連載SDGsと地方創生

(5)with /post コロナと持続性

公立小松大学 顧問 林 勇二郎

写真:公立小松大学 顧問 林 勇二郎

2021年5月15日

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本連載では、地球規模環境と国家間の格差、そして地方創生が人類の持続的発展における基軸の問題であるとし、国際社会の合意や共通認識を基本にそれらの機序や対応について言及してきた。人類の持続に向けた活動は、SDGsの実践**1や現状**2などに見られるように、今や世界の大きな流れとなっている。そんな中で、2019年12月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が中国の武漢で発生し、翌年1月には瞬く間にパンデミックとなった。2021年4月には変異株が拡大する第4波が懸念される中、世界の感染者数が1億3,000万人、死者が290万人に達しており未だに終息する気配はない。

人類の感染症との闘いには、天然痘、ペスト、コレラ、スペイン風邪があり、エイズ、SARS、MERSと続いている。連載の最終回にあたり「with/postコロナと持続性」を取り上げ、三つの基軸の課題と統合した議論を展開する。

■人類の発展と感染症の発生・伝播・拡大

基軸をなす三つの課題は、地球の自然環境、世界の社会環境、そして地域の社会環境の系での事象である。他方、ウイルス感染症は地球上のどこかで発生し、動物あるいはヒトが感染媒体となって世界中に伝搬し、地域社会で拡大しパンデミックを起こしている。ここに感染症の発生・伝搬・拡大と人類の発展とを重ねて議論し、「with/postコロナと持続性」が展開される。

①感染症の発生と地球規模環境

地球は太陽の惑星として自然環境とそれに包摂される生物環境の系をもって構成され、太陽からのエネルギーを光合成によって植物組織に取り込むことで生命活動と気象現象が営まれている。即ち、地球においては、動物・植物・細菌などの生物群が増殖によって進化しながらバクテリアからヒトまでの生物多様性を形成し、二酸化炭素と酸素の交換によって恒常的な気象現象が維持されている。

人間はヒトとしての生命活動を営む限り生物群の一種と見なされる。耕地開拓やエネルギー取得のために樹木を伐採し森林などの自然環境を破壊するとき、その自利的な行為は生態系の枠組みから外れたものとなる。他方、細胞を持たないウイルスは、動物に寄生することなしには自立増殖ができない受動的な存在である。即ち、生物群から外れて生態系を破壊する人類の行為がウイルスの居場所を縮小し、人への感染をもたらすと言えよう。

世界の人口は、ルネッサンスの終わりの16世紀末で約5億人であったが、18世紀末には9億3000万人となり現在76億人に達している。人類の自利的な行為は、このような人口増加を受けた森林の破壊と面積の縮小であり、このことが二酸化炭素の吸収能を低下させ、地球の温暖化と生物多様性の減少をもたらしている。即ち、前者に起因するのが気候変動であり、後者が宿主の乗り換えによる感染症の発生である。

第一次産業革命に始まる化石燃料の使用は、樹木の伐採による森林面積の減退を抑制した。しかし、その一方で、燃焼に伴う二酸化炭素の排出が直接的に地球の温暖化をもたらし、その際に生成される酸性雨が河川や湖沼の酸性化とともに森林面積を縮小し、生態系に影響を及ぼしている。

2015年のパリ協定はカーボンニュートラルについての合意である。再生可能エネルギーの利用や熱帯雨林などの森林面積の維持によるカーボンニュートラルは、安定で恒常的な気象と生物多様性を維持することになろう。ただし、森林の縮小や砂漠化などの防止は、二酸化炭素が平均的に作用する気候変動には効果的であるが、ウイルス感染症は環境の局所的な破壊で発生していることに留意しなければならない。

②感染症の伝搬とグローバル社会**3

天然痘の歴史は古く、古代エジプトのミイラにも痕跡が見られるが、12世紀のヨーロッパにおける十字軍の度重なる遠征がパンデミックと集団免疫をもたらしている。米国では白人の植民と天然痘の侵入が同時に進行する、いわゆる、コロンブス交換がある。わが国では平安時代と室町時代に疫病として流行し、江戸末期の発生は藩の養生所や種痘所が接種の拠点となって鎮圧された。

