シリーズコロナの善後策

学生発アイデアによる感染対策
ファイル型飛沫防止製品の開発と課題

近畿大学経営学部教授/経営イノベーション研究所長 文能 照之

2021年6月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

近畿大学とマツダ紙工業株式会社は、大学生とのコラボで、飛沫防止と集中力向上に有益な段ボール製ファイル型製品「ファイルDEガード」を開発した。

■新型コロナ感染防止製品を求める声の拡大

2020年2月以降、日本でも新型コロナウイルスによる感染が拡大し、同年4月には緊急事態宣言が発出された。当時は、新型コロナウイルスに関して得られる情報が限られており、国民の多くが不安な状況に置かれた。こうした事態を打開するため、ものづくり企業を中心にマスク・手洗い用品や消毒薬をはじめ、数多くの感染防止製品の開発が行われた。今回、学生とともに新製品の開発を行ったマツダ紙工業株式会社(東大阪市)もそのうちの1社である。同社は、これまでも東日本大震災により被災者となった方を支援するため、商材の原料である段ボールを使用した簡易ベッドを開発し届けるなど、困っている方に率先して支援の手を差し伸べる活動を行ってきた。新型コロナ禍にあっては、企業や学校関係の職場などからウイルスの飛沫が拡散することを防ぐ製品が求められ、段ボールを活用した各種の飛沫防止製品を開発し市場投入を行っていた。

図書館で使用されている飛沫防止製品

こうした同社の取り組みを地域住民も熟知しており、新型コロナ禍にあって、学校に子供を通わせる保護者から、食事時の感染防止になる製品を開発してほしいとの要望が寄せられた。同社は業務用の製品開発に強みを有するが、個人向けにも段ボール材を使用した、衣装用タンス、机、組み立てベッドなどの開発実績を有している。感染拡大を食い止めるには、携帯できる飛沫防止製品が必要と判断し、試作品の開発が始まった。

初期のものは、通常の梱包に使用される段ボール材料で試作された。縦60㎝、横45㎝、厚み0.5㎝の大きさのものが、折り曲げとアタッチメントを駆使することで縦21㎝、横30㎝と携帯できるサイズに収まったが、重量は450gで厚みは6㎝にもなり、改善すべき課題が山積していた。

携帯用飛沫を防止する当初の試作品

■みせるばやお会員企業と大学生による産学連携活動

マツダ紙工業と弊ゼミが共同で製品開発に取り組むことになった経緯は、同社が「みせるばやお×近大プロジェクト」に参画したことによる。「みせるばやお」とは、大阪府八尾市にある地域の産業支援拠点として位置付けられている施設や、その活動を行う組織を意味する。八尾市産業政策課が地域のものづくり企業などに働き掛けを行い、2018年8月に設立された。2021年3月現在、129社が加入し、地域産業の発展に向けた活動や会員相互の情報交流など様々な活動が行われている。みせるばやおと弊ゼミとは、4年前から学生目線での企業の魅力発信や、製品開発に向けたアイデア提案などのプロジェクトを実施している。

これまでの主な成果としては、会員企業の魅力を捉えた映像制作の他、鉄製フライパンのギフト販売の提案や、指輪などアクセサリーを洗浄する専用クリーナーの開発が挙げられる。このプロジェクトを開始したことで、学生は中小企業の実態について多くを学ぶことができ、その魅力や仕事に興味を持ち就職先として、みせるばやお会員企業を選択する者も見られるようになった。

■飛沫防止にプラスαの付加価値を提案

「若い人が鞄(かばん)に入れて携帯し使用してくれる製品を開発したい」とマツダ紙工業は具体的な意向を有していたことから、これをテーマに学生との共同開発がスタートした。担当した学生は3人で、まず上記の試作品をお預かりして、学生目線から評価を行った。その結果、①通学用の鞄に入らない、②デザイン性に欠ける、③重い、といった否定的な意見が数多く出され、初期の試作品についての改善点が明らかになった。

そこで、上記の課題を解決するため使用する段ボールの厚みを小さくするため、G段と呼ばれるものに変更することが決定された。ところが、1枚の段ボールシートを折り曲げただけでは極めて単純な製品となり、付加価値や競争優位性が見られず、消費者への訴求力も乏しいものになることが危惧された。そこで、製品の外面と内面を同一色としないことや、飛沫防止以外の付加価値を付けることなどが検討された。

