み合わせた農業が盛んに行われている。

その中でもサトウキビは、栽培面積約3,500ha、生産量約19万トン/年で島の基幹作物となっており、島内の製糖工場で集荷・製糖・島外出荷までされることから島の基幹産業となっている。またサトウキビの刈取作業は機械化が進み、ハーベスタ(収穫機)による収穫率が97%を超えて効率的に行われるようになってきた。しかし農業就業人口に占める65歳以上の比率は約60%と高く、若年層の島外流出と合わせて農家戸数は年々減少傾向にある。また多くの営農団体など(ハーベスタ所有者)は、高齢で離農した農家や島外へ転出した不在地主、兼業農家から管理・収穫作業を委託されるため、自作地の管理作業(新植、株出、中耕など)が遅れ、単収の低下といった問題を引き起こしている。さらに製糖工場では、人手不足などにより全島的な作付面積や作付状況の調査ができないため、当期全収量の予測や日々の収穫状況を把握することができず、工場の生産管理に支障が生じているという課題があった。

そこで本センターではこれら課題の解決に向け、2018年7月より徳之島を実証フィールドと設定し、フィールドサーバーによるリアルタイム気象・圃場(ほじょう)画像データの収集、リモートセンシング技術を用いた全島的なサトウキビ作付面積の把握および生育状況・糖度分布把握による刈取適地の判別等の技術開発を目指し、実証プロジェクトとして「サトウキビ農業IoT化プロジェクト」を開始した。

フィールドサーバー
NDVI 画像
図1
さとうきび生育に伴うNDVI の推移
図1 徳之島のサトウキビ圃場に設置されたフィールドサーバー(左)、NDVI 画像(右)、NDVI の推移(下)

■地域課題解決に向けた「サトウキビ農業IoT化プロジェクト」

このプロジェクトでは、2019年2月、徳之島3町役場の協力を得て、各町内のサトウキビ圃場に各1台のフィールドサーバー(図1左)を設置し、微気象観測と共に定点カメラによるサトウキビの生育状況のリアルタイム把握を開始した。また2018年4月より、地上分解能3mの高時間・高空間分解能を持つDove衛星画像データを用いて全島的なサトウキビ作付面積、生育状況の把握を開始した(図1右)。その結果、衛星データから得られる植物の活性度の指標NDVIはサトウキビの生育と共に増加し、収穫開始前の11月末にピークとなることが分かった。現在、継続的なモニタリングを通じて刈取適地や作付品目の判別技術の開発を行っている(図1下)。

さらに2019年3月には、各役場内にIoTクラウドモニタを設置し、町民や役場職員、生産関係者がフィールドサーバーによるリアルタイム気象・圃場画像データおよび衛星データを自由に閲覧できる環境を整備した。また徳之島以外の南西諸島域の行政、JA、製糖工場などにも同データを提供すると共に、2020年度は喜界島、徳之島、奄美大島、沖永良部島、与論島、種子島の13市町村でサトウキビ生産関係者や役場職員などを対象とした出前講座を開催し、衛星データ等の利活用の促進を図った。

一方で島嶼域では、本土と比べ快晴率が低いため、可視光・近赤外線衛星データの入手頻度が月に1~2日程度と極端に少なく、そのため高時間分解能の人工衛星を利用しなければならないこと、また高時間・高分解能衛星データは高額であり、大容量データサーバーが必要なこと、さらにその利用にはデータ解析者が必要なことなどの技術課題も明らかになった。

■潜在的地域課題(マイクロニーズ)の発掘・収集

当初実証プロジェクトでは、資料や当事者からの聞き取り調査から集約された顕在的な地域課題の解決およびその成果の地域社会実装を目指してきた。しかしその過程で「これまで地域の人々にとって自然・当然な事象であり、課題として認識されていなかったが、地域外の観察者により明確に課題として認識され、かつその解決過程においてイノベーションが期待される潜在的課題」が存在することが分かった。われわれはこれをマイクロニーズと定義した。