黒死病と呼ばれるペストは、船舶が寄港した際に人に紛れて上陸したネズミが原因とされ、14世紀のヨーロッパで史上最悪のパンデミックを引き起こしている。コレラは過去200年間に7回のパンデミックがあるが、19世紀初頭のガンジス川下流域からの大流行は、産業革命による蒸気機関車や蒸気船などの進歩と植民地政策が背景となっている。スペイン風邪は、第一次世界大戦下の1918年米国カンザス州の陸軍基地で発症し、米軍の欧州戦線投入によりヨーロッパ全土に拡大した。

以上のように感染症のパンデミックの歴史は、人類の地球規模での移動の歴史でもある。十字軍の遠征や米軍の侵攻は国境を越えた領土の拡大であり、コロンブス交換や植民地政策は海をまたぐ広域化であり、いずれも地球という限られたパイの中での争いであった。

産業革命に始まる近代の工業社会は、市場を拡大することで人・物・情報が自由に移動するグローバル環境を創出している。グローバル化が感染症の伝搬とパンデミックにとって極めて脆弱な状態であることを認識しておく必要がある。即ち、経済の発展と感染症の伝搬をもたらすグローバル化は二律背反の関係にあり、感染症の伝搬防止はともすれば経済活動の停止に直結するからである。

世界の国は現在196の主権国家と12地域よりなり、それぞれの国家の立場を主張する主権は、多様性を相互に認め合うセーフティーネットの役割を担っている。国の枠組みを超えた企業の海外展開は世界経済の成長をもたらしているが、今度のCOVID-19に見られるように、感染症の拡大は危機管理を根底から揺さぶっていると言えよう。

③感染症の拡大と地域社会

世界の国々はパリ協定の合意を受けてエネルギー・環境政策を進めている。わが国が目指す「2050年のカーボンニュートラル」は、産学官・市民を挙げて推進されようが、ゴールは仮想発電所(VPP)を中核とした脱炭素社会のスマートシティである。化石燃料に代えて再生可能エネルギーや水素エネルギーなどで供給を賄い、電力の負荷平準化を図るためにも、未来都市スマートシティの構築は必至であり、そこには5G/IoTの活用が目論まれていることは言うまでもない。

他方、人類の持続のための基軸である地方創生は、仕事と暮らしなど人間社会の本来に関わる問題である。科学・技術の革新による高度な製品・サービスの普及や都市化が、快適で利便性の高い社会を創り出す反面、地域社会の文化の希薄化やコミュニティ力の低下をもたらし、産業の都市偏在化がまち・ひと・しごとの関係性を崩壊している。

東京圏に代表される大都市は、就業率の高い情報・金融などの産業が集中するため、人口は不可逆的に膨張し、一極集中は止まる気配はない。他方、地方都市には比較的低次の産業が立地するため、政府の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」にも拘らず、その存続が危ぶまれている。大都市の存在理由が経済優先の価値観に基づいているとすれば、地方都市には人間が本来とする文化の創造やコミュニティの形成が求められていると言えよう。

COVID19の感染拡大は、経済的な強みとされてきた密度の高い都市空間を一挙に脆弱な空間へと変貌させつつある。ウイルスなどの病原体の体内への侵入は、空気中の飛沫感染、飲食などによる経口感染、接触による経皮感染が主たる要因である。感染防止のためにオンラインやリモートが駆使され、オフィス外での仕事や教室外での授業など、これまでの概念を覆すニューノーマルが意識の変革を起こしつつある。

総務省の人口移動報告2020によれば、4~9月の半年間で東京圏の人口は転出が転入を5,500人上回っている。転出超過は現在の調査が定着した2013年以降初めてのことであり、この傾向は東京圏に継ぐ大阪圏、名古屋圏、九州地区でも現れている。このような流れが今後どう続くかは分からないが、地方創生に向けた契機となっていることは確かである。

■持続的な発展と桟関統治

感染症の発生・伝播・拡大を重ねて「with/postコロナと持続性」を言及することで、持続に係る課題の記述に新たな方程式が付加される。これによって問題の本質とその対応がより鮮明となる。一方、社会を構成する国家や地方自治体、民間企業やNPO、さらには大学等の高等教育機関は、社会のための組織としての使命を果たすためにも、持続に向けて何ができるかを示さねばならない。これはコーポレートガバナンスである。

コーポレートガバナンスは、民間企業などがミッションを遂行するためにコンプライアンスを遵守し、財務諸表により経営の透明性を図り、世間やステークホルダーに対する情報の開示である。近年は雇用集団のダイバーシティが管理の要諦でもある。法令遵守と訳されるコンプライアンスは、法律や社内規則、倫理や社会通念などを内容とするが、様々な局面で協調が問われる国際社会にあって、広義には、人類の持続的に向けた合意や共通の概念、国家の政策上の規範がそこに包含されよう。人類の持続的発展に向けた取り組みを社会における主要な機関のコーポレートガバナンスと捉え、図1に地球規模環境(Environment)、グローバル社会(Global society)地域社会(society)を対象として、with/postコロナの持続性と桟関統治の関係を示す。