この付加価値の付け方が、本プロジェクトで最も苦労をした点である。学生が携帯し学校で使用しようと思うには何が求められるのか、時間をかけて検討が行われた。普段の授業を受けているときや、勉強しているときの様子を思い出し、必要な機能についてアイデアを出し合った。そして、寄せられたアイデアについて、メンバー以外の学生にもその有用性について意見を求め、上位となったものを企業に提案した。

具体的に提案し採択されたものは、次の3点である。

まずは、授業では多くの資料が配布されることから、それらを保管できるスペースを設けること。鞄に直接入れると、他のものと混ざり資料の存在が確認しづらくなることや、資料の破損や汚れによる劣化を防ぐためである。

第2は、学習時に重要と判断されたポイントなどに、すぐに目印を付けられるよう付箋(ふせん)が貼れるようにすることである。

第3は、製品内面の色の提案である。当初は、若い人が持ち運びしやすいように外面は黒、内面は緑で考えられたが、実際に使用してみると間近では視覚に強過ぎて落ち着かないことから、淡い色に変更することにした。具体的な色の提案は、学生に対して実施したアンケートの結果から希望が多かった、ベージュとグレーの2色展開することになった。

完成した製品は、一片が24㎝×42㎝で、厚さ0.7㎜のシンプルな形状。展開すると幅48.7㎝、高さ42㎝、奥行き24㎝、重量は175gとなった。これにより鞄に入れても嵩(かさ)張らず、いつでもどこでもパーソナルスペースを確保することが容易になった。また飛沫防止のみならず、リビング学習時などにおいても集中力向上に貢献できるものに仕上がった。

開発した「ファイルDE ガード」とその使用場面

■企業と学生との関係性の構築および大学としての産学連携ノウハウの蓄積が課題

製品の販売から数カ月後の2021年3月下旬に、同社の松田和人社長と今回のプロジェクトについて振り返りを行った。社長からは「良い製品の開発ができ満足している」との言葉をいただいた。実際に、プロジェクト全体を通して、企業側、大学側ともに、大きな問題を抱えることなく、概ね順調に進めることができた。それは、開発しようとするものが明確で、学生がイメージしやすかったことや、企業が学生の意見を取り入れて開発を進めることに徹してくださったことが大きな要因であると考えられる。学生が考える意見を積極的に取り上げてくださる環境が学生のモチベーション高め、3人のメンバーが役割を持って活動しチームとして機能したことが成果につながったのである。

企業との産学連携プロジェクトに初めて取り組んだ学生に聞いてみると、自らの意見を理解いただくことに苦心したようである。企業との意識の違いは当然のこととして、企業担当者との年齢差が小さくなかったからである。しかし、それを乗り越え企業に理解いただけるよう工夫し、コミュニケーションを円滑に行うことで意思疎通が図られるようになったという。

産学連携活動は、学生にとって新製品開発の現場(楽しさ、難しさ、厳しさなど)を知る以外に、企業での仕事の進め方やコミュニケーションの重要性を体験する良き機会にもなっている。

ここまで産学連携によるプロジェクトの良いことばかり述べてきたが、当然課題も存在する。毎年、複数の企業との産学連携プロジェクトを実施しているが、その全てが今回と同様の成果を上げている訳ではないからである。そこで、今後の発展に向けた課題として大きく次の2点を挙げておきたい。

まずは、プロジェクトで取り組む課題の設定である。BtoCの事業を営む企業の場合であれば、事業内容や製品が身近なものであることが多く学生の理解が進むものの、BtoBの事業では、学生が最終的なアウトプットをイメージできず、業界知識を深めているうちに、プロジェクトの終了期間が迫ってきてしまう。このことから、学生の理解が得られるようなテーマを設定し、それに関する情報を分かりやすいものにして提示することが重要と考えられる。

今一つは、プロジェクト参画による経験やノウハウを蓄積し、共有することである。ゼミ学生がプロジェクトに携わる期間は、概ね3年次の1年間となっている。4年次には、就職活動が始まることや、卒業論文の執筆を行う必要から、3年次で経験したことやノウハウを1年下の後輩に上手く伝えられているとは言えない。3年次にプロジェクトに参加する学生には、先輩がどのような取り組みを行ってきたのか、映像や書面にて情報を共有できるようにしているが、まだその活用は限定的である。プロジェクトに従事した学生の取り組みを属人的なものとして放置するのではなく、それをシステム化することができれば産学連携による成果をより高めることができるであろう。今後、そのシステム化を課題とし、プロジェクトへの取り組みが成果として結実するよう努めていきたい。