例えば、徳之島でのプロジェクトを進める中、隣の沖永良部島から「製糖工場の生産管理の効率化を図るためのハーベスタ(図2左)の位置・稼働情報の収集」というマイクロニーズを得た*1。これは前述のプロジェクトと同じ分野の課題であるが、それが同プロジェクトのネットワークを通じて他地域で生まれたことが興味深い。

このマイクロニーズに対して沖永良部島では、2019年、島内全ハーベスタの5分の1にあたる12台に位置・稼働情報収集モジュールを装着し、朝の早い段階で島内に分布する全ハーベスタの稼働状態を予測する新たなプロジェクトを開始した(図2右)。

図2
図2
図2 ハーベスタ(左)とハーベスタ位置情報画面(右)

その結果、製糖工場では当日の原料受入量の概算ができるようになり、工場の生産管理が効率化されただけではなく、圃場を巡回する営農指導員にとってもハーベスタの位置が容易に分かることから、オペレータとのコミュニケーションが大きく改善され、さらにハーベスタの運搬車および給油車も目的とするハーベスタへの到着が容易になり、関連産業でのコスト削減にも貢献できることが分かった。2021年より本プロジェクトは喜界島にフィールドを移し、また徳之島ではハーベスタに高精度位置情報モジュールを搭載し、圃場地形情報を収集する新たなプロジェクトが開始された。このようにマイクロニーズには広域的な地域課題を秘めている場合もある。

また実証プロジェクトで形成されたネットワークは、他分野のマイクロニーズの発掘・収集にも貢献している。例えば徳之島では、かつてサトウキビ農業の貴重な動力であった牛を戦わせることで発展した「闘牛」や農作物に被害を与える「リュウキュウイノシシ」の肉が未利用であるというマイクロニーズを発掘した。これらは「未利用肉の高付加価値実証プロジェクト(図3)」として始動した。特に闘牛は無去勢であることから、従来肉(去勢牛)に比べ筋肉量が多いため、脂肪が少なく赤身が多い特徴を有し、さらには戦歴というストーリーを持つことから、稀少肉としての高いポテンシャルを秘めている。

図3 未利用肉の利用プロジェクト 闘牛肉(左)、リュウキュウイノシシ肉(右)

このようにマイクロニーズには大学研究によるイノベーションの種が眠っている。しかし課題そのものが地域や当事者に認識されていないため、その発掘・収集はコーディネーターの情報収集ネットワークと問題発見能力に大きく依存するとも言える。さらに言えば、コーディネーターの意欲とインセンティブを喚起する背景(本事例で言えば、大学全体の方向性とその一致による経営資源の投入)があったことが重要であり、個人やチームの活動では、マイクロニーズの発掘・収集は困難と言えよう。

■今後の展望

これまでの徳之島フィールドでの取り組みから、圃場に各種センサを取り付け、農産物の生産と並行してその場、その時でしか得られないデータを並行生産することで、生産規模を変えずに生産品をリアルとデジタルに倍化できるマイクロニーズも得た。これが実現できれば、デジタル産物も農産物と同じく加工して価値化することで単独での販売や農産品の高付加価値化、生産管理にも利用することもできる。

さらに生産現場でのデータ収集(生産)・解析(加工)・蓄積(保存)・利用を促す「データの地産地消」とデータ解析や生産物とデータの関連性を明らかにする人材「島のデータアナリスト」の育成を通じて、地域に新たな雇用や産業を創出する未来像も見えてきた。引き続き本センターでは、南九州・南西諸島域をフィールドに持つ本学の特徴を生かして地域に眠るイノベーションの種であるマイクロニーズの発掘・収集を進め、その花を咲かせていきたいと考えている。

*1:
地域にとってサトウキビ収穫機(ハーベスタ)の運転は「自然なこと」であり、圃場のサトウキビの中にいるハーベスタの位置が不明なことは「当然なこと」であるが、コーディネーターは地域行政や事業者との対話の中で「ハーベスタの運転時に位置が分からないことは「課題」である」と認識した。
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