地球規模環境については、カーボンニュートラル、森林の保護と砂漠化防止、生物多様性の維持、化学物質の管理、海洋プラスチックの削減が主要な事項であり、ウイルス感染症の発生防止は生物多様性の維持と関係づけられる。即ち、温暖化による気候変動と生物多様性の減少によるウイルス感染症の発生は、森林の縮小や砂漠化などの地球規模環境問題と同源であり、防止に向けて一体的に取り組まれよう。

脱炭素社会に向けた取り組みは、再生可能エネルギーや水素による電力供給から、製造業などにおける多様な形態でのエネルギー利用、さらには市民生活での需要など社会全体に及ぶ。国家や地方自治体は、パリ協定に基づいたエネルギー・環境政策を策定し、脱炭素社会を計画的に主導する責任があり、企業や市民にあってはこれに応えねばならない。他方、持続可能な発展を企業の社会的責任に求めるESG投融資が拡大し、企業間でのサプライチェーンやバリューチェーンにおいては脱炭素が前提になりつつある。脱炭素およびそのコンプライアンスは国を超えた流れであり、今や待ったなしと言えよう。

図1
図1 機関のESG統治

グローバル社会については、異文化・多文化理解、国家格差・貧困の撲滅、グローバル化と国家主権、健全なバリューチェーン、パートナーシップであり、そこではグローバル社会におけるウイルス感染症の伝搬防止と物や人の移動の管理が問われる。工業社会は、市場の拡大による経済成長を価値観として発展してきた。グローバル市場はその結果であり、世界経済の枠組みの中での国家経済の営みが、格差の常態化をもたらしている。さらに、国家の壁を低くする生産システムや物流のチェーン化は、感染症や災害の発生時におけるファイアウォールを弱体化しており、そこには国家主権のあり方が問われている。

地域社会については、スマートシティの構築と地方創生が目標である。スマートシティはカーボンニュートラルを基本としたエネルギー基盤都市であり、気候変動に関わる地球規模環境問題と連動する都市の構築は喫緊である。地方創生は、コミュニティの形成・世代の継承・文化の創造など、人間本来のあるべき姿を取り戻す地域社会の再生であるが、その際、まち・ひと・しごとの成立が前提である。COVID19の体験が働き方や暮らし方改革を引き出し、地方に住むことや自然と文化に触れ合うことがニューノーマルとなることを期待したい。結論的には、スマートシティは国際社会の必須事項であるのに対して、地方創生は先進国や先進地方が率先して進めるべき矜持(きょうじ)であり、防災都市は脱炭素社会に到る道程で避けられない問題である。

■おわりに

長い歴史を刻んできた人類の持続的な発展を問うとすれば、先ずはこれまでにない顕著な発展が前提であり、次いでそれに伴いこれ以上の持続が困難な事態が生じていることであろう。顕著な発展は、科学・技術と化石資源を活用し事物を改変加工する工業社会であり、困難な事態は、基軸とされる地球規模環境の問題であり、グローバル化と国家間の格差であり、地方創生と呼ばれる人類が本来あるべき姿から逸脱した社会である。

本稿は三つの基軸に感染症拡大の課題を重ね、その機序と対応について言及したが、それは工業社会や人口増加、そしてエネルギー需要などの現状を前提としたものである。その上で、地球規模環境問題の解決とスマートシティの構築は必至であり、地方創生は達成を期待し得る事項である。ただし、MDGsの後継としてSDGsが主唱する国家間の格差や貧困の問題は必ずしも容易でない。先進国によるバリューチェーンへの期待は大きいが、グローバル化が進む中での国と国の枠組みを超える企業の関係が、多くの不安定要素を抱えているからである。今後はさらなる分析を進めることとし、本号をもって連載を一先ず終えることとする。

参考文献

**1:
「SDGs 達成に向けた科学技術イノベーションの実践」国立研究開発法人科学技術振興機構 2021.3
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**2:
「SDGs- 危機の時代の羅針盤」 岩波新書 南博、稲場雅紀 2020.11
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**3:
「感染症の世界史」角川ソフィア文庫 石弘之 2014.12
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