リポート

ESG投資の基本とスタートアップ

2021年5月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

近ごろ、ESG投資という言葉を見聞きする方も多いのではないだろうか。
世の中には、アルファベットの短縮用語やカタカナ用語が次々と登場し、その意味を理解するのが難しい。
そこでESGとSDGsの違いと、大学発ベンチャーの今後の方向性をまとめてみた。

ESGの言葉が聞こえてくる以前に、企業は、社会貢献をしようとCSR(企業の社会的責任:Corporate Social Responsibility)に目を向けてきた。CSRは、企業が信頼獲得の手段として慈善活動を行い、その取り組みを伝えるCI戦略は、広報活動でも用いられてきた。

そして時は、SDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)へと軸足を移す。SDGsは、2001年に策定されたMDGs(ミレニアム開発目標:Millennium Development Goals)の後継として、2030年までに持続可能な世界を目指す国際目標である。

SDGsは、17のゴール、169のターゲットから構成され、企業でも個人でも取り組むことができる。しかしESG視点で捉えると、SDGsは途上国の人的資源開発を目的としたMDGsが背景にあることから、企業活動や投資家の一般的な判断基準に直接沿わないテーマも含まれているため、その取り組みはCSR的色合いが強いものとなる。

■ESGは手法で、企業が取り組むSDGsは目標で、誰もが取り組める

従来の投資や企業運営は、業績や財務状況といった経営状況を示す数値を参考に、利益を最優先にしてきた。しかし、それでは、環境負荷増大や不正・不祥事が発生し、持続的な可能性の確保が難しくなる。企業の持続的な成長には、ESGへの配慮が不可欠とすることは、社会の安定にもつながる。しかし単に、企業への努力目標にしただけではその効果の担保に疑問符がつく。

そこで機関投資家の投資判断の基準を変えることで、ESGに対する積極姿勢を企業に促し、世界規模の環境問題や社会問題の解決に導くことが期待できるというもの。

ESG投資は、2006年に国際連合のアナン事務総長(当時)が機関投資家に対し、ESGを投資プロセスに組み入れる「PRI(責任投資原則:Principles for Responsible Investment)」を提唱したことで注目されるようになった。日本では、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、2015年にこのPRIに署名したことで頻繁に目にするワードとなったといえる。

ESGもSDGsどちらも「持続可能性(サステナビリティ)」の関心の高まりから来るので、サステナビリティも両方を語る上で欠かせないキーワードといえる。

そして、ESGの話題が出れば必ずセットでついてくるのがSDGsだ。

ESG投資は、SDGsと一見区別がつかないようにも思えるが、SDGsの壮大な「目標」の中に、「手段や方法論」として存在するのがESGで、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)と絞り込まれているのでより分かりやすい。この三つのテーマに取り組む企業に投資をすることだ。SDGsの「目標」に対しESGは「方法論」で、その意味では似て非なるものといえる。さらにSDGsは現状、2030年と残り9年の時限付きの目標であることを忘れてはいけない。

先にも触れたが、ESG投資は、三つの観点から企業の将来性や持続性などを分析評価し、投資先を選別する方法だ。長らくキャッシュフローや利益など、定量的なデータによる財務情報が投資の判断材料だったが、新たにESGという非財務情報も考慮する投資が必要になってきた。

例えば、温暖化防止や省エネ化対策といった環境負荷の軽減=Environment(環境)、女性社員の幹部登用、外国人社員の雇用などのダイバーシティ=Social(社会)、社外取締役の積極的登用による透明性の確保や働きやすい職場環境の整備=Governance(企業統治)などが具体例といえる。

各国の脱炭素宣言からも分かるが、世界的な気候変動リスクへの関心は高まるばかりで、環境・社会・企業統治を考慮したESG投資は世界中で拡大している。ESGを念頭にした企業活動は、企業自身のサステナビリティが向上し、長期的には知らず知らずにSDGsにも貢献していく。

■アカデミアでのESG投資

ESG投資を含めSDGsは、企業が投資家に選ばれるために必要不可欠な指標だが、産学連携においてはどうだろう。大学や研究機関では、民間企業と異なり、世界的な潮流や国が行う政策などダイレクトに伝わりやすい。従って、その浸透率は高い印象を受ける。そもそも研究や組織運営においてもSDGsに着目しない運営は考えられないほどだ。

大学系ベンチャーキャピタル(VC)の京都大学イノベーションキャピタル株式会社(京都iCAP)、代表取締役社長の楠美公氏と東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)の筧一彦氏に話をうかがうと、おおむね、学内のシーズを基に数人で起業したばかりのベンチャー企業にとって、シードラウンドからESGへ十分な対応をすることは容易ではないが、VCが育成する過程の中で徐々にESGへの取り組みを具体化させていくことは必要で、VCとしても強く意識しているという。投資家に選ばれるためにはESGが重要で、IPOする際、ESGやSDGsを尊重していない企業には投資家はついてこないので、経営者は常に念頭に置いておくことが必要という。

利益追求から持続可能な社会へつなげるためのESGは、投資判断に大きな影響を及ぼす。

(山口 泰博)