視点

癒やしのものづくり

北陸先端科学技術大学院大学 産学官連携本部 副本部長/産学官連携推進センター長 山本 外茂男

2021年5月15日

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自宅にいる間は古いオーディオ・システムで音楽を楽しむ時間が増えた。

ジャズは女性ボーカルやトリオ、ソロピアノも好きである。学生時代にアルバイトで買いためたLPレコードを引きずり出して楽しんでいる。

最近、ハイレゾ・オーディオにはまり、中華DAC(デジタル信号をアナログ信号に切り替える音楽機器)を買ってしまった。さすがにクリアで目の前で歌うボーカリストや生演奏とも思えるリアルさを見事に再現している。このDACの心臓であるチップは日本製であるが、回路設計から筐体まで、ほとんど中国製である。コスパ良すぎるデバイスに仕上がっている。恐るべし、中国のものづくり技術。いつの間にか、身の回りの品物はメイド・イン・チャイナが増えている現実にあらためて驚く。「安かろう悪かろう」のものづくりは過去のもの。

かつて、オーディオ・システムと言えば、国産メーカーが多数製品を出していた。貧しい学生にとって、なけなしの軍資金で国産コンポを組み、中古レコードショップをさまようのが楽しみだった。

高度成長期に三種の神器と言われた家電のように、生活に潤いと楽しみを届ける身近な品物に日本製の表示が見えなくなった。日本製が癒(い)やしてくれなくなった。

日本のものづくりはどこへ向かっているのだろう。どこの、どのような市場にどのような製品やサービスを届けようとしているのであろうか。産学官のトリプルヘリックスはどこへ収斂(しゅうれん)していくのであろうか。それがたった一人であっても、世界の片隅で待ち焦がれている人にサイエンスとテクノロジーを届けたいと思うのは、私一人ではないはずである。